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猫の物語 第3話 (全3話+α)

        僕らは、輪になっていた。
        すなわち今はミーティングの真っ最中。
        しかし声を発している猫はいない。
        どの位、無言の時が過ぎ去ったのだろうか。
        僕は目線を地面に落とす振りをしつつ、視界の片隅でボスの様子を伺っていた。
        それはみんなも同じはず、僕らはボスの言葉を待っていた。
        お日様はすっかり隠れ、いつもは人工的に明るく照らされるこの場所も、今日に限って、
        パチッ、パチッの音と共に暗くなったり明るくなったり、まるで今の僕らの気持ち察し
        たかのような不安定な動きをしていた。
        
        今日はいつもの様に楽しいミーティングになるはずだったのに・・・
        
        時をミーティングの開始時まで遡ろう。
        僕が話題を振ろうとしたその時だった、チーターが誰か来るぞと僕の後方に視線を向け
        ながら言った。チーターの対面にいた僕が後ろを振り向くと一匹の見慣れない猫がこちらに
        向かってトボトボと歩いて来るのが見えた。
        何の用だろう?僕らのグループに入りたいのか?道に迷ったか?それともまったく別の用?
        その猫の足取りはどこか緊張しているようでもあったが、近づくにつれ、ある使命を持って
        僕らの所に近づいて来ている、そう僕らは感じ取った。
        隣にいたコアラと僕が左右に開き、その猫が入れるスペースを作った。
        その猫は僕らが空けたスペースに体半分入れた所で立ち止まり一方的に話し始めた。
        「僕は隣のグループから来た伝言係の猫、僕らのリーダーの伝言を伝えに来た」
        と言って淡々と伝言を話し始めた。
        その内容を要約すると。
        キャンプ場とゴルフ場エリアのグループは協定を結んで合併した
        リーダーはキャンプ場エリアのリーダーが引き継ぎ、グループ総猫数は35匹
        僕らのリーダーの要求は釣りエリアの解放、及びここのリーダーのこの公園からの撤退
        返答期限は次の満月の夜まで、返事無き場合は力ずくでこのエリアを奪い取る
        要するに戦線布告と言う事だった。
        その猫は、最後にこう言ってから来た道を全力で走り去って行った。
        「ここのリーダー以外の猫は僕らのグループに寝返っても構わない」

        再び時は現在。

        ボスがボソッと口を開いた。


        低く重い声だったが、自らの強い意思を表したその声は、みんなが聞き取る事が出来た。
        そしてボスは、去って行った。
        ボスが去った後もしばらく沈黙は続いていた。
        僕は誰かが口を開くのを待っていた。普段のミーティングでは僕が話題を提供する係りだけ
        ど、今は話が別だ。
        沈黙を破ったのはチーターだった。
チーター「ボスは俺、一匹で戦うって言ったよな?」
        チーターが沈黙を破ったことで皆も口を開き始めた。
イーグル「ああ、確かにそう言った。そして相手の猫の数は35匹」
ポニー 「いくらボスでも35匹まとめて相手にするのは大変です」
チーター「大変どころか、いくらボスでも無理じゃないか」
ポニー 「僕らのグループの総数は7匹、全員で戦えば1匹当たり5匹を担当する計算になります」
        チーターが今のポニーの言葉に引っかかったようだった。
チーター「それは7匹全員で戦った場合だろ」
ポニー 「はい、リスちゃんがペットになったので、今僕らのグループは7匹です」
チーター「そういう意味じゃなくて、全員で戦う必要があるのか?って言う意味だ」
        その問いに、イーグルが答えた。
イーグル「戦う戦わないは各自が決める事にするか、よし決めた、ボスが戦うなら、俺は戦うぞ」
        と言ってイーグルは皆を見渡した。お前らはどうするんだ?と問うように。
        以外にもコアラが真っ先に口を開いた。
コアラ 「ボスが戦うなら、僕は一緒にボスと戦うまでです」
        何のためらいも無いコアラの参加表明に僕らは多少面食らった。
チーター「コアラに先を越されてしまったな、俺も戦うぞ」
ポニー 「シッポを巻いて逃げるなんてカッコ悪い、僕も戦います」
        順調に参加表明の声が聞かれていたが、ここで少し間が空いた。
        僕の参加表明が遅れていたのは戦う恐怖からくる躊躇いだった。
        チーターが挑発するように僕に向かって問いかけてきた。
チーター「お前はどうすんだ? 相手に寝返るくらいなら、ここを去ってくれよな」
僕   「戦うに決まってるだろうが!」
        僕はムキになって言った。きっとチーターは僕の背中を押してくれたのだろう、と思うよう
        にした。
        ここで、まだ参加表明していなかったラビットが口を開いた。
ラビット「みんなちょっと待って、私は出来るだけ戦わなくて済む選択股があるのなら、そちらを優
         先するべきだと思うの。私はここの釣りエリアの解放をすれば戦いを回避できるものと
         思ってるの、みんなはどうなの?
チーター「俺だって戦いを避けられるなら避けたい。しかし伝言係の猫は、エリアの解放だけでなく
         ボスがこの地を去る事も条件に入れてきたんだ」


ラビット「相手のリーダーはボスが去る事を望んでいるって事?」
チーター「おそらく相手のリーダーはこの公園全体のトップに君臨して威張りたいのだろう、それに
         はこの公園内で最強のボスの存在が邪魔な存在って訳だ」
僕   「僕はボスがこの公園のトップに君臨してくれた方が嬉しいけど」
チーター「お前の脳ミソは平和ボケしてるのか?」
ラビット「私も理想を言えばタートルさんと同じ意見だけど、猫の世界も理想と現実は違うって事な
         のかしら?」
チーター「その通りだ、ラビットさん」
        ここで、ポニーがある疑問を投げかけた。
ポニー 「ところで、二つのグループが協定を結んだって言ってましたよね?」
チーター「ああ、それがどうかしたか」
ポニー 「協定なら話し合いで両者が手を結んだと受け取る事が出来ます。一方僕らのグループに対
         してはいきなり戦線布告と受け取れるような条件を突きつけてきて、一体その理由は何処
         にあるのでしょう?」
         チ-ターが得意げな面持ちなり、仕方がねぇ答えてやるか、そんな仕草でワンテンポ溜め
         を作ったその隙をつき、イーグルがポニーの疑問に答えた。
イーグル「それはなポニー、向こうの猫は協定を結んだと言っているが、結局の所、力の弱いグルー
         プ側が強いグループに寝返っただけに過ぎない。一方俺らのグループにはその理論は通用
         しないと踏んでるんだ、何故だか分るか?ポニー」
ポニー 「ボスを筆頭に僕らは屈しないからですか?」
イーグル「分ってるじゃねぇか、ほぼ正解だ。要するに俺らのボスがこの公園内での最強だからだ。
         今チーターが言ったように相手のグループのリーダーは自分が常に最強でありたい訳よ、
         要するにボスの存在は目障り、だからボスがこの公園から去る事も条件に入れてきた訳だ
         な」
         ポニーが晴れやかな表情をした。
ポニー 「納得しました、さすがイーグルさんですね」
        ポニーの言葉を聞いたチーターがムッとした。
チーター「おいポニー、俺が始めに言った説明では納得できなかったって言うのか!おい!」
        ポニーが萎縮し小さくなる。
ポニー 「い、いや、、そういう訳では・・・」
チーター「はっきり言ってみろ!」
        ポニーがさらに一回り小さくなった。
        2匹なんてほっときましょう、そんな感じでラビットが疑問を口にした。
ラビット「今の話をまとめるとボス自身がこの地を去れば戦う必要も無いって事よね?なら私達みん
         なで一緒にこの地を去ると言うのはどうかしら?」
        僕はラビットの意見に同意しようと声が喉まで出かかったその時、僕の脳裏に突然と母さん
        が現れ、出かかったていた声がしぼんでいった。


        イーグルがラビットの意見に答えた。
イーグル「そうもいかないんだよラビットさん。ボスはこの地を去る事は絶対に無い」
        僕も同じだった。
        ポニーを睨み続けていたチーターだったが、片耳で僕らの会話を聞いていたようだった。
チーター「イーグルの言う通りだ。ボスはこの地を去る事は無い。それは俺らも同じはずじゃあない
         のか?」
        ポニーがうんうんと頷いていた。納得していないのはラビットとコアラか。
ラビット「イーグルさん、分るように説明して」
        イーグルが真剣な眼差しになった。
イーグル「ラビットは、自分の両親がお空に昇って行った理由を知ってるのか?」
ラビット「知ってるわ、大きなお魚を捕ろうとして海に潜って、そしてそのまま高くて遠いお空に
         昇って行ってしまったの」
        僕の母さんと同じだった。そんな事故が連続で起こるものなのか?
        やはりあの時の大人の猫の言葉は真実を隠すための言葉だったのだろう、僕は確信した。
        ラビットはその大人達の言葉を今まで信じきっていたのだろうか?
        どうやらイーグルとチーターは真実を知っているようだ。
イーグル「俺も同じ事を言われたな。ラビットはその話を今の今まで信じてたのか?」
ラビット「えっ!?それは・・・」
        ラビットはイーグルの言葉にビックリしたようだ。
ラビット「真実は他にあるって事なの?」
イーグル「ああ・・・お前らだって薄々気付いていたと思ってたけどな・・・」
        一息ついてイーグル空を見上げながら語り始めた。
イーグル「俺らの親は、戦って、高くて遠いお空に昇っていたんだ」
ラビット「戦いって、誰と?」
イーグル「他のグループの猫に決まってる、今回と同じだ」
チーター「イーグルの言う通りだ」
        その言葉を聞いてラビットは戸惑いの表情を見せたが、取り乱してはいない。心の片隅でイ
        ーグルの言葉を覚悟していたのかもしれない。
        僕は薄々気付いていた事をイーグルが口に出してくれたことで、スッキリした気分だった。
        ポニーは、やっぱりそうだったのか、そんな感じでうんうん頷いていた。
        ただ1匹、驚きの表情を見せたのはコアラだった、コアアはこの地の生まれでは無い、驚く
        のは必然なのかもしれない。
        そしてチーターが強引に今の話をまとめようと語り出した。
チーター「要するにこう言うこった。俺らの親、さらにはその親の親、そしてさらにはその親の親の
         親、そしてさらにはその親の・・・」
        ポニーが、いい加減にして下さい、そんな仕草でチーターの語り遮った。
ポニー 「チーターさん!先祖代々の一言でいいじゃないですか」


        ポニーに話の腰を折られまたしても気分を害したチーター、語りをいったん中止して、再び
        ポニーを睨みつけた。
        すかさずイーグルがチーターの話を引き継いだ。
イーグル「まぁ先祖代々俺らの親がこの地を守ってくれてきたおかげで今こうして俺らがここで生活
         出来てるんだ。そしてその中心にいたのは常にボスの親、ボスには生まれた時からこの地
         を守る宿命を背負わされている、だからボスには逃げる選択股なんて無いんだ」
チーター「そお言うこった・・・」
        しぼんだチーターの声だった。
イーグル「ところで、さっき俺らは戦う参加表明をした訳だが、問題が一つある、お前ら分るか?」
チーター「ああ、ボスは俺、一匹で戦うと言った、その意味をどう捉えるかが問題だ、俺らに
         対してお前らは戦うなと言う意味が含まれているのかいないのか」
イーグル「その通り、俺は戦うなと言う意味が含まれていると受け止めた。
         ただ俺は俺たちも一緒に戦う事をボスを納得してもらえるよう説得する自信は無い、お前
         らの中でボスを説得できる自信のある奴はいるか?」
         すかさず僕は下を向いてしまった。そして誰も声を上げなかった所を見ると皆自信が無い
         のだろう。しばらくしてチーターが声を上げた。
チーター「ボスははっきりと、お前らは戦うなと言った訳では無い。仮に言ったとしても、俺ら
         は俺らで戦えばいいんじゃないか」
イーグル「ボスとは別行動で戦うって事か・・」
僕   「それはボスの指示に逆らうって事?」
イーグル「そうなるかもしれない、それが嫌ならお前がボスを説得してみろ」
僕   「説得なんて僕には出来ないよ。それより、僕がボスに逆らうのは今回が始めてだ」
イーグル「それはみんな同じだ」
ポニー 「まだボスの真意をはっきりと聞いたわけではありません」
イーグル「まぁそうだな、どちらにしても俺らは戦うって事でまとめるか?」
        ここで突然ラビットが話に割って入って来た。参加表明をしていなかった事を気にしていた
        様だった。
ラビット「みんな、私はまだ参加表明していなかったけど、私もみんなと一緒に戦うわ」
        その言葉にチーターがすかさず反応した。
チーター「ラビットの気持ちは嬉しいが、俺は女子が戦いに参加するのは好まない、足手まといにな
         るだけ、俺は男子のみで戦うべきだと思っているんだ」
         と言いチーターは僕らを見渡し同意を得ようとしたが、真っ先に反応したのは当のラビッ
         トだった。
ラビット「チーターさん、私に戦うなって言ってるの?」
チーター「ああそうだ、俺たちは筋トレして鍛えているから常に戦う準備は出来ているんだ。はっき
         り言って戦いに女は必要ない、邪魔なだけだ」
         僕らは気付いていた、チーターがラビットに恋心を抱いている事を。



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