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今日は朝からはやみんに会った。はやみんの髪型は何というのか知らないが、
とっても可愛かった。はやみんはアイドル時代の話をしてくれたが、僕は
認知機能障害が進んでいて、何と言われているのかさっぱりわからず、
ついていけなくて、ただ相槌を打っているだけだった。
あるいは、はやみんの方が支離滅裂だったのかもしれないが。
僕もはやみんも、ダメだ。狂ってる。
狂ってやがる、この世界何もかもが・・・!

風呂の時間を時計をチラチラ見て気にしながら、窓の明るい方をぼんやり見ていた。
アゲハはどうしてるだろうか。ん、閉鎖?閉鎖ってどんなところだろう?
僕はなぜだか始めから解放で、閉鎖には行った事がない。
閉じ込められるのはどんな感じがするものなのだろうか。いや、案外金網の
中に入って安心した僕みたいに、気楽になるものかもしれないが。

治療のしおりを眺めると、どんどん心が痛くなってくる。診察がいつあってもいいように
カフェテリアに持ってきたのだが、適切な判断?そんなのできねえよ。

 


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臨時なのかどうか解らないが、今日は風呂の後に診察があった。診察で、
全てをぶちまけた。たしか、このような事を言ったと思う。
「僕は、生きている価値がないんです。どうか、お願いだから殺してください。
この世なんてもう見たくないんです」
診察で、白い錠剤が一つ増えた。抗うつ薬だと思って飲んでいる。

散歩に行った。こんな僕にでも、秋の空の青、稲、病院の建物・・・そういう景色は
感じられる。感じられるのだが、パズルのピースが一つ欠けているみたいに、
自分がそこにいない。ここにいるという実感がないままで、時間だけが過ぎて
いく。


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はやみんの美しかった髪も最近、乱れてきていた。
僕はさりげなく「ここいいかい」とベンチの隣に腰掛けて、
「はやみん・・・死にたくなる事はないかい?僕はいつもだよ」
「あるよ、あたしもいつも・・・死のうか、一緒に」
僕は机の下ではやみんの手を握った。はやみんは抵抗しなくて、
むしろ血色がよくなったように見えた。
「はやみん・・・ときどきはやみんの声で幻聴が聞こえる」
僕は頭を伏せて、汚い、ろくに洗われていない髪の毛をかきむしった。
「何て言ってるの?」
「『寒くない?』とかね。僕は『いや暑いだろ』って返すけど」
「そうなんだぁ、あたしの幻聴は臭い、汚いって言うけどな」いろんな声があるんだね。

本当は、死にたい。死にたい。死にたい。死にたい。
だけど明日になったらなぜか病気が回復してて、家のベッドでカビた天井を見ながら
目覚めるということはないのだろうか。目覚めて、夢だった事にはっとする。
ああ、都合のいい夢でもみよう。おやすみ。

 


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ああ、こんな僕なんかのためにも、朝日は昇るのだなあ。
死にたい、けどきれいだ。朝日が昇り、空が朝焼け色に染まるのを、鉄格子から
ずっと見ていた。

今日は「パフェ記念日」きららがそう言ってた気がする。
「あなたと初めて同じパフェを分け合って食べた日なの。だからパフェ記念日。
いつかまたやりたいね。何度でも」
「そうだっけな」
「いやだな、忘れたの?」
そんな会話があった気がする。パフェ記念日をまさか鉄格子の病院の中で
迎えるとは思わなかったな。

パフェとは関係ないが、最近は朝一にミルクティーを買うのが日課になっている。
コーヒーではなくて、自販機にゆっくり金を入れて、熱々のミルクティーを取って
お釣りがないか確認し、とぼとぼ帰る。これが僕の日課ね。


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はやみんは、ときどき寝ぼけているようで髪がぼさぼさの時もあるが、口紅?の色が
とても魅惑的で、色っぽい。もしかして、最近の若い子はリップというのかもしれないが、
僕にはどうでもいい。

看護師に呼び止められた。「蒼月さん」
「はい」
「速見さんに近づきすぎないでください」
「はい」僕は適当に返事した。
そういう事を考えると、何だか、僕の心が疲れてしまう。どっと負担がくる。
僕ははやみんの回復の妨げになっているのではないか?鬱になる。

はやみんは、今日も突然泣き出してナースステーションで薬をもらっていた。
ああ、よけい鬱になる。



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