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その3




「………痛く……ないのか……?」

歩き続けるギュンターに縋るような瞳を向け、ローランデが震える小声でそう尋ねる。

ギュンターが思わず振り向くと、愛しい白面が自分を心配げに見つめていた。

ふいにいきなり、ギュンターはローランデの正面に身を寄せローランデの両方の二の腕を掴み、そっ…と顔を寄せてその唇に口付ける。

ローランデはあんまり突然でびっくりし、暫くされるがままだったが、覚えのあるギュンターの唇の感触や被さるその気配にいきなり、彼と裸で過ごした一夜を思い出し、心臓が跳ね上がる。

が、ギュンターは以前隙を見せると公衆の面前ですら舌を入れようとしたのに、今はただ、そっと唇を重ねるだけ。

ギュンターがそっと顔を離す。

ローランデが見上げると、ギュンターの青冷めた美貌が覗き込むように少し、悲しげに見つめていた。

が、ギュンターは屈めていた身を起こし、粗雑にローランデの腕を引くと先に進むよう促す。

…ようやく宿舎近くに来た頃は皆がぎょっとし、血まみれのギュンターと、その腕に掴まれて引き立てられるように蹌踉めき歩くローランデの姿を、見た。

ギュンターはローランデの腕を掴んだまま、声を掛けようとする見知り数人の横を通り過ぎ、人が彼に何事かと寄り始めその数が増えてようやく、足を止めてその掴む腕を放し、ローランデに振り向き見つめ、言葉を放つ。

「…部屋に戻れ」

ローランデはさっと背向け、行こうとするギュンターの肘を必死で掴む。

「…手当てに、立ち会う……今度は!」

ギュンターは振り向き様凄まじい瞳で睨み付け、二人を取り巻く大勢の物見達の前で大声でいきなり、ローランデに怒鳴り付けた。

「…惚れたお前の前で、無様な姿さらせるか!」

言われてローランデはぎょっ!とする。

途端群れる人だかりの後方から声が、した。

「…だろうな。
もうとっくに限界を超えてるんだろう?」

…教練のボス、四年のオーガスタスだった。

たっぷりの赤味がかった栗色巻き毛を肩の上に揺らし、誰よりも長身で威風ある体格のその男は、笑った。
彼が笑うとその親しみやすい鳶色の瞳も伴って途端、チャーミングでキュートに見える。

長身のギュンターより更に長身。
広い肩幅を持つ、人好きのする大らかなその男は人垣を掻き分けるとギュンターの、横に立つ。

そして血だらけの腹と殆ど気絶寸前な程青いギュンターの顔を見、つぶやいた。

「大した気力だ。
…だが惚れた相手の気を引くのにローランデの前で気絶するのも、テだと思うが」

が、ギュンターは首を、横に振って俯く。

「…俺のやり様じゃない」
「だが手ぐらい貸してもいいだろう?」

そう言ってオーガスタスは手を差し出すが、その手を、ギュンターは思い切り叩き払退け怒鳴る。

「今手を借りたりしたら、気絶するじゃないか!」

皆、血塗れの壮絶な姿のその男の気迫に思わず唾呑み込む。

が、怒鳴られたオーガスタスは顔色も変えず、平静に尋ねる。
「歩けるのか?」

「…まだな!」
真っ青な顔色で、ギュンターはそれでもさっさと診療室へと歩いて行く。

オーガスタスがローランデに肩をすくめて見せ、そして二人してギュンターの後に続いた。

「…飽きずに、面白い男だ」
オーガスタスの呟きに、ローランデが途端切ない表情をする。
それを見てオーガスタスは前を歩くギュンターに、思わず怒鳴る。

「…お前が言ってる程、嫌って無い様子だぞ?」
ギュンターは振り向かないまま怒鳴り返す。
「…だから、血まみれなんだ!」

オーガスタスが声をひそめた。
「…誰がやった?」

背後からの声に、がギュンターは振り向かず歩も止めず言い返す。
「……ローランデを、味見したい奴だ」

「グーデンか………。
お前、あいつのペットを相当数寝取ったろう?
あっちは仕返しのつもりなんだろうよ」

「ああ!悪いのは全部俺だ!
この流血も全部自業自得だ!」

「…だ、そうだ。
君が姿を消さないと、奴は気絶出来ない」

オーガスタスに言われ、だがローランデはそれは戸惑う表情を見せた。

長身のオーガスタスはローランデに屈むと、そっと囁く。
「…その角で隠れてろ……」

ローランデはようやく、その言葉に頷く。

ローランデが渡り廊下の柱の影に身を潜めると、オーガスタスが前を歩くギュンターの肩を、乱暴に掴んで引く。

「ローランデは消えた」

ギュンターは青冷めた美貌で振り返り、力が抜けたように囁く。

「…本当だろうな?」

オーガスタスは身を翻し、後ろに居ないだろ?と証明し、ギュンターに振り向く。

ギュンターの気が一気に抜け、目を閉じ様いきなりふらりとその身を揺らした。

オーガスタスは咄嗟ギュンターの背を抱き留め、屈んでギュンターの膝の下に腕回し一気に、抱き上げる。

その光景を目にローランデは走り寄り、オーガスタスの横に立ち気絶するギュンターの顔を心配げに伺う。

抱き上げられて気絶するギュンターは、壮絶な程に血まみれで喉を晒し、真っ青な顔色で金髪までもが青味を帯びて見え、ローランデは怯えてオーガスタスを、見上げた。

「……失血死しないか……?」

ローランデの身が震えているのを見、オーガスタスはだが笑った。

「肉を食えば、大丈夫だ」

ローランデはその返事に目を、見開く。
ギュンターと付き合うだけあって、オーガスタスも変だった。


その4




 そうだ。あの時は………。

手当てが終わったらしい寝台の上で目が覚めると…ローランデが…横の椅子にかけて寝台に顔を伏し、眠ってた。

その白い頬や伏せた睫毛があんまり…綺麗で……。
また抱きたいなと、思ったんだ……。

だがローランデの誠実で優しい性格では、血だらけで拷問を受ける俺を見捨てる事が出来なかっただけだと思いついた時……。
ため息が出た。

額に手を当てていると、彼が目覚める。
その瞳が見開かれ、あんまり深い青の瞳で、吸い込まれそうに感じた。

「………だい…丈夫か?」
「貧血で目眩を起こしただけだろう…」
「違う……。傷だ……」
「慣れてる。だが、どれくらいの深さかだな。
ヘタに動くと、傷が、塞がらない……」

それが一番うんざりだと言う顔を、した。
ローランデが俯くと…そう、俺は言ったんだ。

「もう…かかわらない方がいい…。
今度あんな事になったら、とっとと逃げろ…。
お遊びに、付き合わせるんだと付いて行ったらお前を呼ぶんだもんな…。
そうと初めから知ってたら、最初にぶん殴ってやったのに!」

そう…ローランデの瞳があんまり綺麗で…。
彼に心配された事が嬉しくて、つい言った。

「…誓いは護る。だがあれは俺の誓いだ…。
お前は俺に、何の義理も無いと言ったろう?
だが………」

血を、流しすぎてどうにかなってたんだな。
口を、突いて出た。

「…お前を泣かしても、もう一度抱きたい」

ローランデは俯いていた。
彼は小声で、こう言った。

「……お前にあんな事をされて以来ずっと体が、おかしい……。
どうすればいいのか、解らない……」

そして、顔を上げて壮絶に可愛らしい泣き顔で、俺を非難した。

「…お前を知らない体に戻してくれ!!」
「そんな事、出来る筈が無いだろう?」

そう言うとローランデは唇を噛み顔を伏せ、肩を、小刻みに震わせていた。

「だって…しょっ中……。
困った事に…なる……」
「まさか、おっ立つのか?」

「………………」
ギュンターは顔を上げないローランデの頬が、真っ赤に成ったのを知った。

「俺で良ければいつでも、責任取るが…」

ローランデの、肩がびくん…!と大きく揺れる。
が彼はとても端正な、その白い面を上げ告げた。

「…なら傷を、直せ…!」

そして出て行った。

あの件以来だ。
ローランデに絡む奴が、すっかり姿を消したのは…。

そして俺は彼が誠実な性格だったのを、忘れていた。
そこらを動き回り始めた頃、夜、彼が俺の部屋に来た。

ローランデがあんまり恥ずかしそうに俯くのでつい、言った。
「…責任を、取らせてもらえるようだな…」


 

結局これが、二人が付き合う事となった原因の出来事です。

 

傷だらけで血塗れだったけど

 

ギュンター内心ではグーデンに感謝してたりして…(笑)

 

 

 

 





この本の内容は以上です。


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