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『その声だけを頼りに僕は』

君の声がしたんだ
 
君がいるであろう方向から
 
もう見えはしないけれど
間違いなんかじゃない
絶対に
 
その声だけを頼りに僕は
終幕の一刻を繋ぎ止めてた
 
何が見えなくなっても
見えた頃よりも全てが見えた
君の姿はその声を聴くだけで
心の中に鮮やかに描かれていた
 
かすかな震えも全て感じてた
僕の全身で君の存在を感じていた
遠ざかるんじゃなく
いつも側にいる
 
君が求める時にはいつでも
 
気まぐれなのはいつだって変わらないから
それは 飛び立った後も一緒さ
 
たった一つだけ伝えられるなら
君に出会えて
本当に幸せだった

『恍惚の涙は』

全てを壊そうとするのは
その心が音を立てて
崩れ始めたからなのでしょう?
 
間違ったものの末路は
こうも憐れで儚い
 
倒される事をいつも待っているように
悲しい目が見え隠れしている
この手を止めてくれ、と
心で常に慟哭する様は
誰一人知る事なく
たった一人で散ってゆくのだろう
 
恍惚の涙は
この世全ての憂いを集めたかのような光をもって
水面に落ちる
 
「行かないでくれ」とあの日言えなかった言葉が
初めて声になる瞬間
その心によぎるものは何なのか
 
走馬灯が煌めく
その身だけが知る
今際の刹那
 
星が綺麗だ、と
その思いだけを残したまま
今いた場所には羽根だけが残った
亡骸さえ居場所を失い
心が向かう先は
その腕(かいな)だけ

that was why.

傷つけられたのが君だったから
許せなかった
もし自分が同じ目に遭ったなら
どんな事をしても耐えられた
でも君の瞼が閉じてしまったから
僕はあの時心に決めたんだ
鬼になると
 
もう既に触れられる対象もなく
魂だけとなってしまった君だけど
その全てを守り抜きたい
だから僕は一度人生を捨てたのかもしれない
一人だけ幸せになんてなれなかったんだよ
たとえ人がそれを弱さと名付けても
あの光景を見ていないからそんな事が言えるんだ
 
未だ肌に焼けついて離れない光景は
思い出す事も憚るような悲しみで満ちている
忘れるものか
あの日は僕そのものだというのに

時計針

時計針の音がやけに耳に障る夜
目を開けて眠れずにいても
広がる景色は心の中のものだけだった
 
時に楽しげな思い出ばかり切り取り
時に悲しく苦い思い出ばかりを蘇らせては
指先で弄んでいる
 
蘇るんだよ、今でも
白黒にさえならずにさ
 
手を伸ばせば届きそうな距離に気付けば
過去はいつもそこにいて手招きをする
 
ぐっとこらえる足元
耐える痛みは経験したものじゃないと分からないだろう
近づきたいから遠ざかった
想っているから触れられなかった
痛みがまだ蘇るから泣かなかった
その気持ちが少しでも分かるのなら
相当きつかったろうね今まで
人が上を向けるのも
下を向いてしまう事くらいに
突然やってくるものだから
焦らずじっくり待つ事が必要な時もある
そうも言ってられないだろうけどね

『射抜いてくれよ』

突き刺さるような満ちた眼差し
しかしその瞳の奥でいつも見え隠れしているものは
野望に隠れた悲しさと孤独
 
暗い目の持ち主はいつもそう
心に鍵をかけている
触れられる事が怖いから
その鍵穴を抹消する事さえあるね
光に一歩踏み込んでしまえば
この身ごと消えてしまいそうな感覚に駆られている
 
弱い犬ほどよく吠える、と何度自分に向けて囁いた?
見せかけでもいい
そんな望み方しかできない
ねじきれそうなこの心を
その眼差しで
射抜いてくれよ
赤い閃光の如くに


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