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おおきいばくとちいさいかたつむり

 ある夜 の ことです。

 ばく と かたつむりは けんかを しました。 

 
 かたつむりが とつぜん 殻に とじこもり、 ばくが はなしかけても、ちっとも こたえなくなってしまったのです。

 

 「ねえ かたつむり、どうしたの?」

 かたつむりが きゅうに だまりこんだので、ばくは せなかから かたつむりを おろしました。

 

 「かたつむり、こっちみてよ」

 ばくは、ちいさな まるい 殻に むかって にらめっこ を してみました。
 でも、ばくが、おもいついた へんなかおを ぜんぶ してみても、かたつむりは ちっとも でてきません。

 だれも みない にらめっこ の つまらないことといったら!

 

「かたつむりったら、ふんじゃうよ!」

 ばくは、ぷんすかして かたつむりを にらみましたが、それでも かたつむりは ぴくりとも うごきませんでした。 
 

 

 このように、かたつむりは ときどき 殻に ひきこもってしまうことが ありました。

 そうなると、ばくは、しんぱいなのと、どうしたらいいのかわからないのとで、しだいに とげとげしたきもちで いっぱいになって しまうのでした。

 

 

 

 「かたつむりなんて、もう知らない!」
 ついに、ばくは キャベツばたけの中に かたつむりを おきざりにして、ひとりで あるきだしました。

 

 キャベツが みどりなのにも、星が きらきら ひかっているのにも、いらいらしました。

 かたつむりが 殻に ひきこもらなければ いいのに。

 ばくは、足がいたくなるまで ずんずん すすんでいきましたが、ついに たちどまりました。

 まだ おこっていましたが、どうじに だんだん さみしくも なっていました。

 かたつむりが ばくに いつも へんじを してくれればいいのに。

 かたつむりが ばくのことを すきだったら いいのに。

 もしも このまま、ばくが どこかに いってしまって、かたつむりのもとに もどらなかったら、かたつむりは どうするでしょうか。

 

 ばくは、じぶんに きいてみました。

 目をとじて、とげとげしたきもちに 耳をすましました。

 

 殻から出て、ばくが いないことに気がついたら、かたつむりは あわてるでしょうか。

 いっしょうけんめい ばくを よぶでしょうか。

  よばないかもしれません。

 

 ばくを さがすでしょうか。

  もしかしたら さがさないかもしれません。

 

 そして、キャベツばたけの中を ひとりで あるきだすのかもしれません。


挿絵(By みてみん)


 でも、かたつむりは きっと泣くだろうと ばくは 思いました。

 だって かたつむりは、なきむしですから。

 そうしたら、なみだで みちしるべとなる 星が 見えなくなって まいご に なってしまうか も しれません。

 そのうち たいようが のぼってしまったら、泣きながら のろのろあるいている かたつむりは、はらぺこの鳥に ねらわれてしまうかも しれません。  とおりがかりの だれかに ふみつぶされてしまうかも しれません。

 

 うわあ!

 

 ばくの しんぞうは きゅっと いたくなりました。まるで とげとげしたきもちが ばくに はねかえってきたようでした。

 そうなってしまったら、ばくは 二度と かたつむりに あえません。 

  

 ばくは、かおを あげて あたりを みまわしました。

 どこを むいても、おなじような キャベツが みわたすかぎり ならんでいます。

 このどこかに、かたつむりが ひとりで いるのです。

 でも どこに?

 

 ばくは、まいごに なってしまっていました。

 

 ぷんすかしながら 歩いていたせいで、どこからきたのか さっぱり わかりません。

 ばくは、とりあえず つまさきだちに なりました。

 まんがいち、かたつむりを ふんでしまったら、たいへんです。
 そうして、ばくが、そろそろと、でも できるだけはやく かたつむりを 見つけようと、一歩ふみだした ちょうどそのとき。

 

 ひゅるひゅると 流れ星が おちてきました。

 

 ごつん!

 

 あたまに かたいものが ぶつかって、ばくの 目の前は まっくらに なりました。


ちいさいばくとおおきいかたつむり

 ある夜の ことです。

 気がつくと、ばくは きれいな ほらあなの 中に いました。

 あかりは ありませんでしたが、ちっとも くらくありません。

 まわりの かべが きらきらと かがやき、あたりを やわらかく てらしていました。

 いりぐちは まんまるで、中は ひろびろと しています。

 かべに みちしるべのように ちゃいろの線が いっぽん 奥まで つづいていました。

 

 ばくは、つるつるした 床を しっかり ふみしめて 首をのばして みましたが、みちが まがっているので 中に なにがあるのかは みえません。

 たからものの かくしばしょに この ほらあなは ぴったりです。

 それとも、だれかが こっそり すんでいるのでしょうか。

 いったい ほらあなの中には なにが あるのでしょう?

 ばくは 気になって 先に すすむことにしました。

 

 

 「だれかいませんかー?」

 

 ばくは、かどを まがるたびに よびかけてみましたが、へんじは ありませんでした。

 ばくの こえ と あしおと だけが、まるい つうろに ひびいてから しずかに きえていきます。

 

 ぽん、ぽぉん、ぽぉぉん、ぽぅわぁぁぁん。

 

 ばくは、かえりたくなってきました。

 ずいぶん歩いたので 足も いたくなってきました。

 おなかも どんどん へってきました。

 

 でも、まだ ほらあなは つづいています。

 もうちょっとだけ、いってみよう。

 ばくは なんどか ひきかえそうかと なやみましたが、けっきょく おくへ おくへ と すすんでいきました。


 

 なんかいも なんかいも かどをまがって、ばくは だんだん じぶんが どこにいるのか わからなくなりました。

 

 ばくの あたまの はるか うえに あった てんじょうが、つい に ばくの耳が とどくくらい ひくくなって しまいました。

 さいしょは やわらかく なつかしい きもちがした ほらあなでしたが、どんどん せまく くらく なっています。

 ばくは 耳をこすらないように かがんで歩きつづけましたが、すぐに かたが かべにつっかえてしまいました。

 もう にっちもさっちも うごけません。

 

「だれかー?」

 

 ぽん、ぽぉん、ぽぅわぁぁん。

 

 ばくは、小さな声で呼んでみました。

 もう これいじょう すすめないのに、だれも へんじを しません。

 ばくの ごはんになる わるい夢の においも しません。

 

 

 ぼくは、なにを さがしてたんだっけ?
 ばくは ふいに ふしぎに 思いました。

 

 こんな、だれもいない ほらあなの奥に なんで ひとりで きたのでしょうか。

 

「ねえ」

 ばくは、みょうに せきたてられるような きもちになって、じぶんの せなかを ふりかえろうとしました。

 

 でも ほらあなは あまりにもせまく、ぴったり はまりこんでしまった ばくは かおを うごかすことが できません。

 まいごで おなかもぺこぺこな ばくは、さみしくて せつなくて、どうしたらいいのか わからなくなってしまいました。

 

 

 おもわず うごけない ばくが なみだを ひとつぶ こぼすと、それも ちいさくて うつくしい おと に なりました。

 

 

ぽぉん。

 

 その きれいな ひびきも すぐに からっぽの ほらあなの おくに きえてしまいました。

 そして、ついに、ばくは、この殻の中に、だれもいないことを知ったのです。


おおきいばくとおおきいかたつむり

 ある夜のことです。

 おなかをすかせて ふらふらと 歩いていた ばくは、なにか かたいものに ぶつかって しまいました。 

 


 なんと、道のまんなかに あったのは ばくと おなじくらい 大きな 巻き貝 です。

 ばくは 目をぱちくり しました。

 こんな貝殻 みたことがありません。

 大きすぎて どけないと 道をとおることが できません。

 

 しょうがないので ばくは じゃまな 巻き貝を うごかすことにしまた。

 貝殻は ずっしりとおもく、ばくが いっしょうけんめい おしても ちっとも うごきません。

 しばらくすると、ばくは つかれてしまって、ふうふう いいながら すこし おやすみ することにしました。 

 

 ばくは、ひんやりした貝殻にもたれると、この中には いったい なにが 入っているのだろう と考えました。

 もし 中に なにか いるなら、うごかそうとしている間に 起きてきそうな気がします。

 でもそのようすはありません。

 きっと なにか くらくて おもいもの、

 たとえば、かなしみや ふあんや まだ見ていない あくむ みたいなもの 

 が つまっているのではないだろうか   と、ばくは 殻を のぞいてみましたが、

 ふしぎなことに 中は からっぽのように 見えました。

 

 

 だったら、これは、ほら貝でしょうか。

 この大きな巻き貝に、息を吹き込んだら、どんな音がするのでしょうか。

 

 

 ふうふう。 

 

 ばくは、道ばたに さいている きれいな花を見ながら ためしに 吹いてみました。

 

 

 ぷうぷうー。 

 

 お昼に たべた おいしい くだものを おもいだして もっと 吹いてみました。

 

 ぷーほーぽー。 

 

 あの星の なまえは なんだろうなあ と 空を 見上げながら 吹いてみました。

 

 

 

 ざんねんながら、巻き貝から 出てくる音が ぜんぶ きれい というわけでは ありませんでした。

 でも、ばくは たのしくなって、よかったこと すてきだったこと

 いろいろ話をするように おもしろい音を つぎつぎと 出してみました。

 そのうち、巻き貝が だんだん あたたかく なってきました。

 

 

 ばくは そのまま まるで たまごを あたためるように 巻き貝を かかえました。

 貝殻が とても気に入ったので、ずっと いっしょに もっていきたくなりました。

 

 こんなに 大きなものを はこぶとしたら、のんびり ゆっくり 歩かないといけませんが、それも いいんじゃないかと おもいました。

 

 さっきまでは、おもくて うごかせなかったけれど もうちょっと吹いていれば、せなかに せおえるくらい かるくなるかも しれません。

 いえ、ほんとうに かるくなってきています。

 

 これから さみしいときや かんどうしたとき、いつでも 貝殻を 鳴らせるのです。 

 

 ばくは まんぞくして あくびを しました。

 うでの中にある、すべすべした あたたかいものが ねむけを さそいます。

 

 いったい これは、なんだったっけ?

 

 
 たいせつなもの だったような 気がしましたが、ばくは おもいだせませんでした。

 そうして、そのまま ねむりに おちてしまいました。
 

 

 


ちいさいばくとちいさいかたつむり

 ある夜のことです。

 ばくは、とつぜん、じぶんが ちいさく なってしまっていることに 気づきました。 

 

 どんなに ちいさいか というと、ばくが くびを うんと のばしても、キャベツのてっぺんが みえません。

 それどころか、ばくが 10ぴき いたとしても、キャベツの 葉っぱ いちまいの下で ぜんいん あまやどり できてしまいます。

 

 ばくは こまってしまいました。

 このままだと とりや けものに たべられてしまいます。

 ばくは キャベツの 葉っぱの 下で しばらくふるえていました。

 でも、むこうの方から おいしそうな においが ただよってくると、ばくのおなかは、いつものように、ぐうと なりました。

 そこで、ばくは、ながれてくる あくむ を たべながら、だれが わるい夢を みているのか さがしました。

 

 

 

  ぐるりと キャベツの まわりを あるいていくと、ばくと おなじくらい おおきな貝殻から あくむが もくもく でてきていました。

 ばくは、いっしょうけんめい あくむを たべましたが、すぐに おなかいっぱいに なってしまいました。

 それでも、あくむは とまりません。

 ばくは とほうに くれました。

 こんなに ちいさくなってしまっては、あくむも ほんのちょっとしか たべられません。

 ばくは どうすればよいのか わからなくなったので、貝殻に どすん と たいあたりを しました。

 


  しばらくすると、貝殻から かなしそうな 目が かたほうだけ のぞきました。

 それから、もう かたほう。

 そして、ついに ぜんぶのからだが 殻から のろのろと でてきました。

 ばくは、めのまえにいるいきものが じぶんと とても ちがうことに びっくりしました。

 


 

 ばくの 目は のびたり ちぢんだり しませんし、からだも しめっていません。

 ばくの あしは よんほんですし、せなかに 殻を せおっても いません。
 

 

 

 

 「ばくさん、ずっと さがしていました」

 いつも ちいさな声だと思っていたけれど、おなじおおきさになると よく聞こえました。

 ばくは、なにか言おうとしました。

 でも、あいての なまえを わすれてしまっていたのです。

 

「ぼく……ぼく ぜんぜん だいじょうぶじゃない」

 ばくが 泣きそうになると、あいては あわてて 目を うろうろ させました。

 

 「どうしたんですか、たいへん、どこか いたいんですか。 けが したんですか」

 

 「ううん、そうじゃないんだ。

 ごめん、ぼく きみが だれか おもいだせない」

 

 「いいんですよ、ばくさん。なんかいわすれても、なんかいでもおもいだせます」

 



 うつくしい みどりの やねの下、2ひきは むきあいました。

「わたしは、かたつむり。そして、ばくさん、あなたは わたしの だいじな おともだちです」

 

「かたつむり、どうしよう。

 ぼく こんなに ちいさくなっちゃったんじゃ、これから きみの わるい夢を ぜんぶ たべてあげられないよ」

「なんだ、そんなことですか」

「でも、ぼくが たべてあげなきゃ、きみは ずっとこわい夢を みちゃうよ」

 

「そうですね、ばくさん。 あなたに たべてもらっても、たべてもらっても わたしは つぎつぎに あくむを みてしまいます。

 こわいものも おおすぎて、だれにせつめいしても わかってもらえるとは 思いません。

 

 でも ばくさん、わたしは いまは めざめるのが こわくなくなったんです。

 おきたら、あなたが あたたかな おひさまと まっていて、いっしょに たびにでかけられると しっているから。

 だから、わたしは もう 少しでも ましな おわりを さがして、夢から 夢を みつづけなくても いいんです」 


 「わたしが、あなたをさがしていたのは、あなたが わたしの わるい夢を たべてくれるからじゃないんです。

 わたしの あくむを たべられなくても、わたしより ちいさくなってしまっても、

 ばくさん、あなたは わたしの だいじな おともだちです」

「ほんとうの ほんとうの ほんとうに?」

 ばくは、びっくりしました。

 

 かたつむりが うなされて しくしく なきながら ねているときに、わるい夢を たべてあげられない じぶんなんて いやでたまらなかったからです。

 かたつむりは ばくに やさしい声で こたえました。

「ほんとうの ほんとうの ほんとうに」

 

 

「わたしが こわがりなせいで あなたに さみしくて、いやなおもいを させてしまいましたね」

「でも、ばくさん、あなたは もう 目を さましても いいんですよ」

 

 

 そのとき やっと、ばくは、ずっと 夢を みていたのだと 気づきました。

 そして、もう 夢をみつづける ひつようがないことも。

 流れ星のせいでみた ばくが ちいさくなったり、かたつむりが おおきくなったりする へんてこな夢。

 かたほうが おおきくても、かたほうが ちいさくても、ばくと かたつむりは ともだちでした。

 だから、これは わるい夢では ないのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは、そんな 夢の はなしです。


奥付


ばくとかたつむりのまいごの夜

http://p.booklog.jp/book/81907
 
え:きむろみ
 
【ばくとかたつむりのまいごの夜】は、【ばくとかたつむり】のスピンオフとなります。
 こちらを読んでいただけますと、わかりやすいかと思います。
【ばくとかたつむり】について
あらすじ: 『こんばんは、かたつむり。どうしてそんなにわるい夢ばっかりみているの?』  ある夜 ばくはキャベツの葉っぱのかげで泣きながらねむっているかたつむりを見つけます。かたつむりのわるい夢をたべすぎておなかいっぱいになってしまったばくは……。――かなしがりのかたつむりとばくのはなし。
ブクログのパブー(ダウンロード可):  
シンプル版:http://p.booklog.jp/book/47197  
フルサイズ版:http://p.booklog.jp/book/47198
 
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この本の内容は以上です。


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