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第三章 〜どの細胞も貴男を求めて〜

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秋雨の輪舞(ロンド)

 
私の中に百人の

『寄る辺のない女』が棲んでいます

 

そのうち一人は貴男とつがい

憂いを全て忘れたようで

こうして夜道を家路に急ぎ

傘を傾け歌っているが

残りの九十九人となれば

それぞれに『寄る辺』を探すと

いうことでした

 

やがてほら

霜月手前が訪れます

(子猫の眠気を帯びた腹の毛

 しっとりとして懐かしい)

てのひらに受ける度に聞こえる声は

雨粒ごしの九十九人の消息なのです

 

ねえ

しあわせ?

ねえ

 

見上げれば

雨はみな笑いながら落ちてくる

 

驚いたことに

九十九人が行き着いたのは

九十九人の貴男だったというのだから

 

ド・スタールの絵の前で

カシオペア座の膝下で

ラテン語の辞書の前で

かび臭いワイン売り場で

みんなそれぞれ出逢ったという

 

誰か一人くらい

貴男以外の『寄る辺』を選ぶと

思っていたのに九十九人が

揃いも揃ってミュージカルの

フィナーレさながらここかしこで

寄り添って解き放たれた顔で

ここが私の寄る辺と笑う雨音が

見上げた私の頬濡らし

秋雨に九十九人の輪舞が見える

 

いずれの私も貴男以外と出会えない

絶えること無い秋雨の輪舞。


(FIN)