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痛みはうつの結果なのでしょうか

-うつ病の治療により痛みを軽減させるより、痛み専用の治療の方が治療成績が優れている-

 

まとめ

 うつ病と痛みが合併した場合あるいは痛みのみがある場合、うつ病あるいは抑うつの結果痛みが起こるという理論に基づいて痛みを治療すると、痛み専用の治療より治療成績が悪くなる。ノイロトロピン®やメジコン®などの痛みに有効な薬が使用されることはない。また、抗うつ薬の中で選択的セロトニン再吸収阻害薬(SSRI)という抗うつ薬が使用される頻度が高くなるが、SSRIの鎮痛効果は弱い。最も問題となることはベンゾジアゼピン系抗不安薬の長期使用による副作用や常用量依存である。

 

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福山リハビリテーション病院リハビリテーション科
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FAX:084-926-7074
戸田克広

 

痛みはうつの結果というテレビコマーシャル

 痛みはうつ病の結果であるというコマーシャルがテレビで盛んに流されている。Googleなどの検索サイトに「うつ 痛み」と入れるとそれを宣伝している製薬会社のホームページにつながり、そこが推薦する精神科や心療内科を受診することになる。痛みはうつの結果であるという理論に基づきうつ病の治療をすることにより鎮痛を図る方法は治療成績を悪くしてしまう。痛みには痛み専用の治療を行った方が治療成績がよい。

 

神経障害性疼痛

 ここでいう痛みとは神経障害性疼痛である。痛みは侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛に分類される。侵害受容性疼痛とは打撲や熱傷時に感じるような通常の痛みであり、ジクロフェナクナトリウム(ボルタレン®)、ロキソプロフェン(ロキソニン®)、アセトアミノフェン(カロナール®)などの通常の鎮痛薬が有効である。神経障害性疼痛とは神経系の何らかの異常により起こる痛みであり、抗うつ薬、抗けいれん薬、ノイロトロピン®などが有効である。

 

うつ病あるいは抑うつの結果痛みがおこるという理論

 うつ病と痛みが合併した場合、うつ病あるいは抑うつの結果痛みが起こるという理論(うつ病理論)があるが、それは証明されていない。痛みの結果うつ病あるいは抑うつが起こるのかもしれないし、逆にうつ病の結果痛みが起こるのかもしれない。あるいは一つの原因がありその結果うつ病と痛みが起こるのかもしれない。どちらの症状が早く出たかによりそれらをある程度区別できるかもしれないが、この鑑別方法がどの程度正しいのかどうかは不明である。うつ病あるいは抑うつと痛みが合併した場合、ノイロトロピン®により痛みとうつ病あるいは抑うつの両方の症状が軽減することは珍しくない。ノイロトロピン®には抗うつ効果はない。その場合にはノイロトロピン®により痛みが軽減し、その結果抑うつあるいはうつ病が軽減したと判断することが妥当である。

 抑うつがなく痛みのみがある場合に、うつ病理論により痛みを治療することはさらに問題が起こる。うつ病と痛みの合併に後述するように選択的セロトニン再吸収阻害薬(SSRI)という抗うつ薬を投与すれば、痛みにはあまり効果はないがうつ病には有効である。うつが合併しない痛みにうつ病の治療をすることは、後述するように痛みの治療成績を悪くしてしまい、その結果多くの人々に不幸をもたらす。精神科医や心療内科医が痛みの治療をしてはならないという意見を私は持っていないが、痛みをうつ病理論により治療しないでいただきたい。

 

うつ病の診断基準

 うつ病の診断基準には痛みは含まれていない。うつ病と痛みが合併した場合にはうつ病理論により痛みを治療することと、うつ病の診断基準には痛みは含まれていないことに、私は違和感を感じる。

 

うつ病の治療と痛みの治療の違い

 うつ病理論に基づき行ったうつ病の治療と痛み専用の治療は似ているが異なる。最も異なる点はうつ病理論に基づく治療ではノイロトロピン®やデキストロメトルファン(メジコン®)などの薬が使用されない。それらの薬はうつ病には使用されないが痛みには有効であり、しかも安価、副作用が少ないという長所がある。痛みに有効な治療薬を使用しないのであれば、当然の結果として治療成績は悪くなる。

 うつ病理論により抗うつ薬を使用する場合、SSRIが使用される頻度が高くなる。SSRIはうつ症状の改善には効果が強いが、痛みには効果がないとは言わないが、三環系抗うつ薬やセロトニン・ノルアドレナリン再吸収阻害薬(SNRI)より鎮痛効果が弱い[1] [2] [3]。SSRIは三環系抗うつ薬より副作用が少ないという噂があるが、実は眠気、めまい、のどの渇き、排尿困難、便秘、動悸などの患者が気付きやすく医師に苦情を言う頻度の多い副作用が三環系抗うつ薬の方が多いだけの話である。SSRIでは骨粗しょう症や性機能障害など患者が気付きにくく、たとえ患者が気付いても医師に言いにくい副作用が多いのである。私が知る限りSSRIと三環系抗うつ薬の副作用の頻度を比較し報告は二つである。パロキセチン(パキシル®)20 mg/日はアミトリプチリン(トリプタノール®)100 mg/日より副作用が少なかったという盲検法の記載がない研究[4]があるが、二重盲検法を用いた研究では20-40 mg/日のパロキセチン(パキシル®)と50-150 mg/日のアミトリプチリン(トリプタノール®)の副作用の頻度に差はないと報告されている[5]。前者の論文は英文ではあるがPubMedに収載されておらず、盲検法を用いていないと推測される。後者は日本語論文であるが二重盲検法を用いている。研究の質で後者の結果が優先されるべきである。二重盲検法を用いた研究にはSSRIに多い性機能障害が含まれていないため、SSRIの方が副作用が多い可能性すらある。

 

ベンゾジアゼピン系抗不安薬による常用量依存

 前述の二つの理由によりうつ病理論に基づく痛みの治療は痛み専用の治療よりも治療成績が悪くなるが、ベンゾジアゼピン系抗不安薬(BZD)による常用量依存はそれを凌駕する不利益を人々にもたらす。BZDを半年以上使用すると、死亡率の増加、認知機能の低下、睡眠の質の悪化などの忌まわしい副作用が起こりやすくなる[6]。半年以上BZDを使用した場合中止を試みようとすると様々な不愉快な症状が生じやすくなる。その場合中止が困難になる。このような依存は通常の臨床で使用される投与量で生じるため常用量依存(臨床用量依存)と呼ばれる。詳細は拙書[6]を参照していただきたい。

 実は前述した二つの理由により治療成績が悪くなることはBZDによる副作用そのものや常用量依存に比べると罪が少ない。治療成績が悪くなるだけであるため、その後に適切な治療をすればよいだけである。しかし、BZDの長期使用が起こってしまうとその後に適切な痛みの治療ができなくなってしまう。日本では、うつ病理論により痛みが治療されるとBZDが使用される頻度が高い。痛みの治療薬の多くには眠気の副作用がある。BZDには眠気の副作用があるため、BZDが使用されていると十分な量の治療薬を使用することができなくなる。それに加えてBZDそのものの副作用が加わってしまう。睡眠目的や鎮痛目的でBZDを使用すると半年以内に中止することが非常に困難になるため、睡眠目的や鎮痛目的でBZDを使用すべきではない。

 

痛みの非薬物治療

 ここまで薬物治療に関して述べてきた。しかし、痛みを薬物治療のみで治療してはならない。私は痛み(神経障害性疼痛)に対して主に薬物治療を行っているが、有酸素運動や禁煙などの非薬物治療も併用している。認知行動療法は論文上は痛み(神経障害性疼痛)に有効であるが、具体的に何をすればよいのかよくわからないこと、日本の医療制度では認知行動療法を行うと赤字になる危険性が高いこと、適切な認知行動療法を行うことのできる人材が少ないこと、などにより痛みに対して認知行動療法が行われることは少ない。うつ病理論により行われたうつ病に対する認知行動療法などの心理療法と痛みに対する認知行動療法などの心理療法には大差はないと推測している。そのため、うつ病理論に基づく非薬物治療を行うと痛みに対する非薬物治療より治療成績が向上することはないと推定している。

 

引用文献

1) Verdu B, Decosterd I, Buclin T, Stiefel F, Berney A: Antidepressants for the treatment of chronic pain. Drugs. 68: 2611-2632, 2008.

2) Lee YC, Chen PP: A review of SSRIs and SNRIs in neuropathic pain. Expert Opin Pharmacother. 11: 2813-2825, 2010.

3) Attal N, Cruccu G, Baron R, Haanpaa M, Hansson P, Jensen TS, Nurmikko T: EFNS guidelines on the pharmacological treatment of neuropathic pain: 2010 revision. Eur J Neurol. 17: 1113-e1188, 2010.

4) Ataoglu S, Ataoglu A, Erdogan F, J. S: Comparison of paroxetine, amytriptyline in the treatment of fibromyalgia. Turk J Med Sci. 27: 535-539, 1997.

5) 三浦貞則, 小山司, 浅井昌弘, 遠藤俊吉, 上島国利, 牛島定信, 村崎光邦, 假屋哲彦, 越野好文, 中嶋照夫, 西村健, 工藤義雄, 斉藤正己, 渡辺昌祐, 田代信雄, 中根允文: 選択的セロトニン再取り込み阻害薬塩酸パロキセチンのうつ病およびうつ状態に対する臨床評価ー塩酸アミトリプチリンを対照とした二重盲検群間比較試験. 薬理と治療. 28 Supplement: S187-S210, 2000.

6) 戸田克広: 抗不安薬による常用量依存―恐ろしすぎる副作用と医師の無関心、精神安定剤の罠、日本医学の闇―. ブクログ, 2012, http://p.booklog.jp/book/62140

 

 


著者紹介

著者紹介

 

戸田克広(とだかつひろ)

1985年新潟大学医学部医学科卒業。元整形外科医。2001年から2004年までアメリカ国立衛生研究所(National Institutes of Health: NIH)に勤務した際、線維筋痛症に出会う。帰国後、線維筋痛症を中心とした中枢性過敏症候群や原因不明の痛みの治療を専門にしている。2007年から廿日市記念病院リハビリテーション科(自称慢性痛科)勤務。『線維筋痛症がわかる本』(主婦の友社)を2010年に出版。電子書籍『抗不安薬による常用量依存—恐ろしすぎる副作用と医師の無関心、抗不安薬の罠、日本医学の闇—』http://p.booklog.jp/book/62140を2012年に出版。ブログにて線維筋痛症を中心とした中枢性過敏症候群や痛みの情報を発信している。実名でツイッターをしている。

 

ツイッター:@KatsuhiroTodaMD

 実名でツイッターをしています。キーワードに「線維筋痛症」と入れればすぐに私のつぶやきが出てきます。痛みや抗不安薬に関する問題であれば遠慮なく質問して下さい。私がわかる範囲でお答えいたします。

 

電子書籍:抗不安薬による常用量依存―恐ろしすぎる副作用と医師の無関心、精神安定剤の罠、日本医学の闇―http://p.booklog.jp/book/62140

 日本医学の悪しき習慣である抗不安薬の使用方法に対する内部告発の書籍です。276の引用文献をつけています。2012年の時点では抗不安薬による常用量依存に関して最も詳しい日本語医学書です。医学書ですが、一般の方が理解できる内容になっています。

 

・戸田克広: 「正しい線維筋痛症の知識」の普及を目指して!―まず知ろう診療のポイントー. CareNet 2011

http://www.carenet.com/conference/qa/autoimmune/mt110927/index.html

 薬の優先順位など、私が行っている線維筋痛症の最新の治療方法を記載しています。

 

・戸田克広: 線維筋痛症の基本. CareNet 2012

http://www.carenet.com/special/1208/contribution/index.html

 さらに最新の情報を記載しています。

 

ブログ:腰痛、肩こりから慢性広範痛症、線維筋痛症へー中枢性過敏症候群ー戸田克広 http://fibro.exblog.jp/

 線維筋痛症を中心にした中枢性過敏症候群や抗不安薬による常用量依存などに関する最新の英語論文の翻訳や、痛みに関する私の意見を記載しています。

 

線維筋痛症に関する情報

戸田克広: 線維筋痛症がわかる本. 主婦の友社, 東京, 2010.

医学書ではない一般書ですが、引用文献を400以上つけており、医師が読むに耐える一般書です。

 


電子書籍

通常の書籍のみならず電子書籍もあります。

電子書籍(アップル版、アンドロイド版、パソコン版)

http://bukure.shufunotomo.co.jp/digital/?p=10451

通常の書籍、電子書籍(kindle版)

http://www.amazon.co.jp/%E7%B7%9A%E7%B6%AD%E7%AD%8B%E7%97%9B%E7%97%87%E3%81%8C%E3%82%8F%E3%81%8B%E3%82%8B%E6%9C%AC-ebook/dp/B0095BMLE8/ref=tmm_kin_title_0

電子書籍(XMDF形式)

http://books.livedoor.com/item/4801844

 


奥付

痛みはうつの結果なのでしょうか

-うつ病の治療により痛みを軽減させるより、痛み専用の治療の方が治療成績が優れている-

 

著者:戸田克広

 

2014年1月31日 第1 版第2刷発行

2014年2月2日   第1 版第3刷発行

 

http://p.booklog.jp/book/82045/read

著者:戸田克広

発行者:吉田健吾

発行所:株式会社ブクログ

              〒150-8512東京都渋谷区桜丘町26-1 セルリアンタワー

              http://booklog.co.jp


奥付


痛みはうつの結果なのでしょうか

-うつ病の治療により痛みを軽減させるより、痛み専用の治療の方が治療成績が優れている-


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著者 : 戸田克広
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運営会社:株式会社ブクログ



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