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僕は何も知らない。新しく入ったあの大きなクスリが何のクスリで
名前を何というのか、全く知らない。今度診察の時に聞いてみよう。
何だか頭が不快な感じでフラフラする。クスリが切れてきたんだろうか。

鉄格子を見ると、僕は嬉しい。なぜ嬉しいのかと思われるだろうが、
守られている実感があるんだよ。早くクスリの時間にならないかなあ。
家のベランダにも鉄格子取り付けたいよ。僕はいつかあそこから
落ちてしまう気がする。

夕食をタイラーの隣で食べた。わりと美味しかったのでほとんど全部
食べた。胃が痛くなってしまった。でもクスリは飲んだ。
食事は、家よりおいしい。家でこんな手のこんだメニューが毎日出たらいいよな。

僕は、認めたくないが寂しがりだと自覚している。でも今日はほんの少しも
寂しさを感じなかった。ここの仲間に、いつの間にかなっていた。

 


15

寝れなかったので、午前一時頃、ナースステーションに睡眠薬を
もらいに行く。カフェテリアでお茶を飲む。もう完全に
「入院患者ジュナン」になっている。


クスリを飲むと、頭がほわーんとして気持ちいい。笑い出してしまいそうな
感じだ。でも衆人環視の中で笑っていたら気持ち悪いのは確かだ。
久しぶりに、朝食は完食だった。

ゴミを捨てに行くと、タイラーがお茶を持って山の方を見ていた。
N市の片隅は、あまり山に近いわけではない。でも、それでもこの
田舎町の風景が落ち着くのだと言っていた。
笑いながら寝ていたい気分。クスリが効いてきた。

 


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たまにはミルクティーを飲むのもいいな。微糖じゃなくてミルクティーにした。
スチール缶だった。
僕は滅びゆくアルミ缶。エアコンと鉄格子に守られているだけの
押したらすぐつぶれる、アルミ缶。観賞用の、アルミ缶。
なんだ、それ?役に立たないし、すぐつぶれる・・・

昼食はまあまあ食べた。
顔中ボロボロ、中身もボロボロ。こんな男のどこに生きる価値があるというんだ。
看護師はよく飯をくれるなあ。
顔がボロボロで、頭壊れて、責任者を出せ!とでも言いたくなる。
誰に怒ればいいんだ。

「L2」とかいてある大きめのクスリをロナセンだと思って飲んでいる。
でもロナセンだろうか。不安になってくる。抗不安薬なども入っているかもしれない。

 


17

「僕は預言者なんだ」タイラーに言った。「未来を見てあげようか」
「へえ、預言者なの?」タイラーは言った。「時々現実離れしたこと言うよね。
あとは普通の人っぽいのにね」
「僕は、本当に預言者なんだよ。未来を見る能力を突然、神から
授かったんだ」
「ふーん」
タイラーは僕に初めてできた、年上の友人だった。病気の人とは思えないほど
穏やかで温厚な奴だった。彼は僕のことを「誇大妄想狂で夢遊病のジュナン」と
思っている。それでもいい、つきまとってやろう。
ウザがられるまで。

コップを持って並ぶ列の隣のテーブルに、どこかで見たような女の子が
腰掛けている。ええと、誰だったけな。確か「アゲハ」っていうきららの親友・・・

何でこんな所にいるんだ!?

 


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「あ・・・ジュナンさん」
その女の子はこちらを見て、少し顔を赤くした。
「まさか、こんなところでジュナンさんと会えるとは思っていませんでした」
「僕はメンヘラだからな」本当にアゲハなのか?
「あたし、紺野アゲハっていいます。ジュナンさんの大ファンだったんです。
まさか、同じ病院の同じ病棟だなんて思わなくて・・・」
「きららの友達でしょ、知ってるよ。でも偶然だね」
「それも同時期に。あたし、いろいろあってちょっと病気になっちゃった
けど、なんかやる気出ちゃうな」
彼女はクスリを飲み終えるなりうれしそうな顔で黄緑色のコップを持って
女子寮の方へ歩いていった。
僕は思った、(こういうことってあるものかな)



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