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5

僕は破瓜型なのか?「なのか?」とはよく知らない事柄について
使う言葉だと思う。でもこの場合、僕も周りの人も言わないだけで知っている。
僕ももちろん知っていたが、認めたくないから言ったのさ。
それに、僕は破瓜型だと実際どうなるのか、よく知らない。幻聴が少なくて、
例の「無為・自閉」が出てくるタイプなんだろうと思う。

それと関係があるかはわからないが、僕の『無為』症状はけっこうひどい。
気がつくとぼんやり白いベッドに座っている。その前に何をして、
何を考えてたかがまるでわからない。家にいたときはいつの間にか風呂に
入ってたり、寝たりしていた。

夕食。僕は野田というおっさんと喋っていた。といっても彼が何を言っているかは
98パーセントわからない。辛うじて単語が聞き取れることがある。
それをもとに推測して会話するんだ。本当は若い人がよかったが、ここにいるのは
7割型おっさんだ。それも極端に年の。

 


6

外から鍵はかけられない。だから、「誰か後をつけて襲ってくるんじゃないか」と
不安になる。不思議だ、大学のひとり暮らしの頃はそんな事気にしちゃいなかったのに・・・
看護師をつかまえて訴えると、「大丈夫ですよ」と言われる。
ああ、今日の薬はいったい何を飲んだのだろう。不安でたまらない。

いつの間にかぼんやりと立って、、やっていることを忘れてしまっている。
明日も自販機でコーヒーを買おう。微糖で。
そういうと、なんだか虚しいような、切ないような気分に襲われる。
僕は今、一缶のコーヒーのために生きているんだ。

 


7

夜の薬を飲んだ。コップに水をいれて、持って並んで、
袋に入ってる謎の薬を飲む。それだけ。
何か効果があるのかわからないが、明日は寝れるだろうか。

今日の午後の事。
「蒼月ジュナンさん」と呼ばれて、自分がいつの前に名前を教えたのだろうと
思った。
看護師の女性が言った。「都会的な感じの患者さんって珍しいですよね」
「都会的・・・?」
もう一人の看護師が言った。まだ20歳過ぎに見えた。「都会的というか、かわいい感じかな」
かわいい・・・?僕には理解ができなかった。
彼女らとトランプをやった。誰もが知ってる、ババ抜きと7並べ。
少しも理解ができなかった。心がここじゃない遠くへ飛んでいってしまってる
みたいだった。看護師たちがなぜ笑っているのかわからない。
あげくの果てには「大丈夫ですか」と気遣われた。

フラフラしながら眼鏡ケースを探す。僕はコンタクトは持ってこず、黒ブチ眼鏡で
来ていた。睡眠薬が効いてきたらしい。

 


8

寝れねえ。とにかく寝れなかった。
睡眠薬は入っていたのに少しも寝れない。午前4時半に起きてこれを書いている。
始めは、頭の中が声でいっぱいになって寝れなかった。こんなにたくさんの
声を聞いたのは初めてだった。次は、とにかく目がさえて寝れなかった。
それに、N市の街は明るい。窓にカーテンがないから、電気を消しても
十分すぎるほど明るい。

本を持ってきた。でも読む気にならない。ただ寝たいというのがあるだけで。
あ”--本も音楽もない生活より、コーヒーのない生活のほうが耐えられない。
コーヒーをよこせ。

ええと、朝食の前にまずコーヒーを飲んで・・・だめだ、
昼間の楽しみが減ってしまう。でも飲みたいや。

結局、コーヒーを買ってしまった。
朝日はまだ見えないんだけど、朝の雰囲気の中で冷たい微糖コーヒーを
飲むとやっぱりおいしい。
まっとうに生きる気力もないけど、なんとか今日一日だけなら
やれそうな気がしてきた。

 

 


9

ラジオ体操に行ってきた。入院して長そうな女性について行った。
スリッパで来てしまったので、階段はスリッパを脱いで降りた。スタッフの30代くらいの女性に
「次からは靴で来るといいね」と言われる。

看護師が病室に入ってきて脈を計り、トイレの回数や食欲を尋ねた。
「ほとんど食べてないです」と告げると、彼女は
「食べ物は薬で、ガソリンみたいなものだから食べなきゃだめよ」とメガネを上げながら言った。
そのとおり、そうなんだけど僕はどうも食べられない。頑張って食べなければ。
生きる力が燃えようにももうガソリンがないぞ。
「あと・・・」僕は尋ねた。「看護師さん、コーヒーは飲んでもいいですか」
「あまり飲むと胃にもたれるけど・・・許してあげるわ」
よかった、僕の生きる意味は守られた・・・



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