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はじめに

シナリオ・センター研修科の学習課程で創作したシナリオ「食品偽装」を収録しています。
 
映像にすると約10分のショートドラマになります。
 
この物語はフィクションであり、実在の人物、団体、企業とは一切関係ありません。

 

表紙:Elihu Vedder(1836年-1923年)「最後の男」(1886年)


人物

牧村 誓(ちか)(32)食品研究所職員

大乗 勝(56)品質管理部部長・執行役員

寺尾和人(32)誓の同僚

秘書


「食品偽装」シナリオ本文

○誓の家・居間(朝)
  牧村誓(31)、仏壇に祈っている。
  仏壇には牧村忠義(36)の遺影がある。
  テーブルには週刊誌がおかれている。

 

○㈱日本スーパー本社ビル・外観(朝)
  都心一等地にある高層ビルである。

 

○同・品質管理課部の廊下(朝)
  誓、白衣を着て廊下を歩いている。

○同・品質管理部・部長室(朝)
  個室である。大乗勝(56)、席に座り、新聞を広げている。
  誓、大乗の前に立ち、テーブルに雑誌を置く。
誓「これ、ご覧になりましたか?」
大乗「朝から何? 君は?」
誓「食品研究所の牧村と言います」
大乗「食品研究所の人間が、本社に来て何の用だ?」

  誓、週刊誌の頁を広げる。

  頁の見出しには『中国猛毒米偽装 日本スーパーの大罪を暴く』と書かれている。
大乗「はいはいその記事ね。週刊青春なんて低俗な三流雑誌の記事、信じるつもりかね?」
誓「中国産のよく検査されてもいない米を国産米と偽って、当社の系列スーパーで販売したと書かれています。事実でしょうか?」
大乗「事実無根のでっちあげだ。法務部を通じて損害賠償を訴えるつもりだよ」
誓「認めた方がいいんじゃないですか?」
大乗「何?」
誓「本部の検査体制が甘くて、業者から仕入れた米が国産か中国産か見抜けなかった。認めるなら早い方がいいですよ」
大乗「事実無根と言ってるだろう。品質管理部の検査にケチつけるつもりか?」
誓「どのお店のどの商品に使われているか、システムで検索すればわかりますよね。早いうちに回収して、謝罪すべきです」


大乗「国産米と表示されている商品は、全て国産米だ。中国産の米など使ってない。週刊誌の記事なんかに踊らされるな」
誓「食品研究所の人間舐めないでください」
  誓、白衣の袖から紙を取り出し、机に叩き付ける。米の成分検査結果である。
誓「お弁当の米の成分を解析させてもらいました。国産米と宣伝されているお米も、中国産の成分です。科学は嘘をつきません」
大乗「君、これを誰かに見せたか?」
誓「いえ、けど検査すればすぐわかることです。隠し通せるものじゃありません。大乗部長、偽装を認めましょう」
大乗「その米、全国2千店舗に卸してるんだぞ。商品点数は約1千万個。回収だなんて言ったら、会社の信用がなくなる」
誓「人体に有害な化学物質も検出されました」
  大乗、検査結果の紙をびりびりと破る。
大乗「うちはマスコミとも政治家とも太いパイプを持っている。うちが白だと言えば、白になるんだよ」
誓「お客様を裏切ることになります!」
大乗「研究所の人間が口出しする問題じゃない。経営会議で決まったことだ。帰れ」
誓「帰りません!」
大乗「君、そういえば名前、牧村と言ったね。もしかして、牧村さんの娘さんか?」
誓「……はい。父をご存じですか?」
大乗「よく覚えてるよ。事件が起きた当時、同じ工場の勤務でね。牧村さんも君みたいにくそ真面目で硬い男だったな」
誓「父の時と同じ惨事は、2度と起こしたくないんです。今は食品衛生の研究をしています」
大乗「ひどかったよねあの食中毒事件は。もう20年以上前か。お父さん元気? 今何してんの?」
誓「会社を辞めた後、亡くなりました」


大乗「お母さんは元気? きれいな人だったけど」
誓「マスコミに叩かれて、毎日嫌がらせ電話もあって、耐えられないといって事件後、離婚しています」
大乗「何百人と食中毒起こした食品ばらまいたんだもんね。会社もだいぶ損害を被ったよ。よくこの会社入って来たね君」
誓「私、あの食中毒は、父が起こした事件じゃないと思ってますから」
大乗「面白いね君。お父さんは無実だとでも言うつもり?」
誓「食中毒を起こした商品が出荷された日、私が熱を出して、父は工場を休んでいたんです。あの日、工場を仕切っていたのは、大乗さん、あなたじゃないんですか?」
大乗「当時の工場長は君の父親、食中毒は工場長の責任だ。君、今度そんなこと言ったら、研究所にいられないと思えよ」
誓「大乗部長、正式に偽装を認めて、商品を回収してください。また同じ過ちを繰り返すつもりですか?」
  秘書、部屋に入ってくる。
秘書「部長。執行取締役会の時間ですが」
大乗「悪い。邪魔が入った」
  大乗、席を立つ。
誓「もう一度考え直してもらえませんか?」
大乗「君、2度と本社に顔出すなよ」
  大乗、部屋を出る。

 

○㈱日本スーパー食品研究所・外観
  地方都市山間部にある研究所である。

 

○同・研究室
  誓、米粒をシャーレに入れて実験をしている。
  寺尾和人(32)、誓の肩を叩いて、
寺尾「どうだった?」
誓「全然相手にしてくれない」
寺尾「こんなファックス来てたけど」
  寺尾、ファックス用紙を見せる。



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