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16

たまにはミルクティーを飲むのもいいな。微糖じゃなくてミルクティーにした。
スチール缶だった。
僕は滅びゆくアルミ缶。エアコンと鉄格子に守られているだけの
押したらすぐつぶれる、アルミ缶。観賞用の、アルミ缶。
なんだ、それ?役に立たないし、すぐつぶれる・・・

昼食はまあまあ食べた。
顔中ボロボロ、中身もボロボロ。こんな男のどこに生きる価値があるというんだ。
看護師はよく飯をくれるなあ。
顔がボロボロで、頭壊れて、責任者を出せ!とでも言いたくなる。
誰に怒ればいいんだ。

「L2」とかいてある大きめのクスリをロナセンだと思って飲んでいる。
でもロナセンだろうか。不安になってくる。抗不安薬なども入っているかもしれない。

 


17

「僕は預言者なんだ」タイラーに言った。「未来を見てあげようか」
「へえ、預言者なの?」タイラーは言った。「時々現実離れしたこと言うよね。
あとは普通の人っぽいのにね」
「僕は、本当に預言者なんだよ。未来を見る能力を突然、神から
授かったんだ」
「ふーん」
タイラーは僕に初めてできた、年上の友人だった。病気の人とは思えないほど
穏やかで温厚な奴だった。彼は僕のことを「誇大妄想狂で夢遊病のジュナン」と
思っている。それでもいい、つきまとってやろう。
ウザがられるまで。

コップを持って並ぶ列の隣のテーブルに、どこかで見たような女の子が
腰掛けている。ええと、誰だったけな。確か「アゲハ」っていうきららの親友・・・

何でこんな所にいるんだ!?

 


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「あ・・・ジュナンさん」
その女の子はこちらを見て、少し顔を赤くした。
「まさか、こんなところでジュナンさんと会えるとは思っていませんでした」
「僕はメンヘラだからな」本当にアゲハなのか?
「あたし、紺野アゲハっていいます。ジュナンさんの大ファンだったんです。
まさか、同じ病院の同じ病棟だなんて思わなくて・・・」
「きららの友達でしょ、知ってるよ。でも偶然だね」
「それも同時期に。あたし、いろいろあってちょっと病気になっちゃった
けど、なんかやる気出ちゃうな」
彼女はクスリを飲み終えるなりうれしそうな顔で黄緑色のコップを持って
女子寮の方へ歩いていった。
僕は思った、(こういうことってあるものかな)


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カフェテリアに来たアゲハが、「ジュナンさんの服、素敵ですよね」
と言う。「昨日から同じ服なんだけどな」
「あれ、着替えないんですか?」
「面倒だから、洗濯サボってる。金いるし。サボってコーヒー代にまわしてる」
「そうですよね、お金いりますよね」
アゲハが僕のななめ前の席に座る。黄緑色の新しいコップが
太陽の光を受けて眩しい。
平和だなあ。ここは。今までいたどこより平和で、真っ白な漂白したような
時間が流れる。
「でも、あたしは洗濯しますよ。毎日おフロ入れないなんて最低」
なんで笑顔で言うんだろう。僕まで笑顔になる。
午後二時頃のカフェテリアにて。

 


20

外来に来る誰かの目。目的を持っているように思える。患者の目。
僕が思っていたよりもずっと、未来を見据えているように思える。
虚ろなのは、僕だけなのだ。

階段を降りて、さくら商店を探し、辿り着く。迷った挙句、ビスケット
を買う。部屋で、水をカフェテリアのウォーターサーバーから
持ってきて食べたビスケットは何ともいえない味だった。
ビスケットってこんなに美味しかったっけ。
生きてる感じってどういうものか、本気で忘れかけてた。いいじゃないか、
鉄格子や金網の中でも。生きてる感じがするのはこういうとき
だけなんだよ。

 



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