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四葉の秘密

アルスが、黒烏団に復帰してから1週間後。
ルギは、休日に再び街に来た。

仕事中は、ひたすら訓練や仕事に集中し、妹のことも、ラシェルのことも、なるべく早く忘れることが出来るよう、何も考えないようにしていた。
食事の時間は、ラシェルと否応なしに顔を合わせてしまうので、出来るだけ早く退席した。
自由な時間は、なるべくアジトにいないよう、散歩かトレーニング、休息に当てていたし、休日も、アジトにいない方が気分転換になる。
ルギは、旅人で賑う街中を、あてもなくブラブラと歩いた。


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街は、先日来たときと同じように、相変わらず冒険者で賑わっていた。
人の多いところがあまり好きではないルギは、極力、人気のない場所を歩く。
剣の仕込み用の革を買ったり、砥石を買ったりと、装備の手入れ道具を買うのが、街での決まった行動だった。

(休日も、お決まりのパターンだな…)

買い物を終えて、ルギはため息をつく。

(このまま帰ってもすることがないし…コーヒーでも飲むか)

ルギは、通りに面したオープンカフェに向かった。
―――日差しが暖かく包みこむ、白の装飾が優雅なテーブルにコーヒーを置き、備えつけのラックから、冒険者用の情報誌を取る。
ちびちびとコーヒーをすすりながら眺めていると、ふと、斜め向かいの椅子を引く存在がいた。

「相席いいですかぁ?」

ニッコリと笑いルギに問うのは、真っ赤なふわふわウェーブの髪が可愛い、黒縁眼鏡をかけた、見たことのない女だった。
ルギは、眉間にシワを寄せながら、呟いた。

「…ああ」

女は「やったぁ♪」と椅子に元気よく座り、ミニスカートで隠しきれない脚線美を出しながら、足を組む。
 
花柄ネイルの綺麗な指で、軽くレモネードのストローを摘むと、綺麗に整ったシェルピンクの唇でくわえて、一口飲んだ。
まるで、女がいる場所だけ、季節が違うようだった。

「寒いのに、よくそんなのが飲めるな」

とルギが言うと、

「美容と健康にいいんですよぉ~♪」

と、女はウィンクする。

ルギは、黙って雑誌に視線を戻し、コーヒーを飲んだ。
そんなルギに、女は椅子を近づける。

「何をしてるんですかぁ?」
「別に。買い物だ」
「そうですかぁ…。このあと、一緒にランチ食べません?」
「結構だ」
「えぇ~…ざんねぇん」

残念そうに言う女に、ルギはさらに言う。

「…大体、あんた仕事中なのに、そんな暇あるのか?」

女の動きが止まる。

「…勤務中に、お茶だのお食事だのナンパだの、いいご身分だな、アルス」
「…げっ」

とたん、女は野太い声を上げる。
アルスと呼ばれた女は、顔をしかめた。

「まさかお前にばれるとは…。この俺一生の不覚!」
「見ればわかるだろ?」

ルギが簡単に言う言葉に、アルスはカチンときた。

「…お前な! 変装が見てわかるようじゃ、仕事になんねぇだろ? 大体、俺の変装を見破るのなんか、頭領、ルークとお前くらいだわ」
「3人もいたら、駄目なんじゃないのか?」
「あの二人が別次元なんだよ!」

と、アルスがヒソヒソ怒鳴りながら、眉をしかめる。

「…おっと、お前も外では、俺のこと本名で呼ばないでくれよ。素性がばれたら困るからな」
「…ああ」

ルギは興味なさそうに言った。
ルドベキアの盗賊ギルドで、散々変装の名人を見てきた。
アルスは、本当に普段とは別人のようだったが、ルギがアジトで嗅いだことのある香水をつけてたのだ。
アルス-女装中はリナと呼ぶらしい-は、赤毛の髪をふわっとかきあげ、再び女言葉になる。

「…それで、その後は何かあったのぉ?」
「…?」

訝しげな顔をするルギの鼻に、リナは人差し指を突き付ける。

「…押しが弱いわね~! そんなんじゃ振り向いてくれないわよ!」
「…だから何のことだ」
「なんのって…ラシェルのことでしょ」
「何で、ラシェルの話になるんだ」

突然出てきた名前に、ルギは困惑した。

「…あんた、遺跡で、命はってラシェルを助けようとしたらしいじゃない。意識してるんじゃないの?」
「たまたまだ」

そうルギが言ったとき、ふと、リナが視線をあげる。

「…あ、ラシェルだ」

その名前に、ルギの胸がドキッと高鳴った。
振られたとは言え、諦めるにはまだ時間がかかる。
意識しないようにするのは、もう少し時間が必要だった。

(たしか、あいつも休日か… )

ルギは早まる鼓動を落ち着かせながら、冷静にスケジュールを思い出していた。
ラシェルは、通りの向こうで、買い物袋を腕に下げながら、ポテポテと歩いていた。
チラッと、ルギが見ると、ラシェルもこっちに気づいたようだ。
その途端、リナが、ルギの手を両手でギュッと握り、愛おしそうに、指を絡めてきた。
しかし、ラシェルは見なかったようにプイと目を逸らし、何事もなかったように、通りの向こうに消えて行った。

「…ありゃー、脈無しじゃん」

リナが呟く。

「…離せ、気色悪い」

ルギが、バッと手を払う。
そんなルギに、リナが身体を近づけて囁く。

「ルギさぁ~、もうちょっと頑張ったほうがいいよ? いつまでも、ラシェルに振り向いて貰えないよ?」
「なんで俺が?」

別にいまさら、振り向いて貰う気などない。
彼女が幸せなら、それでいい。
しかし、リナは、再びコーヒーを口にふくむルギの耳元に唇を寄せ…囁いた。

「………プロポーズ、したんでしょ?」

ゴバァっ! っと勢いよく、ルギの口からコーヒーが出た。

「き、汚ねぇっ!」

思わず素になるリナに、ルギが真っ赤な顔で怒鳴る。

「な、な、な、なんの話だ!」

焦りまくりで、動揺するルギを面白がり、リナは立ち上がりながら、ハンカチで服を払った。

「…四つ葉のブレスレット、買ったんだって~?」
「………!」

ルギは耳まで真っ赤になりながら、絶句した。
この街の近辺、すべての情報網を持っているリナに、隠し通すことは出来ない。

(…あのジジィ…)

ルギは、先日行ったアンティーク屋の店主を思い出しながら、あとで首をシメてやる、と心に誓った。
ハァ、と小さく息を吐きながら、呼吸を整える。

「…しかし、それは…あいつへの詫びで、他に他意は…」

ルギが言うと、リナは楽しそうに、クスクスと言った。

「あんた、四つ葉の意味しらないの? それぞれの葉の意味が、『名誉』『富』『健康』『愛』。これらが全部そろって…『真実の愛』=プロポーズになるのよ」
「………!」

顔が真っ赤になり、思わず、

「そういう意味じゃない!」

とルギは叫ぶ。
しかし、さらに面白がり、アルスは続けた。

「大体、あんた、女の子にアクセサリーって、どんな意味であげるか知ってるの?」

もちろん、ルギが知るはずもない。

「ブレスレットは-、『手錠』の意味。『束縛したい』『俺のものでいろ』ていうときに送るのよ♪」
「嘘だろ…」

ルギは、頭上に隕石が落ちてきたような衝撃を受けた。
今さら、返してくれなんて言えない。
くすくす笑うリナ――アルスの声も、ルギの耳には届かない。
どうか、ラシェルがそれらの意味に気づかぬよう、ルギは願うしかなかった―

* fin *

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最終更新日 : 2013-12-13 12:39:09

この本の内容は以上です。


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