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「ブルーのカラコン、忘れてきた・・・」
はやみんが言った。「そんなもの関係ないですよ。いい色してるじゃん。
でもつきあうのはウソかもでしたー」
はやみん?夢か?これが現実か?今夢の中にいるのか?
僕は気を失っている?
ずっと好きだった、いつもテレビで可愛いドレスを着て歌っていた、はやみん。
「金髪さん、名前なんていうんですか」
「蒼月ジュナン」
「ジュナンさん、出逢ったついでに、ひとつだけ願いを叶えてあげる。だめ?」
はやみんがそっと、でもしっかり僕の手を握った。たった2秒だけ。
現実だ・・・そう思った瞬間、僕の顔に血が走った。
ブラウンの長い毛がふわふわと首を傾けるときに揺れる。
少し離れていてもわかる、その髪はこの臭いカフェテリアの中で唯一、
いい香りがしたんだ。

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「実はあたし、来たのはいいけど、話す人がいなくて。そこに若そうなジュナンさんを見つけて。
女の子もほとんどいなくて。それで・・・」
「ああ、ここは老人ホームだからな。若いといえばわずかに若い青年がいるくらいだな」
「ジュナンさんくらいですよ」
アゲハは閉鎖に行ってしまったし・・・
僕の肩に無防備に手を置いて、もう片手でピンクのコップをいじるはやみん。手、手を
握ったりしてもいいものだろうか?ダメだよな。
「ねえ、ジュナンって呼んでもいい?ここの人達呼んでる」
「えっ」僕は露骨に赤くなって「君がそれでいいなら、いいよ」
・・・何考えてるんだ、僕は。僕にはきららがいるじゃないか。こんなところで油を売ってて
いいものか。そうだよ。
「ねえ、あたし何のビョーキかわかる?」
「わからないよ。元気そうじゃん」
はやみんは、ブラウンの髪に少し触った。きららと少し似ているな、と思った。
抱きしめたくなるような、儚いふわふわの髪。
「統合失調症」って診断されたの」

 


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「!!」僕は一瞬ろれつの回らないはやみんを想像し凍りついた。
それは・・・
「はい、アイドルとしてはもう無理です。やっていけません」
「だから、最近テレビに出てこないのは・・・」
「終わったんです」はやみんはうつむいた。「もうああいう時代は、終わった
んです。マスコミにちやほやされるのも、パパラッチされるのも、終わった過去
なんだよ」
ああ寂しい。僕の信じたものは、何もかも終わってゆくんだ。世界はそんな寂しさで
回っているのかもしれない。もう甘く儚い声で歌うはやみんはDVDでしか見られない
のか。病院でDVDがもし使えるならの話だが。
「僕も、統合失調症なんだよ、ほら何言ってるかわからないだろう」
はやみんは少しゆるく微笑んで、「ジュナンのはわかるよ、大丈夫」
はやみんが笑ってくれた。少し恥ずかしかった。


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「!!」僕は一瞬ろれつの回らないはやみんを想像し凍りついた。
それは・・・
「はい、アイドルとしてはもう無理です。やっていけません」
「だから、最近テレビに出てこないのは・・・」
「終わったんです」はやみんはうつむいた。「もうああいう時代は、終わった
んです。マスコミにちやほやされるのも、パパラッチされるのも、終わった過去
なんだよ」
ああ寂しい。僕の信じたものは、何もかも終わってゆくんだ。世界はそんな寂しさで
回っているのかもしれない。もう甘く儚い声で歌うはやみんはDVDでしか見られない
のか。病院でDVDがもし使えるならの話だが。
「僕も、統合失調症なんだよ、ほら何言ってるかわからないだろう」
はやみんは少しゆるく微笑んで、「ジュナンのはわかるよ、大丈夫」
はやみんが笑ってくれた。少し恥ずかしかった。

 


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午後はリハビリ室でビデオを見た。感想を求められたので、僕は
「ビデオを見るより皆さんと話したいのですが」と半分立ち上がって言った。
スタッフは「ビデオの感想はどうですか」と返してきたので、僕は緊張のあまり混乱して、
何を話したか覚えていない。
タイラーやはやみんはメモをとり、真面目に答えていた。ふざけんなよ!

看護師やはやみん、他のおっさん達とウノをやった。
はやみんはメイクをしていなくても、どこか色っぽい。看護師にも美しい女性がいて、
横顔に見とれることもあるが、はやみんはまつ毛が長く黒くて、その美しい女性達の
中にあっても、ひときわ輝いて見える。さすが元芸能人だ。
テレビで見るより肩幅が狭くて、ずっと寂しそうに儚く笑う。心がここにない時がある。
辺りは真っ暗で、何も見えていないような時も。やはり僕と同じ病気なのだろう。
はやみんを笑わせようとして、わざとミスをした。何をやっているのだろう。
僕にはきららがいるじゃないか。それなのに。
はやみんにはもう何も見えていないのだ。テレビの向こう側で何があったというの
だろう。


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水色のコップを持って服薬の順番を待ち、5錠を一気飲みして帰る途中、タイラーに
呼び止められた。タイラーの方から話しかけてくるのは珍しいな。
「はやみんって、僕も昔テレビで見てたんで知ってるんだけど、紅白の時とは別人
だよね。暗い顔して、倒れそうだよ。どうしちゃったの」
「知らないんだよ、それが」僕は肩をすくめた。
「あんなふうに、人って変わるんだね。恐ろしいね。あれはツクリモノの姿だったのかな」
青いロングドレスを着て、頭の花飾りに包まれ、幸せをわけてあげる人のように歌う
はやみん。DVDいくつか買ったっけ。どこにしまったかな。
タイラーがふふっと笑った。「でも、君の前だと嬉しそうな顔してるよね」
「そうなのか?」僕はまばたきした。
「コイしちゃったのかもよ、君に。なんて」
タイラーは穏やかに笑った。僕は胸を一瞬押さえた。それから長い長いため息
をついた。
「どうしたの。そうか、もう彼女いたんだ。
いかにもいそうな顔してるもんね」
「きららって言うのさ、連絡すらあまり取れないけどな」
僕は頭を抱えて、それから胸をぎゅっと押さえた。
はやみん。きららにどこか似ている。抱きしめたらいい匂いのしそうな髪。
儚げな後姿。耳が熱くなるのを、どうすることもできない。
はやみん・・・

 



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