閉じる


<<最初から読む

18 / 25ページ

『だらだらと呑む奴らの話』 長介

投稿時刻 : 2014.01.18 23:40
総文字数 : 1498字
獲得☆3.400


《発言が人をつくる賞》
だらだらと呑む奴らの話
長介


「おう、この刺身うめえな!なんだっけ」
「サワラ。おまえが頼んだんだろ!」
「ヨシオはいつもそんなだよな。一瞬で前のこと忘れやがって。
オレが貸した三千円返せよ!」
「ヤスノリから金なんて借りたっけ?いつ?」
「てめーマジか!マサシと呑みに行くけどカネねーって、一週間前!
マサシ、おまえも見てたよな?」
「ていうかそれでも足りなくて、俺が千円多く出したんだよ。ほんとこいつは……」
「おー、おー?ていうか呑みってどこ行ったっけ?」
「桜新町の十銭酒場だよ。水谷君が旨いっていうからさあ」
「あー、そうだった。あんましだったなー、魚まずくてさあ」
「すまんかった……」
「いやいやいいんだよ水谷君、こいつが異常に魚に厳しいだけ」
「ていうかヨシオ、水谷君いる前でその発言はないわー」
「ヨシオはうるさいわりに、注文した刺身の名も忘れてるしなあ」
「いやー、魚の名は忘れるっしょ?イナダとかノドグロとか言われてもさー」
「ノドグロなんてすぐ覚えるだろ?ま、どうせ俺らがめったに食える魚じゃねーけど」
「それにタクがいるだろ。金沢出身だよ」
「俺か?ノドグロって金沢じゃほぼとれないんよ。山陰のほうよ」
「あ、そうなん?」
「また無駄な知識を増やしてしまったな」
「はい、ビールおかわりする人!ヤスノリだけ?」
「俺ホッピー」
「マサシー。ホッピーならビールでいいじゃん」
「馬鹿おまえ、プリン体がだなあ……」
「はいはい。タクは?」
「ウーロンハイ。最近凝ってるんよ」
「こんな店のウーロンハイに凝ってるも何もあるかよ。水谷君、どうする?」
「おう、カシスオレンジで」
「カシスオレンジかあ。水谷君さすがだなあ、うん」
「なんだよそれww」
「なあヨシオは?」
「トイレ行ったよ」
「おう」
「あいつはさあ、ほんとにダダ漏れだよ、記憶も財布も下半身も」
「その表現だとヨシオ君ドンファンみたいだよw」
「ドンファン!水谷君はさすがだなあ」
「やめろよw」
「あ、ヨシオ帰ってきた」
「俺、高い焼酎頼んじゃった」
「てめえどうせカネないくせに割り勘だと思って!いいちこにしろ!」
「ヤスノリの口うるささは異常だと思う」
「でもカネないんだろ?」
「今日は二千円もあるぞ!」
「全然足りないと思うんよ」
「いや俺が貸すから、いざとなったら」
「水谷君、好き!」
「そんなw」
「ヨシオにはマサシがいるだろ」
「マサシ君とは別れますわ」
「正直ホッとしたよ俺」
「焼酎お湯割りおまたせしましたー」
「あの店員さん、他の飲み物はまだすか?」
「え、ご注文いただいてませんが」
「あれ?」
「……あれ?じゃあ、あらためて」
「俺ホッピーで」
「俺ビール」
「ウーロンハイ」
「カシスオレンジじゃなくてモスコミュール」
「かしこまりましたー」
「で、さっきはなんで通ってなかったんよ」
「つかみんなの注文きいてたやつが伝えてなかったんだな」
「え?それってさ……誰だったんだ?」
「あ……」
「俺、ヤスノリ、マサシ、タク、水谷君……。
じゃあ、さっき注文きいてたのは誰だ?」
「……ああ」
「この席には、実は……六人いるんじゃないだろうか」
「ヨシオ……」
「だってそうだろ、そう考えないと……つじつまがあわない」
「……怖いな」
「マサシ……」
「座敷わらしっているんだ……あたっ!なんで殴るのヤスノリ」
「自分の心にきいてみろ!」
「あたっ!やめろよー!助けて水谷君!」
「無理www」
「いやマジでなんで殴るの?タク、冷静に解説してよー」
「うん、それは、注文聞いてたのがおまえだからだよ、ヨシオ」
「……」
「……」
「トイレ行くついでに頼んできたんだと思ってたわけよ」
「……てへ。ごめん!おわびに今日は多めに出すから!」
「二千円しか持ってないだろうがおまえは!」

『林檎の彼女 ~私が彼女と付き合うまで~』 orksrzy

投稿時刻 : 2014.01.18 23:40
総文字数 : 3539字
獲得☆3.400
 大学構内を長い髪をなびかせて颯爽と歩く彼女は凛々しく、そして美しかった。
 思えば、私は彼女を初めて見た時に、彼女の虜になっていたのだろう。
 恋する私は彼女の右手にいつも握られている赤い果物を気にすることがなかった。私は穏やかな気持ちでこう思ったものだ。林檎が好きなお嬢さんなのだな、と。

 私は大学に入学した当初、いよいよこれから私は華のキャンパスライフを送り、友との熱い抱擁や恋人との胸焦がす夜を、それはごく当然のごとく体験してゆくのだろうと思った。
 しかし、入学後の様々な煩悶とした事務的手続きを経て、心は緩やかに萎んでいった。このまま、何も経験せず終わるのだろうかと苦しみが私の中に生まれた。
 そんな時、私は大学構内で件の彼女を見かけたのである。林檎の彼女である。
 今となっては彼女は病的なほど林檎を愛していることを知っているが、当時は初対面であるから何も知らない。例えば彼女が決して林檎を手放すこと無く、気が向けば、左手にナイフを握り、しゃりしゃりと音を立ててリンゴの皮をむき、思うままに口に放り込む、というような一面があることを知らないし、彼女が恋人が林檎病という伝染病にかかれば、ナイフを持ちだし、私は林檎と恋人のハイブリットした物を食べたい、と襲いかかるとなど、露とも知らない。
 だから私は彼女に恋したし、彼女の透き通るような白い肌と、それこそ林檎のような真っ赤な唇に心を躍らせた。
 私は少しでも彼女に近づこうと果物愛好サークルに入った。そこは果物と名のつくものにフェチズム的愛を傾ける怪しげな団体であるのだが、私はよく内情を知らず、ただ、彼女が在籍しているという情報のみで門戸を叩いた。
 果物愛好サークルでの最初の課題は、ミカンを皮から搾り出る汁に刹那的快楽を感じることだった。至極ノーマルである私にはこの課題をクリアすることは地獄のように苦しかったが、ミカンの汁の向こうに彼女の笑顔があると思えば、乗り切ることができた。部長はうざったい人間で、「ミカンの汁に何を感じたのかね? 言ってみたまえ、さあ、我慢せずにぶちまけてしまいたまえ!」と耳元で唾を飛ばすので厄介であった。
 そういう日々を送る中で、どうやら彼女の周りには恋のライバルがいるらしいことが分かった。
 伊達眼鏡をかけた超名門高校出身のシンジ、野球部の筋肉自慢のタケル、文芸部の王子様ジン、の三人である。
 果物愛好サークルの部室には彼らが足繁く通い、彼女に熱い視線やら熱い言葉やら熱い手紙を投げかけていた。
「ここは果物に熱き情熱をかける者の聖地であるので、お引き取り願いたい」
 私はぷりぷりと怒って、彼らに言った。
「僕は林檎の彼女に会いたいけれど、このサークルには入りたくないんだよなあ。ここに入るなら、死んだ方がいい」
 辛辣な言葉を伊達眼鏡シンジが放つ。
「ならば、何故、このサークルに入っている女性を狙うのかね? 矛盾していないかね?」
 私はシンジを睨み付ける。
「いいや、矛盾していないよ。このサークルの価値より彼女の価値の方が上なんだ。価値が下の物は上の物に影響を及ぼさないよ」 
 私は底辺高校出身である。シンジの言葉は訳が分からぬ。
「屁理屈である!」
 私は怒鳴って、シンジを追い返した。彼は虫けらを見るような目つきで私を見た。
「おい、ひょろガリ。彼女はどこだい?」 
 別の日には野球部のタケルの相手をした。タケルは筋肉馬鹿である。標準体形の私をひょろガリ扱いである。
「知らんね。帰りたまえ」
「殴られたいのか?」
「林檎の木の剪定に向かいました」
 私は青い顔をしてぶるぶると震えて答える。私は暴力が嫌いである。
「それはどこにある?」
「確か、ここから二山越えた先にありますが、電車もバスも通っておらず、歩いて行かねばなりません。こちらが地図となっております」
 私は鉛筆で書かれた地図を渡した。タケルは地図を奪い取ると、しげしげと眺めた。
「なるほど。俺の足では三日で行けるな。もう用はない。ひょろガリ」
 そう言うとタケルは私を突き飛ばし、駆けていった。私はもんどりをうってひっくり返る。おかしい。私は標準体形であるはずなのに。
 いてて、と腰に手を当てながら、にやりと瞳を鈍く光らせた。
 彼女が林檎の木の剪定に行ったなど、嘘である。馬鹿な男め。彼女は林檎パイを作るために家に帰っておるわ。
「儂は彼女のことを愛しておる。文に著わしたのだが、君、渡してもらえんかのう」
 文芸部のジンはイケメンである。古臭い喋り方をするが、気の良い奴だ。私は彼を裏切りたくない。恋のライバルであるが、彼を応援したい。
「分かった」
 私は彼の手紙を恭しく受け取る。
「恩に着る。立派な青年じゃ」
 ジンが立ち去ると、私はこの手紙を彼女に必ず届けるのだ、と強く誓った、が手元が緩んで、手紙はゴミ箱の中へと放り込まれた。これはいかん。すぐに拾わねば、と思ったが、ゴミ箱の中は不潔である。その中に落ちたものを彼女に渡すのは忍びない。しかし、ジンを裏切るのもまた、私の人間としての自尊心を傷つける。
 私はごみ箱から手紙をさっと拾い上げた。そして、石鹸をつけて、手紙を洗う。
 水に濡れてふやける手紙を見て、私は、まだこの手紙は汚れているような気がしてならなかった。決して他意は無い。純粋に私は綺麗好きなのである。であるから、私はせっせと手紙を洗う。
 不思議である。手元には濡れた紙の断片がちりぢりとなって残るばかり。これでは彼女に手紙を渡せない。私は悔しくて、声を殺して泣いてみた。しかし、涙は出なかった。
 そんな日々を送っているある日である。
 彼女が微笑んで宣言した。
「私は彼氏が欲しいわ」
 その声に私も恋のライバルも興奮せざるをえなかった。
「僕と付き合えば、君はエリートになれる可能性が高い。僕は司法試験を目指しているからね」
 シンジが自信ありげに言った。
 彼女は眉間にしわを寄せた。
「嘘。だって、この大学から司法試験に合格? 無理でしょ。ここ、Fランクの大学よ。あなた、大学受験に壮絶に失敗しているじゃない」
 シンジは泣き崩れ、君がそんな女だったなんて、と吐き捨て、去って行った。
「おっぱいちゃん、俺と付き合えば、どんな奴だって殴ってやるよ」
 タケルが力こぶを作ってみせる。
 彼女はため息をついて首を振った。
「あのね、その呼び方やめて。それに人を殴ったらいけないでしょ? あなたリングの上のボクサーじゃないでしょ。考えるという行為があることを知って」
 タケルが怒り狂い、去っていったシンジに追いつくと、八つ当たりで彼の背中を蹴りつけた。シンジは痛みに苦しみつつ、伊達眼鏡をくいっとあげた。それに意味があるとは、私には思えない。
「なあ、儂の手紙を読んでくれたやろ? 儂は君の事が好きぃて好きぃて、しゃあないんや」
 ジンが緊張した面持ちで、彼女に告白した。
 彼女は不思議な顔で彼を見た。
「っていうか、あなた、だれ? 初めて会うよね? 手紙って何?」
 ジンは驚いた表情を浮かべた後、何かを察した表情になり、私を睨み付けた。
 私は、これはまずい、と思った。
「こいつ、きっと、ストーカーって奴ですよ! 手紙ってなんです? 怪しいですよね! 喋り方もなんか不審者だし!」
 私は恋のライバルとしてあるまじき、いや、人間として最低の言葉を放った。
「そうね。あなた、もう半径五メートルには近づかないで。私の林檎が腐るわ」
 彼女は冷酷に言い放った。
 ジンはその事がよほどショックだったのだろう。もう私の方を見ず、肩を落として去っていった。
 しばらく、気まずい雰囲気が私の中でだけ漂った。
「まったく、なんなのかしらね? そう思わない?」
 ん? チャンスかもしれない。ライバルは去った。今が告白時かもしれない。私の胸がドキドキとしてきた。
「ん? どうしたの?」 
 さあ、言おう。どんなかっこいい台詞を言おう。
 陸地に生きるすべての生物があなたに恋をするだろう。いいや、海に生きる者たちもあなたに恋をするだろう。けれど、誰よりもあなたの瞳に囚われているのは、あなたの目の前にいる、この私だ。――よし、これでいこう!
「りぃっ!」
 やべ、噛んだ!
「え、なに?」
「り、り……」
 迷った。今から言ってもかっこ悪い。その時、彼女の右手に目がいった。赤い果物、林檎がある。
「り……りんごが、僕も好きである。私と付き合ってください」
 彼女が頬を染めた。
「……嬉しい。あなたなら、分かってくれると思っていたわ」
 おやおや、なんだ、この展開は?
「他の男は何だったんだろうね。私はただ、林檎が好きだと言ってほしかったの。私の愛する林檎を、同じように好きだと言ってくれる相手であって欲しかったの」
 彼女はそう言って、空いている左手で僕の頬を撫でた。
「生涯、愛を育みましょう」
 こうして、私は正式に林檎の彼女の恋人になったのである。

 了


※作品集への掲載にあたって、誤字等を一部修正しました。



『6人答えられない人は、星5つ』 デーブ・“しゃん”・スペクター

投稿時刻 : 2014.01.18 23:44
総文字数 : 824字
獲得☆3.000
 その日、クアラルンプールには怒りを秘めた人々が集まっていた。
「さて、みなさん。先だっての話ですが、いよいよ我々が復讐を果たす時が訪れました」
 テロリストを名乗る一人が、威嚇するような低い声でそう言った。
「それはともかく、この会場に納豆はないのか? 広報部長代理、ちゃんと説明したまえ。わざわざマレーシアくんだりまで来て、何故揚げバナナなど食わなくてはならん。本来なら、私はいまごろスイミングをしている予定だったのだよ」
「ふよふよ~。そうですよ。私だって仙台のスーパーで働いていて忙しいのに。地域活性化のために、また店長と悪だくみ……じゃなくて、斬新なイベントを考えなくちゃいけないんですよ」
「しかし、納豆部長。我々の統計では、昨年はあなたが一番いじられていたはずです。今は仲間割れをしている時ではありません。力をひとつにして、奴に仕返しをしなければ。月曜と奴は、我々の共通の敵です。我々はそれを確認するために、こうして国際会議を開いていることを、どうか理解してください」
 テロリストが食い下がると、向かいの席の参加者が乾杯を待たずに、手酌で酒を注いでいた。
「そんなのどうでもいいよ。はやく飲もうよ。納豆部長は魔界都市に住んでいるんだから、もうちょっと割り切ってよぉ。みうらだいちとお酒は今が旬ってね。折角のオフ会なんだから、楽しくやらなくちゃあ。楽しく~」
「そんなの、どうでもいい。プロコンさいこー。つか、あんた折角なんだかホタルイカの一匹くらい持ってきなさいよ。何一人で先に飲んでるの?」
 ほどなくして、「あの、みなさん」という小さな声がテーブルの端から聞こえた。
「一応、幹事は僕なんですが。マレーシアといえば、僕なんですが。無視しないでくださいね。どーじん、よろしくお願いします。無視しないでね」

 こうして、6人によるオフ会は開かれた。
 彼らは一体、誰に復讐しようというのか。
 その具体的な手段とは?
 謎とともに、夜が更けていく2月のマレーシアだった。


 おしまい

『はゆらのみくす』 ひやとい

投稿時刻 : 2014.01.18 23:17
最終更新 : 2014.01.18 23:26
総文字数 : 1772字
獲得☆2.900
 ローラ(もちろんヤッホー、ローラだよ~のローラのイメージ)! きみはーなぜーにー!
 とかなんとかゆってると誰かこっちに向かって走ってきたんだあ。
 なんかっていうと登場人物を走らせるのって基本よね。増田みず子先生も海燕でやってたもん。おじさんが持ってるバックナンバーにあったもんね。
「なんだなんだあ」
 砂煙とかあげてこっち来るし。
 しかも超はやい。
 おじさんぶつかって死んだりしないかなあ。
 とかなんとかマドマギちがったドギマギしてるうちにー来た来た来た来たー、北ー! ていうのを前にマージャンしてたとき近所のおじさんがよく北の牌出しながらゆってたっけなあ。
 わあ逃げなきゃ。
 よく見たら集団だし。
 しかも円陣組んで回転しながら走ってくるし。アニメのミスター味っ子かおまいらは! サンライズか! スタンハンセンか!
 まあそんなわけで、ここで5人登場ってわけだあ。
 ホントはおじさんもいるから出すのは4人でいいんだけど、それじゃダークダックスとかボニージャックスとかデュークエイセスとかそういう人たちしか思い浮かばないからなんか懐メロみたいだし5人でいいや。
 どわあああああああああん!
 でも道とかほっそいし。
 逃げ場所ないっぽいし。
 どうすっかあ。
「わあもうだめかあ」
 しょうがないから観念して、購入三年目のガラケー出してダイヤルだぶるわんないんにお電話しよかっかあって思ったの。
 したっけさ。
 急に立ち止まって。
 よく見たら兄弟だったの。
 うち五人兄弟でさあ、おじさん長男なんだけど、ほかの人はみーんな北海道いるんだあ。
 なんでまたこんないきなり東京の貧民層窟に来たんだあ。
 ていうか一人多いし。
 実名出すとアレだから年齢順にY子おじさんK二N美R子の五人なんだけど。
 なんか知らん顔のおじさんがいる。
「どうしたの? ひさしぶりだあねえ」
 すっとんきょうな気分になってたら、一番上のねーちゃんの口が開いたの。
「この人がね、あんたのにーちゃん!」
 聞いたことはあったよ。
 ねーちゃんとおじさんの間に一人いたっていうの。
 子供のころ聞いた話では、なんでも流れちゃったってことで、あーにいちゃんがいたらなあよかったのになあとか思ってたっけなあ。
「おやじとおふくろがウソついてて、実は、生きてたんだよ」
 弟のK二がぼつり。
「あっそうなん? でもわざわざいきなり東京来てまでサプライズってバカじゃないの……驚いたね」
 某名人の口真似をしながら、おじさん思わずゆっちゃったよ。
「私たちもこの人にお金出してもらってこっち来たってわけさあ。紹介するよ、この人がHさん」
「へえ、おっかねもちなんだなあ。かーちゃんとかとーちゃんは?」
「もう旅行とか行くのキツいんだって」
「ふうん」
 親がいないのは残念だったけど、妹二人にあらためて紹介してもらったその人は、おじさんよりかーちゃんに似てて、紅顔の美少年とゆわれた(一回だけ)おじさんにはかなわないと思うけど、まあまあいい男だったあ。
「はじめまして、Hです」
 そっから積もる話いろいろして、なんでもうちがびんぼったれすぎたからどっかに預けられてて、そっからかーちゃんがポンポン子供生むもんだから、その預けられたとこの養子になって子供のころから東京に住んでるんだっていう話だった。
 まあそっからその辺の店でビール飲んだり餃子食ったりしながらいろいろ話して、あっというまに時間が過ぎてったあよ。
 そんでいよいよお別れのときになって、兄ちゃんにあたるHさんにこうゆったの。
「どうもこんな騒がしい兄弟ですけど、もうじきみんな死にますんで、短い付き合いですがよろしくおねがいします。しかし豪気ですねえ4人も呼ぶとは。さっきもゆったけどおっかねもちですねえ」
「いやーそんなことないですけど、せっかくですからね。家も近いしまたあらためて飲みましょう」
「いやーあんまりごちそうになるのもアレだから、てきとうーにそのへんは……」
「まあお金持ちというよりは」
「いうよりは?」
 何でかしらないけど、残りの4人が声をそろえてパンチDEデートごっこしてから、Hさんゆったの。
「越後製菓の切もちって感じですかねえ」
「正解は~、って英樹か!」
 そしてまた五人は円陣を組みながら回転して去ってったとさ。
 元気だなあ。みんなもういい歳なのに。
 いつまでも元気でいるといいなあ。
 
 まあおじさんは、できるだけはやくこの世からいなくなりたいけどね。

『テンプレート』 ウツミ

投稿時刻 : 2014.01.19 01:56
最終更新 : 2014.01.19 02:55
総文字数 : 2374字
獲得☆3.556
※制限時間後に投稿
 閉ざされた部屋の中、その場にいる全ての人物の目は部屋の中心、ある一点に注がれていた。
 かつて鮮血の色を帯びていたであろうソレも、今はもう赤黒く変色している。

A「……間違いなく、死んでいるな」
C「いったいどうして……」
B「見れば分かるだろう。背後から刃物で一突きだ。殺されたんだよ」
D「そんな……」

 その場に重苦しい空気が漂う。
 昨日までの平和的な関係はそこには無く、誰もが瞳に猜疑の光を灯していた。

A「みんな分かっているとは思うが、一応言っておくぞ。Eを殺した犯人はこの中に居る」

 そう、嵐に閉ざされたこの別荘は今やクローズドサークルと化している。外部の人間が入り込む余地は無かった。

A「まずは死亡推定時刻から確かめようか。昨日の22時までは全員がEを見ている。そこまでは彼は生きていたのは確かだ」
D「じゃあ、Eが死んだのはそれから今朝の9時にAとわたしが遺体を見つけるまでの間ってことね」
B「昨日最後にEを見たのは誰だ?」
C「ああ、それなら俺だと思う。24時ごろ、Eがこの、彼の泊っている部屋に入っていくのを見たよ」
B「ってことは、昨日の24時から9時までの間か」
A「そうなるな。……ところでC、昨日から今朝のアリバイはどうなっている?」
C「お、おい! 俺を疑っているのかよ!」
A「ちゃんと全員に確認するさ。ちなみに俺は、昨夜の23時から今朝の6時頃まではBがアリバイを保証してくれる。そうだろ?」
B「ああ、そうだな。その間Aは部屋から一歩も外に出ていない。Aの部屋のすぐ外は俺の居たリビングだったしな」
C「じゃあBがずっとリビングに居たって証拠はあるのかよ?」
B「リビングはエントランスの監視カメラに映ってる。それを見れば俺がずっとリビングに居た証拠になる筈だ」
A「C、そろそろお前のアリバイも話してはくれないか? 昨日から今朝、お前は何をしていたんだ?」
C「お、俺は……。ずっと部屋で寝てたよ。俺の部屋はリビングとは離れてるから……。で、でも! 俺の部屋からEの部屋に行こうとすれば、必ずリビングの前を通るだろ!」
A「そうだな。この別荘には外に出入りできるような窓やなんかも無いし、CがEの部屋に行こうとすればBが見てるか」
B「ちなみに、Cがリビングの前を通ったのは24時ごろだけ、Cの自室に向かっている所だけだな。遺体を発見した時の声で部屋から出てくるまで見ていない」
C「そうだろ! それが俺のアリバイだ!」
D「でも、Eの部屋以外には行けたんだよね?」
C「それがどうしたって言うんだ? Eが殺されたのはあいつの部屋だろ?」
A「それとD、お前のアリバイも聞いておかないとだ」
D「わたし? わたしは昨日の22時から今朝の7時まで部屋を出ていないのはBが保証してくれるよね?」
B「ああ。Aと同じくBの部屋も扉のすぐ外がリビングだしな」
C「状況を整理しようぜ。Eが死んだのは24時から今朝の9時の間で、その間ずっとBはリビングに居て他の全員のアリバイを保証してる」
B「ああ。Aが23時から6時まで、Dが22時から7時まで部屋を出ていない」
A「Cは24時以降アリバイが無いが、遺体発見時の9時までEの部屋には行っていない」
C「ってことは、Eを殺せたのはAとDだけじゃないか!」
D「そんな、酷い! わたし達には無理よ!」
C「どこにそんな証拠があるんだよ!」
A「……鍵だよ。Eの部屋には鍵がかかってたんだ。そしてEの持っていた鍵は部屋の机の上に置いてあったのをDが見つけた」
C「はあ? じゃあお前らどうやってEの部屋に入ったんだよ?」
D「Eの部屋に入ろうとしたら鍵がかかってたの。Aにも試してもらったけど開かなくて、だからAにマスターキーを取って来てもらってわたしが開けたら……」
B「ちなみにこの別荘の鍵は、それぞれの部屋の1本とマスターキー1本しかないぞ。複製やなんかも出来なかったはずだ」
C「鍵が中に閉じ込められていたって……。じゃあ、Eの部屋は密室じゃないか!」
A「そういうことになる。開けられる鍵はマスターキー1本のみ」
B「マスターキーが置いてある管理人室はエントランスの横だし、入ろうとすれば監視カメラに映るな」
A「この別荘に訪れてから管理人室には誰も入っていなかったことはそれを見ればわかるだろう。つまりマスターキーは俺が管理人室に入るまでずっと管理人室の中にあったことになる」
C「おいおい……。どうすんだよ、これ。完全に密室殺人じゃないか!」
D「じゃあ……Eは自殺だった、とか……?」
B「おいおい、背中から一刺しだぜ? 完全に他殺だろ」
A「そうだな。この傷だと即死だっただろうし、自殺を他殺に見せかけるようなトリックなどの痕跡も無かった」
C「でも、密室だったんだろ? 部屋の構造的に部屋の外から殺すのは無理だし、トリックを使った仕掛けも無い! 確かに犯人はこの部屋の中に居たんだ!」
B「ってことは、『どうやって密室で殺したか』ではなく、『どうやって密室にしたか』が問題になるのか」
A「……ふむ。その考え方だと、犯人は絞られるな」

 そうして一同はもう一度互いを見つめ合い、その結論に辿り着く。
 閉ざされた部屋の中、犯人以外の人物の目は部屋の中に居る人物、その一点に注がれていた。
 かつて猜疑の色を浮かべていた犯人の顔色も、今はもう青ざめている。

 「犯人は、お前だ」


読者への挑戦
 『Eを殺した犯人は誰か?』

※補足説明
・犯人は単独犯であり、共犯は存在しない
・監視カメラの映像に嘘は無く、Bはずっとリビングにおり、A以外は管理人室に入っていない
・容疑者5人以外は犯人になりえない
・隠し通路などの、説明されていない仕掛けは存在しない
・すべての居室は1つの扉以外から出入りできない
・扉は自動では施錠されない


 
おまけ
 『実はEを殺した犯人になれる人物はもう1人いる』

補足説明
・自殺は殺人に含まれない


読者登録

てきすとぽいさんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について