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静かな春の宵のこと


静かだね、と

あなたが銘打つ

二時の宵

 

あけすけに

満開見頃の

サクラたち

 

整然と凛然と

雌蕊露わに眠る宵

落ちない散らない

雄蕊の長針

僅かな距離を縮めるまでは

果てるわけにもいかなくて

 

うつくしさ

痛み感じる頂点のまま

眠れるサクラを

透写せんと

ひっそり見守る満月に

涅槃が映るとサクラは笑う

 

本当に

静かな夜の一幕で

あなたの呼吸が寝息に変わる

甘く歪んだ時間の境

乱れた夜具の青い陰へ

おちるひとひらの花びらを

もう一度くちびるへ

そっとのせてほしいから

静かなままに目を閉じて。

(FIN)

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あなたというひと


抱き合えば

遠く

目を閉じれば

深く

見つめるほど

匂いたち

唇を重ねれば

優しく侵され

逃げられて

在るのに見えない

与えられているのに渇きばかり


私は貧しき者

如何なる形で

あなたを受け容れても

唾が湧く飢えた子供


ああ、それとも

あなたは水

口にしてもすぐに沁み

まばたきの後では

私の毛細血管の果てに居る

私自身。


(FIN)


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秋雨の輪舞(ロンド)

 
私の中に百人の

『寄る辺のない女』が棲んでいます

 

そのうち一人は貴男とつがい

憂いを全て忘れたようで

こうして夜道を家路に急ぎ

傘を傾け歌っているが

残りの九十九人となれば

それぞれに『寄る辺』を探すと

いうことでした

 

やがてほら

霜月手前が訪れます

(子猫の眠気を帯びた腹の毛

 しっとりとして懐かしい)

てのひらに受ける度に聞こえる声は

雨粒ごしの九十九人の消息なのです

 

ねえ

しあわせ?

ねえ

 

見上げれば

雨はみな笑いながら落ちてくる

 

驚いたことに

九十九人が行き着いたのは

九十九人の貴男だったというのだから

 

ド・スタールの絵の前で

カシオペア座の膝下で

ラテン語の辞書の前で

かび臭いワイン売り場で

みんなそれぞれ出逢ったという

 

誰か一人くらい

貴男以外の『寄る辺』を選ぶと

思っていたのに九十九人が

揃いも揃ってミュージカルの

フィナーレさながらここかしこで

寄り添って解き放たれた顔で

ここが私の寄る辺と笑う雨音が

見上げた私の頬濡らし

秋雨に九十九人の輪舞が見える

 

いずれの私も貴男以外と出会えない

絶えること無い秋雨の輪舞。


(FIN)


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