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魔法大陸、セイクリッド。

その大陸の中心地である首都セイクレアには、大陸一といわれている冒険者育成学園があった。

『クラウ・ソラス』――

事件は、その学園の一室で起こった。



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「スタン導師!来て下さい、召喚室で問題が発生しました…!」
「あ? 俺は召喚師じゃねぇから、事故ったってよくわからねぇぞ」


青銀の髪を肩で一つに縛った、スタンと呼ばれた青年は、クラウ・ソラスの魔導師が集う休憩室でお茶をすすっていた。

セイクリッド王国の、宮廷魔導師―スタン・アシュレイ。

しかし彼は、王宮の窮屈な仕事よりも、冒険者育成学園の講師を好んで行っていた。

やっと今日の授業が終わり、一日の終わりの自由時間を邪魔されて、眉間にしわを寄せる。

そんなスタンにかまわず、ローブを羽織った初老の男性は、なりふり構わず叫んだ。


「しかし、今、召喚導師様たちが全員不在で…! とにかく、魔力の暴走だけでも食い止めなければ!」
「都合のいいときだけ、俺に頼ってくるんだな…。やれやれ、わーったよ」


そういうと、スタンは重い腰を上げ、召喚室に足を速めた。


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最終更新日 : 2013-12-09 12:42:17

「………っんじゃ、こりゃあ!」


召喚室について、スタンは声を上げる。

そこでは、普段は使わないような、莫大な魔力が封じられている魔力石が、大量に魔方陣にちりばめられていた。
魔方陣からあふれ出る光は、激しいスパークを繰り返しながら、七色の波が天井近くまでウェーブを描き、今にも魔力が暴走しそうな勢いまで膨れ上がっていた。
更に魔法人の周りには、数名の術師が倒れており、現在は、魔法陣の周りに残った3人が、必死に詠唱を続けている。

「中級導師様が、新しい自分用の召喚獣を召喚しようとしておりましたが、途中で詠唱に失敗し、魔力が暴走し、補佐官たちも巻き込まれてしまいました!今は、残った術師で魔方陣の決壊を防ぐのが精一杯で…っ!」

スタンを呼びにきた、下級召喚師が慌てて説明する。

「どうかお力を…!!!」


術師がそう言い切る前に、スタンは行動を起していた。
傍に倒れている、召喚導師の手から杖を取り上げ、魔法陣の淵に立ち詠唱を始める。

「…我の内に秘められし永劫なる力、今こそ目覚めよ…
 時の彼方より来たれし 魔の女神、封印の扉の鍵を呼びさませ…」

今まで見た事もないような、複雑な文様を宙に描き、長い詠唱に集中するスタンに、下級術師は、ごくりとつばを飲む。

「……開放されるは闇の世界、行き着くは唯一の安息。
 開け! 無限の門! 
 無魔幻夢陣(ラベルサ・デラ・オスクリダート)!!!!」

スタンが叫んだ瞬間、魔法陣上部に、巨大な闇の門が出現し、鈍い色を放ちながら扉が開いてゆく。
直後、魔方陣から溢れ上がっていた七色の魔力の光が、門の中に一直線に吸い込まれ始めた。


「みんな、伏せろ!!!!!!」


スタンが叫ぶやいなや、部屋の中央に、巨大な竜巻が起こった。
ゴオゴオ、ゴゴゴゴゴ…という轟音とともに、いろんなものが門の中に吸い込まれてゆく。
びゅうびゅうと突風が吹き荒れる部屋の中で、スタンは床に倒れた召喚導師の体に覆いかぶさる。


「…頼む、間に合ってくれ…!」

スタンは呟きながら、魔方陣を睨む。

魔力の暴走の前に、魔力を異次元へ送る…
高度な技だったが、成功するとは…思えなかった。

しばらくじっと、門に吸い込まれぬようにスタンは身を守り…

長い時間が経ったような気がした。
虹色の光の暴走が弱まり、部屋に渦巻く風が少しづつ和らぎ始めた。
宙に浮く闇の門が、閉まり始めたのだ。
ゴゴゴゴゴ、という音と共に、次第に部屋の中の突風が弱まっていくのを感じた。

「………ッ!」

スタンは慌てて、暴走中の魔法陣を見た。
確かに、大かたの魔力は吸い尽くしたが、まだ召喚の術式が不完全なまま残っている。
このままでは、魔法陣から、何が出てくるかわからない。

「…チッ、しゃあねえな…!」

再び立ち上がると、召喚の術式を完成させるために、杖を掲げて別の魔法の詠唱を始めた。

「我は呼ぶ、かの地より来たれ、自愛の友。
 我と其の者は共同体、二つは一つ、ここに呼ぶは命を共有するもの。
 出でよ! 我が召喚獣!」

バッと手を魔法陣に突き出す。
その途端、陣が完成し、魔法陣の円から、透明な光がまっすぐに天井に突き刺さる。
召喚魔法の完成だった。
そして、その光の柱の中心に、おぼろげな影が現れた。
最初は小さく…
そして、だんだん大きく…
最期は人型になり、魔法陣の中央に、キラキラと魔力の羽とともに舞い降りる。

「おぉ…」

腰を抜かしてみていた下級術師が、思わず感嘆の声を上げた。
だがしかし…


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最終更新日 : 2013-12-08 23:04:02

「…あっちゃー、失敗したわ…」

詠唱動作で汗だくのスタンが、ため息とともに呟いた。
魔法陣の中央に現れたのは…
栗色の髪をした、少女だった。身体には、見た事も無い制服のような服を着ている。

「え…使い魔じゃないんですか」

下級術師が言った。
その言葉に、スタンは深々とため息をつく。

「どこをどう見て「ケモノ」に見える? どう見ても人間だろ、これは」
「え…確かに、人間に見えますけど」

スタンは、魔法陣の中央に近づき、少女を見た。


(…魔力は感じないな…… …?何を持っているんだ?)

よく見ると、少女はピンクの四角い、小さな熊のマスコットがついた箱のようなものを持っていた。
手にすると、パカッと開き、画面に何かが映し出された。

(これはなんだ…? 別国で見た、通信機とやらに似てるな…)

うーん、と唸ると、スタンは気を失ったままの少女を抱えて、下級術師の前まで歩み寄った。

「おい、お前」
「は、はい!」

怖い顔をして睨むスタンに、思わず術師は震え上がる。

「今起こったこと、現れたこの人間の存在、絶対に他人に口外するな。…言ったら…どうなるかわかってるな」
「ひぃいいぃいぃ!!!!」

本気で脅してくるスタンの声に、術師は腰を抜かしたまま後ずさる。


「幸いなことに、さっき魔法陣を支えてた導師たちもみんな気絶しちまったし。見てたのはお前だけだ。」

そういって、もう一度術師を睨む。

「もし、首都内でこの話を聞いたら、真っ先にお前を……」
「わ、わ、わ、わかりました!何も見てません!知りません!」
「わかればよろしい」

にっこり笑い、スタンは部屋を出ようとする。

「あ、そうそう、そろそろ召喚導師様が起きるぜ。介抱してやりな。魔法陣は、暴走して砕け散りましたっていっとけ。んでみんな吹き飛ばされて、気を失ったってな」
「は、は、は、は、はい」
「じゃーな」

それだけ言うと、スタンは、少女を抱えたまま、足早に部屋をでた。
そして、ハァ~~~~っと息を吐く。

「どうすんだ、これ………」


= To Be Continued =


3
最終更新日 : 2013-12-09 12:38:28

この本の内容は以上です。


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