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嫌いなファンタジー

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嫌いなファンタジー

 零.

 

 ここは、桐島町。

どこにでもある町の名前とも思いませんが、五年ほど前に、郡から市になった場所にある木造の古い家が建ち並ぶ普通の町。

 高い建物といったら、景気が良かった頃に建った私の住んでいるパルグラフィック桐島という十三階建てのマンションくらい。

 このマンション、町の中心部にあり、実にかっこよく、周りの光景とのアンバランスが余計に高級感があります。

 価格的にもけっこう高かったとお母さんは言っていましたが、お母さんの仕事も順調でローンの返済なんかも、問題ないんですが、お母さんの仕事場が遠くなので、帰りも遅く朝も早いので、最近、親子の会話が少ないと感じている今日この頃です。


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嫌いなファンタジー

 一.あれっ?平舘織江。

 

 パルグラフィック桐島から、さほど離れていない場所にある二階建てで木造の、見るからに安アパートから、赤いハデなパジャマにカーディガンをはおった中学生くらいの若い少女が出て来ます。

 顔は普通ですが、少しお腹も出て太った少女です。

 手には、何やらチラシが握られています。サンダルばきで、近くのコンビニにでも買い物に行く様子。

 時間は、真夜中の一時過ぎ。

私は、とうぜんぐっすりと睡眠中です。

 ここらへんは、田舎だったんで、まだ治安もよく別に取り立てて問題のある行動とも思えません。

 私の名前は、平舘織江(ひらだておりえ)という中学二年生です。

 部活も美術部で、活発的な感じではありませんが、知的な感じが漂うかわいい少女だと自負しています。

 かわいいけど、学生は、勉強が一番大切だと思っているので、二年生にもなって彼の一人も作ったことはありません。

 それに、二年になってから、最近、生徒会の書記をやっているので、なおさら、男は、寄って来ません。

 うちの学校の生徒会は、少し、問題があるようです。

 そうこうしているうちに、さっきの少女は表通りを外れた、長屋のような棟の並んだ、一画で足を止めました。

 まるで、時代劇のビンボー長屋のようなたたずまいなそこは、一軒を除いて明かりはついていなく、ボロボロで、眠って静かというよりも、誰も住んでいないかのような静けさです。

 月明かりの中、チラシを見て、吸い寄せられるようにその明かりのつく場所に向かう少女。

 不思議堂本舗。

いかにも、外国のファンタジーの小説とかの冒頭に出て来そうな感じのホコリのかぶった骨董品の並ぶ、店内。

 少女は、営業中と書かれたプレートを見た後、そのお店の中に、入ります。

 この次の展開としては、いかにも怪しげなおじいさんが登場するところですが、中には誰もいません。

 もしかすると、この少女以外には、見えていないのかもしれません。

 少女の隣にどう考えたって不自然な影があり少女は、その影の方に向かい、一人ごとのように何かをつぶやきながら、それ程広くない店内に並べられた骨董品を指差しています。 そして、しばらすると、その視線は、アンティークでオシャレというよりも、ただ古いだけの、今は、時を刻んでいない大きくもなく小さくもない置き時計で止まります。

 ネジでゼンマイを回して動かすタイプのようで、はがれかけの透明なセロテープで置き時計の底にネジが、貼りつけられています。

 少女は、何気なくそのネジを剥がします。セロテープは、パサパサと欠けるように取れた後、セロテープの糊で少しネバネバしたネジを置き時計のネジ穴に差し込み、そして回します。

 ギギギギ。

中のゼンマイが錆びている感じで、強く回し過ぎると、中のゼンマイが壊れてしまいそうな音がします。

 やはり、もう古過ぎて壊れているのが、何度か強く叩いて衝撃を与えましたが、置き時計は動く気配はありません。

 何か、惜しそうな顔をした後、別な物を探そうと少女が後ろを振り向いた時です。

 止まっていた置き時計の長針が、カチッと一分動きました。

一時五十八分を指しています。

 止まっていた時計なのに偶然なのか、私の家の私の枕元の台の上にある緑の目覚し時計もちょうど同じ時間になりました。

 一瞬の鼓動のような感じ。

夜だから、月明かりだけだから、ハッキリしないけど、町全体が、ドクンという、鼓動に包まれ、それぞれの発する色が、それぞれの方向に一瞬、分離する感じ。

 とても、中学二年の私には説明出来ない感覚でした。

 横向きで眠っている私の額に、緑の目覚し時計が直撃したように重なりもとに戻る。

 身体とパジャマが、ズレて全裸の私。

でも、すぐに元通り。

 ほんの一瞬の出来事だったけど、一瞬の間に色の数だけ空間のズレが起こりました。

 ただし、私は完全に眠っていたので、何が起こったのかはわかっていません。

 

 次の日の朝。

「痛て…」

 目が覚めて、おでこに痛みを感じ、おでこを押さえる私。

少し、赤くなり、こぶが出来ている感じ。

 何気なく横を見ると、枕元の横の台の上に目覚まし時計はなく、床に落ちていました。

 私は、ベッドから出て、落ちた目覚し時計を拾います。

 落ちた衝撃で、時計は止まっていました。

 一時五十八分で。

目を細めて、思いきり、時計に顔を近付けてその時間を確認。

「一時五十八分?まだ夜?」

 私は、おでこをさすりながら、カーテンを開けに行きます。

 よく、まっくらだと眠れない人がいますが私は、まっくらじゃないと眠れないタイプなので、カーテンは、完全遮光タイプなので、ほとんど光が入ってきません。

 ただ、カーテンのすき間から入る光で、時計の字も読め、部屋の中も簡単に移動出来ているのですが、まだ、寝ぼけている私にはそれに気付けません。

 カーテンを勢いよく開けると、突然、眩しい日差しが飛び込んで来て、目が開けられない状態で、手を前に差し出して、光から目をカバーしようとする私。

「朝?今、何時だぁ」

 私は、ものすごい遅刻を覚悟していまのですが、ダイニングのテーブルの上のキャラクター時計の頭を叩きます。

「痛いなー。今の時間?八時くらいだよ」

 今の時間を音声で確認して、少しだけ安心する私。

 日曜日も含めて、私は、毎日の起きる時間がだいたい同じなので、一応、目覚し時計は鳴らなくても、八時台の時間に目覚めたようです。

「余裕ではないけど、学校そんなに遠くないし、走れば、まだ間に合うかな」

 私は、朝は絶対に朝食を食べる人なので、制服に着替えてた後に、いつものように、右手で冷蔵庫を開けて、左手だけでトーストとバターとミルクをうまく取ります。

 そして、トースターでトーストを焼いて、両面にバターをたくさん塗ってから、それをビーッと小さく縦に裂いて、ミルクが入った大きなコップに浸して食べます。

 小学生からの習慣です。

その後に、歯をみがいて、玄関で靴を履いている私。

 ヒモが緩くなってて、靴のヒモを結びなおそうとした時、気付きました。

「コンタクト…」

 そういえば、朝から何もかもぼやけて見えているな、と思っていたら、コンタクトレンズをしていないことに気付きます。

「昨日、学校から戻って来て、お母さんの携帯用の清浄器に入れて洗って、取り出そうと思ったけど、疲れてたんでそのまま眠ってしまったんだ。やばい…」

 お母さんの仕事場は、この町にはないので朝早く、出かけてしまいます。

 当然、今日も携帯用の洗浄器を持って。

「仕方ないな…」

 とにかく、勉強のし過ぎか、コンタクトがないと何も見えないため、私は、仕方なく、六年生の時にしていたメガネを探し出して、かけます。

 銀縁のメガネ。

「似合い過ぎなんだよな…」

 おでこのこぶを目立たない髪型も少しかえて、鏡に向かってポーズ。

 ある意味、一部のマニアには、たまらない感じでしょうが、メガネは、小学生で卒業したと思っていたので、少し、落ち込みます。

「しかも、目も悪くなってるし」

 メガネをしないよりは、ましですが、度がぜんぜんあっていなく、またも落ち込む私。

 メガネ探しで、一時間目の授業には完全に遅刻になってしまったけど、二時間目には、生徒会の臨時会議があるので、絶対に遅れられない。

 私は、急いで家を飛び出しました。

普段、運動をしないので、小さな健康維持として、いつもは、私の住む七階から、階段を降りて学校に行くんですが、今日は、久しぶりにエレベーターを使用。

「やっぱり楽だね。文明は素晴らしいけど、こんなのが、あったら人は堕落するね」

 エレベーターの回数表示を見ながら、文明の素晴らしさを実感し、ほどなく、一階になり、ドアが開きました。

 私は、急ぎ気味にエレベーターを出た時です。

 またドクンと、鼓動が発生。

今度は朝だから、はっきりしています。

 それぞれの色が、それぞれの方向に分離して行きます。

 夜に比べ、認識出来る色が多いためか、分離というよりもすべての物が、分解されていく感じで、私自身も、スーッと自分が、消えてしまう感覚に襲われます。

 例えるなら、炭酸ジュースのお風呂に入っている感覚でジュワーッとした感じ。

炭酸ジュースのお風呂には、入ったことはないけど。

 軽いめまいではなく、重いめまいを覚え、両手で、頭を押さえる私。

 次の瞬間、まるで、何もなかったかのように、私は、七階の自分のうちの玄関で靴のヒモを結ぼうと、しゃがみこんでいる体勢。

「あれ?今、エレベーターで一階まで行かなかったっけ?」

 何が何だかわからない状態。

「この状況は、さっきの、ゆるんでた靴のヒモを結ぼうとしている場面。そしてコンタクトがないことに気付く…」

 自分が、銀縁のメガネをしているのに気付きます。

 記憶のパニック状態になりそうですが、私は、どんな時でも絶対に冷静に物事を、判断しようと決めているので、状況を理解しようと必死。

 私は、無意識におでこをさすった後、まず自分の部屋に、戻ります。

 台の上に横に置かれた目覚し時計を持って見ます。

 一時五十九分で、止まっています。

「記憶通り」

 一分ずれていますが、何かの弾みで針が動いたのだろうくらいの感覚で気付きません。

 次に、ダイニングに向かいます。

 ダイニングのテーブルのキャラクター時計の頭を叩きます。

「痛いなー。今の時間?九時くらいだよ」

「え?普通、八時だろ…。時間は、ちゃんと過ぎてるよ…」

 次に冷蔵庫を開けてびっくり。

食べたはずのトーストとバターとミルクは冷蔵庫の中にありました。

 そして、洗面所。

歯ブラシは、完全に乾燥して、磨いた形跡がないのです。

 でも、お腹は、食べた感があるし、はーっとすれば、息がさわやか。いつもの歯磨きの匂い。

 記憶の混乱は、誰にでも起こる可能性はあります。

でも、今日の私のこれは、普通ではありません。

「私、夢見てんのかな?」

 まだ少し痛いおでこをなでて、夢でないことを確認。

「どこかに、頭ぶつけてバカになっちゃったかな?」

 可能性としては、あります。

私は、現実的なので、私にとっては、それが一番、納得しやすいです。


試し読みはここまでです。続きは購入後にお読みいただけます。


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