目次
女優
夏川結衣論 ~「青い鳥」をめぐって~
夏川結衣論 ~「結婚前夜」をめぐって~
北川景子という人
北川景子という変人
北川景子という才人
北川景子という野人 ~エッセイ「瀬戸内まで」読解~
北川景子という読書家
北川景子にとってドキュメンタリーとは何か
満島ひかり論 ~「川の底からこんにちは」をめぐって~
能年玲奈について ~「あまちゃん」をめぐって その1~
能年玲奈について ~「あまちゃん」をめぐって その2~
能年玲奈という読書家
能年玲奈の今後について
音楽
エレファントカシマシと僕
忌野清志郎に捧ぐ
桑田圭祐について
『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』
プリンスとマイケル・ジャクソン
「アローン・アゲイン」の歌詞について
ブルース・スプリングスティーン 『サンダーロード』
ジョニ・ミッチェル A CASE OF YOU
お笑い
松本人志と太田光
鳥居みゆき登場
鳥居みゆきVS鈴木史朗
鳥居みゆきのキャラ問題について
鳥居みゆき単独ライブ「告別式」について
映画
打ち上げ花火 下から見るか?横から見るか?
この男、凶暴につき
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マカロニほうれん荘 レクイエム

じつに25年ぶりくらいに、『マカロニほうれん荘』が読みたくなり、全巻セットで購入して一気に読んだ。

僕の世代には、このマンガによって笑いの初期衝動を与えられ、笑いのツボを刷り込まれた者たちが無数にいる。

当時は、なぜ面白いのかわからないまま、文字どおり腹がよじれるほど笑っていた。
いま読み返して、すべてのコマとすべてのセリフをはっきり覚えている自分に気づく。もうさすがに息ができなくなるほど笑うことはないが、読みながら、真の才能だけが提供しうる圧倒感にある種の感慨を覚える。

連載後期の、いわゆる作者の「壊れてきた」時期にはすでに離れていたので、今になってほとんど初めて読んだ。確かに、8巻位からヤバイことになりかけていて、最終巻である9巻の話はどれもいっぱいいっぱいだ。それでも、ところどころに入魂の描写はある。だが最終回でついに力尽きた、というかんじ。

当時を振り返って鴨川つばめ氏は次のように語っている。


(週刊SPA! 1992年08月12/19合併号より、引用開始)

 当時いちばん忙しい時は、週刊誌が月5本に増刊が月2、3本。その他に掲載誌の表紙も描いてた。だけど自分は酒井さんの最後の弟子だと思ってたから、どんなにキッくても手が抜けないんです。編集者は「アシスタント入れろ」っていうんだけど、僕にとってそれは手抜きなんです。コマの隅々にまで作者の主張がないと読者は共感できないですよ。だからほとんど全部一人で描いてました。

 3日徹夜なんてのはザラで、5日間ブツ通しで仕事したこともありましたね。市販の眠気覚ましのアンプルが手放せなかった。心腹がドーンとなる強い薬を大箱で買って、一日十本以上飲んでました。「マカロニ~」を描いてた時は、この作品と心中してもいいっていう気持ちでしたから。

 そんな生活ですからアウトプットばかりでインプットするヒマがない。だから「マカロニはうれん荘」には僕が20歳になるまでの10年間に得たものすべてを注ぎ込んだんです。それを3年間で使い果たした。連載が終わった時は、もうカラッポです。
 カラッポだけならいいんだけど、最終回はひどい手抜きでね。自分がいちばん堕落したマンガ家になってた。ひどい傷を受けましたね。

 20代前半なのに心身ともにボロボロで。薬の副作用で心腹は止まりそうになるし、対人恐怖症にはなるし。毎日フトンに横になったまま天井を見てました。いざとなったら首切って死ねるように枕の下に果物ナイフを入れてね。その状態が3か月続いたのか半年だったのか、時間感覚がないんでわからないんですが。

(引用おわり)


あの圧倒的なギャグのリズム感を生み出すために、文字どおり命を削っていたこと、そしてついに臨界点を超えて神経を焼き切ってしまったことが分かる。

今回、怖いもの見たさもあって、『マカロニ2』も買って読んでみたが、まるでシド・バレットの3枚目のソロアルバム(実在しない)を聴いているようだった。

人間の深淵がぽっかり口を開いてそこに転がっている。こんなものが少年誌に掲載されたというのは、悪い冗談でしかない。

誰にも真似のできないものすごい仕事を残すのと引き換えに、戻ってこれないところまで精神を酷使することの意味を考えさせられた。

 

2007年6月13日記

 

 

前に引用した、『マカロニほうれん荘』の作者鴨川つばめ氏のインタビューには、続きがある。

僕が「スピリチュアルな体験」と呼ぶのは、こういうもののことだ。

前世が王女さまだったとかイルカだったとか聞いて嬉しがることではない。

(転載開始)

ある日、もうジタバタするのやめよう、と思ったんです。そしたら、暗い池の中を横になったままブクブク沈んでいくような感覚がありましてね。そのうちフツと背中が底に着いたんです。ああ、これがドン底ってやつかと思った時、生まれて初めて自分の魂の声を聞いたんです。いままでさんざん苦しんできた人だから、もうこれ以上苦しまなくていいよって。全身を包み込む、ほんとに優しい声だった。それでやっとフトンを離れることができたんです。

 いまの状態に戻るまで10年かかりました。カネに困れば皿洗いもやったし、ソープのボーイもやりましたよ。

不思議なことに、この10年間は酒井先生のことをすっかり忘れてたんです。今年になって突然思い出した。意外でしたね。こんなに影響を受けた人のことをオレは忘れてたのかって。それと同時にマンガに対する愛情も戻ってきたような気がしてね。
 今は、作品を準備中です。ギャグマンガ。僕は昔から人が笑ってる顔を描くのが好きだったんですよ。もう堕落したマンガ界を・・・、なんていう使命感はありません。ただ、酒井先生の自称最後の弟子として、先生に対して恥ずかしくないマンガを描きたい。その思いだけですね。

(転載おわり)

結果的に、つばめ氏はまだ完全に戻ってきてはいない。でも、踏みとどまれたということは本当に魂の声を聞いたのだろう。

 

2007年6月15日記


奥付



                     感想文


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著者 : 代々木一郎
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