操「おじさんもシャワー入んなよ」
梶「おじさんって、そんな呼び方あるかよ」
操「じゃあ何て呼べばいい?」
梶「……パパって呼んでくれるか」
操「じゃあパパ、シャワー浴びて」
梶「いいよ俺は。今汗かいてないし」
操「じゃ、先にホ別で4ちょうだい」
梶「ホ別で4? 何のことだ?」
操「ホテル代と別に4万円。約束したじゃん」
梶「4万? 今日来たのは金目的だったのか?」
操「当たり前じゃん。ただで会うわけないし」
梶「何に使う気だ?」
操「そんなのパパに関係ないし」
梶「軽蔑する。俺は軽蔑するよ、娘でも」
と財布を手に取り、お札を渡す演技をする。
実際にお札はつかんでいない。
梶「ほら、大切に使え」
操「え? 何やってんの?」
梶「渡しただろ。4万」
操「冗談やめて。早くちょうだいよ」
と、梶の財布を奪い、お札を取る。
操「何だ。これしか持ってないんだ」
梶「ちょっと待て。お前本気で金取る気か?」
操「誘って来たのそっちでしょ」
操のスマホが振動。操、スマホを見る。
画面に『ホテル着いたよ』とある。
操「え? どういうこと?」
梶、お札をそっと財布に戻す。
操「おじさん、一体誰?」
梶「何度も言ってるだろ。パパだよ」
操「私が約束してたの、別の人だったけど」
と、梶にラインのトーク画面を見せる。
梶「操、お前これ、援助交際やってるのか?」
操「サポートしてもらってんの。悪い?」
梶「この先な、50歳、60歳になっても忘れられない嫌な思い出になる。それでいいのか?」
操「説教する気?」
梶「操、お母さん呼ぼう」
操「は?」
梶、操のスマホを奪って、
梶「お母さんと三人で話し合おう。な?」
操「返してよ」
梶「もしもしお前か。ああ俺だ、久しぶりだな。操のことで相談したいことがあるんだ。今すぐ会えるか。そうか。ああ、来てくれ」
梶、操にスマホを返す。
梶「お母さん、すぐ来るって」
操「何? パパってお母さんの知り合い?」
梶「知り合いなんかじゃないさ」
操、スマホの通話履歴を確認する。
操「あれ? お母さんに電話してないじゃん」
梶「え?」
操「通話履歴ないよね。ふざけないでよ」
梶「お前な、それが演技ってもんだろ」
扉をノックする音。
操、入口に向かい、ゆっくり扉を開く。
操「ごめん、今ちょっと立て込んでて」
小津明(35)、強引に入って来る。
小津「何だ。もう一人いるんじゃん」
梶「お前か? 操を買おうとしたのは」
小津「は? 誰こいつ?」
操「わかんない。警察かも」
梶「この子の父親だよ」
操「え?」
小津「お父さんもどう? 一緒に楽しんでく?」
梶「少なくともお前と楽しむつもりはないね」
小津「なんだと?」
梶「俺の娘を愛してないなら消えろ、屑が」
小津、梶にパンチ。梶、痛がる。
梶「本気で打つバカいるか。手加減しろよ」
小津「ふざけんなよ」
とパンチ。梶、側転して交わす。
小津のパンチは操に当たってしまう。
梶「大根役者が。俺も本気で行くぞ」
と小津を背負い投げし、羽交い絞め。
梶「警察呼ぼうか。それとも骨折ろうか?」
梶、小津を押さえつつ、周囲を見る。
梶「どこだカメラは? こっちか?」
小津、隙を見て部屋から逃げ出す。
梶「操、怪我なかったか?」
操「ありがと。父親だなんて嘘までついて」
梶「嘘じゃない。パパな、本当にお前の……」
操「もう帰るね」
と、バスローブを脱いで着替え始める。
梶、慌てて背中を向ける。
梶「待てよ、もうすぐ母さん来るから」
操「電話してないんだから来るわけないでしょ。それに、お母さん入院してるし」
梶「え? 入院?」
操「お父さん浮気しててほとんど家いないしさ。お母さんの分も私が稼がないと」
梶「操、それでこんなこと」
操「今日が最初だったんだ」
梶「え?」
操「もう辞めるね。今日で最後にする」
梶「ああ、わかった。パパと約束だぞ」
操「パパ、もういいよ」
梶、制服に着替えた操の方を振り返る。
梶「若い頃の母さんに似て来たな」
操「さっきから何それ? パパってさ、お母さんの昔の恋人か何かなの?」
梶「あいつ、お前に何も言ってないのか」
操「じゃあねパパ」
と部屋を出る。
梶「ヒロインの父親は俺だな。ですよね監督?」
と周囲を見回す。窓の外で落葉が舞う。
○病院・操の母の病室(夜)
窓の外に枯れ木。雪が降っている。
操の母、ベッドに寝てテレビを視聴。
『アンとパパの殺人事件』1話開始。
操、パジャマの着替えを持って来る。
操「お母さん、着替えここおいとくね」
テレビ画面にホテルの映像。
チンピラ姿の梶、客室に倒れている。死体だ。
操「あ? これパパだ。え? 役者だったの?」
テレビでは少女とその父らしき男が梶の死体を発見。
梶の顔がアップになる。
操「お母さん、この死体役の人知ってる?」
操の母、首を振る。操、怪訝な顔。(了)
「STAP2号対ドロチ~北半球最後の戦い~」人物表
人 物
隼 出(はやぶさ いづる)(20)理科学特捜隊隊員
九条 燕(つばめ)(29)同隊長
隼 玄(げん)(48)出の父・博士
ドロチ(6550万)怪獣
自衛隊長
放送
「STAP2号対ドロチ~北半球最後の戦い~」本文
○太平洋(夜)
大嵐。響き渡る稲妻の音。
雷の落ちた場所が盛り上がる。
ドロチ(6550万)、雄叫びを上げつつ、海の中から現れる。
口から天に向けて青い炎を吐く。
○神戸ポートアイランド
神戸港内に浮かぶ人工の島。
理研の研究施設やビルが並んでいる。
ドロチ、ゆっくり歩いて来る。
サイレンの音。人々、逃げていく。
ドロチ、口から炎を吐く。街が燃える。
ドロチ、理研の建物をなぎ倒して絶叫。
○ノーチラス2号・外観
淡路島上空を飛ぶ空中戦艦である。
○同・中央作戦司令室
隼出(20)、九条燕(29)、ドロチが暴れる映像をスクリーンで見ている。
隼「ドロチめ、研究所を破壊しやがって」
燕「ドロチのDNA鑑定結果が出たわ、推定年齢6550万歳ですって」
出「ろ! 6550万歳?」
燕「海の底に沈んでいた巨大恐竜が、汚染水に刺激されて復活したんだわ」
出「汚染水ってもしかして?」
燕「徳島第一原発から出たあの汚染水よ!」
出「に、西日本大震災で被災したあの原発の!」
燕「汚染水に含まれるストロンチウムを取り込んで、異常発達した状態で蘇生したのよ」
出「燕隊長、我々はどうすれば?」
燕「ドロチの進行方向をよく見なさい!」
スクリーンの画面が日本地図に変わる。
ドロチの進行方向に徳島第一原発。
燕「ドロチは徳島第一に向かっているわ」
出「そんな! 何故ですか?」
燕「ドロチの体の中には高濃度のストロンチウムが何万トンと溜まっているわ。放射性物質に呼ばれているのでしょうね」