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8

寝れねえ。とにかく寝れなかった。
睡眠薬は入っていたのに少しも寝れない。午前4時半に起きてこれを書いている。
始めは、頭の中が声でいっぱいになって寝れなかった。こんなにたくさんの
声を聞いたのは初めてだった。次は、とにかく目がさえて寝れなかった。
それに、N市の街は明るい。窓にカーテンがないから、電気を消しても
十分すぎるほど明るい。

本を持ってきた。でも読む気にならない。ただ寝たいというのがあるだけで。
あ”--本も音楽もない生活より、コーヒーのない生活のほうが耐えられない。
コーヒーをよこせ。

ええと、朝食の前にまずコーヒーを飲んで・・・だめだ、
昼間の楽しみが減ってしまう。でも飲みたいや。

結局、コーヒーを買ってしまった。
朝日はまだ見えないんだけど、朝の雰囲気の中で冷たい微糖コーヒーを
飲むとやっぱりおいしい。
まっとうに生きる気力もないけど、なんとか今日一日だけなら
やれそうな気がしてきた。

 

 


9

ラジオ体操に行ってきた。入院して長そうな女性について行った。
スリッパで来てしまったので、階段はスリッパを脱いで降りた。スタッフの30代くらいの女性に
「次からは靴で来るといいね」と言われる。

看護師が病室に入ってきて脈を計り、トイレの回数や食欲を尋ねた。
「ほとんど食べてないです」と告げると、彼女は
「食べ物は薬で、ガソリンみたいなものだから食べなきゃだめよ」とメガネを上げながら言った。
そのとおり、そうなんだけど僕はどうも食べられない。頑張って食べなければ。
生きる力が燃えようにももうガソリンがないぞ。
「あと・・・」僕は尋ねた。「看護師さん、コーヒーは飲んでもいいですか」
「あまり飲むと胃にもたれるけど・・・許してあげるわ」
よかった、僕の生きる意味は守られた・・・


10

朝食は、ほとんど手につかなかった。入院患者の
タイラーという男と話して、自分が彼より重症であることに気がついた。

僕は、とことんウザイ奴になってやろうと思う。キツい看護師、そういうものに
負ける気がしない。いろいろナースステーションに訪ねに行った。
うるさがられた。高校や中学校よりずっとマシな世界だ。

心の痛みは、なぜか消えてなくなった。そして、生きる気力に火がついた。
あの生意気な憎たらしい看護師が、逆に生きている感じにさせてくれる。
あまり食べてないのも、逆にいいのかも知れなかった。

 


11

僕が入れられたのは解放病棟だった。だから階段を降り、下で
植物を育てている医療スタッフと話をすることができた。
何という植物だったか忘れてしまったが、初めて見た変わった花だった。
僕は植物オンチだ。キキョウと言われたが、キキョウがどれなのかわからない。
植物に関する知識が必要だな。

カフェテリアでタイラーと喋りながら食べた。タイラーに「夢遊病?」と言われる。
僕が「いつの間にか座ってる」話をしたからだ。
やっと胃に少し食べ物が入って、重い。
その後は僕の何もせずに寝たい気持ちが復活して、寝ることにした。

 


12

抗精神病薬が変わったらしい。頭がほわーんとして、笑い出したく
なるほど気分がいい。何も考えられないけど。
僕はいつも鬱だけど、今日は少し笑った顔をしてる。空っぽで虚ろな、
笑顔。虚ろなのはここの人皆そうだ。
廊下に座り込んで、ずっと笑ってた。

太陽は、鉄格子越しに見ても、いい。虚ろな心を暖めてくれるものだ。
そして、そこで飲むコーヒーはまた格別に美味い。コーヒーがなかったら
自殺を図っているのではないかと思うほどうまい。

財布を開けるが50円と10円玉しかない。
ぼけた頭でなんとか120円を計算し、自販機にチャリチャリ入れ、微糖のコーヒーを
買う。何か、達成感がある。

タイラーがカフェテリアで何か考え事をしていた。僕が尋ねたが、
「秘密」といって何か教えてくれなかった。冷水を飲んで部屋に帰った。



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