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「僕は最低のまぬけのどうしようもない奴だって言ってくれよ、はやみん」僕ははやみんを
揺さぶった。
「ろれつが回らない、何言ってるかもわからないろくでなしだって言ってくれよ。
そっちの方がせめて楽になるから」
「あ・・・」はやみんは僕の腕を拒否しなかった。「ろくでなしなんかじゃないよ」
「だって・・・」はやみんの頬が赤くなる。「だって、ジュナンはすごく力があって、あったかくて、
生きてる」
「えっ」僕ははやみんを離して、辺りに人がいなくなったのを確認し、走って逃げた。
部屋で何もかも破壊してしまいたかった。

 


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部屋に帰って、違うある事に気がついた。僕の腕といえば、汚くて、服も
ろくに洗濯してなくて、臭い。はやみんに嫌われたんじゃないのか、と考えて、
ますます鬱になった。机上に散乱していたバタークッキーを手に取り、食べる。
ああ、僕にバタークッキーを食べる価値などあるものか。それすら疑問に思えてきて、
何も食べずに死んでやろうかな、と考える。
廊下に座り込んでいじけていると、タイラーが通りかかった。「ねえタイラー、僕って
臭いだろ、そばに寄ってほしくないだろ」
タイラーはまばたきして答えた。「そんなことないよ。僕が言うのも何だけど、
近寄るといい匂いがするよ。はやみんにも聞いてみな」
僕はうなだれる。「見てたのか・・・あれを」
タイラーは笑って、「ああ、噂になってるよ。でも僕はあれくらいで止めといた方がいい
と思うなあ。ここの規則だから」


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今日の給食のきしめんは感動的に美味かった。きしめんに、山菜・・・!
感動的なコラボ!ゆっくり味わって食べた。

はやみんの事が気になって眠れない。きららに何と言い訳したらいいのか。
はやみんが、あの柔らかい感じの髪と身体が、僕を甘い色の海へ引きずり落とす。
忘れられない。今そこで、抱きしめているようにすら感じる。寝ようにも、
落ち着かなくて、どうやって時間を過ごしたらいいんだろう。次すれ違う時まで・・・
きららにどこか似ている、ピンクブラウンの瞳と、きららより華奢な肩。
正気に戻れない僕は、一人で占拠している一人部屋の中を右往左往するばかりだ。

珍しく、一日中寝ていたい気は起こらなくて、むしろマラソンでも始めたいような、
動きたい気分でいっぱいだった。夕方5時半、部屋とカフェテリア前をうろうろして
いた。


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夕食が始まった。食欲はないが、生きなきゃ。この目の前の給食を食べなきゃ。
僕は死んではいけない、はやみんのために。はやみんと明日会うために。
あれほど死にたかった僕は、いつの間にか野草にしがみついてでも生きる
気になっていた。

そして、実は・・・
つい出来心で、夕食後がらんと空いたレストランの中、お茶を飲んでいた
はやみんに近づくと、つい目が合って、そのままキスした。はやみんは、初めてなのか
どうかわからなかったけど、とても驚いた表情をしていた。それは拒否の意味では
なさそうだった。
僕はキスなんて生温くて、美味いと思った事など一度も無かったけど、はやみんの唇は
リップクリームか何かのいい匂いがして、心から美味しいと思えた。

ああ、キスの後ほど落ち着かない時間はないだろう。まだせめて誰かそばにいてくれたら
落ち着きを保てるのに。ムリか。
部屋で「幸せな躁病の人風」になっていた。きららに何て言おう。
何も考えずに、出来心で・・・病気のせいにするつもりはなかった。明らかに、
僕が悪かった。

 


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それにしても、はやみんは僕のキスを気持ち悪いと思っただろうか?
見た感じ、そうでもないようだった。でも、明日から目も合わせてくれなかったら
どうしよう。

僕ははやみんが好きで、それは結局きららに似ていたから?
それともきららが中高生のころ好きだったはやみんに似ていたから?
よく理由もわからない。Gなんか、きっと悲しむだろうな。
あいつは顔では笑って「お前がいなくて、休日はゆっくりできたぜ」とか言うけど、
きっとまだ公園のあたりをうろうろしてんだろうな。面白いな。人間関係って。
複雑で、時にとても残酷で、面白い。
きっと、人を好きになるのに理由なんかなくて、それは別のもっと偉い神様か仏様か
何かが決める事かもしれなかった。おやすみ。
寝る前に音楽を聴いてるんだけど、幻聴でバグってて、あまり聴き心地のいいものでは
ない。

 



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