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納得できない - another side edition -

 名前のせいだかなんだか知んないけど、わたしがなに言っても嫌味とかみたく取られてばっかで、それが一番なんだけど、なのにさ、あんだけ5回も6回もやりやっといて、それこそ古臭い汗臭い青春映画みたくわかりあってるとか思ってたけど、全然。
 「無事是名馬」とか言うらしいんだけど、元気に何度も何度も思いっきり走れる娘に限って、いざとなると混んでてとか、水が合わないとか、砂っぽくって目が痛いとか、つまんない言い訳ばっかする。全力で走れること、ただそれだけが、わたしにとってどんだけ羨ましいことか知らないから、不機嫌そうに愚痴ってくる。
 ふざけんな! っての。つまんない負け方しないでよね。張り合ってたわたしまでつまんない女みたいじゃない。なるならきっちり世界一になりなさいよ。つまんない言い訳一気に突き抜けて、世界一になりなさいよ! お願いだから。


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ステイヤーズ・ブルース

 第3コーナの上り坂を外からまくっていく黒鹿毛に目を奪われた。第4コーナに差し掛かるあたりで先頭に立ち、勢いのままに最後の直線を向いた。

 昔の名前で出ています。的な“かつて”の名馬と、いつの間にか自分を重ね合わせていた。

 時代は、大きな地震としょーもない嘘つきテロリストどもが、良くも悪くも腐った秩序をぶっ壊したあたりで、まんまと余波に巻き込まれた俺は、ヤツみたいに昔の名前があるわけでもないのに、俺だって。俺だって! みたいな冴えない衝動を押さえようともせず、殺気だった人混みに、ゴール板目掛け突撃した。

 淀3200m外回りは最後の直線が長い。にもかかわらずヤツは自ら先に動いて、G1馬のプライドを見せつけていた。10万大観衆に、他の17頭に。俺に。

 どいつもこいつも、雁首揃えてクソ冴えない面で叫んでた。見えてないのに、俺も叫んでた。叫ばざるをえなかった。叫んでる間はたしかに人間だった。生きていた。

 目の前の人壁を押し退け殴られ外ラチにたどり着いたら、目の前を黒い塊が飛んで行った。“かつて”の名馬が、自分の意思で勝利を掴みに行ったところで、駄目なものは駄目なんだと、時代とか若さとか勢いとか、そういう流れみたいのには逆らえないんだと、そう思った。勝負の世界に“タラレバ”は無い。自分が見たものを信じるなら結果は明白だ。けれど、もしこのまま先頭で駆け抜けていたのなら……

 後付けで、言葉にするならそんなようなこと。引っくるめて、言葉にして、叫んでたのは

「ライスシャワー!」


 そのあとの話は、改めて語り直す必要は無いだろう。ゴール板前で16cm残っていたことも、ファン投票で1位になったからと無理を押して出走した一月後の淀で、ヤツが大好きだった淀で、第4コーナの露に消えたことも、的場の最敬礼も、俺が語るには有名すぎる。「偉大な物語」を語る資格、俺には無い。けど、俺はたったの1レースから、ヤツの走りから、生き方めいたモノを学んで、なんとか今日まで生き延びている。ヤツがドラマチックに死んだこととは無関係にだ。大事なのは、あの時淀で叫んだ名前であり、叫んだ事実だから。

 あの年からずっと、初夏には淀のスタンドで3200mを観戦することにしている。おかげで話したい想い出はたくさんできたけど、ひとつだけなら、いつもいつでも俺はこの話をする。ヤツの語り部として。


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奥付

 

一馬身二分の一


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著者&写真 : 空虹桜

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