閉じる


フラッシュバック

 

 ジャックはとくいまんめんに、こう言いました。

「お安いご用さ。おれに開けられない鍵はない。そのかわり一つ条件がある」

「そうかそうか。分かった。お前の好きなものをどんなものでも与えよう」

「ありがとう。それでは、お城一番の宝物をよこしてもらおうか」

「うーむ、『千の瞳』か。しょうがない。王様に伝えておこう」

「違うよ、お大臣さま。もっともっと素晴らしいものがあるだろう?」

「それではなんだというのだ」

 大臣は両手をおおげさに広げ、疑問を投げかけます。もう頭がはれつしそうです。ジャックは一日が終わってしまいそうなほど長い間をおき、こたえました。

「お姫さまだよ」

 大臣は声も出せず目をまんまるにしてジャックを見返すことしかできませんでした。

 

 

 

 

「あんた何言ってんの」

 佐藤さんの言葉は明らかに怒気を孕んでいた。当然だろう。色白でモデルのように整った顔立ちをしているが、肌は荒れ、ほうれい線がやけに目立って見える。何より深く刻まれた眉間の皺が彼女の印象を決定付けていた。

 発言をした当の本人である安藤さんは普段通り、お目当てのテレビ番組の前のニュースを見ているような何の感情の起伏も感じられない淡々とした表情をしている。

「安藤さん、それはやばいすって」

 純が焦った様子で仲裁に入ろうとするが、こんなチャラ男が安藤さんの気迫に勝てる訳もない。

「子供は児童相談所で預かってもらったほうがいいと言っているんだ。意味が分からなかったのか」

「何で預けないといけないのよ」

「虐待しているからだ」

 安藤さんのその声は重々しく室内に響いた。佐藤さんはこれ見よがしに大きなため息をつき、マフラーを首から外し、こちらに背を向け、冷蔵庫の前に座り、持っていた買い物袋の中身を入れ始めた。いや入れている、というよりも突っ込んでいるという表現が正しい。そういう性格なのかテーブルの上もマヨネーズやソース、食パンやお菓子などが無造作に置かれている。

「しつけよ、しつけ。ほら、お金払うから帰って。ていうか保奈美はどこよ」

 財布からお札数枚を取り出し、床に放り投げる。

「隣の部屋で寝ている。しつけだと? 度を越している」

 様子がおかしいことは最初から気付いていた。ボサボサだったので髪の毛を触ろうとしたとき、弾かれたように身体を反応させたり、何をするにもこちらの顔色をうかがっていたり、まだまだあどけない顔には似合わない行動だった。袖をたくし上げると腕には痛々しい青痣があった。極めつけは左頬にある縦に入っている傷跡――。

 気がつくとわたしは口を開いていた。

「何でほっぺたにあんなことしたんですか。一生残るんですよ」

 佐藤さんは半開きにした憎悪のこもった目を今度はわたしに向ける。安藤さんのようにはいかない。少し後ずさりしてしまった。

「あんたたちさ、頭おかしいんじゃないの。何が便利屋よ。子供の世話頼んだだけでここまで責められて。警察呼ぶわよ」

 声を張り上げる。窓がビリビリと音を立てた、気がした。

「そのほうが好都合だ。悪いのはどちらかはっきりするだろう」

 安藤さんはあくまで戦う姿勢だ。これからどうするのだろう。まさか無理やり保奈美ちゃんを連れていくわけにもいくまい。

「毎年の児童虐待の相談件数を知っているか」

「……知らないわよっ」

 冷蔵庫を力任せに閉め、佐藤さんは怒りが限界に達しているのか拳を床にどん、と叩き付けた。

「四万件以上だ。年々増加する虐待の相談件数、児童虐待に世間の目が向けられるにつれ、法律は改正され、一定条件を満たせば強制的に立入調査までできるようになった。何件だと思う」

「何がよ」

「強制立入だよ」

「だから」佐藤さんは立ち上がり、大きな足音を立てそのまま安藤さんにつかみかかった。「知らないって言ってるでしょう? あんた本当なんなんだよ」

 慌てて純と止めに入るが、案外力が強く引き離すことができない。安藤さんは意に介すことなく、話を続ける。

「たったの二件だ。法律が改正され、児童相談所の権限が強化された最初の年の数だ」

「黙って。黙りなさい」

「……さん。お母さん」

 保奈美ちゃんが部屋に続くドアの前に立っていた。この騒動で起こしてしまったらしい。

「保奈美、部屋に戻ってなさい」

「何かあったの。何でけんかしてるの」

「いいから。戻ってなさい」

「いやだ」

 トコトコと小走りし母親のもとへいき、足にしがみつく。しばらく娘を見つめたあと、佐藤さんは勝ち誇ったような表情で言った。

「ほら、この子はわたしと一緒にいたいの。帰って」

「だめだ。もうこちらに向かっている」

 誰が、と言おうとしたのだろう。しかし佐藤さんが発しようとした言葉は緊迫した状況にはそぐわない、ピンポーン、と間の抜けた音に遮られた。

「鍵開いてるからそのまま入ってきていいぞ」

「お兄ちゃん」

 現れたのは、わたしの兄だった。

「おう深雪。びっくりした?」

 いつもの暴力的なまでに無邪気さあふれる笑顔だ。紺色のストライプの入ったスーツに身を包んでいる。

「何してるの」

「あれ言ってなかったっけ。児童福祉司なんだよね、俺」

「ジドウフクシ……? 公務員としか聞いてない」

「ごめんごめん。ま、そんなことより」ゆっくりと佐藤さんのほうへ身体を向ける。「佐藤和恵さんですね。お子さんへ虐待の疑いがあると判断しましたので、お子さんの状況を確認に伺いました」

 笑顔はそのままで佐藤さんに言い放つ。

「は? 何言ってんのあんた。状況なら、ほら、私の子供はこの通りなんでもないわよ」

「近隣の方からこの部屋から子供の泣き叫ぶ声、女性が大声で怒鳴っている旨の申告を数件頂いています。そういった声を受けて私共で話し合った結果、今回の訪問となりました」兄が真剣に話している。普段はおちゃらけているので別人を見ているような不思議な感覚だった。「突然の訪問でこのようなことを言って、不快な思いをさせてしまい申し訳ありませんが、一度落ち着いた場所でお話しをお伺いさせて頂けませんか」

「なんでいきなり命令されて、こっちが足運ばなくちゃいけないの」

 保奈美ちゃんは佐藤さんのスウェットのズボンを握りしめ、事の成り行きを見守っている。今にも泣きそうな表情になっていて胸が痛む。

「こちらの告知書にサインをお願いできませんか。よろしくお願いします」

 兄が差し出した用紙は無惨にも叩き落とされた。

「だから、ふざけんなって言ってんだよ! ずかずかと勝手に家に入ってきて、出頭しろだあ? 訳が分からねえんだよ」

 保奈美ちゃんは泣き出してしまった。あーん、あーん、という恐怖と動揺が混じった声がしばし部屋の中を支配する。

「本当に何も分かっちゃいねえようだな」

 突然安藤さんが動いたかと思うと、佐藤さんの両肩をつかみそのまま壁に激しく押し付けた。きゃっという佐藤さんが悲鳴を上げる。

「あんたの娘がどんだけ痛かったか知ってるのか」

 保奈美ちゃんが安藤さんのカーゴパンツに抱きついて必死に止めようとしている。

「安藤さん」

 腹の底に響く、耳の片方からもう片方へ突き抜けるような大声だった。わたしはまた兄の「初めて」を知る。

「やめてください」

 安藤さんは保奈美ちゃんの手をそっと振りほどき、小さく舌打ちをしてこちらへ戻ってくる。

佐藤さんは少しの間放心状態だったが、力が抜けたのかそのままずるずると座り込んでしまった。警察に、警察に連絡するから、と、か細い声でつぶやく。

「乱暴なことをしてすみません。謝ります。でもこれだけは分かってほしいんです。私はあなたを攻撃しようとしている訳ではありません。……これを見てください」

 兄は鞄から取り出した何かを佐藤さんの目の前に置いた。写真のようだ。佐藤さんがそれを見た瞬間顔をしかめた。

「なにこれ」

「ある男の子が父親から虐待を受けていたという証拠を示す写真です」

 わたしは恐る恐る近付いて、写真をのぞき込む。一枚は細い背中に対角線上に真っすぐの赤い線が入っているもの。別の一枚は手の甲にいくつもの周りと比べ色素が薄くなっている丸い痕がおさまっていた。煙草を押し当てられたのだろう。

「だから何なのよ。私は虐待はしていないって言ってるでしょうが」

「仮にタロウ君としましょう。父子家庭で、タロウ君に危険が及ぶと判断し、タロウ君を施設で預かることにしました。父親には何度か面会の後、私は問題ないと判断し、二人は再び一緒に暮らすことになりました」

 佐藤さんは何かを言いたげに口を開きかけたが、兄の有無を言わさぬ態度に観念したのか話を静かに聞いている。

「それから一ヶ月もたたない内にタロウ君は歯が折れるほど暴行されました。全治二ヶ月で、今も入院しています」

 静寂が落ちた。保奈美ちゃんが母親に再び抱きついた。わたし達は身じろぎ一つできなかった。兄が後を続ける。

「繰り返したくないんです。佐藤さんお願いです。一度一緒にお話しましょう」

「あの……、わたしからもお願いします」自然と声が出ていた。「ほら、純も。……安藤さんも!」

 嫌がる安藤さんの頭を押さえつけ、一同で頭を下げる。少しだけ顔を上げると口をとがらせた佐藤さんが兄に手を差し出し、ぶっきらぼうに言った。

「告知書ちょうだい。どこにサインすればいいのよ」

「あ、こちらです」

 兄が佐藤さんに近寄ろうとしたとき、半身がテーブルに当たりソースがこぼれた。

 あ、ごめん。ふきん持ってきます。兄と純が発した言葉がえらく遅く、エコーがかって耳に響いた。呼吸が苦しくなる。息が吸えない。わたしの目の前には一つの記憶が、映画館のスクリーンに映し出されたように再生した。そしてそこには安藤さんが――。

「え」

 驚きが声に出てしまった。

「どうした?」

 安藤さんが不審げにたずねてくるが応えられるはずもない。

「ううん、なんでもない」

 なぜかソースがこぼれたことで呼び起こされた記憶は一瞬で消えた。呼吸も問題ない。ただ脳裏にはしっかりと焼き付いている。

 母が父に殺されたときの記憶で間違いないはずだ。まず時計。今はその家に住んでいないので懐かしい。一時間たつごとに鳩が出てきて、時を知らせてくれるのだが、いつの間にか壊れていて、ジジジ、という音しか出なくなっていた。細長い棚の上には当時流行っていてアニメの主人公のフィギュアが置いてある。わたしの家だ。でも、なぜ安藤さんが血だらけの包丁を持っていたのだろう。


魔法

「安藤さん、ほんと勘弁してよ。下手したら警察呼ばれてたかもしれないよ」

「ふん、別に呼ばれてもかまわない。悪いことをしていたのはあいつのほうだからな」

「あいつとか言わない。ったく、偶然俺らが佐藤さんへの出頭要求について話し合っていたからよかったものの」

 端から見ればけんかをしているように見えるだろうが、日常の光景だ。

 先ほど一瞬だけ見た記憶の断片が頭から離れなかった。何かの間違いだと思い込もうとしても無駄な行為だった。

「深雪、今日のご飯何がいい?」兄がわたしの顔を覗きこむ。「あれ、どうした? 思い詰めた顔して。せっかくの可愛い顔が台無しだぞ」

 兄はマザコンならぬシスコンである。母を失ってからは安藤さんと兄が親代わりとして何かと感謝をしているが、とびっきりの笑顔と猫なで声で毎日迫られるといい加減うんざりする。

「……何でもない」

「何でもなくないよ。どうした? 返答する前のちょっとの間は。兄ちゃん気になるなあ」

 大げさな仕草で首をかしげて人差し指で頭を指し、心底不思議に感じているという演技をして、まくしたてる。

「もう、うるっさい」

「……怒った? 怒ったのか深雪!」

「ほんとめんどくさい。先帰ってるから」

 わたしはわざと、どんどんと足を交互に踏み出しながら歩き出した。

「おい、待ってくれ」

「こういうときは追いかけんな」

「安藤さんやめろ――」

 安藤さんが止めてくれたのだろう。慌てた兄の声はすぐに聞こえなくなった。

 思考することに疲れた。あまりにも突飛すぎることでどう整理をつければ分からない。とりあえずこのことは兄に聞いてみよう。あの事件のことはさすがの兄でも口が堅くなる。もちろんわたし自身も聞きづらいことではあるが、しかたない。

 ようやく周囲の景色が目に入ってきた。海へと続く大きな川を眺めながら歩くことのできる河川敷はわたしの日常であり、楽しみでもあった。春になれば花が咲くし、夏になれば花火大会や多くの人がバーベキューに興じたりにぎやかになる。秋や冬はつまらない。どこかの街を歩くよりも風が身体にぶつかってくるし、視覚的な変化に乏しい。 

 最近の各テレビ局の天気予報は連日、呪文のように真夏日で熱中症になる危険性を声高に叫んでいる。

 自宅は河川敷を背にするように建っている。幼い頃は毎日母におぶわれて夕陽を見に行っていた。わたしが幼稚園のときだ。燃えているようで、でも何だか見ていると悲しい気持ちになったりして空に滲むように地平線に沈んでいく太陽を見ていると、神秘的なことに遭遇しているようだった。

 ――おかあさん、太陽さんはどこにいくの?――

 ――深雪は夜眠くなるでしょ? 太陽さんも同じで眠るために沈むの――

 ――いつか見にいきたいな――

 ――ええ。行きましょう。太陽さんいっぱいいるから楽しみね――

 ――え。たくさんいるの?――

 ――そうよ、知らなかったの? 毎日照らしていると疲れるから交代でやってるのよ。お母さんは水曜日の太陽さんが好き。深雪は?――

 母と話しているときはいつも別世界に行くことができた。彼女の思考の根底には常にファンタジーがあり、目に映る風景にはいつも湖には恐竜がいて、空には円盤が飛んでいた。

 母は魔法をかけることもできた。わたしが貝のアサリを嫌がっていたときのことだ。

「これからお母さんがアサリを好きになる魔法をかけるわ。でもこの魔法はあなたが二十歳のときに解けるわ。それからはあなた自身の力で食べるのよ」

 そう言うなり、わたしの額に母のそれを合わせ、聞き取れないほどのかすかな声で呪文のような言葉をつぶやき、最後に背中をぽんと叩く。

「食べてみなさい」

 何だか身体が熱が出たときのように火照っているのを感じながらアサリを食べるのだが、やはり苦く、今にも砂のじゃりっとした食感があるのではないかと怯えた。

「変わんない」

「うーん、まだ効果が発動されていないみたいね。ま、そのうちかかるわよ」

 その言葉を信じ食べ続けた結果、いつの間にかわたしはアサリを食べれるようになっていた。母は魔法使いだと思った。今でもそう信じている。

 

 帰宅して、ぼーっとテレビを見ていると、安藤さんと兄が帰ってきた。

「深雪ー、ただいま! 今日はすき焼きだよ。好きだろ?」

「あ、そう」

 兄は両手の大きく膨らんだスーパーの袋を持ったままで大きく身体をのけぞらせ「おおい、反応薄いなあ。もっとテンション上げていこうよ」

「わーい」

 またしても何やら騒ぎ始める兄を無視し、わたしは漫然とテレビを眺める。しかし脳内ではあの映像が繰り返し再生されていた。

「深雪、どうかしたか」

 安藤さんが声をかけてくれる。最近急に老けてきたような気がする。普段はそこまで感じることはないのだが、声をかけて振り向いたふとした瞬間など、目尻の皺が増えたな、とか、やけに疲れた表情をしているな、と思うことが多くなった。

「ううん、なんでもない」

 もちろん今でも安藤さんは頼りになる人であることは変わりない。わたしと兄のために人生を投げうって不格好な愛情を注いでくれた。

 ――これからは俺のことを安藤さんと呼べ。お父さんは遠いところに行っちゃうからな――

 ――安藤さんがおとうさんのかわりになるの?――

 ――俺は安藤さんで、それ以上でも以下でもない。お父さんにはなれないよ。でもお前らは必ず俺が守る――

「そっか。ならいいんだが」

 気まずい雰囲気になってきたので、わたしは自分の部屋に行くことにした。兄が、待ってくれよ俺の超絶料理テクニックを見てくれよすごいよ、という声を背中で受けながら階段を上がる。途中でふと思いつき足を止め、兄を見る。

「佐藤さんどうなるの」

「とにかく話し合いを重ねるしかないだろうな。カウンセリングってわけじゃないけど、なぜ暴力をふるってしまうのか。暴力をふるうことは悪いことで、相手がどんな気持ちになるのか。当然のことだけど、気づいてもらうために俺たちは頑張らなくちゃいけない」

「そっか」

 先ほどの保奈美ちゃんの恐怖で歪んだ顔を思い出した。平穏な生活が訪れることを心から願う。

 扉を閉め、ふーっと息をつく。なぜ自分の家なのにこんな窮屈になっているのだろう。思えばわたしたちはあの事件をきっかけに出会いここまで生活を共にしているのだが、大事な何かへ布をかぶせて時間を無駄に消費しているのではないかと疑いたくなる。

「そんなに悩む必要はないんじゃないか。深雪」

「へ?」

「へ、じゃねえよ。せっかく俺様が励ましてやろうとしているのによ」

 ぽんぽん跳ねていくような陽気な声。わたしは部屋を見渡す。もちろん誰か人間がいるわけではない。兄や安藤さんの声でもない。しかもわたしの名前を知っているとはどういうことだ。

「どこ見てるんだよ。こっちだよ、こっち」

 わたしはまさかの状況にあたふたするしかない。目を見開いて周囲を注意深く観察すると、どうやらぬいぐるみから声がしているようだった。

「やっと分かったか。まあ、でもびっくりさせちゃったな。俺の名前はジャックだ。もちろん知ってるだろ?」

『鍵屋のジャックと人形姫』という絵本の主人公のぬいぐるみだった。舞台となる国では人間や動物など関係なく言葉を発し生活している。あるとき王女が謎の病にかかってしまう。胸にできた光輝く大きな鍵穴にあう鍵をネズミのジャックが見つけ出し、病から救うという内容だ。

「お前おもしろい顔してるなー。特に最初俺が声をかけたときは目ん玉が飛びでそうなくらい慌ててて傑作だったよ」

 その声は日常の〝音〟が耳に入ってくるものとは違って、水の中で話すように、少しくぐもっていた。頭の中で声が響いている感じだ。

「は?」

 訳が分からなすぎて頭がぼうっとする。

「は」何かのおもちゃになったかのように同じ言葉を繰り返すことしかできない。頭の片隅では馬鹿らしいと誰かが笑っているのは承知でぬいぐるみに話しかけてみる。「あの、本当にあなたが喋ってるの?」

「ああそうだよ。他に誰がいる? あー、ずっと同じ体勢でいたから、身体が固いよ」

 ぬいぐるみ――ジャックは驚いたことに動き出した。勢いよくブリッジをする格好になったかと思うと、その反動を利用して、身体を前方に曲げながら両足で立つ。

 青いつなぎの作業服にトレードマークである長い尻尾の先は、身体の半分はあろうかという大きな金色に輝く鍵を持ってぴんと天井へと向いている。毎晩母に読んでもらっていたジャックの勇姿を思い出した。あの絵本は何年か前に探したのだが、忽然とその姿を消していた。

「おいおい何だよ黙っちゃって。もしかして俺に惚れてるのか?」

 顔の半分はあろうかという瞳を輝かせ、わたしを真っすぐに見つめてくる。

「何これ」

 腕を組んで胸を張ってかっこつけるジャックに頭を抱える。

「何で急に喋りだしたの」

「あんたのお母さんの魔法さ。困ったときは助けるって約束してたんだよ」

 ちょっとした小皿ほどの大きさの耳をピンと立て、彼は胸を張った。

「……そう」

 あまりにも話が現実離れしていて、さらに頭痛がひどくなる。しかしあの記憶とも脳内の放送事故ともつかない映像を見た直後にこんなことが起こるのはただの偶然なのだろうか。

「深雪が一人でも生きていけると思ったら、俺様はいつでも消えるよ。それまで、よろしくな」

 尖った歯を見せ、にかっ、と笑いジャックが高らかに宣言する。

「深雪ー! ご飯ができたぞお。早く降りてきなさーい」

 わたしは兄が部屋に入ってくるまでしばし茫然とその場に座り込んで、ジャックを見つめていた。


便利屋かをる

 雨粒が断続的に何かに打ちつけ、作り出された不格好な旋律が耳に心地よかった。

 小学校の低学年の頃に、雨が降り出したときにする匂いについて先生に質問したことがある。詳しくは記憶が曖昧だが、確か植物の何かの成分が雨の湿度に影響を受け発するものだそうだ。

 わたしはなぜか植物が水分を吸って成長する際に発する匂いだと勝手に思い込んでいてひどく落ち込んだ覚えがある。

「ったく、最近雨が多くないか? 何か憂鬱になるんだよな。鍵も錆びちゃうし」

 せっかくいい気分で朝の緩んだ雰囲気を楽しもうとしているのにぶち壊しである。

「ポジティブって言葉知らない? 文句ばっかり言ってると口を糸で縫うわよ」

「ああやってみろよ。家の中の物めちゃめちゃに壊してやるよ。そうなったら誰が犯人になるんだろうな?」

 しばしの間見つめ合うわたしとジャック。先に折れたのはこちらのほうだった。はあー、とこれ見よがしに長いため息を吐き出す。

「深雪ちゃん、まあ仲良くやろうや。俺と深雪は離れられない運命なんだ」

「何よ気持ち悪い」

 隙を見て飛びかかるがひょいとかわされた。俊敏な奴だ。

 いきなり喋りだしたぬいぐるみとの共同生活が始まって一週間たとうとしていた。もちろん安藤さんと兄にはこの事実は伝えていない。そうしたところでジャックいわく、この魔法は深雪にかけているので他の人間には話したり、動いたりすることを認識することはできない、と。つまりわたしが騒いだところで、発狂したのではないかと疑われるだけということだ。

「ところで深雪は学校には行かないのか。家にいるだけじゃないか。ニートか?」

「わたしはちゃんと働いてるの。てか何でニートなんて言葉知ってるの」

 安藤さんはわたしと兄と住んでいるこの家を事務所として〝便利屋かをる〟という名前で個人から企業まで様々な依頼を請け負っており、わたしはいわばそこの社員というわけだ。高校を卒業してから本格的に手伝い始めた。スタッフは安藤さんとわたし以外に純という男がいるのだが、まあ、こいつはただの女たらしだ。

 そんなことをジャックに簡単に説明する。

「そうだったのか。でも相当暇なんだな」

 何も反論できない。そう、営業活動にも力を入れておらず、なかなか依頼がこず閑古鳥が鳴いているのが現状だ。収支のことは全く分からないが、兄の収入に少なからず助けられているのかもしれない。

 仕事がない日は、安藤さんとリビングで何か話すでもなく過ごしたり、自分の部屋でだらだらとする。今日は安藤さんは朝から外出している。いつもの場所に行っているのだろう。毎月日にちは決まっていないが、必ず一日行き先も告げずどこかへと出かけているのに気づいたわたしは以前に安藤さんを尾行したことがある。

 行き先は水族館だった。カップルに人気がでそうな場所でなく、遊園地に行くという約束を仕事の疲れのせいにして、せめてもの機嫌取りに親子が訪れるような、その街にとけ込んだ施設のように感じた。

 水族館の中には入っていない。入れなかったのだ。尾行しているときに何度か見えた安藤さんの表情は感情を押し殺してどうにか平静を保っているように見えた。まるで水族館へ向かうという行為が大切な儀式であるかのように彼の周囲は厳粛な空気が漂っていた。

 わたしは安藤さんの内面の一部を知ってしまいそうで怖くなって、水族館の前で足が止まってしまった。わたし達家族は外見は何もなさそうに見えてどこか不足している。血がつながっている父や母がいないというそんな上辺のことではなくて、例えば家族というものをロボットで表すことができるのならばきっとネジを一つしめ忘れている。困ったことはそれがなくても動けることだ。

 ちなみに、かをる、という名前の由来は安藤さんが以前に好きだった女優さんだと聞いている。

「なあ深雪」

「何よ」

「何か困っていることあるだろ」

「ないわよ」

「いやあるなー。俺はすぐ分かるんだよ。表情筋の動きを見ていればすぐに見抜ける」

「な、い」

「へっ、いいよ。後で俺様には逆らえないことが分かるからな」

 勝ち誇ったような表情でこちらを見る。といっても背の高さはわたしの膝までもないので様になっていない。

「いつまでも減らず口叩いてなさい」

 兄にはあのフラッシュバックのことはまだ打ち明けていない。もしかしたらそれこそが足りないネジかもしれないのに、何かが壊れそうな気がして行動に移せないでいた。

 ふと時計を見て慌てる。もうこんな時間か。そろそろ兄が帰ってくる。今日はわたしが料理当番なので支度をしないといけない。

 

 兄が泣いていた。

「深雪、何だこれは。砂漠で一週間水だけで生き延びて、その後初めて食べた物のように食への、生への感動を俺は今猛烈に感じている」

「ただのレトルトの親子丼なんだけど」

「……作る人によってこうも味が違うとは」

「いやいや変わんないでしょ」

 わたしが料理を作るときはいつもこのような具合である。兄にとってわたしの料理は味がどうのこうのという話しでなく、「深雪が作ってくれた料理」というエッセンスが加えられ、どんなにお粗末なものでも涙を流すほど感じ入るのである。正直、毎回これだと単純にうるさいだけで迷惑だ。

 安藤さんはまだ帰ってきていない。出かけても夕飯頃にはいつも帰ってくるのにどうしたのだろう。

 兄はまだ一口食べるたびに、雪原に咲いた一輪の花のようだとか、樹齢千年の大木の葉から舞い降りた一雫だとか、料理の感想を述べるには不適当な言葉を用いて、何やら噛みしめるようにつぶやいている。

 ジャックは近くの棚の上にいる。食事をしようと席についたときにはそこにいたのだ。

「深雪の兄ちゃんやばいな。頭大丈夫か」

 わたしは隙を見て、静かにしろという意思をジェスチェーで示す。

 がたん、と玄関のほうから音がした。兄もわたしも一瞬お互いの顔を見て、すぐに席を立つ。安藤さんだった。傘立てが倒れている。玄関に座り込んだまま起き上がろうとしない。

「飲み過ぎてしまった」

 確かに酒の匂いが鼻をつく。

「何やってんだよ。情けない」

 兄がすぐに安藤さんの片手を自身の背中に回し、体勢を起こす。

「うるせえ。お前は全然酒飲めねえじゃねえか」

「はいはい、すみませんね。ほら、階段上がるよ足上げて」

 本当に今日はどうしたのだろう。こんな姿を見るのは初めてだ。

「深雪、上に水持ってきて」

「うん」

 コップに水を注ぎ二階へ上がると、安藤さんはすでに大きないびきをかいて寝ていた。

「全く。何やってんだか」

「まあ、たまにはこういうこともあるでしょ」

 リビングに戻り、食事を再開する。自然と安藤さんの話題になる。三人で暮らし始めたのはまだ兄が小学生でわたしは幼稚園生のときだ。 

 安藤さんなりにわたしたちと打ち解けようと必死だったのだろうが、何をしたい、何を食べたい、とことあるごとに疑問を投げかけられ困ったものだ。

「最後には、楽しいか、おもしろかったかとか言ってきてさ。聞くものじゃないだろうって、頭の中でつっこんでたよ」

「そうそう。必死感がすごかったよね」

 ただ安藤さんはいつも側にいてくれる。特に会話がなく、同じ空間にいてもなぜか苦にならない。根拠はないが、テレビを見ていても、新聞を読んでいても、爪を切っていても、恐らくわたしが助けを求めたらすぐそれに応じてくれると確信している。

「安藤さんってさ、どことなく熊に似てない?」

 兄に言われ、じわじわとニヤけてくる。

「あー、確かにそうかも」

 そうか、あの安心感と頼もしを感じるのは無意識に熊を連想していて、そこから考えが喚起されているのかもしれない。

 ふと思いつき、兄に言ってみる。

「そういえばこの前変な夢見てさ」

「うん。どんな?」

 真剣な表情にならぬよう注意しながら、あくまでも笑い話なのだと、笑みを浮かべる。

「安藤さんが血だらけの包丁を持ちながら、立ってるの」兄は表情を硬直させたまま動かない。なぜだ。何だそりゃと笑ってくれ。「訳分かんないよね。しかも安藤さんがいる場所は前に住んでいた家なの」

 一瞬の間のあと兄がふきだした。口を手で押さえ肩を震わせている。やがてそれをやめ、大声で笑い始めた。テーブルを叩いてもいる。ひとしきり時間がたち満足したのか目元をふきながら席を立った。

「あー、笑った。深雪ちょっと心が病んでいるんじゃないか? 休養も大事だぞ」

 席を立ち、食器を台所へ運び、洗い始める。我が家では食器は自分の物は自分で洗うしきたりになっている。

 わたしの頭の中は混乱と、自身の予想が当たったことでどんな事実が存在するのかを思考する冷静な気持ちがないまぜとなって吐き気すら感じていた。

 楽しみにしていた森野屋のプリンを勝手に食べたとき、わたしを心配させまいと目が真っ赤に腫らしているのに、安藤さんとけんかしてないと言い張ったとき。

 何年付き合ってきたと思っている。嘘をついているかどうかぐらい、毎回同じ態度だから分かる。もっとうまくやりやがれ、へたくそ。


ポスト

「えらい夜中から出発すんだな。あーあ、リカちゃんと会おうとしてたのに」

「あんた本当に典型的なチャラ男ね」

 ワックスで無造作に立たせた純の金髪頭を軽く小突く。似合っているのが余計に腹が立つ要因だ。

「おい、訳わかんねえ色に髪染めて、指に刺さるようなツンツン頭のガングロとは一緒にすんな」

 仕事現場へ向かう車中である。急な依頼ということで、準備もそこそこに自宅を飛び出した。安藤さんとわたし、純も途中で拾って、いつもの三人編成である。ジャックは置いてきた。逆らえないとか何とか言っていたが関係ない。突然わたしが肌身離せずぬいぐるみと行動を共にし始めたら、明らかに頭が狂ったと判断される。

 安藤さんからは、いつものことだが、人助けだ、としか訊いていない。昨日のこともあり、何となく訊きづらい状況ではある。

「安藤さーん、今日は何しに行くの」

 渡りに船、馬鹿と何とかは使いよう、である。軽薄でべらべらと無駄なことばかり喋る純を安藤さんは意外にも嫌っていない。気に入っているとまではいかないが、良好な関係を築いていると言える。

「人助けだ。さっき言っただろ」

「ちぇっ、教えてくれたっていいじゃん」

 静寂が落ちる。他人がこの場にいると居心地悪いだろうが、わたし達にとってはいつものことである。きっと今安藤さんは、どうしよう内容言っちゃおうかな、とでも考えているだろう。信号が赤になり止まる。

「赤ちゃんポストって知ってるか」

 わたしは内心でほくそ笑む。

「うーん、知らないっす」

「深雪は」

「……前にニュースでちょっと。施設にただ置き去りにするなら、赤ちゃんの安全を確保できる場所に預けてほしいってことで、設置されたものでしょ」

「そうだ。だいたい合ってる。今回の依頼内容はそのポストに赤ちゃんが置き去りにされないように阻止する、という仕事だ」

「え」

 わたしと純の声が重なる。純を軽く睨んでわたしは反論する。

「それ、大丈夫なの?」

「大丈夫だ。問題ない」

「安藤さんいつもそれじゃん」

「おいおい、それが便利屋かをるのリーダーへの口の聞き方かよ」

「純、黙ってくれ。うるさい。それに俺はリーダーでも何でもない。安藤さんだ。それ以上でも以下でもない。とにかく大丈夫だ」

「せっかくフォローしたのに」

 純の涙混じりの声が車内にむなしく響く。

 依頼を引き受けるかどうかは安藤さんの独断で決める。まあわたし達からは口を出す筋合いは無いと思うのだが、先日の佐藤さんの件もある。どうしようもない場合は警察を呼ぶということも選択肢の一つとして考えておかなくてはなるまい。

「もうすぐ到着する」

 現場でおろす荷物を準備しようと仕事のときにいつも使っているボストンバッグにを手を伸ばすとジャックの顔が少し覗いていた。

「ひゃっ」

「どうした?」

 悲鳴に驚いて純が後部座席を振り向く。

「な、何でもない」

 ジャックは鞄からゆっくりと這い出し、「だから俺様とは離れられないと言っただろ」と得意満面の表情でのたまった。

 

「あらあら遅かったのね。もしかしたら来ないのかと思ってドキドキしていたわ。でもそんな訳ないわね。あなた方の評判は聞いているのよ。迅速に、そして的確に依頼したことを実行してくれるってね。夫はそれができなかった。そう、邦明は仕事ができなかった。そんな私達に訪れる結果なんて分かりきってるわよね。離婚裁判は泥沼――」

「八橋(やつはし)さん、その話も非常に興味があるのですが、本題に入りましょう」

「あら。ごめんなさい。いっつも気づいたらこの話しになっているのよ。もう五年も昔の話しになるのにね。もしかしたら邦明への想いがまだ断ち切れていないというシグナルを身体が教えてるんじゃ――、あ。安藤さん、ごめんなさいね。そんな真っすぐな、冷たい視線はやめて。もう本当に私ったら。はいお待たせしました。本来皆さんに集まってもらった趣旨をご説明しましょう。じゃあ、あなた赤ちゃんポストというものはご存知かしら。そもそも〝赤ちゃんポスト〟っていう安易な名前でも呼びたくないんだけど」

 純が指名される。

「あの、さっき車の中で赤ちゃんポストのこととか、今回の依頼内容は聞いたんで大丈夫です」

「……まあまあ。だめよ。だめ! あなた。まだ若いんだし、イケメンだし。大人の言うことにはちゃんと従ったほうがいいわよ」

「いや、別にいいっす」

 まあああ、とまた八橋さんがマシンガントークを炸裂しそうになるところを安藤さんがなだめる。

「すみません。こいつ綺麗な人の前ではぶっきらぼうな態度になるんですよ」

 安藤さんが目で、俺の言うことに合わせろ、と指示を送る。

「あのおばさん息継ぎいつやってるんだろうな」

 ジャックの声がする。鞄を叩き、黙らせた。

 安藤さんの説得が何とか成功し、わたし達は赤ちゃんポストの監視を静かに始めた。すでに車では入ることのできない時間になっていたが、病院を囲んでいるフェンスの人一人が通れるほどの穴があいており、そこから敷地内に入った。八橋さんが自慢げに、一週間もかかったのよ、と言ったのは気にしないことにした。

「赤ちゃんポストの設置が日本で始まって五年目になる。今まで合計で七○人以上が置き去りにされたわ。こんなに多くの赤ん坊が捨てられてるのにみんな黙っているなんておかしいと思わない? 病院は子供が預けられると国から支給してもらえる措置費をもらうためにこんなことやってるのよ」

 八橋さんが力説をするのだが、なぜだか頭に入ってこない。

 それとなく外見を観察する。歳の頃は四十歳近いだろうか。ピンク色のポロシャツに動きやすそうなパンツ、という服装だった。

 おあつらえ向きの茂みがあり、そこで四人身を潜めて待つ。病院の裏口だった。薄ぼんやりとした明かりが辺りをほのかに照らしていた。

 小さな扉にはかろうじて〝天使のゆりかご〟と確認できる。レバーハンドルが付いており、恐らくそこを開くと赤ちゃんを預けることのできる空間があるのだろう。

 いつ来るのかはもちろん分からない。今日来ない可能性もある。

 前回は安藤さんが初めて依頼人に牙を剥いて驚いたが、普段は純が依頼人に態度や、言動におかしな点を感じ取ると、すぐ反抗する。

 八橋さんのキャラにうんざりしたのか、先ほどから浮かない表情だ。

「テンション上がらなくても、そのときがきたらちゃんと働いてよね」

「うるせえ」

 それきり黙ってしまう。やはりおかしい。

「二人とも静かにしろ。……純、大丈夫か」

 安藤さんも気になったのか暗がりでしっかりと純の顔を見つめ、問いかける。

「だから大丈夫だって言ってるじゃないですか」

 それきり誰も言葉を発することなく、時間が過ぎていく。たまに八橋さんが、大丈夫、大丈夫、と自身に言い聞かせるようにつぶやく程度だ。

 ずっと同じ姿勢をしているため衣服が肌に貼りついて気持ち悪かった。顔の汗が、何度拭っても噴き出してくる。

「なあ、何で自分の子供を捨てるんだ? 俺の国ではそんなことする奴一人もいねえぞ。大切な働き手だからな」

「いろんな事情があるの。そもそもあんたはネズミでしょ」

「ネズミも人間も変わらねえよ。ソモソモどうせ捨てるなら子供作らなきゃいいデショ」

 わたしの真似をしてるのか、ところどころ裏声で返事をする。

 どう応えていいのか喉で言葉が詰まる。うまく説明できそうになかった。それにジャックのあまりにもストレートな言葉は一つの真実であり、胸にストンと落ちた。

「深雪、何をぶつぶつ――」

「来た来た来たっ」

 安藤さんがわたしに注意しようとしたところで、八橋さんが鋭く叫んだ。

 鞄から小型の双眼鏡を取り出す。赤いプリントTシャツにグレーのスウェットパンツというウォーキングにでも行きそうな服装である。胸にはまだまだ母乳を必要としていそうなあどけない顔が覗いている。周囲を気にする様子もなく、赤ちゃんポストのほうへと進み、ドアノブに手をかけたところで、八橋さんが飛び出した。

「あなた、待ちなさい」

 八橋さんがダッシュで飛び出した。わたし達も後を続く。女性は一瞬身体をびくっと震わせ、呆気にとられた表情でこちらを見ている。 

 まあ、当然だろう。

「あな……、あなたねえ考え直しなさい。絶対にだめ。お腹を痛めて産んだお子さんでしょ? 今日本は少子化です。合計特殊出産率は一・三九です。過去に先進国で一・五を下回った国はそこから盛り返した前例は極めて少ないの。あなたはとてもいいことをしたのよ? ほら、だから赤ちゃんがぐっすり寝ている間に家に帰りなさい」

 近付いて薄明かりに照らされたその母親はまだ若かった。歳はわたしとそう変わらないだろうが、目のくまが異様に目立っていて、それが彼女を老けさせている原因となっていた。

「あの、突然すみません。わたし達は怪しい者ではありません」

 こちらも気が動転しており、相手を怪しませるにはこれ以上ない言葉を口走ってしまった。すると女性はみるみる顔をゆがめ泣き出してしまった。

「あ、あの、ごめんなさい」

「泣くとこちらが許すと思って? 考えが甘いわ。昔の偉い誰かが言ってたわ。〝女にも武器あり、いわく涙これなり〟ってね。まあでもここに来た考えをあらためるというなら、これ以上私達はあなたに言うことはないわ」

 そう言ってなぜかわたしを、いいことを言ったでしょ、と言わんばかりに誇らしげな表情で見てくる。

 八橋さんは単に主観で塗り固められた正義を振りかざして、社会の役に立っているという自己満足を得たいだけなのではないかと疑いながら、安藤さんと純にどうする? とアイコンタクトを送っても、二人が動く様子はない。

 安藤さんは事の成り行きを見守っている。純は女性に目を向けてはいるが、どこか遠くを見ているようだった。

 ついに赤ん坊も泣き出してしまった。初めは控えめに、やがて涙腺の堤防は決壊し、大声で泣き始めた。泣き声はこちらの不安な気持ちをどんどん増幅させていく。

「ああ、起きちゃったのね。ごめんね。ほら、お母さん泣いちゃっておかしいよねえ。ほらこっちにおいで」

 母親は我が子を抱きかかえ、八橋さんに背を向ける。

「ふん、そんなことするなら、ここに来なけりゃいいのに」

「八橋さん」

 思わず声を上げるが、聞こえていないはずないのに無視される。

「いいじゃないですか」母親は素っ気なく、しかしわたし達に思いきり投げつけるように強い声で、言った。「カズヤはどこか行っちゃうし、それでもこの子を育てようと思って産んだけど、毎日嫌がらせみたいに泣くし、親にも言えないし、どうすればいいか分からないの。このまま生活を送ってもこの子のためにならない」

「わたしの兄はあなたみたいに困ってらっしゃる方のお話を聞いたりしています。兄を紹介させてください」

 母親は力なく微笑む。

「ありがとう。でもね、もうこの子の顔も見たくないの。また家に戻ってあの生活に戻るのは絶対に嫌。育児を放棄してこの子が死んじゃったりしたら、あなた責任取れる?」

「あなたねえ――」

 八橋さんの髪の毛が逆立った、ように見えた。

「選択するのはあんただ。そこの扉を開けるか、それともその子と一緒に家に帰るか。ただな、これだけは言える。どんなにつらいことがあっても子供の笑顔さえあれば一瞬で吹き飛ぶ。そんなもんだ」

 母親に覆いかぶさらんばかりに前に出ようとする八橋さんを手で制し、安藤さんが口を開いた。

「……そんなの知ってる。でも今は笑顔を見ても何とも思わない」

「そうか。ならしょうがない」

 安藤さんは淡々と返事をした。話しは終わりだと合図するかのように腕組みしてからは口を開くことはなかった。

 八橋さんが赤ちゃんポストの前に立ち、両手を広げて通せんぼをする。

「だめ。考え直しなさい。何なら私が色々と相談に乗るわ。いいの? あなたこれ以上後悔できないってくらい後悔するわよ。喪失感で食事も喉を通らなくなって、体重が減って、体調壊して――」

 突然純が動いたかと思うと母親の腕をとった。

「置き去りにしないでください」

「ちょっと手を放してよ」

「この子がどんなに苦しむと思うんですか。何で捨てられたんだろう、自分のどこが嫌いになったんだろうとか、答えの出ない自問自答繰り返して毎日を過ごすんですよ」

「放してって」

「つらいのはあなただけじゃないんです」

 純がこんなに必死になっている姿を初めだ。わたしは大好きな俳優がコンビニで買い物をしているところに出くわしたようなバツの悪さを感じていた。

 彼にこんな姿は似合わない。わたしは一人間としては最低の評価を下しているが、容姿についてはいわゆるイケメンの部類に入ることを渋々認める。

 別々の方向へ緩やかにねじれている柔らかそうな髪を指でもてあそび、三白眼に対する抵抗は鼻筋の通った端正な顔をくしゃくしゃにする笑顔ですぐに吹き飛んだ。突発した状況に動揺したのかそんなことをふと考えてしまい、頭を軽く振り正気に戻す。

「ちょっと純」

「何で、何でそんなことできるんだ」

 激昂した純が母親につかみかかったところでとっさに近くにいた八橋さんが間に入る。しかしすぐに弾かれるように後ずさりをしてよろよろと地面に倒れた。その拍子に黒い紐を通された板が首もとから出てきた。アクセサリーにしては無骨な代物だったが、気にしている場合でもない。純に目を戻すと安藤さんが後ろからはがいじめにしていた。うなだれてじっとしている。自分が何をしていたか理解したようだった。

 すみません、という純の胸から何とか絞りだしたようなかすかな声はわたし達のただ中にぽとりと落ちた。

 

「――でさ、そのとき安藤さん、わたしはアイスって言ったのになぜかホットドッグを買ってきたよね」

「俺には確かにホットドッグって聞こえたんだよ。あのパンにソーセージが挟まれててケチャップがかけられているイメージも完璧に浮かんでいた」

「何でそうなるかなあ」

「でもおいしそうに食ってたじゃないか。結果オーライだ」

「あれは安藤さんが間違えたって落ち込んでたから、演技をしてただけだよ」

「おい」

「嘘よ、嘘。ほら、ちゃんと前向いて」

 乾いた笑い声を上げる。ずっと昔の、遊園地へ行ったときの話だ。仕事が終わった後の車内でこんなに話すことはない。安藤さんも付き合ってくれている。

 純の言葉が届いたのか、結局あの母親は子供を連れて帰ることにした。再びあの場所に戻ってくる可能性もあるが、別れ際に言った、もう一度この子と生きてみる、という言葉を信じるしかない。

 わたしはといえば、逃げたかった。可能なら普段は軽薄でへらへら笑っている純の今まで見たことないような表情や、我を忘れた焦った行動などなかったことにしたかった。理由は分からない。ただ先ほどの言動について深く知ると今までの純との関係が壊れてしまうような、漠然とした不安だけは感じていた。

「安藤さん、何で八橋さんは今回の依頼をしてきたのかな」

 低くて起伏のない口調からは少しの感情も読み取れない。フロントミラー越しにちらと見ると、純は手を組んでうつむいてた。

 車を停め、信号が青に変わるまでたっぷりと間を置いて安藤さんは応えた。

「八橋さんは赤ん坊が欲しかったんだろうな」

「そう言われてみたらそうかもしれないけど、実際はどうかは分からないよ」

 答えになっていないがとりあえず、反応する。

「首に木の板を下げてたろ。あれは安産祈願だ」

「……そうなんだ」

 変人としてしか見れなかった八橋さんの印象が塗り替えられるが、どうしても共感はできなかった。あの行動はやはり屈折している。ただ離婚した今も安産祈願を首に下げ、生活している姿を想像すると心がどんどん空っぽになっていくようにむなしい気持ちになった。

「俺たちが抵抗を感じるのとは比べ物にならないくらい、〝赤ちゃんポスト〟を理解できなかったんだろうな」

 対向車線を走る車のライトに安藤さんの顔が照らされる。淡々とした表情だが、心なしか少し色を失ったように見えた。

「なーんか、色々考えすぎてお腹空いちゃった」

 ふん、と鼻で笑う声がして、わたしはフロントミラーを睨んだ。

「何よ」

「もういいよ深雪」

「だから何がよ」

「気遣わなくていいって。俺がさっきあんなことしたから驚いてるんだろ。もう言うよ。別に隠してたわけじゃないけど。俺、捨て子なんだ。施設で育った。色々思い出してさ、抑えきれなくなった」

 思わず息を呑んだ。呑んでしまっていた。そうなんだ、とかそんな冗談を色んな女に言っているでしょ、とも言えないわたしはひたすらフロントミラーを見つめ返すことしかできなかった。

「冗談じゃねえからな」

「そんなこと冗談でも言っちゃいけないわよ」

 ちらりと安藤さんを見るが、慌てた様子はない。だんまりを決め込むようだ。

「女がただ好きな奴じゃなかったのね。純にそんな過去があろうとは」

「いいか? おもしろいだけじゃモテないんだよ。軽妙なトークの中にはっとするような少し学のあるような話をすれば女なんてすぐに落ちる」

 決して認めたくはないのだが、実際純はモテるようだ。以前に便利屋の仕事で買出しにいったときに電車で女子高生から妙齢の女性まで、視線が純を捉えていることに気づいたのは一度や二度ではない。

「はいはい。もうあんたの恋愛講座には飽きたよ」

「聞いていたほうがいいぞ。さっきの話は女性にも言えることなんだ。どんどん実践していけば、なかなか日の目を見ないお前も――」

「殴るよ」

「怖っ」

 純の長所は軽いノリで付き合うことができることだ。純自身もわたしが表面的な関係だけを求めていることを気づいているのだろう。彼と真面目な話をした記憶がない。

「純、ついたぞ」

 安藤さんがわたし達の罵り合いには全く意に介さない様子で告げる。確かに恒例行事みたいなものだが。

「そんじゃ、お疲れ様でーす」

 車を降り、何となく遠ざかっていく背中を見ていると、ジャックが声をかけてきた。

「おい、あいつ忘れ物してるぞ」

「え」

 きっと女に貢いでもらったのだろう、中央に大きなロゴが入った手提げ鞄があった。

「安藤さん、純がバッグを忘れてるから届けてくる」

「分かった」

 バッグを手に取り、車を出て、純の背中に声をかける。

「悪い」

「こんな分かりやすいもの忘れんなよ」

「そんなかりかりすんなって」

「それじゃ、また」

「あ、深雪」

 なぜか恥ずかしそうで、少し怯えてもいるようにも見えた。

「さっきの話なんだけどさ、実は俺を産んだ人に会いたいって言われてるんだけど、会ったほうがいいかな」

「産んだ人」という言葉が印象的に頭の中で再生した。

「急にそんなこと言われても、分かんないよ」

「……だよな。けどさ、俺がまだランドセルに身体がくっついているような小さな頃に俺と親父置いて勝手にどこかに行きやがって、今更会いたいとかないよな」

 純はいつものくしゃっとした笑顔を見せた。やっぱり、かっこいい。

 今まではマユミちゃんの胸がでかかっただの、ミカちゃんのあえぎ声がとてもよかっただの、そんな話しかしなかったのに、何でいきなり母親に会うべきかどうかの話をしているのだろう。

「変な話してすまん。またな。あ、てか今度合コンやるんだけど来る?」

「そんな破廉恥な会合にはいかない」

「破廉恥って。――おい」

 純の言葉を無視して安藤さんのもとへ足を向ける。

「なあ深雪、あいつ車出る前バッグを見てから出てたぞ、何で忘れたなんて言うんだ」

 ジャックの入ったトートバッグを思いきり叩く。

 相変わらずポンポンと跳ねるような軽い声に手を振り応える。わたしは先ほどせっかく勇気を出して振り絞った相談を拒絶したことに罪悪感を覚えていた。

 

 ふと目が覚めた。デジタル時計が午前二時を示し明滅している。帰宅し、シャワーを浴び、ベッドに腰かけて携帯をいじっていたところまでは覚えているのだが、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。

 階下から低く、投げつけるような口調のやり取りが聞こえてくる。

 どうしたのものか。軽くため息をつき、部屋の隅のほうを見る。驚くべきことにジャックは毎日きちんと睡眠をとる。いびきもかく。床が固いということで座布団をマットレス代わりに、何だか落ち着かないということでバスタオルを布団代わりに使っている姿を見て、あらためて一体こいつは何者なのだろう、と独りごちる。

 この前唐突に脳に像を結んだ、安藤さんが包丁を持った光景がよみがえる。好奇心のほうが勝った。音を立てぬようドアに近づき、そっと開ける。さすがに階段を降りてしまうとバレるので、ぎりぎりのところまで這って階下を伺う。あまり聞き取れないが、いつものように兄が安藤さんへ一方的に牙を向けているようだ。

「――になったら、深雪に話すって――か」

「分かってる」

「安藤さんには――感――てるよ。でも、言おう。――だ」

「……。この前水族館に行ったとき――って言われたよ」

 そこで兄が沈黙した。どのような状況になっているか全く分からない。

「安藤さん、深雪に――説明しよう。もう隠せない」

 安藤さんが短く吐き捨てるように何かを言った。何となくだが嘲りや皮肉めいた響きがあった。再び兄がしばらく黙り、懇願するような声音で言う。

「だからその話は――って。事故――安藤さんのせいじゃ――」

 事故。

 どうやら会話はそこで終わったようだ。終始断片的にしか聞こえず、すっきりしない。

 カチャカチャと何かが触れ合う音がする。食器の片付けを始めたのだろう。わたしは渋面を下げながら部屋へと戻った。二人はわたしに何を隠しているのだろう。もちろんあの事件に関係していることなのだろうが、できれば考えたくないし、これ以上何かを知りたいとも思わない。

 深く深く奥に押し込んで、忘れようと、必死で目をそらそうとしていたのに、扉がまた開こうとしている。見えない手に心臓を撫で回されているような気がして、自分で自分を抱くように身体を縮める。

 盛大ないびきをかいているジャックが、んが、とうめいた。


撫でる

 兄と安藤さんの口論が引き金となったのか、夢を見た。

 父がいる。なぜ母が一緒にいないのか、散歩なのか、目的地へ歩いているのか判然としない。ただ、日常にできた隙間を埋めるように、たまにそんな時間があった。

 歩いているうちに自然と顔がほころぶ。赤い屋根の家の壊れた三輪車、将棋盤の置かれた木製の長い腰かけ、こんにゃくを自宅で製造している家の、それを固めるために使っていた凝固剤の独特な匂いと、いつも濡れた石の床。記憶が音もなく押し寄せてくる。

 その柴犬はいつもふてくされているようだった。一般的なイメージでいえば忠犬で、どことなく笑顔で、そこはかとない安心感を感じさせるものだが、わたしはこの犬のおかげでいまだにそれになじめない。

 学校をサボる不良学生よろしく、投げだした両足に頭を乗せている光景がお決まりだった。そのため名前はサボと勝手に名付けていた。

 普段は通り過ぎていたのにその日は何を思ったのか父はおもむろに立ち止まり、ゆっくりと腰をかがめ、サボの頭をそっと撫でた。

 サボは一瞬ちらりと父を見つめるも、すぐに興味を失ったのか頭を撫でさせながら、目をつぶる。

「はは。なんだか犬らしくない犬だなあ。おい、尻尾とか振れよ」

 もちろんサボは無反応だ。わたしはといえば父とサボから十分な距離を置き、少し怯えながら静観していた。

「深雪もこっちにきな」

「……いやだ」

「怖くないよ。見てみろ、世の中のことなんてどうでもいいような顔をしてる。お前のことを襲ったりしないよ」

 襲ったり、の部分でびくっと身体が反応する。わたしはどうにも不安を拭うことができず、立ちすくむ。するとサボが目を開き、眼球だけをぎろりと動かし、こちらに視線を飛ばした。サボの声が聞こえたような気がした。「お前、俺が怖いのか」と。

 馬鹿にされたような、挑発されたような何か癪に触る気持ちになったので、わたしは恐る恐るではあるが、サボに向かって歩を進める。

 その間もサボはわたしをずっと見つめている。ここら辺だろうという場所で腰をかがめ、手を伸ばすもあと少し届かない。姿勢はそのままであらためて撫でようと手を出した瞬間にサボが突然頭を上げたかと思うと、口を大きく開けて手に噛みつこうとする。身の危険よりも、そんな素早い動きができるのか、やはり犬なんだな、という間抜けな感想が浮かんでいた。

 サボは見事獲物をしとめた。四本の足ですっくと立ち、顔を小刻みに左右に振り、グウウ、と唸ってもいる。しかしそれは父の手だった。

「いってえなあ。ったく、お前人の娘に手出してんじゃねえよ」言葉とは反対に父は笑っていた。もう片方の手でぽんぽんと手で頭を叩く。「深雪。こいつは怖いからこんなことしたんだ。お前にびびったってことだぞ。よーし大丈夫だ、大丈夫」

 血をだらだらと垂らしている父は決して大丈夫ではないのではないかと心配しながらも、噛み付くのをやめ、再び何もなかったかのように伏せの状態でまぶたを閉じる。

 父はしょうがない奴だな、という表情で軽く肩をすくめてみせる。今度は父が目だけで話しかけてきた。撫でてみるか? と。

 こんな凶暴な奴の頭なんか撫でたくないとすぐに思ったが、父が身体を張ってくれたチャンスを逃せないとも思った。何より父の表情は先ほどかまれたことを微塵も感じさせないほど穏やかで、いつの間にか心は決まっていた。

 わたしは泣きそうになりながら手を伸ばす。いつまでも届かないような錯覚を覚えたが、やがてちょっとだけチクチクするけど、温かく柔らかい感触が手から伝わってきた。

「気持ちいいだろ」

 わたしはこくんとうなずく。

 たいしたことをしているわけではないのに、なぜか興奮していて達成感がじんわりと胸に広がっていく。

 それからわたしと父はサボが大きなあくびをするまで頭を撫で続けた。 



読者登録

鬼風神GOさんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について