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「!!」僕は一瞬ろれつの回らないはやみんを想像し凍りついた。
それは・・・
「はい、アイドルとしてはもう無理です。やっていけません」
「だから、最近テレビに出てこないのは・・・」
「終わったんです」はやみんはうつむいた。「もうああいう時代は、終わった
んです。マスコミにちやほやされるのも、パパラッチされるのも、終わった過去
なんだよ」
ああ寂しい。僕の信じたものは、何もかも終わってゆくんだ。世界はそんな寂しさで
回っているのかもしれない。もう甘く儚い声で歌うはやみんはDVDでしか見られない
のか。病院でDVDがもし使えるならの話だが。
「僕も、統合失調症なんだよ、ほら何言ってるかわからないだろう」
はやみんは少しゆるく微笑んで、「ジュナンのはわかるよ、大丈夫」
はやみんが笑ってくれた。少し恥ずかしかった。

 


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午後はリハビリ室でビデオを見た。感想を求められたので、僕は
「ビデオを見るより皆さんと話したいのですが」と半分立ち上がって言った。
スタッフは「ビデオの感想はどうですか」と返してきたので、僕は緊張のあまり混乱して、
何を話したか覚えていない。
タイラーやはやみんはメモをとり、真面目に答えていた。ふざけんなよ!

看護師やはやみん、他のおっさん達とウノをやった。
はやみんはメイクをしていなくても、どこか色っぽい。看護師にも美しい女性がいて、
横顔に見とれることもあるが、はやみんはまつ毛が長く黒くて、その美しい女性達の
中にあっても、ひときわ輝いて見える。さすが元芸能人だ。
テレビで見るより肩幅が狭くて、ずっと寂しそうに儚く笑う。心がここにない時がある。
辺りは真っ暗で、何も見えていないような時も。やはり僕と同じ病気なのだろう。
はやみんを笑わせようとして、わざとミスをした。何をやっているのだろう。
僕にはきららがいるじゃないか。それなのに。
はやみんにはもう何も見えていないのだ。テレビの向こう側で何があったというの
だろう。


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水色のコップを持って服薬の順番を待ち、5錠を一気飲みして帰る途中、タイラーに
呼び止められた。タイラーの方から話しかけてくるのは珍しいな。
「はやみんって、僕も昔テレビで見てたんで知ってるんだけど、紅白の時とは別人
だよね。暗い顔して、倒れそうだよ。どうしちゃったの」
「知らないんだよ、それが」僕は肩をすくめた。
「あんなふうに、人って変わるんだね。恐ろしいね。あれはツクリモノの姿だったのかな」
青いロングドレスを着て、頭の花飾りに包まれ、幸せをわけてあげる人のように歌う
はやみん。DVDいくつか買ったっけ。どこにしまったかな。
タイラーがふふっと笑った。「でも、君の前だと嬉しそうな顔してるよね」
「そうなのか?」僕はまばたきした。
「コイしちゃったのかもよ、君に。なんて」
タイラーは穏やかに笑った。僕は胸を一瞬押さえた。それから長い長いため息
をついた。
「どうしたの。そうか、もう彼女いたんだ。
いかにもいそうな顔してるもんね」
「きららって言うのさ、連絡すらあまり取れないけどな」
僕は頭を抱えて、それから胸をぎゅっと押さえた。
はやみん。きららにどこか似ている。抱きしめたらいい匂いのしそうな髪。
儚げな後姿。耳が熱くなるのを、どうすることもできない。
はやみん・・・

 


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僕はジュナン。観賞用。きららの幻聴がつけたキャッチフレーズだ。
鑑賞する以外に何の価値も無い。時期が来たら死んでしまうだろう。
しかし、観賞用としてはものすごく価値があるらしかった。尾のきれいなグッピー
みたいなものか。
散らかった部屋を漁り、『回復へのしおり』を探す。見つけたそれを抱いて、
泣きそうになる。『今いる場所がわかりますか。』
わからねえよ。病院だけど、ここどこだ・・・真っ白なのに、何も見えない場所。
金網の中に、気付けば閉じ込められていた。

 


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最近、タイラーがそっけないので、野田のおっちゃんとポーカーをやっていた。野田は
何言ってるかわからない高齢のおっちゃんだが、陽気な人で、こういう高齢者に
なるなら悪くないかと思う。僕のように、暗くない。

タイラーと、結局クスリを飲む列で話した。僕の事がウザいわけではないようだった。
よかった。僕が自分をそう思っているからかもな。ではおやすみ。

 



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