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冬の寒さがまだ身に染みる季節。

雪深い黒烏盗賊団のアジトでは、朝から団員達が大忙しと駆け回っていた。

今日はネオスが、長期遠征から帰ってくるため、団員で慰労会を開催することになったのだ。
そのため、買い出し班のルギは、ラシェルを誘った。
街に着くと、ルギはラシェルにメモを渡す。

「これは食材屋で、こっちは薬草屋で頼む。あとの買い物は、あんたの料理のセンスに任せる。荷物が多くなるだろうから、買い終わったら、そこのカフェにいてくれ」

「はーい」
「俺は酒樽を買ってくるから、酒屋あたりにいる…何かあったら、呼んでくれ」
「うん、わかった」
「じゃ、あとでな」

そうラシェルに言うと、ルギは酒屋へ向かった。
ラシェルも、渡されたメモを確認しながら、どのルートで買い物をするか、考えながら歩きだした。
そして、メモを手にしながら、ふと思い付く。

(そうだ! 今日は、ルークさんのためだけの料理、別に何か作っちゃおかな? そしたら、あの鈍いルークさんでも、いくらなんでも気づいてくれるはず…!)

そしたら、そしたらもしかして…!
なんて妄想しながら、ラシェルの頬はつい緩くなっていた。




一方ルギは、酒屋で酒樽を買い、荷馬車に積んだ。
山道が急なため、沢山買い込めるわけではない。

(とりあえず、四樽あれば、今日くらいはもつだろ…)


荷台に重い樽を積み込みながら、腕でぐいっと汗を拭った。
さらに、荷台の空いているスペースに、ワインやシャンパン、果実酒等のアルコールの類の瓶を詰め込む。

(おっ…と、そうだ)

ふと気づき、慌てて荷台のスペースを確保し、そこに、蒸留水やサイダー等を詰め込んだ。


(酔っ払われたら、敵わないからな…)

酒に弱い団員達の姿を思い出し、渋面になる。
あとは、押しの強いダインが、無理矢理飲ませないことを祈るだけだ。
ルギの買い物は、重量はあるものの、品種は少ないので、割と早く終わってしまう。
逆に、ラシェルの買い物は、軽量だが種類が多いので、時間がかかる。

(適当に、つまみの材料を買ったら、合流するか)

ルギは厩舎に荷馬車を預け、乾物屋へ向かった。




…その頃、ラシェルは一通りの食材を買い、薬草屋に来ていた。
大量の食材を持って歩くのは難儀なため、店の隅に置かせて貰っている。
ラシェルは、メモに書いてある薬草や香料を、手早くカゴに入れていった。

(見たことない薬草の名前とかあるけど、何に使うんだろ…?)

そんなことを、頭の片隅で思い付つ、それでも早く帰るために、急ぎ足で店内を回る。
しかし、一つの棚の前で足を止めた。

『媚薬』

(わぁ~~! 本当にあるんだ…っ)

なんだか、無性に気になってしまい、恐る恐る、棚に手を伸ばす。

「………ふーん」
「わっ!!」

後ろから不意に聞こえた声に驚き、ラシェルは、数十センチ跳びはねた。
慌てて後ろを振り返ると、ルギが立っていた。

「べっ、別に使う気なんかないんだからねっ?! どんなのか見てみたかっただけ!」

顔を真っ赤にしながら、ラシェルが言うと、ルギはため息をつきながら言った。


「…別に、使いたきゃ、使えば? 効いたら良いだろうけどな。…ばれたら、余計避けられそうな気がするが」
「うっっっΣ」

痛いとこをつかれる。
確かに、使ったとしても、ばれた後が怖い。

それに、薬物や毒薬はルークの専門分野。ばれないわけがないのだ。
ルギは、しょげるラシェルを見て肩をすくめた後、少しの間をおいて言った。

「……ブラッドベリー、食ったか?」
「えっ?」

そういえば、さっき食材屋で、美味しそうな、小さな深紅の実を試食してきた。

「ついてる」

不意に、ルギはラシェルの唇の縁を自分の親指で拭い、ペロッと拭った指を舐めた。

「~~~~~!」

思わず、ラシェルは口元を抑える。

「…甘いな」
「あっ、甘いよ!」

突然の出来事に、あたりまえなことしか返せない真っ赤な顔のラシェルに、ルギはフッと笑った。

「…まぁ、頑張れ」

ポンポンと、頭に手を乗せるルギに、ラシェルはイィ~っと歯を剥いた。

「…じゃ、お前の買い物が終わったら、帰るか」


そう言って、ルギは店の隅の食材の山を、荷馬車に運びはじめた。
ラシェルは、納得しないまま、とにかく急いで、買い物を済ますのだった。



その夜は、大宴会だった。
ルギとラシェルが用意した料理が、大量に振る舞われた。
特にルギは料理が得意だったので、つまみや魚の香草焼きを作り、酒好きの団員から歓声が上がった。

ラシェルは、こっそりとルークの側に座り、せっせとみんなのために料理を取り分けた。
ルークに渡した皿は他の団員より多めに料理が乗っている。


「すみませんラシェル…こんなには私はいりません」
「そんなこと言わず、一生懸命作ったんですから、いっぱい食べてください♪」

ニコニコ嬉しそうなラシェルに反論できず、ルークは黙ってワインを口にした。
ルギは、あまり食も進まないので、給仕に徹していたが、ふと、買い出しで頼んだ薬草を思い出す。

(あれ…そういえば…?)

サラダの隠し味に使おうと思っていた薬草が、1品、足りなかったことを思い出した。
そして、ふと気づくと、ダインが大きな口で、サラダを掻き込んでいる姿が見えた。
その手元の皿には…


「あっ! ダイン、駄目だ!」
「んがっ?」


大量のサラダを頬張りながら、巨漢の髭戦士ダインが、素っ頓狂な声を上げる。
時すでに遅し。
ダインのサラダ皿は、すでに半分なくなっていた。

「あぁ…食っちまったか…」

ルギが肩を落とす。

「…まぁ、死にはしないし、…残りも食べちまってくれ」
「ん、なんだぁ?」

そう言いつつも、ダインは皿を空にした。
そのダインに向かって、ルギは冷めた顔で言う。

「あんた、今『ミヤマシノブ』っていう薬草を食べた。…薬草っていっても、効果は…」
 
ルギがそう言った時、ダインの目頭が、強烈に熱くなった。

「うぉっ! なんだぁ!?」

ダインが叫びつつ、目を抑えた瞬間。
ポンッ!という軽快な音とともに。
ダインの眉毛が、玉簾の様に伸びた。

「…眉毛が伸びる薬草だ…。しかも量が多いから、柳の様に生えるだろうな…。まぁ、明日には効果が切れるし、剃れば治るから、いいだろ…」
「そういう問題か~~~!っ!」

青い顔で叫ぶダインの指の間からは、相変わらず、眉毛がにょきにょきと生えつづけた。
それを見た、アジト内の団員は、一瞬の沈黙の後、大爆笑の渦に包まれた。

「なんとかしてくれ~~~!!!」

ダインの、天を裂く切ない悲鳴と、アジト内の朗らかな笑い声は、翌朝近くまで続いたという…。

……予断であるが、ルギが欲しかった薬草は、ミヤマシノブの一つ隣の棚にあったため、ラシェルが買い物を焦ったときに、間違ってしまったものであった…。

=FIN=

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最終更新日 : 2014-01-28 01:53:22

この本の内容は以上です。


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