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はじめに

シナリオ・センター研修科の学習課程で創作したシナリオ「雪の日の脱線」を収録しています。
 
映像にすると約10分のショートドラマになります。
 
この物語はフィクションであり、実在の人物、団体、企業とは一切関係ありません。

 

表紙画像:アルブレヒト・アルトドルファー(1480頃-1538)「キリストの捕縛」


人物

穂村大樹(40)北海電機・製造部主任

乾紘一(40)TR北海・広報室長

高松豊彦(60)TR北海・代表取締役社長

穂村加奈子(38)穂村の妻


「雪の日の脱線」シナリオ本文

○雪道を走る電車

  電車が雪道を暴走している。車輪からは火花と煙。非常ランプが点滅している。

 

○北海国際スキー場・ゲレンデ
  雪が舞っている見晴らしの良いスキー場である。

  穂村大樹(40)と乾紘一(40)、二人並んでスキーをしている。

 

○同・リフト乗り場
  穂村と乾、リフト待ちの列に並ぶ。
穂村「まさかこんなオヤジになるまで、乾とスキーしてるなんて、若い頃は想像もしなかったな」
乾「今度は加奈子さんと哲郎君も連れて来いよ。うちも連れてくからさ」
穂村「哲郎さ、お前んとこの電車大好きなんだよ」
乾「うちの娘も穂村の会社で作ってるロボット掃除機、お気に入りなんだよ」
穂村「俺なんかこの歳でもまだ主任だけど、乾は鉄道会社の管理職だもんな。広報部長だったっけ?」
乾「広報室長。部長職なんてまだまだ」
穂村「出世したな」
乾「それよりどうだ? 今度電車を運転できるイベントやるんだけど、哲郎君連れて来ないか?」
穂村「ありがとう。哲郎も喜ぶよ」
乾「広報室長の役得だ。たっぷり運転させてやるよ」
穂村「持つべきものは友だな」
  穂村と乾、2人乗りリフトに乗る。

 

○同・ゲレンデ
  穂村と乾、並んで滑っている。
  乾、急ブレーキして携帯を取り出す。
  穂村、少し先で停まる。
穂村「どうした?」
乾「会社から電話だ」
穂村「広報室長様は忙しんだな」


  乾、携帯を耳に当てて、
乾「何? 脱線事故? わかった。すぐ戻る」

  乾、携帯を耳から離し、
乾「穂村ごめん。急用ができた」
穂村「事故って聞こえたけど、大丈夫か?」
乾「悪い。穂村はゆっくりしてってくれ」
  乾、急いで滑走していく。

 

○同・レストラン
  スキーヤーが大勢いるレストランである。
  穂村、一人でラーメンを食べている。

  穂村、携帯を取り出し、耳に当てる。
穂村「加奈子か。どうした? そんな慌てて。え? 哲郎が? 本当なのか?」
  穂村、立ち上がる。

 

○電車衝突事故現場・外観
  電車がL字に折れ曲がり、線路から脱線している。

  大破した先頭車両に雪が降り積もっている。
  救急車のサイレンが鳴り響く中、大勢の救急隊員が救急活動を続けている。

 

○同・現場付近の道路
  大勢の野次馬。

  立ち入り禁止のテープ手前に穂村と穂村加奈子(38)がいる。
穂村「哲郎! 哲郎はどこだ?」
  穂村、係員に制止される。

 

○TR北海・広報室
  電話が鳴り続けている。
  乾、職員達を前にして、
乾「会社の正式なコメントは俺が作成する。マスコミに質問されても自分の意見は言わないよう駅員に伝えるんだ」
  高松豊彦(60)が部屋に入ってくる。
  職員全員、高松の方を向き、敬礼する。
高松「乾室長、忙しいところすまないが、ちょっといいかな?」
  乾、高松の方へ駆け足。


○同・社長室
  高松、椅子に座っている。正面に乾。
高松「就任そうそう済まないね」
乾「とんでもありません社長。こういう日のために私達の部署が存在するんですから」
高松「事故の原因だが、どう説明しようか?」
乾「まだ調査中と言うしかないでしょう」
高松「乾君、今日は雪が降り積もっていたね」
乾「はい?」
高松「ブレーキがきかなかったんだろう。雪のせいかな? これは」
乾「車両の老朽化と、整備不良が原因かと思われますが」
高松「雪が詰まれば、ブレーキもきかなくなる。乾君、雪には抗えないよ」
高松、乾を真顔でじっと見つめている。
乾「社長、しかし」
高松「せっかくのキャリアを終えるつもりか? 会社の存亡は君にかかかっているんだぞ」
乾「ブレーキ異常について調査を進めます」
高松「君は優秀な広報室長だ。この事故を乗り切ってくれると信じてるよ」
  乾、高松に礼をする。

 

○北海救急病院・外観(夜)

 

○同・集中治療室前の廊下(夜)
  救急患者が次々と運ばれてくる。
  穂村と加奈子、ベンチに座っている。
  乾、コート姿で現れる。
乾「穂村、どうしてここに?」
穂村「どうしてだろうな。乗ってたんだよ、哲郎が先頭車両に」
  加奈子、穂村に抱きついて泣く。
乾「加奈子さん、申し訳ない」
加奈子「帰ってもらえますか? 鉄道会社の人となんて……」
  廊下にいる人々が乾を見つめる。
  乾、頭を下げて、その場を立ち去る。



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