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28

僕は寂しい。リハビリ室に来てたのは全然知らない人ばかりで、
同じ方向へ帰ってった。話には入れないのに、無駄に名前を聞かれた。

カフェテリアで一人で茶を飲んでいたら、むせてお気に入りの濃い水色の
ジーンズにシミをつけてしまった。みっともないな。恥ずかしいな。
そのとき、隣でアゲハが音楽を聴いてるのに気がついた。
「何聴いてるのかな」僕は尋ねた。
「バンプとか西野カナ。ジュナンさんは何聴くんですか」
「エルレとか。あとは言っても知らないだろうな」
何となく微妙な雰囲気になって、会話が途切れた。僕は部屋に帰った。

「思うよりあなたはずっと強いからね」どこかの歌詞にあったな。
うるさい。うるさいな。みっともない。恥ずかしい。それだけだ。


29

明日まで風呂はないな。もう一日同じ服にしよう。金髪の根元あたりが
伸びてきた。ああ、寂しい。
いびきが苦手だった。なのに今度は、古いエアコンがうるさくて眠れない。

僕はウザイ奴になってやるって決めたから、何かよくわからない集団が
カフェテリアの中に入って来た時、その中に堂々と入って行った。
「今食事中だから。デイケアだから、出てくださいね」
なるほど。デイケアだったのか。
ああ、クスリが効いてきた。悪い言い方だけど、漏らしちまいそうなほど
いい気分だよ。しないけど。

 


30

とっても意味のない幸福感に包まれ、笑いながら売店へ行った。
なぜか嬉しくて外来の方まで行ってしまった。売店のおばさんに「あなた
買ったものを忘れてるよ」と言われた。買ったものを忘れるほど、
幸せな気分でいっぱいだった。
病棟に帰ってからある人とポーカーとウノをやって余裕勝ちした。
部屋で、ベッドに横向きに丸まって寝ていた。さっきから汚い例えで
申し訳ないのだが、よだれが止まらないほど気持ちいい。
何で?

今日は4時から診察かードキドキだなあ。暇なのでカフェテリアの辺りを
うろうろする。
やっぱりコーヒーはいいな。症状が進んで、どれだけマッドになっても
コーヒーは飲むんだ。ならないといいけど。

 


31

「回復へのしおり」なるものを書かされる。希望?やりたいこと?特にない。
ただ、寝たい。寝たい。希望?何だそれ?
しおりを見て落ち込む。希望が何だって?もうやめてくれよ。そんなものがどこに
あるというのか?希望:寝たい。それだけ。
一週間の予定を書いた。月寝る、火寝る、水話す、木寝る、金寝る。
水曜日も10分話したら寝よう。

そのあと、案の定めっちゃ凹んだ。希望。そんなもの僕のどこにあるというのだろう。
白いベッドにくるまって、泣きながら眠りについた。

 


32

「『回復へのしおり』知ってる?」僕は窓の外を見ているタイラーに尋ねた。
「知らないね」タイラーの声はいつも穏やかだ。
「今後の週間予定を書かされるんだけど、あるわけないだろ。
やる気に満ちてここ来る人いないじゃん」
「確かにな」タイラーはまだ夕暮れの方を向いていた。
「月寝る、火寝るって書いたよ。書きなぐって大泣きした。そのしおりによればどんどん
回復してくことになってるけど、そんなわけないぜ」
タイラーは僕に背中を向けていたが、少し笑ったように感じた。
「次はどん底かもね。どこまで落ちていくんだろうね」
「ここ来てる時点でどん底だよ」

しかし、タイラーの予言は的中する・・・

 

 



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