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ぼーっとして廊下を歩いて、カフェテリアに向かう。後ろからおっさんに
「よっ!色男」と言われる。もうすでに皆さんご存知のようで。
うつむいて顔を隠し、悲しそうに座っていたはやみんの肩に、手を置いた。
「はやみん・・・来たよ。僕だよ」
はやみんの目から一気に涙があふれた。僕はアセる。
「あーあ、泣かしちゃった」おっさん達がはやす。

「ど・・・どうして、泣くの?」
「あたしの周りには誰もいない。誰も来ない。振り向こうともしない。
存在さえしない。陰口を叩くんだよ。全然可愛くないくせに何芸能人面
してんだよ。何がアイドルなんだって」
はやみんは冷めた茶を一気飲みする。
よかった、昨日の恥ずかしいレターのことは忘れてくれたようだ。
「キモイって。臭いって」はやみんはまた、顔を伏せた。

 


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「陰口なんか言ってないさ。大丈夫」僕は半ば自分に言い聞かせるように言った。
そうさ、何もかも大丈夫・・・
はやみんは立ち上がって「お薬、飲まなきゃ」と言うと、僕と目もあわせずに
リスパダールをナースステーションでもらって水と一緒に飲み、部屋に帰った。
僕はクスリなしでもう少しだけ耐えてみる事にした。

「はらわたが煮えくりかえる」とはこういう事を言うのではないと思う。
「はらわたが煮えくりかえる」ように苦しい・・・というのはありなんだろうか。
はらわたがよじれるみたいにさ。我慢できなかったので、自分は武士では
ないのだから仕方ない、と諦め、ナースステーションでリスパダールを飲んだ。
少しマシになった。よかった。

そういえば、さくら商店でクールなロゴ入り長細いタオルを見つけたので、思わず
買ってしまった。黄緑でWAKE UP!と書いてあるやつだ。タオルが多いと、
洗濯をサボれるからちょうどいいんだ。

 


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カフェテリア前に行ったら、はやみんがウォークマンで何か聴いていた。
「何聴いてるの」僕は顔を少し近づける。
「古い曲なんだけどね。ううん、なんでもない」はやみんが寂しそうに笑った。
はやみんの瞳に映る人は誰なんだろう。親や家族、友達?仲間?
それすらも失ってしまったように微笑んだ。
「聴いちゃダメか」
「ダメじゃないよ、別に。・・・聴く?」僕はうなずいた。
「あたしね、寝れないときは、頭の中で洗濯物がぐるぐる回ってて、柴田淳を聴くよ。
大好き。あたしの歌とはちょっとちがうけど。ぐるぐるがぐにゃぐにゃになって、ちょっと
よくなる。大好きなんだよ。トモダチに教えてもらったんだ」
はやみんはイヤホンの片方を差し出すから、僕は受け取って耳にしっかりはめた。
もう少しだけ、大きいボリュームがいいな。

泣いたら崩れてしまいそうで
自分を必死に守ろうとする僕に
やさしく、やさしく光が
僕の頬を伝って流れた

いつも周りが賢く見えて
いつもヘラヘラ空回りして・・・

終わったころには、僕は何も言えなくなっていた。
はやみんが「大丈夫かな」と言って、僕の肩を前から優しく包んだ。
僕の頬に幾筋もの涙が流れた。
そうだよ、月から見て僕は惨めで哀れな存在だよ・・・
僕は惨めで、鬱で、僕の目の前は真っ暗だ。死にたい。
でも死ぬのも苦しいとわかっている。


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今日は朝からはやみんに会った。はやみんの髪型は何というのか知らないが、
とっても可愛かった。はやみんはアイドル時代の話をしてくれたが、僕は
認知機能障害が進んでいて、何と言われているのかさっぱりわからず、
ついていけなくて、ただ相槌を打っているだけだった。
あるいは、はやみんの方が支離滅裂だったのかもしれないが。
僕もはやみんも、ダメだ。狂ってる。
狂ってやがる、この世界何もかもが・・・!

風呂の時間を時計をチラチラ見て気にしながら、窓の明るい方をぼんやり見ていた。
アゲハはどうしてるだろうか。ん、閉鎖?閉鎖ってどんなところだろう?
僕はなぜだか始めから解放で、閉鎖には行った事がない。
閉じ込められるのはどんな感じがするものなのだろうか。いや、案外金網の
中に入って安心した僕みたいに、気楽になるものかもしれないが。

治療のしおりを眺めると、どんどん心が痛くなってくる。診察がいつあってもいいように
カフェテリアに持ってきたのだが、適切な判断?そんなのできねえよ。

 


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臨時なのかどうか解らないが、今日は風呂の後に診察があった。診察で、
全てをぶちまけた。たしか、このような事を言ったと思う。
「僕は、生きている価値がないんです。どうか、お願いだから殺してください。
この世なんてもう見たくないんです」
診察で、白い錠剤が一つ増えた。抗うつ薬だと思って飲んでいる。

散歩に行った。こんな僕にでも、秋の空の青、稲、病院の建物・・・そういう景色は
感じられる。感じられるのだが、パズルのピースが一つ欠けているみたいに、
自分がそこにいない。ここにいるという実感がないままで、時間だけが過ぎて
いく。



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