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はじめに

シナリオ・センター研修科の学習課程で創作したシナリオ「アルコール・マネー」を収録しています。

 

映像にすると約10分のショートドラマになります。

 

この物語はフィクションであり、実在の人物、団体、企業とは一切関係ありません。


表紙画像:カラヴァッジョ(1573-1610)「聖パウロの改宗」(1600)

人物

三村秀紀(55)神奈川県知事候補

徳重善幸(70)善幸会理事長

桜内清香(40)ジャーナリスト


「アルコール・マネー」本文

○横浜駅・駅前広場
  選挙演説カーの上に三村秀紀(55)と桜内清香(40)。
  大勢の聴衆が集まっている。
三村「作家時代の仲間が応援に来てくれました。元アナウンサーでフリージャーナリストの桜内清香さんです」
  聴衆から拍手。桜内、手を振る。
桜内「三村秀紀は正義を貫く男です。三村は神奈川県を変えてくれます。皆さん是非、三村を神奈川県知事にして下さい」
  聴衆から拍手。桜内と三村、聴衆に礼。

 

○割烹『浜幸』・表(夜)
  老舗の割烹である。

 

○同・個室(夜)
  奥に徳重義幸(70)、手前に三村。
  三村、徳重の盃に日本酒を注いでいる。
三村「ご挨拶が遅れすみません。徳重理事長のところには真っ先にお伺いすべきでした」
徳重「三村さんは作家で知名度があるし、副知事としてやってきた実績もある。選挙戦も有利でしょう」
三村「何分選挙は初めてでして。お金はかかるし、人気の候補は多いし、色々大変です」
徳重「金のことで困っているなら、何でも言って下さい。力になりますよ」
三村「作家時代に政治献金を告発してきたんです。援助を受けるわけにはいきません」
徳重「そりゃそうだ」
  徳重、手を2回叩く。
  襖が開き、芸者が数名入ってくる。
徳重「今日は前祝いだ。さ、飲んで飲んで」

 

○同・中庭(夜)
  日本庭園である。奥の座敷から三味線の音が聞こえる。


○同・個室(夜)
  三村、芸者に囲まれ酒を飲んでいる。
  徳重、風呂敷の中からジェラルミンケースを取り出す。芸者達、部屋を出る。
徳重「三村さん、これ、選挙に使って下さい」
三村「何ですか? 受け取れませんよ」
徳重「きれいごとはやめにしましょう。みんなもらってるんですよ。さあ」
三村「お断りします」
徳重「三村さんね、私は九州から出てきて、三百以上の施設を持つ日本最大の医療グループを作り上げた。どうしてかわかりますか?」
  徳重、皿にある鯛の頭にかぶりつく。
徳重「日本の医療を変えるため今まで正も邪も飲んできた。正義を貫くためには手段を選ぶ暇なんてないんです」
三村「徳重理事長、しまってください」
三村、ケースを徳重の方に押す。
徳重「献金じゃありません。お金をちょっと貸すだけだ。今は選挙でお金足りないでしょう? 後で返してもらえればいい」
三村「その、いくらなんですか?」
  徳重、ケースを開ける。札束である。
徳重「たったの五千万だ。大義を成すため使って下さい」
  三村、札束を見詰めている。
徳重「今老人介護サービスに力を入れてましてね。福祉法人が一社、先月倒産したでしょう。あそこの施設をもらいたいんです」
三村「取引、ということですか?」
徳重「平塚と相模大野の施設ね、改築費を助成金で負担してもらえたら、こんな嬉しいことはない。それで借金返済としましょう」
  三村、札束を見詰めている。
徳重「三村さん、神奈川県を幸せにするためは、必要なお金でしょう?」
  三村、ケースを手元に引き寄せる。

 

○三村の選挙事務所・外観(夜)
  桜の木に囲まれた選挙事務所である。


○同・室内(夜)
  三村、支援者達と万歳三唱している。

 

○バー『ジャスティス』(夜)
  ボックス席で支援者達が騒いでいる。

  カウンターに三村と清香、並んで座りウィスキーを飲んでいる。
清香「当選おめでとう」
三村「君の応援演説のおかげだよ」
清香「こんな時に早速であれなんだけど、その、相談したいことがあるのね」
清香、三村の手のひらをつかみ、自分の膝の上に乗せる。
清香「県の政策会議か何かの特別顧問として、私、雇ってくれない?」
三村「ジャーナリストの誇りを失ったのか?」
三村、手をテーブルに戻す。
清香「別れた夫の借金もあるし、母が末期がんでね、入院費やら薬代やら大変で」
三村「いくらお前の頼みでも、知事の力を乱用することなんてできない」
清香「ごめん、冗談。今の気にしないで。三村さんは姑息な取引好きじゃなかったね」
三村、ウィスキーグラスを飲み干す。

 

○横浜市・上空からの全景
  粉雪が降っている。

 

○神奈川県庁本庁舎・外観
  正面入口に『世界陸上横浜・2018年開催決定』の横断幕。

 

○同・知事室
  クリスマスツリーが飾られている。書棚には本が並んでいる。

  三村、週刊誌を読んでいる。

  紙面には、『神奈川県議会大揺れ。三村知事、善行会から政治献金疑惑』とある。
  ドアが開き、清香が入ってくる。
清香「政治献金って本当なの?」
三村「金を借りただけだ。献金じゃない」
三村「そんな言い訳、世間が認めると思う?」



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