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水色のコップを持って服薬の順番を待ち、5錠を一気飲みして帰る途中、タイラーに
呼び止められた。タイラーの方から話しかけてくるのは珍しいな。
「はやみんって、僕も昔テレビで見てたんで知ってるんだけど、紅白の時とは別人
だよね。暗い顔して、倒れそうだよ。どうしちゃったの」
「知らないんだよ、それが」僕は肩をすくめた。
「あんなふうに、人って変わるんだね。恐ろしいね。あれはツクリモノの姿だったのかな」
青いロングドレスを着て、頭の花飾りに包まれ、幸せをわけてあげる人のように歌う
はやみん。DVDいくつか買ったっけ。どこにしまったかな。
タイラーがふふっと笑った。「でも、君の前だと嬉しそうな顔してるよね」
「そうなのか?」僕はまばたきした。
「コイしちゃったのかもよ、君に。なんて」
タイラーは穏やかに笑った。僕は胸を一瞬押さえた。それから長い長いため息
をついた。
「どうしたの。そうか、もう彼女いたんだ。
いかにもいそうな顔してるもんね」
「きららって言うのさ、連絡すらあまり取れないけどな」
僕は頭を抱えて、それから胸をぎゅっと押さえた。
はやみん。きららにどこか似ている。抱きしめたらいい匂いのしそうな髪。
儚げな後姿。耳が熱くなるのを、どうすることもできない。
はやみん・・・

 


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僕はジュナン。観賞用。きららの幻聴がつけたキャッチフレーズだ。
鑑賞する以外に何の価値も無い。時期が来たら死んでしまうだろう。
しかし、観賞用としてはものすごく価値があるらしかった。尾のきれいなグッピー
みたいなものか。
散らかった部屋を漁り、『回復へのしおり』を探す。見つけたそれを抱いて、
泣きそうになる。『今いる場所がわかりますか。』
わからねえよ。病院だけど、ここどこだ・・・真っ白なのに、何も見えない場所。
金網の中に、気付けば閉じ込められていた。

 


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最近、タイラーがそっけないので、野田のおっちゃんとポーカーをやっていた。野田は
何言ってるかわからない高齢のおっちゃんだが、陽気な人で、こういう高齢者に
なるなら悪くないかと思う。僕のように、暗くない。

タイラーと、結局クスリを飲む列で話した。僕の事がウザいわけではないようだった。
よかった。僕が自分をそう思っているからかもな。ではおやすみ。

 


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今日も、露骨によろめきながら、なんとかナースステーションに辿り着き
頓服を飲んだ。どうも部屋が暑いので、アイスノンを貸してもらった。ウザがられて
いるように感じるが、気にしない事にした。

朝からおっさん達が「ここは糞尿の匂いで満ち溢れている」などと
タバコ臭い息で話しかけてきて、いっそう気分が悪くなってしまう。
僕はGみたいにタバコは吸えないし、何がいいいのかそもそもわからない。
タバコを世界から消したいと思うがどうにもならない。
おまけに嗅覚過敏になっている僕は、病院の匂いに過剰に反応
してしまうんだ。


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窓の外を小学生が通ってく。故郷の小学生と違って比較的おとなしいな。
あの頃はよかった。その頃はまだ「精神分裂病」って言ってたんだと思うけど、
そんな病気があることさえ少しも知らなかった。他人事だと思ってた。
自分の事になってみてわかるよ、初めて。今までバカやってたんだって。
何も考えず道端の草を抜いて、蹴倒して遊ぶバカだったんだって。

重い病気の人のように、暗い顔でベッドにくるまって寝ていた。
いや重い病気なんだけどね。
ラジオ体操が聴こえる。今朝は参加しようなんて意欲も起こらない。
やめてくれよ。お願いだから・・・僕の嫌がらせみたいだ。希望に満ちた朝なんて
来ねえよ。



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