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『間に合わなかった。』 秋吉君

投稿時刻 : 2013.11.17 01:45
総文字数 : 970字
獲得☆3.545
※制限時間後に投稿
嫌な夢だった。
リンゴ畑のあちこちに、無数の首が落ち散らばっていた。
天を仰いでいたり、地面に埋もれていたり。バラバラの方向へ顔を向けて、一様に首は目は閉じていた。
俺は首を避けながら、木々の合間を進む。
土に降りた霜を踏むたび、足の裏から感触が伝わってくる。
呼吸が荒くなる。俺は白い肌を思う。あの木の向こうにあるぬくもり。丸い乳房と甘い吐息。
下腹部がもどかしい。
俺は首を避けながら、足早に進む。
黒い幹の向こうに、マフラーの切れ端が見える。
「美由紀!」
叫ぶが声は出ない。俺は走り出す。全裸だった。固く尖った肉が屹立し寒気に突き刺さる。
思うように足が進まなくて、あっと思った瞬間、白髪頭の首に躓いた。
「この土地から出るな!」
地面から咆哮が響き、無数に落ち散らばった首が一斉に目を見開いて、俺をにらみつけた。

「ねえ、ほんとにそれでいいの?」
「ああ。もう決めたことだから」
「ふうん……じゃあ、離れ離れになっちゃうね」
美由紀はマフラーで口元を隠した。
「お前こそ、本当に東京の大学に行くのか?」
「私、こんな田舎で一生過ごすなんてヤだから」
高校からの帰り、リンゴ畑へと続く細道は薄暗く、人の気配はない。俺は夢を思い出していた。
「先祖代々の畑なんだ。知ってるだろ、農園を継ぐのは俺しかいない」
「私のことはどうでもいいんだね」
「そうじゃない、遠距離だって、続けられるだろう……」
「ムリだよ、そんなの」

陽が傾くにつれ影は濃くなり、木々の根本から首が生えてくる。
俺は制服のスカートから生える白い太ももに目をやる。
「俺、失いたくないんだよ」
美由紀は答えず、足を早める。
リンゴ畑のあちこちに、首が落ち散らばっている。
首はバラバラの方向へ顔を向けて、目を閉じている。
呼吸が荒くなる。美由紀が足を速める。マフラーの隙間から煙のように白い息が吐き出される。俺は追う。
道は更に細まり、畑との境目が消える。
足元には無数の首が落ちている。
「美由紀!」
下腹部から咆哮が響く。いつのまにか俺は服を脱ぎ捨て、全力で逃げる女を追っている。
首を蹴飛ばし踏みつけ、俺は追い、肉体は逃げる。
「お前は逃げられない」首が吠える。「お前の血は縛られている。逃がすわけにはいかない」
首の目が開かれると、黒々とした枝に果実が実る。
月明かりが真っ赤な実を照らしたとき、無数の俺の首が、女の肉に噛みつくのが見えた

終わりに

 第11回てきすとぽい杯、お楽しみいただけましたでしょうか。

 開催前にお題を部分公開する、という形式は、今回が初の試みとなりましたが、ある程度作品の構成を準備して参加された方、やはりぶっつけ本番で参加された方など、執筆時間制限に対しての対処方法にも、作風同様に作者の個性が現れましたようで、大変に興味深い回となったように思います。
 作品の長さを見ましても、二千、三千字超の重厚な作品がやはり増えましたものの、千字前後、千字以下にすっきりまとめられた作品もほぼ同数あり、そういった意味でも、作品ごと、作者ごとの個性が明快に押し出された回だったかと思います。作品をご覧になっては、いかがでしたでしょうか。

 今回、審査の途中経過は非表示(投票人数のみ公開)とさせていただきましたが、結果、2~4位が同票、大賞も内訳を見ますと僅か☆1票差での勝利という、大接戦となりました。


 ――最後になりますが、今回も非常に力のこもった、魅力的な作品をお寄せくださった作者の皆さま、投票・感想・チャット会にご参加くださった皆さま、そして事前公開の二題をご考案くださった碧さんに、この場を借りてお礼申し上げます。

 てきすとぽい杯は、引き続き毎月中旬に定期開催の予定でおります。
 お時間ございましたらまたぜひ、どうぞお気軽にご参加くださいませ。


2013年12月14日
てきすとぽい杯 運営担当

 

※ なお、次回てきすとぽい杯は、本日2013年12月14日(土) 開催の予定です。

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最終更新日 : 2013-12-14 11:27:39

奥付



てきすとぽい杯 作品集
〈第11回〉


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編集まとめ : てきすとぽい
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表紙デザイン : 蟹川森子
てきすとぽい杯コピー : 茶屋休石


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この本の内容は以上です。


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