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『少女と教訓』 豆ヒヨコ

投稿時刻 : 2014.01.18 23:44
最終更新 : 2014.01.18 23:45
総文字数 : 2130字
獲得☆3.556
 ジェリーにとって一番たいせつなのは、本当は小説だった。でも女子寮にいるかぎり、そういうわけにもいかない。

「見て! 今日おば様と街にでたとき買っていただいたの」
 シェリルは誇らしげに、ぴかぴかのヒール靴を指先へぶら下げて見せびらかした。
 それは一見すると学校の指定ローファー(古くさく、雨にぬれるとひどく重くなる)に似ていて、けれどじっくり見れば明らかに違う、最新流行のしゃれた型だった。少女たちは口々に歓声をあげ、ベッドの周りに集まる。色とりどりのロングヘアが、それぞれにカーラーを巻きつけてふわふわ揺れる。
「ジェンスン&バルゴッチじゃないの、パリの一等品ブランドよ。おば様奮発したわね」
 バーバラがそばかすだらけの鼻がくっつけて凝視し、誕生日だっけ? と隣のマリアに尋ねた。
「確か違うわ、彼女と同じ7月でしょ」
 マリアはおっとり答え、燃えるような赤毛のベティを示す。ベティは冷やかに「そう。残念ながらね」と答えて鼻を鳴らした。皮肉屋のベティと見栄っ張りのシェリルは犬猿の仲なのだ。しかしご機嫌なシェリルは嫌味を気に病む様子もなく、嬉々として素足を靴に入れてみている。足の甲にわたるストラップは、ダイヤを模したデザインガラスのボタンで留めるようになっており、ほのかな読書灯の光を照り返して美しい。
 ふと気づいた様子で、マリアがジェリーを振りむいた。
「そういえば、ジェリーも今日は面会だったんでしょ? 叔父様だったかしら」
 にっこり尋ねられ、ジェリーは曖昧に笑ってにうなずいた。どことなく後ろめたい気持ちがした。バーバラが、いいわねえと羨ましそうに言う。
「わたしなんか、幾何学の課題で一日が終わったわ。どこに行ったの? お買い物? バーティッシュホテルでお茶?」
「すこしお茶して、映画に行ったわ」
「映画!」
 ベティが天をあおぎ、くしゃくしゃと赤毛をかき回す。シェリルがパアっと目を輝かせ、ヒール靴を放って身を乗り出した。
「ねえ、その叔父様って確か血がつながってないんでしょ」
 そんなんじゃないわと弁解する間もなく、パジャマ姿の四人は興奮して飛び跳ねた。ベッドのスプリングが軋む。
「彼ってジェリーにお熱でしょ、二週間に一ぺん途切れなく会いにくるじゃないの。明らかよ。ねえ、そろそろプロポーズされたんじゃないの? 隠し事はなしよ、どうなのねえ……」
 かしましく喋りまくる四人に、そうじゃないのと言っても伝わらない。ジェリーは仕方なく真実を告げる。
「来年から、ブラジルで新規事業を始められるそうよ」
 思ったより、ひどく強い口調になった。はっと焦り、ジェリーはできるだけ微笑を含ませて続ける。
「だから、わたしの在学中にお会いすることは、もうなさそうね。寂しいけれど」
 読書灯がジジッと音をたて揺らめく。気まずい沈黙が、所在無げな少女たちに降りる。ジェリーは虚しく微笑み続けた。
 親友である彼女らにも、たぶん、言えない。
 どう説明していいか、分からない。

 叔父の手は、しっとりと冷たかった。
「きみといると、いつでも幸せだ」
 手の甲に重ねられた思いのほか大きな指を、ジェリーは振り払うことができなかった。赤面していく頬を隠したかったが叶わなかった。
「……でも、わたしたちは親戚ですし」
「血はつながっていない。君は養子なのだから。問題はないはずだ」
 ジェリーのブラウンヘアを、一筋だけすくって零す。
「僕は今度、ブラジルへ行く。一緒に来てほしい。とても愛しているんだ、ずっとそばにいてほしい」
 ジェリーは顔を上げた。穏やかに微笑む、端正な叔父様の瞳があった。願ってもない申し出のはずだった。両親を安心させるだろうし、ジェリーは一生を不自由なく暮らせるだろう。叔父様は、大財閥の跡取りなのだから。なのに、なのに、なのに。
 ジェリーは逃げてきてしまった。突然席を立ち、何も言わずにホテルを飛び出した。何もかもふり捨てて、買ったばかりの大切な小説も、テーブルの片隅に置いたままで。

 夜が更けても、ジェリーは眠りに堕ちていけなかった。
 つめたいシーツに、火照る頬を押し付ける。何度も寝返りを打つ。窓から、美しく円い月が銀色に見えている。
 ジェリーは静かに、愛する物語たちの一節を唱えてみる。

 ――愛とは片手間に生み出されるものじゃないわ(シェリル・パーマーの『恋人たち』ね)
 ――ねえ、一緒にいれば全て解決すると思っているの? ひとの想いを馬鹿にしているの(バーバラ=ザックバーグ『すれちがい』、大好き)
 ――口で言うのは簡単さ。何十年もともに連れ添って、はじめて答えが出るのさ(ベティ・ローレンス・バーガー『やさしい絆』、本当なのかしら)
 ――あなたには分からない、だってまだ何もはじめていない(マリア・クリアーマ『臆病なひと』……私のことだわ)
 ジェリーには分からない。

 小説たちが教えてくれたものごとは、叔父にもあてはまるのだろうか。
 もしかして全ては夢に過ぎず、新たな世界に飛び込まなくてはならないのだろうか? ジェリーは、可能であればいつまでも空想の世界に生きていたかった。美しく閉じた夢の住人でいたかった。けれど、それではもう、駄目なのかもしれない。叔父の手をとるべきなのか、私には分からなかった。

 けれどもう、逃げることはできないのだ。おそらく。

『クロロホルムのガロン瓶』 永坂暖日

投稿時刻 : 2014.01.18 23:45
総文字数 : 2280字
獲得☆3.500
笠井宏明の証言
 ガラスの割れる音を聞いて俺が駆け付けた時には、実験室中にクロロホルムの臭いがしてたよ。もう臭いのなんの。立っているだけで、意識が飛ぶかと思ったよ、マジで。飛ばないけど。
 まあそんな状況だというのに、立花と津田は背中を向かい合わせにしてうつむいて立っていたんだよ。二人の足下には、割れたガロン瓶とこぼれたクロロホルムが広がってたってのにね。臭気はなるべく吸わないようにして、早く拭かないとと二人をどやしつけて。それでようやく、二人は動き出したって感じ。でも、片付けをしている間も終始目を合わせない、口もきかないで。俺の方が気を遣っちゃうよ、あの二人、付き合ってるって噂だったから。本人達は否定してたけど。
 立花の不注意でガロン瓶を落として割ったということで、教授には報告したけど。落とす前に何があったかは、俺には分からないね。その時実験室にはいなかったし、二人もその前に何があったか言わないし。

木島藤治朗の証言
 立花と津田が付き合っている、という噂は学部生の時にもありましたよ。ただ、そのあとに別れたという噂も聞きました。そんな噂があった後でも、二人は普通に話をしていましたけどね。同じ研究室を選ぶし、二人して院に進学するし、よりを戻したんだろうと思ってました。現に、また付き合いだしたって噂もありましたし。
 クロロホルムのガロン瓶を立花が落として割った時、俺は実験室にいたんですよ。でも、二人は実験室奥のドラフト前にいたけど、俺は前の方で実験中だったんです。試薬棚とかがあるから、前にいると後ろの様子は見えないじゃないですか。いろんな機械が動いている稼働音で、四六時中うるさいし。二人が後ろで何か話しているみたいだな、というのは分かったんですけど、聞こえるわけはないし自分の実験に集中しているし。そしたらいきなり、ガラスの割れる音が聞こえたんです。大丈夫かって聞いたら、津田が大丈夫と答えたんだけど、妙に焦った声で。行ってみたら、立花はうつむいてて、津田はそっぽ向いてて。実験してたという雰囲気じゃあなかったですね、あれは。立花が何かやらかしたんだと思いますよ。左のほおが赤かったように見えたから。

佐々倉数也の証言
 立花と津田は付き合ってましたよ、学部の二年から三年の頃まで。別れた理由は、なんだろうなあ。立花は、お互いよく考えたら好きじゃなかったみたいだから、とか言ってましたけど。友達みたいにしか思えなくなった、とも言っていたかな。津田もそれで納得したんじゃないんですか、別れたあとでも普通に話をしていたし、同じ研究室を選んだんだし。
 まあ、仲がいいように見えましたけどね。ただ、友達以上ということはなかったかな。昔付き合っていたとはいえ、ね。
 立花は、よりを戻したかったみたいです。友達みたいとか言っておきながら、いざ別れてみたらやっぱり好きだったって気が付いたんだとか言ってました。
 クロロホルムのガロン瓶割った時ですか。あの時僕、いなかったんですよ。だから詳細は全然分からないんですけど、よりを戻したい立花が、津田に迫ったんじゃないんですか。でもふられて、何かの拍子でガロン瓶が割れた。そんなとこじゃないかと思ってます。

水川さおりの証言
 津田ちゃんは、立花くんとはよりを戻すつもりは全然なかったですよ。付き合っていた時はそれなりに好きだったけど、一度別れましたしね。しかも、友達としか思えなくなったっていう理由で。津田ちゃんはそうでもなかったから、普通にはしてたけど、陰では結構泣いてたんですよね。立花くんはひどいなって、一時期同期の女子の間で評判だだ下がりしてたんですよ。
 まあでも、同じ研究室に入れるくらいに立花くんのことは吹っ切ったんですよね。その頃には、津田ちゃん、好きな人がいたから。立花くんじゃないですよ、もちろん。でもだから、立花くんがよりを戻したがっているの、迷惑がってました。
 クロロホルムのガロン瓶が割れた時、あの時、立花くんがもう一度付き合ってくれないかって言ってきたみたいなんですよね。津田ちゃんは断ったけど、立花くんがしつこくて。それで――キスしようとしたから、ひっぱたいたって言ってました。その弾みで、ガロン瓶落としたみたいですね。津田ちゃんの足に落としてたらと思うと、ぞっとします。

森尾拓人の証言
 はあ、立花くんと津田さんですか。あの二人、仲がいいのか悪いのか、よく分かりませんね。まあ、僕は完全夜型なので、二人ともあまり話をしたことがないから、よく分からないんですけど。津田さんは、まあ、明るくてはきはきしてますね。僕みたいな怪しいセンパイでも、話しかけてくれますし。
 ただ、まあ、僕と話をしている時でも、ちらちらと視線は違うとこに行くんですよね。何だろう、何を見ているのかなと思ってましたが、笠井さんとか佐々倉くんと話す時もそうだし、立花くんと話す時もそうみたいだし。気になったので観察してたら、彼女、木島くんを見てたんですね。
 ええ、はい。僕の見立てに間違いがなければ、津田さんは木島くんを好いている。彼にやきもちを妬いてほしくて、彼の前で他の男と話をしていた。そんなところではないかと。
 クロロホルムのガロン瓶が割れた時も、木島くんが実験室にいたんでしょう。やきもちを妬いてほしくて、わざと立花くんと話をしていたんじゃないかな、と思ってますよ、僕は。まあ、当の木島くんは遠距離恋愛中の彼女がいるとか聞きましたけど。
 割れたクロロホルム、最後の一本だったんですよねえ。おかげで僕の実験も滞ってしまって、いい迷惑です。


※無題で投稿された作品でしたが、作品集への掲載にあたって改題されました。

『遭難』 たきてあまひか

投稿時刻 : 2014.01.18 23:40
総文字数 : 741字
獲得☆3.455
冬山。
こええところだ。
こええ所だとわかってはいたが、それでも油断があったんだな。
俺と上田と下村と前川。みんな冬山経験は豊富だ。
上田なんてのは、海外でも登ってくれえだし、下村はK大登山部のエース。前川だって、勲章みたいなものは一つもねえが、体力だけは俺たちの中で誰にも負けね。
油断があったんだなあ。荒れた天候、雪崩に巻き込まれかけて半分の装備を失い、山小屋になんとか逃げ込んだんだが暖をとるすべがない。
「寝ちまったらアブねえ」
そう言ったのは下村だ。
「だが休まねば身体が持たんぞ」
反論したのは前川だ。
上田はじっと黙って、残った装備の確認をしてた。
「ともあれ、なんとか朝まで耐えるしかねえ」
おれぁそう言ってな、山小屋の四隅にいすを置いてな、休みながら動く事を提案したわけよ。
まんず俺が椅子から立って、次の角に座ってる上田のとこまで行ってタッチすんだ。
そすたら上田が立ち上がってな、俺が座る。俺は次にタッチされるまで休むわけよ。山田ぁ、次の角まで歩いて下村にタッチ、下村は前川にタッチとまあ、そう言う案配に、休みながら動くわけさ。
なんとかそれで朝までやり過ごすとなあ、運があったんだなあ、天気が回復してきてよ。
なんとか帰ってくることができたんだ。
ところがよく考えると不思議なことがあったんだ。

  *   *   *

後藤さんはそこでいたずらっぽい表情を浮かべた。
ぼくは応えた。
「知ってますよ、それ有名なネタじゃないですか」
「ありゃ、知ってたかあ」
「4つ角を、4人で回ると途切れるんです。どうしても5人いないといけない。後藤さんたちは4人パーティで一人足りないじゃないですか」
「そうだ、。運がなかったんだなあ。そんなわけでホントはその作戦は上手くいかなくてな」
後藤さんは寂しげな微笑みを浮かべて。
ふっと消えた。

『地球の危機』 工藤伸一@ワサラー団

投稿時刻 : 2014.01.18 23:45
総文字数 : 675字
獲得☆3.444


《発言が人をつくる賞》
《1人1ツイート賞》
地球の危機
工藤伸一@ワサラー団


「やべー、寝ちゃってたよ。今23時28分。後17分しかないというのに、5人を出せって無理だよ」「でも何とかしなくちゃ地球が終ってしまうんだよ。それなのに寝坊なんて無責任にも程があるわ」「別に好きで選ばれたわけじゃないからな。さてどうするか。今二人いるよな。外は既に汚染されていて、通信手段もない」「チャネリングすればいい」「そんなオカルトなこと言われても。まあいい。時間もないから話だけ聞かせてくれ。どうすればいいんだ?」「まず寝るの。そして夢の中で意識を接続する」「起きたばかりなのに出来るわけないだろ」「柔道技で落としてあげるわ」「なるほど仕方ない。やってくれ」「じゃあ行きます。うりゃー」「ひいいいいーい。ガクッ」



「ここが夢の世界か。でもチャネリングする手段を聞き忘れたままだ。どうにもならない」「本当だよね」「お前だれだ?」「3人目さ」「良かった。あと2人」「俺が既に繋がってる奴がいるぜ」「初めまして。3人目なりー」「どうも。もしや君も誰か連れてきてないか?」「もちろんなり」「それは助かった。声を聴かせてくれ」「スイミンろぼデス。コンゴトモヨロシク」「ロボットってありなの?」「セイカクニハあんどろいどデス」「アンドロイドも夢を視るって本当なんだな。それなら大丈夫かな」「ノウニハイリコンダダケデス」「でも5人そろったことに違いはない。大丈夫だろう」「デモボク、キミヲオトシタ2リメトオナジダヨ」「足りてないわけか。くそ!」「これで地球は終わり。残念だったな」「貴様が悪の根源か。でも貴様を入れて5人だろ?」「そうだな。運が良かったね」

『苦情、処理しまくり』 ひこ・ひこたろう

投稿時刻 : 2014.01.18 23:15
最終更新 : 2014.01.18 23:24
総文字数 : 2005字
獲得☆3.417
 「公務員なのに真面目に働くヤツは無能」と先輩から教わったもんだから、私は勤務中に自分の席で女子高生とチャットばかりやっていた。しかし、それが上司・望月課長の目に触れたようで、私は早速「苦情処理係」の窓口に配属された。この職種は事実上の退職勧告といってもよい。市民からのどうでもいい苦情を一日中聞かされ、精神に異常をきたして辞めていく同僚が多いからである。

 翌日、私は窓口に座り市民からの苦情を聞いた。
「どうして砂丘は鳥取にしかないのか?」
「どうして日の丸の太陽は赤いのか?」
「うちで作ったレモンパンを宣伝してくれ」
「日本は『にほん』と『にっぽん』、どちらの読みが正しいのか?」
「日本共産党の書記局長が代わったので、名前を覚えてくれ」
 とまあ、こんな感じのしょうもない苦情を聞き流すのである。ああ、しんど。女子高生相手に「おっぱい触らせろ」とチャットしていた昨日までの日々はいったい何だったのだろう。いくら憲法で国民の請願権が保証されているからといって、しょうもない話に付き合わされるなんて、こんな安月給では割に合わない。たまに、望月課長と廊下ですれ違うが、もはや向こうは目を合わそうともせず、挨拶にも応えない。

 そんなある日、とうとう私を怒らせる苦情が舞い込んできたのである。
「国の借金は1008兆円、国民一人当たり792万円というが、国民は借金してくれと頼んだ覚えはない。借金は公務員がこしらえたものだ。公務員一人当たり16億円と発表しろ」
 はあ、何だ、こいつは? そう思いながら、私はつばを飛ばしながら憤る白髪の男性の話に耳を傾けた。確かこの男は共産党書記局長の名前、山下芳生氏の名前を覚えろとしつこく言ってきた人物である。なぜか胸に「山本」の名札を着けている。どう見ても年金生活者といった風情なのだが、私に名前を売ってどうするつもりなのだろう。もしや、選挙にでも出ようというのか。

 それはともかく、市民・山本の挙げる数字が正しいかどうか手元の電卓で確認してみる。
「1008兆円」って桁が多すぎて、自分の電卓じゃ入り切らない。公務員の数、ここでは国家公務員の64万人で割ればいいのか。まずは紙に書いてみて、「兆円」を「万円」で割って桁数を減らすことから始める。
「げっ、やばいじゃん!」
 いやあ、国の借金ってこんなにあったのですか。国家公務員一人当たり16億円。もう笑うしかない。
「これを死にもの狂いで減らしなさい」と、市民・山本は私に詰め寄る。そんなこと、山下芳生氏だってできやしないと思うぞ。

 だが、私はやってみることにした。まずは安倍総理に電話をし、「公務員を増やしてください」とお願いしてみた。1008兆円の借金を減らすのは難しいが、公務員を増やして一人当たりの金額を減らすことなら可能だ。
 翌日、地方公務員をすべて国家公務員にする特例法が成立した。「君の頼みなら聞かないわけにはいかないからね」と安倍総理。恩に着ますぜ。そして、公務員一人当たりの借金は、16億から3億に減った。やったね、自分! それに、さすが安倍総理。「地方の借金÷地方公務員の数」は分母がゼロになったので、無限大になったけど、ワシは知らん。だって、責任を取る地方公務員はもういないのだ。えっ? 分母がゼロの計算は不能だって? 文部科学省にでも尋ねてくれ。

 公務員一人当たりの借金が減ったので、もうちょっと贅沢をしてもいいだろうということで、もっともっと放漫財政をやってみた。私は苦情処理窓口から栄転し、財務省の政務官になった。

 そんなある日のこと、市民・山本は本当に選挙に出て当選し、国会に私を呼びつけこう迫った。
「日本の財政は危機状態にある。公務員一人当たりの借金はもはや9億円になった!」
 しょうがないので、日本国民、子供からお年寄りまで全員公務員にしてみた。そうしたら、公務員一人当たりの借金は減った。ざまあみろ、市民・山本。いや、代議士・山本。
「これでは以前の国民一人当たりと同じではありませぬか」代議士・山本が指摘した。「しかも現在は2400万円に膨れ上がっている」
 ふうん、そんなに借金が増えたのか。日本国民の資産をはるかに超えてしまっている。792万とか言ってた頃が懐かしい。

 トゥルルルル……。
 私は今度は中国の李首相に電話をした。日本を中国に売り渡すためだ。
「あなたの頼みなら」とこれまた気さくに応じてくれた李首相。やはり持つべきものは友達である。「よっ、大統領! じゃなくて、首相!」
 翌日、日本と中国は合併。「東アジア連邦ドラゴン」というひとつの国家となった。人口15億、GDPたくさん。公務員一人当たりの借金も国民一人当たりの借金もばっちり減った。
 私は早々と引退し、年金生活。野球は中日ドラゴンズを応援し、日本共産党は消滅したので、書記局長の名を聞くこともない。AKBのセンターは上海48の子だ。尖閣諸島の領土問題も消えた。めでたし、めでたし。


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