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『私はね、看護師をやってるのよ。まだ学生だけどね。言ってなかったらごめん。
ジュナンの病院とは違うわ。汚いこと、辛いこと、いっぱいある。言ったでしょ、
どんな人にも、闇はあるって。
でもね、ジュナンと過ごした思い出と、これからまたいつか出逢えるドキドキ、そういうものを
たよりにして頑張るよ。
だから、死なないで。私が守るよ。遠い空から祈ってるよ』


僕は手紙をくしゃくしゃと丸めて、ゴミ箱に捨てようとして、手をとめた。
さすがにそれはやりすぎだ。

何をキレイ事をぬかしているんだろう・・・?きらら、僕はろれつが回らなくなって、
社会のお荷物になって、死ぬだけの運命さ。
他に何があるというのだろう?

まるめた赤いチェックの便箋をもういちど広げる。
「ごめんな、きらら・・・」

申し訳ない、僕の存在自体が。


50 The Fate

カフェテリア。ひどい臭いのする所だ。ここで、机に伏せて寝てしまおう。
どうせまた昨日の悪夢を見るんだろう。
「ちょっといいですか」聞きなれない、でも遠い昔どこかで聞いたような声。
「んん」僕は顔を上げる。「わあ、きれいなヘイゼルの瞳」
「はやみん・・・?」夢か、それとも幻覚か?僕がずっと大好きだったアイドルの顔を
した女性が、目の前で僕をじっと見ている。
「幻視は無視することにしているので。ごめんね」僕は視線をそらす。そんな現実感の無い
話、あるはずかない。
「幻覚じゃないよ。私、はやみんです。速見メリィっていいます。
今日からビョーキで入院になりました。よろしくね、金髪くん」
はやみん・・・嘘だろ、嘘か現実か解らない。現実として見れないから、
僕の顔は蒼白なままだった。「はやみんって、あのテレビに出てたアイドルと同じ名前だね」
「同じ名前じゃなくて、あたしがテレビに出てたの。メイク落とすと別人だよね。
でもあたしがホンモノの速見メリィ。はやみんって呼んでね。ああ、
年きいてもいいよ」
「・・・何歳なんだ」
「今年で21なんだぁ。それにしてもね、そのうっすーい目の色とか、金髪さんのカッコいい
ところあたし好みなんです。つきあっちゃおうかな」

 


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「ブルーのカラコン、忘れてきた・・・」
はやみんが言った。「そんなもの関係ないですよ。いい色してるじゃん。
でもつきあうのはウソかもでしたー」
はやみん?夢か?これが現実か?今夢の中にいるのか?
僕は気を失っている?
ずっと好きだった、いつもテレビで可愛いドレスを着て歌っていた、はやみん。
「金髪さん、名前なんていうんですか」
「蒼月ジュナン」
「ジュナンさん、出逢ったついでに、ひとつだけ願いを叶えてあげる。だめ?」
はやみんがそっと、でもしっかり僕の手を握った。たった2秒だけ。
現実だ・・・そう思った瞬間、僕の顔に血が走った。
ブラウンの長い毛がふわふわと首を傾けるときに揺れる。
少し離れていてもわかる、その髪はこの臭いカフェテリアの中で唯一、
いい香りがしたんだ。

52
「実はあたし、来たのはいいけど、話す人がいなくて。そこに若そうなジュナンさんを見つけて。
女の子もほとんどいなくて。それで・・・」
「ああ、ここは老人ホームだからな。若いといえばわずかに若い青年がいるくらいだな」
「ジュナンさんくらいですよ」
アゲハは閉鎖に行ってしまったし・・・
僕の肩に無防備に手を置いて、もう片手でピンクのコップをいじるはやみん。手、手を
握ったりしてもいいものだろうか?ダメだよな。
「ねえ、ジュナンって呼んでもいい?ここの人達呼んでる」
「えっ」僕は露骨に赤くなって「君がそれでいいなら、いいよ」
・・・何考えてるんだ、僕は。僕にはきららがいるじゃないか。こんなところで油を売ってて
いいものか。そうだよ。
「ねえ、あたし何のビョーキかわかる?」
「わからないよ。元気そうじゃん」
はやみんは、ブラウンの髪に少し触った。きららと少し似ているな、と思った。
抱きしめたくなるような、儚いふわふわの髪。
「統合失調症」って診断されたの」

 


52

「!!」僕は一瞬ろれつの回らないはやみんを想像し凍りついた。
それは・・・
「はい、アイドルとしてはもう無理です。やっていけません」
「だから、最近テレビに出てこないのは・・・」
「終わったんです」はやみんはうつむいた。「もうああいう時代は、終わった
んです。マスコミにちやほやされるのも、パパラッチされるのも、終わった過去
なんだよ」
ああ寂しい。僕の信じたものは、何もかも終わってゆくんだ。世界はそんな寂しさで
回っているのかもしれない。もう甘く儚い声で歌うはやみんはDVDでしか見られない
のか。病院でDVDがもし使えるならの話だが。
「僕も、統合失調症なんだよ、ほら何言ってるかわからないだろう」
はやみんは少しゆるく微笑んで、「ジュナンのはわかるよ、大丈夫」
はやみんが笑ってくれた。少し恥ずかしかった。


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「!!」僕は一瞬ろれつの回らないはやみんを想像し凍りついた。
それは・・・
「はい、アイドルとしてはもう無理です。やっていけません」
「だから、最近テレビに出てこないのは・・・」
「終わったんです」はやみんはうつむいた。「もうああいう時代は、終わった
んです。マスコミにちやほやされるのも、パパラッチされるのも、終わった過去
なんだよ」
ああ寂しい。僕の信じたものは、何もかも終わってゆくんだ。世界はそんな寂しさで
回っているのかもしれない。もう甘く儚い声で歌うはやみんはDVDでしか見られない
のか。病院でDVDがもし使えるならの話だが。
「僕も、統合失調症なんだよ、ほら何言ってるかわからないだろう」
はやみんは少しゆるく微笑んで、「ジュナンのはわかるよ、大丈夫」
はやみんが笑ってくれた。少し恥ずかしかった。

 



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