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ハートレス・バースデイ

 ハートレス・バースデイ  文:安房理弘


 彼女からの無線がはいった。頃合いらしい。クーラーのきいた車内から、私は通信を返す。
「始めろ」
 新興宗教団体『さわやか』本部の入り口である自動ドアが開いた。今日の標的が姿を表したのだ。小和泉ロバートと自称する中年の男。『さわやか』の教祖である。腹が出ており、頭髪が後退している。
「おまかせください、マスター」
 感情を殺した冷徹な声が返事をする。
 彼女はカリン。私が担当する仕童(ツール)だ。
 カリンは今『さわやか』本部の入り口横にある広大な庭園にある巨木の影に身を潜めている。入り口を見張る二人の警備員が信者であることは調査済みであり、彼らに偽造した会員証を見せて信者の一人であるといえばカリンが侵入することは容易かった。カリンには気配を消して、数十分前から教祖が現れるまで忍耐強く待機してもらっている。
 私は本部の入り口正面、数十メートル離れた地点で車内から様子をうかがっている。カリンが作戦を成功させて戻ってくれば、すばやくこの車で退散する。
 教祖が入り口へと近づいてくる。『領域』にはいったことを見極めたのか、無線からカリンの声がする。
「【精神旅行(メンタルダイブ)】」
 カリンの匿技(ギミック)【精神旅行】が発動する。これは、匿技保有者であるカリンの領域範囲内(およそ二〇メートル)にいる対象の意識を乗っ取ることができるというものだ。カリンの声は途絶え、すうすうと寝息が聞こえる。どうやらうまく潜入できたらしい。
 教祖の目の雰囲気が変わった。教祖の意識に完全にカリンが入り込んだのだ。この状態を教祖【カリン】とする。教祖【カリン】は服の内側を探っている。前に一度ここへ二人で講演会を聞きに行ったとき、カリンは教祖の服の膨らみからして護身用のナイフを持っていることを確信したと話していた。教祖【カリン】の手が止まる。ブツを見つけたようだ。
 教祖【カリン】はすばやくそのナイフを両手で取り出して、自らの心臓へ向けて突き刺した。
 入り口にいる警備員は教祖【カリン】がナイフを胸元に向けた時点で異変に気づき、止めに入ろうとしていたが遅かった。教祖のもとへと駆け寄ったときにはもう、右胸に深々とナイフは刺さっていた。
 教祖が右胸から噴水のように血飛沫を上げ、膝から倒れこむ。警備員が抱え上げようとしている。
 じきに混乱を聞きつけて本部から人が出てくるだろう。すでに元の身体へと意識を戻していたカリンは、警備員が教祖に気を取られている間に混乱に乗じて脱走する。彼女が気配を殺して走ってくる。海外の秘密特殊部隊との訓練を受けた賜だ。警備員がスマートフォンを取り出して、電話をかけている。じきに救急車が来るだろう。
 だが、もう手遅れだ。
 カリンがやってくる。見慣れた服装をしている。私立小学校の指定制服を模倣して改世機関によって作られた、仕童のための制服だ。カリンは車の後部ドアを開けて、座席に座る。
「ご苦労だった」私は車を発進させる。

   +

 カリンが後部座席から身を乗り出している。私の肩に手を触れて、
「今日も良くできましたか?」
「上出来だ」
「わたしのことを誇りに思ってくれますか」
「思うよ。キミは優秀な部下だ」
「マスターの仕童として、誇らしいです」
 いつものように受け答えする。カリンは自らの成果を実感したのか誇らしそうだ。小さく目尻を下げている。しばし会話のない時間が続く。赤信号で停車する。車内にはクーラーの音だけがしていた。
ラジオや音楽をつけるのは好きではなかった。
 私は運転をしているときに会話をするのは得意ではない。だから、カリンとの沈黙を避けるためにいつもある質問をするようにしている。
「カリン」
「はい、マスター」
「仕童とはなんだ」
「わたしのような匿技を持っている者のことです」
「仕童の役目は」
「処官(マスター)のもとで、処官の命令に従って忠実に任務を全うすることです」
「任務の内容を具体的に」
「主に要人暗殺業。汚職政治家、暴力団組織、テロリスト集団の浄化活動を行います」
 信号が青に変わる。車を発進させる。
「我々の使命は」
「この世界に蔓延るそれらの黒き穢れを紅に染め、浄化することです」
「私たちの主は」
「改世機関(リビルドベース)です」
「そのとおりだ」
「でも――」
 カリンが言おうとすることは予想がついていた。
「わたしの本当の主は、マスターです」
 任務の帰り道にカリンを質問攻めにすると、必ず最後にこう答えるのだと、私はもう知っていた。私の問いも、カリンの答えも、一字一句変わらないやりとりなのだ。

   +

 改世機関の表の顔は孤児院だ。
 車から降りた私は改世機関を見上げる。お世辞にも大規模な施設とはいえない。建物全体の大きさは地方の市役所、それも県庁所在地にあるものよりも格段に劣るだろう。しかし外から見える姿などこれで構わないのだ。なにせ、真の姿は内なるところにあるのだから。
 いつのまにかカリンは私のとなりに並んでいた。
「いきましょう」
 私は歩く速さをカリンに合わせる。寄り添って歩いていると、カリンが小柄であることがよく分かる。私の肘のあたりに頭があるのだ。
 孤児院には小中学校の校庭のような広場があるので、孤児たちが駆け回っている。キャッチボールをしていたりリフティングをしていたり、ブランコを漕いでいる子がいたりと、実際の校庭の光景と大して変わらない光景が広がっていた。
 私はなるべく喧騒を避けたいと願う性質なのだが、子どもたちの前では極力笑顔を浮かべ、何か話しかけられれば気さくに対応する。私は孤児院の事務員をしているということに表向きだけはなっている。だから子どもたちに嫌われることはあまりよろしくない。私は浮かべたくもない笑みを浮かべておかなければならなかった。
 孤児院の玄関口にある自動ドアが開く。
 私は女性職員に挨拶をする。職員はみなここが本当はロクでもない裏の顔を持っていることを知っている。ここの職員は同意の上で孤児たちの世話をしているグループと、処官として仕童を連れて任務を実行するグループとに分かれている。二つを併行する者はいない。
 女性職員に職員カードを見せる。職員はうなずく。私とカリンは本拠地である地下へ向かう。病院のように無機質な白のタイル貼りの廊下を歩いていく。まずは地下へと続いているエレベーターのある部屋へ行かねばならない。部屋の入口には関係者以外が入らないようにするため、指紋認証システムでロックがかかっている(以前、まだ指紋認証システムが導入されるまえ、誤って孤児たちが入ってしまった際に殺処分された事例がある)。私は指紋認証システムへ人差し指を触れさせる。認証成功のアイコンが出て、機械音声が次にすることを指示してくる。私はスーツの内ポケットにしまった鍵を取り出した。
 指紋認証システムの下部に鍵穴がある。挿し入れて回すと、音がした。ようやく入れる。
「マスターが指紋認証をされている間、いつもわたしは落ちつきません」
「失敗することなんてないさ」
「それでも、機械の気持ちはわたしにはわからないですから」
 いつか聞いたことだが、カリンは【精神旅行】をして相手を殺すとき、自分を刺すことによる痛みとは別の痛みを感じるのだという。
『なぜでしょう。殺したひとの心が泣いていて、わたしまで痛いからですか』それについて話をしてくれたとき、カリンが口にした疑問だ。私はそれにはっきりとした答えを返さなかった。――いや、返せなかったのか。
 もはや人を殺めすぎて、罪の意識が麻痺しているのかもしれない。心が痛むこともなくなるほどに。

 改世機関の地下には処官のための個室、仕童のための個室、処官や仕童同士の交流のために用意されたリビングルームなどがあり、それに加えて娯楽室というものがある。カリンは先に自分の個室へ戻っている。私は一人だった。このあとは彼女の部屋で、カリンの年齢で学ぶはずの学習を教えることになっている。処官の義務だ。
 私たちはそれを済ませると、いつものように何かをする。
 その何かは私の気まぐれか、あるいはカリンが興味をもっていることであり、場合によって異なる。娯楽室には某レンタルショップのように配置された映像作品や文学作品、漫画などが置かれている。もちろん、図書室のように知識を養うための本も揃えてある。私は何となく映像作品を見たい気分だったので、気になるタイトルを手にとった。古い海外映画だった。
 カリンの個室にはロッキングチェアが二つ用意されている。処官と仕童の間に良好な信頼関係を築くためには、一対一の対話、趣味嗜好の共有が欠かせないという判断によって、改世機関が設えていたらしい。私とカリンはロッキングチェアに座って、壁際に設置された液晶テレビを見ていた。
 主人公は過酷な受験戦争を乗り越えて優秀な高等学校に入ったが、人間関係が上手くいかず、努力も虚しく成績は悪化の一途を辿る。すべてが嫌になった主人公が川に身を投げて溺死体として見つかって終幕する。
「カリンはあの結末をどう思った」
 エンディングロールを呆然と眺めながら、私は問うた。私はかつての自分を思い出してしまい、気分が悪くなってしまった。
「わたしは」
 カリンは一旦息をついた。
「わたしは、ひとが拳銃を握るのは、誰かを殺すためではなくて、大切な何かを守るためだと思うのです」
「だとすれば、彼はいったい何を守ったんだ?」
 単調なエンディングロールからカリンへと視線を移すと、カリンは泣いていた。
「彼自身です」

 それからカリンはなかなか泣き止んでくれなかった。機嫌を損ねてしまったかもしれない。だから私はある書物を手に、もう一度カリンの個室へ向かっている。処官は仕童との良好な関係を築かねばならない。それは改世機関から命じられた任務を達成するために不可欠であり、改世機関がはじめに処官に課す二つの任務のうちの一つでもあるからだ。
 そして、処官が課される二つ目の任務は――
「今日はどのようなことを教えてくださるのですか」
 個室へ近づく足音が私のものだと勘づいたのだろうか、個室のドアを開けて出てきた。「これだ」カリンの質問に書物を見せて答える。
 写真が使われている表紙を見て、カリンは真夏の海に燦々と輝く太陽のように目を光らせる。
「宝石、ですか」
「好きだと思ってな」
「お見通しでしたか」
 まるわかりだ。
 宝石の書物には種類豊かな宝石の写真とその名前や解説が記されている。

 カリンの個室には木製のテーブルが置かれている。
 そのテーブルは雑誌や資料を四つほど広げられる横幅をもっている。
 私とカリンはテーブルに向かっており、ロッキングチェアに座っている。テーブル上に宝石の書物を広げて、カリンに内容を読み聞かせていた。カリンは静かに耳を澄ましている。話している間、カリンのほうへ視線を向けると、カリンは書物から私へと視線を移して、上機嫌に口角を上げるのだった。
「他には、アクアマリンは幸福、永遠の若さと魅力、夢の実現、健康、歓喜、富などを象徴する」
「マスターは物知りです」
 時計を見る。
 いつもカリンが眠りにつく時間には少し早い。
 匿技を使ったことで疲労が激しいのだろう。カリンがあくびをしている。
「もう寝よう」
「はい、マスター。……ひとつ、いいですか」
「なんだ」
「今日もわたしは、マスターに尽くせていましたか」
「勿論だ」
「誇りに思いますか」
「カリン、キミは立派な、誇るべき仕童だ。保証する」
「ありがとうございます。誇らしいです。……もうひとつ、いいですか」
「好きにしろ」
 カリンが前置きをする時、それは頼み事をする時だ。私は基本的に拒まない。処官は仕童との良好な関係を築かねばならないからだ。
「明日はわたしの誕生日です。覚えておいででしたか」
「勿論だ」
「良かったです。それで、明日は街に出かけませんか」
「構わない。目的は定まっているのか?」
「はい。実物の宝石をこの目で見たいのです」
 言いながら、カリンはうとうとしている。時折意識せずにゆったりと顔がうつむいていき、逆に悪夢から目覚めるみたいに顔を上げるのだった。
「……くぅ、すぅ……」
 やがてカリンはうつむいたまま眠りから覚めなくなった。
「……」
 私は椅子を動かすと、彼女の太ももと首を支えて抱え上げて、ベッドへと運んだ。
「楽しみです……」
 実はカリンがまだ起きていたのかと思ったが、様子を見るにただの寝言だった。
「楽しみ、か」

 カリンの個室を出た私は、改世機関の中央会議室を訪れていた。室内には巨大なモニターが設置されている。いまその画面には、改世機関の代表が写っていた。孤児院の院長でもあるその男は慈愛を帯びた柔和な表情をしている。
「ということで、明日の任務は他の処官にお任せします」
「ふむ」
「それで本日はどのような要件でしょうか」
「今日私がキミをここに呼んだのは、キミの申し出を、私が命じるつもりで呼んだのだよ?」
「そうでしたか」
「明日はカリンの十二歳の誕生日、だったはずだろう?」
「ええ、本人もそうおっしゃっていました」
「私が課したあの任務のことを、キミは忘れてはいないだろう?」
「勿論です。覚悟はできています」
 そうか、私は明日あの任務を果たさねばならないのか。覚悟。その言葉に足る感情が自分に備わっているかどうか、正直なところ疑っていた。

   +

 私は夢を見ていた。
 どうして私が改世機関で働くことになったのか、その経緯についての夢だった。
 大学時代、英語の教員免許をとろうとしていた私にはひとりの恋人がいた。私にとって初めての恋人だった。純粋に信頼していた恋人には合鍵を渡していて、衣食住を共にしていた。
 恋人に通帳を盗まれていたことに気づいたときには手遅れだった。覚えのない多額の借金を背負わされ、破産。住居を追われ、実家にまで及んでいた借金取りの取り立てによって親族からも呆れられ見放されて、どこにも帰る場所もなく途方に暮れて喧騒の中を彷徨いながらどのように自殺しようかを考えていたところ、改世機関に拾われた。彼らは私の素性を知っていた。調査されていたのだ。
 行くあてもなく人生に絶望している人間に、生きる希望を与えるのが改世機関である、我々は貴方を歓迎する、と彼らは憐憫の情を向けて慈しむような表情で語った。
 私は彼らのことを怪しまなかった。二人組の彼らはスーツを着ていたし容姿にも裏があるとは思えなかった。そして何よりすべてを失った今、これ以上の最悪が私を待っていることはありえないと思ったのだ。
 改世機関へ連れて来られた私は、彼らから改世機関と、彼らの言うところの崇高な目的について説かれた。改世機関はある資産家が莫大な資産を導入して立ち上げられた秘密機関である。未知の力『匿技』を持つ少女たちによって、この世界に蔓延する悪を裁き、世界を改めるために存在する。すぐに私は改世機関の思想と目的に順応した。空想の中にしか存在しないようなことを本気で話している彼らのことを初めから信用したわけではなかった。ただ単に、そうする他なかったというだけのことだ。私が生きながらえるためには。
 処官としての任についた私が担当することになった仕童、それがカリンだった。カリンもまた改世機関によって拾われた不幸な境遇にあった。痴呆となり介護せざるを得ない祖父母に耐えかねた母親が祖父母を殺害し、父親がその母親と口論の果てに母親を誤って殺害。血みどろ惨劇は、カリンが修学旅行に出かけているときに起こった。
 親殺しの穢れた血だと忌み嫌われ、カリンを引き取ろうとする親族はいなかった。行くあてのないのは、私と同じだった。
 やむなくカリンを受け入れた叔母夫婦のもとに、改世機関は訪れた。叔母夫婦はこれで邪魔者を追い出せると大歓迎で彼らにカリンを引き渡したのだった。
 表向きこそ改世機関はカリンを孤児として受け入れたわけだが、実際には身辺調査、身体検査によって匿技保有者であることをすでに知っていた。つまりここに来る前から暗殺を生業としていくことを強いるつもりだったのだ。
 じきに私はカリンと初対面した。カリンは今よりもずっと厭世的で倦怠感を漂わせていて、目にも光を宿していなかった。口数も少なく、陰のある少女だった。
 私がカリンの処官として働き出すとき、大きな不安がひとつあった。それは、先の恋人との一件がトラウマとなって、女性、特に成人女性に対して極度の恐れを感じてしまうことだった。さらにいえば、私は性的不能状態にすら陥っていた。だがしかし、決めた以上はやらねばならない。
 私はカリンとはじめて挨拶を交わしてから数ヶ月の間、とりとめのない日常を過ごした。それは、処官と仕童の間に結ばれる信頼関係を極めて良好にするためだ。
処官と仕童の間に良好な関係が築かれていなければ、今後の任務を実行するにあたって不都合を生じるというのが、改世機関の言い分だった。
 実際、振り返ってみればあの時間はここへ来てから一番楽しい時間だった。実際の学校のように授業をして、地下にある蔵書や映像作品を楽しんでいれば、それで良かったのだから。もちろん、毎週必ず暗殺についての訓練を行ってはいたのだが、実際に人を殺めるわけではない。
 それでもカリンはつらくて悲しくて泣き出すことがあったが……。
 あのとき、私たちの間には徐々に信頼関係が築かれていった。カリンに気に入られ、尊敬され、思慕されるように心がけろという改世機関からの指示にしたがって、私は動いていた。カリンの喜ぶ理想の大人を演じていた。
 初めは、そう思っていた。だがしかし時を経るごとに、カリンから信頼を寄せられていくごとに、私の彼女への接し方は、決して演技ではない本当のものになっていった。
 親密になっていくうちに、カリンは自分の身の上を話すようになっていった。もっとも、カリンの身上調査結果についてのデータを私はすでに閲覧している。それでも私は嬉しかった。
 カリンが少しずつ、心を開いてくれることが。

   +

 名も知らない鳥の鳴き声がする。夜が明けたのだ。
私は地下にある専用の個室でいつも寝泊まりしている。地下で鳥は鳴かない、この鳴き声は、ここに住まう処官と仕童に朝である実感を湧かせるために、施設内にあるスピーカーから流されている鳥の音声なのだ。
この部屋と、カリン、そして改世機関が、今の私にとっての世界のすべてだった。
 私は毎朝の日課のために、身だしなみを整えたあとで部屋を出た。処官は仕童を指揮するものとして、その目覚めと眠りを見届ける義務があるからだ。カリンの個室のドアをノックする。反応がない。数回ほどくりかえしたが何も返事がないので、私は鍵を使う。担当仕童の個室を開けられる鍵だ。担当の処官と仕童が登録されており、それ以外の仕童に干渉することはできないようにセキュリティシステムが為されている。
 カリンの個室にはいると、まだカリンはベッドで眠っていた。私がそばまで歩いてくると、彼女がゆっくり瞼を開ける。上体を起こして、眠たい目を小さな手でこすっている。
「おはよう、昨日した約束を覚えているか?」
「……いえ」
 カリンはふるふると首を横に振る。
「街へ行こうという約束だ」
「記憶にございません」
「そうか。だが、行くと言ったのは確かだ。私が覚えているからな。支度を整えるんだ」
 カリンは首をかしげる。
「今日は、任務を果たさなくてもよろしいということでしょうか」
「そうだな。いや、違うか。街へ出かけて宝石を見る。それが、今日の私たちの任務だ」
「マスターが言うのであれば」
 カリンは微かに首肯した。

 カリンは匿技を使うたびに、記憶を失う。
 いつ、どこで、誰と、なぜ、何をしたのか、どのような記憶が消えるのかには、何ら法則性がない。ピンポイントに昨日の私と交わした会話の記憶が消えたことで、カリンはすっかり自分のした約束を忘れていたようだ。

 昼下がりの街を歩いていく。
 普段乗っている車には、物騒な物を収容しすぎている。今さらそれを整理するのも面倒だということもあり、私たちは改世機関の近場にある最寄り駅から電車へ乗って、新宿へとやってきていた。
 平和だ。血の匂いが消えてくれないスーツを来て、血の汚れが拭えない拳銃を握っている普段に比べれば、なんと穏やかだろうか。もちろん気を緩めてはいない。それでも幾らか、この身を縛り付ける緊張の糸がほぐれていた。
 私以外にも処官はいる。彼らのうちの一人が、本来今日私が行うはずだった暗殺対象の依頼を引き受けてくれた。処官は与えられた任務の確認を、改世機関からひとりひとり個別に提供された専用のタブレットによって確認する。その日の朝五時には、暗殺対象の個人情報、行動スケジュールなどの詳細なデータがタブレットに送られている。私たちはそれにしたがって仕童と計画を立て、対象を掃討するわけだ。
 依頼その全体数を把握しているわけではないが、地下を歩いている彼らはそれほど多くはない。十数人にも満たないのではないだろうか。少数精鋭、それは私たちが互いに結託して謀反、裏切りを図ることを避けるためにも適当なのだろう。
 私たちは東口を出た。
 街の景色を眺めながら、宝石店を探す。
カリンも私も前もって詳しい地図などを見ることはしなかった。それはカリンが望んだことだった。人の多い街を散策することも、カリンの目的の一つだったのだ。
「雑踏の中に対象がいた時もありましたね」
「カリン」
「どうしましたか」
「今日は、そういう話はしないようにしよう」
「……そうですね」
 スクランブル交差点に出た。
 大勢の人がそれぞれの方向へ歩いていく。
 あたりには会話が飛び交っている。その内容はまるで聞き取ることが出来なくて、雑音にしか聞こえない。
「マスター」
 カリンが私の手を握っていた。
「何をしている」
「はぐれてしまいそうでしたので」
 確かに。これほどの人混みだ。
 その可能性は大いにあり得る。私は信号を渡ったあとでカリンの手を離した。カリンは少しばかり目を伏せている。安心したのだろう。人が多くて熱気がこもっているせいか、カリンの頬は赤くなっているように見えた。
「少し休もうか、あの喫茶店で」
 私は視線を喫茶店のあるほうへと向ける。
 その喫茶店は、先ほどから街のそこかしこで見かけていた。カリンは小さく頷いた。

 喫茶店の一階は混んでいた。そうか、今日は休日だったのか。私たちは二階へ移ることにする。
 その二階で、静かな時を過ごした。カリンは牛乳を、私はコーヒーを飲んでいた。無言だった。書物での学習、という形でなければ私は会話がうまくできない。何よりも、改世機関の代表から命じられたことが気がかりだった。カリンを『そう』することに心が揺れているわけではない。迷いがあるわけでもない。だが、胸の何処か深いところに、何か棘のようなものがある不快感を覚えていたのだ。

 喫茶店の二階から見る街並みに、宝石店を見つけた。
 私たちはそこへ向かい、中にある宝石を堪能していた。カリンの付き添いではあったが、私としてもはじめて見るものであり、興味を惹かれるものがあった。
 カリンはすっかり宝石の虜となって魅了されており、いつか語り聞かせた書物の知識を私に説いてみたりしていた。生き生きとしている彼女を見ていると、私の胸に潜む棘は鋭さを増して、私を苦しませた。
 私の心と身体に、何か異常でもあるのだろうか。
 そのときだった。疑問を浮かべている余裕を奪う銃声と衝撃が訪れたのは。私は銃声の主へと振り返った。
「静かにして手を上げろ! 抵抗する奴ァ命知らずだ!」
 ……どうやら、厄介事に巻き込まれたようだ。
 宝石強盗というやつだろう。
 男が三人、既に人質として黒髪ストレートロングのセーラー服めいた私服を着た少女がひとり捕まっている。男たちはみなコミカルな熊の被り物をしている。素顔は判らない。店内にいた人々は殺伐とした空気に飲み込まれて、素直に手を挙げる。
「よぅし、携帯とかを持っている奴ァ出しな! 隠してたら命ァ無ェぞ!」
 強盗犯は本気だ。ドスのきいた声色には、少なくともそう感じさせるものがあった。人々は次々と服やカバンにしまっていたフィーチャーフォンやスマートフォンを取り出して、床に置く。強盗犯たちは拳銃を突きつけて牽制しながら回収していく。内部の電池パックを外し、完全に連絡をできないようにしている。
 私たちの前に来るのも、時間の問題だろう。
 だが、私にはもう分かっていた。彼らが恐るるに足らない相手だと。強盗犯たちは実際に殺ったことはないだろう。
 私には殺ったものと、殺っていないものの間にある圧倒的な彼我の差が分かる。彼らは偽物だ。
「カリン、【精神旅行】だ」
 カリンこそが本物だ。
「マスター、それが……」
 カリンは耳元で囁く。周囲の人間に聞こえないように。
「匿技が使えない? なぜだ」
「わかりません。先ほどから試みてはいるのですが、そもそも発動すらできないのです」
「……」
 一体、どういうことなのだ。
 戸惑う私のまえに、強盗犯たちが立っていた。
「携帯をよこせ」
「わかった」
 普段ならば改世機関との連絡をするための携帯を持ち歩いている。しかし今日持っているのは個人用のものだ。別に機密情報である改世機関の連絡先が入っているわけではないから、彼らに見られたところで痛手はない。
 床に置いた携帯を強盗犯が回収する。
 次の人へ、次の人へ、彼らは歩いていく。
 カリンの匿技は使えない。
 屈辱だ。私は悔しさを噛みしめる。私は調子に乗っていたが、自分の手でひとを殺めたわけではない。
殺してきたのはいつだってカリンだ。私は無力なのだ。
 強盗犯が要求したのはすべての宝石と、店の売上。それらは今ひとりの女性店員によってまとめて用意されている。彼女は後頭部に銃を突きつけられている。逃げられもしなければ、抵抗できるはずもない。
「クソッ……!」
 私は小さく舌打ちする。罰するべき悪が目の前にいるというのに、何も出来ない。
 このままもどかしい状態がずっと続くのだろうか、と危惧していたところ、ある異変が起こった。
「! おい、何してる!」
 店員の後頭部に銃を向けていた強盗犯のひとりが突然、銃口を己のこめかみに向けたのだ。発砲音。脳漿が吹き飛んで、血飛沫が舞う。その男はすぐに絶命し、血を撒き散らして血の海に付した。
「……一体、何が起きったってんだ」
 強盗犯のひとりが苛立ちまじりに吐く。
「教えてあげよっか」
 誰かの声がした。その声は妙に自信に満ち溢れていて、血と恐怖に塗れたこの場所で、ひどく場違いだ。声の主を探して、目を疑った。そこにいたのは、強盗犯に銃口を向けられたひとりの少女だったからだ。
「はァ? あ、あれ……?」
「その身体で、ね?」
 そのとき既に強盗犯のひとりは、銃口を自分のこめかみに向けていた。同じだ、さっきの男と。発砲音。脳漿が吹き飛んで、血飛沫が舞う。その男はすぐに絶命し、血を撒き散らして血の海に付した。
「……!」
 あっけにとられている最後に残った強盗犯。彼もまた同じように絶命した。
「え……?」
 何が起こったのかわからない。
 しかし危機は去ったのだ。もう安心だとわかった人たちは、立つなり深呼吸をするなり、胸を撫で下ろすなり、解放されたことから涙を流すものもいた。店員は警察に連絡している。現場には未だ血の匂いが漂っている。今日一日くらいは、何事もなく終わりたかった。
 先ほどの少女はいつの間にかいなくなっていた。
「複数の対象の行動を同時に束縛、意のままに操ることができる。】それが彼女の匿技さ」
 耳元でひそひそと声がする。振り返るとひとりの女性がいた。肩までの髪。気品のある面持ち。大人の女性の余裕が感じられる。しかし、活発な青少年のような爽やかさも併せ持っている。服装もスーツとネクタイである。状況と容姿によって、私は彼女の正体に気づいた。
「あの子はコトハ。ぼくは、名乗るほどのものでもない」
 どうやら彼女は私と同じ処官だったようだ。処官は男性だけではない。女性の処官もいる。彼女らの共通点は、性的錯誤者かあるいは同性愛者であるということだ。つまり、彼女はそのどちらかである。
「そうだったのか、助かったよ」
「緊張させた。悪かった。改世機関で時々見かけていたから、顔は知ってたんだ」
 どうやら彼女は私を知っていて、私は彼女を知らなかったらしい。
 私たちはまだ周囲に人がいる手前、小さな声で話し合う。やがてどちらからでもなく、立ち上がった。宝石店を後にするためだ。話をするのはそれからでいい。

 騒ぎを聞きつけた野次馬が、私たちの歩いてきたほうへ駆けていく。しばらく歩いて、私たちは適度に空いていそうな喫茶店へはいった。
「コトハとぼくは、連続強盗犯を殺すために動いてた」
「だからここにいたのか」
「潜伏場所も、次にどこを狙っているのかも前もって調査済みのデータがタブレットに送られてたからね。本当に改世機関の情報収集力には呆れるよ」
 彼女は自嘲するように肩をすくめた。
「コトハは自分から人質に?」
「そのほうがドキドキするからって。いつもそうなんだ。命がけのスリルを求めてる」
「どうしてあたしに答えさせないのよ!」
 コトハが彼女に文句を言っている。
「なぜ、制服を着ていない?」
「ルールを壊すのがあたしのルールだって言ってた」
「だからどうしてあたしに答えさせないのよ!」
「変わってる子だ」
「当たってる」
 彼女は笑う。好きな人の惚気話をしているときのように、愉快に笑う。
「ぐぬぬ……」
 コトハは歯ぎしりをしている。
「大丈夫だった、子猫ちゃん?」
 彼女はカリンに訊ねる。
「問題ありません。お気遣いなく」
「それは良かった。でも、キミは仕童だよね。どうしてコトハが使うよりも前に、匿技を使わなかったの?」
「それは……」
 コトハや彼女の視線がカリンへと注がれる。
 カリンは言いよどむ。匿技が使えなくなったことを。
「もしかして、十二歳の誕生日?」
 カリンは答えるべきかどうか逡巡していたが、それが答えのようなものだった。
「そっか。そうだったんだ。だから、今日は……」
 彼女はカリンの頭をそっと撫でる。丁寧に、壊れないように、傷つけないように。そっと。彼女の姿は憂いを帯びていて、寂しそうに見えた。彼女はカリンを見ているのに、どこか別の場所にいる誰かを見ているような、そんな眼差しをしていたように思う。
 明日からは私もその眼差しをして生きていかねばならない。なぜだろうか、胸が締め付けられた。

 ――十二歳の誕生日にカリンを殺す。
 それが、改世機関がはじめに私に課した二つの任務、その二つ目だ。
 その意味をようやく悟った。
 仕童は十二歳を迎えると、匿技を失うのだ――

 夜だった。カリンはベッドに横になっており、私はロッキングチェアに座っている。いつものようにカリンが眠りに落ちるまで私は彼女のそばにいる。しかし、カリンはなかなか寝ようとしない。うとうとしているが、私が寝なさいといってもきかない。
「……マスター」
「なんだ。今日はもう遅い。話はもうしな――」
「これから私はどうなるのですか」
「……」
 カリンの不安の色を帯びた声に、何もかえすことができない。彼女の命は今日終わるのだから。私の手で。
「匿技を使えない私に、マスターのお役に立てない私に、ここにいる資格はあるのですか」
 温かい手が触れる。
 ベッドから身を起こしたカリンの華奢で白い両手が、私の手を覆うようにしていた。カリンの瞳を見てしまえば覚悟が揺らいでしまいそうだった。だが、視線が彼女を見ようとしてしまう。
止める術を私は持たなかった。
「わたしは、おとうさんおかあさんにいらないって言われてました。生まなければ良かったって、言われてました。叔父さんも、叔母さんも、みんな同じでした。でも、ここは違かった。改世機関は、マスターは、わたしに居場所をくれました。わたしの失くなった心を取り戻してくれました」
 言葉とは裏腹に、カリンは笑顔だった。
 その努めて笑顔でいようとする心の裏に隠しているものを、推し量ることはできない。けれど、私には彼女が泣いているように思えた。
「だから……マスターだけは、違いますよね。
これからもずっとずっとそばにいてくれますよね。見捨てないでいて、くれますよね?」
「そう……だな」本当の気持ちとは真逆の、中身の空っぽな言葉を吐き出した。吐いたのに、有害な煙を吸ったときのように濁り汚れていく自分が気持ち悪くて、吐気を催しそうになった。
 なぜ、こうも気持ちが悪いのだろうか。
 穢れた人々を殺すことには何ら迷うことなどなかったというのに。カリンを殺すことに何を今さら私は躊躇いを覚えているのか。もはやカリンは私にとって、改世機関にとって、この世界にとっても不要な存在のはずなのに、何故。不要な存在――本当にそうなのか?
「お願いがあります、マスター」
 カリンの言葉にハッとする。
「今日はどうか、わたしの隣で眠って欲しいのです」
「その願いに、何の意味がある」
「何の意味もないのかもしれません。ただの自己満足、かもしれません。しかし」
 カリンは両手で私の手をそっと掴んで、自らの頬へ添えた。
「わたしの心は、温かくなるのです」
 訴えるように、上目遣いの視線が私を刺す。確信を抱いているようだ。私がとなりにいることで、匿技を失ったこれからの未来への恐怖、その不安に押しつぶされないという、確信を。
 その未来は、私が消すというのに。
 いや――だからこそ、か。
 カリンには見えていて、私がそれを見させない。カリンの心のなかにだけ存在するその未来だけでも、私は曇らせないようにするべきなのだ。
「わかった」
 カリンの望みを聞いて、わたしは毛布をめくり、狭いベッドのなかで横になる。毛布を掛け直すと、あらためてこの状況が滑稽に思えてきた。これからその命を奪う相手と、同じベッドで寝ているのだから。
「ありがとうございます、お願い、聞いてくださって」
「いいんだ」
 ささやかな願いだから。
「さぁ、眠ろう」
 すべては今日、終わるのだから。
 カリンが探るように手を動かしている。やがて私の手を見つけると、指と指とを絡めていく。あの女も私と眠るとき、そうしていたことを思い出す。
 カリンは寝返りをして、私の両手と指を絡めたままで四つん這いの姿勢になった。
 私の視界には今や、天井ではなくカリンの顔が映り込んでいた。
「マスターは」
 カリンの瞳に、私の姿が映っている。私の瞳にも、彼女の姿が見えるのだろうか。目が離せない。離すことができない。
「わたしのことをあいしていますか」
 私は驚いてしまう。下腹部が熱くなっていたからだ。あの日から今日まで一度もなかったことだった。カリンは私を求めている。私も同じだった。頷き返すと、カリンの小さな手が、私の手に触れた。
「うれしいです、マスター」
 ああそうか。
 なぜカリンを殺すことへ躊躇を覚えるのか。ようやく気づくことが出来た。これは、長い間忘れていた想い、人として失ってはいけない感情。ひとが心を凍らせてしまわないための、温もり。
カリンはそっと顔を近づける。桜色のあどけない唇が、私のそれと重なった。
  
   +

 もう死んでしまったのだろうか。
 そう思ってしまうくらい、カリンは安らかに眠っている。不安や怯えなど、何ひとつないかのように。
 許してくれ。
 キミの不安を拭い去った私が、キミの未来を奪い去ることを。そう願いながら私は――静かに眠るキミの心臓に優しく刃を突き立てようとする。
「!」
 そのときだった。
 カリンが目覚めたのは。
 うろたえる私は、刃を止めてしまっている。カリンは眉をひそめている。今の状況が飲み込めていないのだろうか。白い靄に包まれて遮られた世界を見ようとするように、カリンは目を細めている。
「あなたは、だれですか……?」
 ――そうか。
 匿技の代償、記憶の欠落。
 匿技を使うことによる代償があるように、匿技を失うことにも代償が必要だった、ということだ。
 私は悲しいのかおかしいのか、笑っていた。
匿技を失うということは、匿技保有者だったときの記憶を失うことでもあったわけだ。
 もう、目の前にいるカリンは私のことを覚えていないのだ。私と戦った日々も、私を愛してくれたことも。
 だが、それは幸福なことでもあった。
 カリンの記憶は、幸せな思い出で幕を閉じることができたのだから。
「さよなら――」
 カリンだった少女の心臓を、私は刺し貫いた。

 本当に彼女は死んだのだろうか。私が、殺したのだろうか。心臓を一突きしただけで、カリンは苦しむことなく、息を引き取ったのだろうか。つい先ほど自分がしたことだというのに、すべて、幻のように思えた。
 頭痛がする。
 いつかのカリンの言葉が、頭のなかに何度も響いて止まない。止んでくれない。
『なぜでしょう。殺したひとの心が泣いていて、わたしまで痛いからですか』
 頭を抱えた。
 皮肉にも、私はようやくその答えを知ったからだ。問いかけてきたキミの命をこの手で奪って、知ってしまったからだ。
 カリンの言うとおりだった。
 私には【精神旅行】をすることなどできないのに、カリンの心の嘆きがこの身に、この心に染みこんできて、胸が締め付けられるように痛かった。
 この記憶は、生涯消えてくれないだろう。一生私を苦しませるだろう。
 私は処官だ。カリンを殺めてもまた新しい仕童と共に生きていかなければならない。それは、またカリンのような女の子を殺すということだ。だが、今の私にはできるとは思えなかった。このようなことは二度としたくない。だからといって、改世機関から逃げることはできない。改世機関以外に、もはや私の居場所などないのだ。 部屋のテーブルには、カリンの血に塗れた拳銃が置いてある。その拳銃を見たとたん、カリンの言葉が蘇った。
『わたしは、ひとが拳銃を握るのは、誰かを殺すためではなくて、大切な何かを守るためだと思うのです』
 私は、この痛みから私を守るために拳銃を握った。

 


 (了)


この本の内容は以上です。


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