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猫の物語 第2話 (全3話+α)

        お日様が顔を出し、僕も目を覚ました。
        だいたい野良猫の起床は、お日様が顔を出した時と決まっていた。
        なら野良猫の就寝はお日様が隠れたら?
        答えはノー、正解は寝たい時に寝るこれが正解。
        
         野良猫は自由気ままな生き物。
        ここ最近は徐々に寝ている時間が長くなる傾向にあった、そろそろ寒さが身に染みる時期。
        野良猫だって寒さで凍える時もあるんだ。
        
        自由気ままな野良猫と言っても一日の行動予定のスケジュール的なものがあるんだ。
        どうせ、食べて、寝て、散歩して、の繰り返しなんだろ、などと思ったら大間違い。
        意外と野良猫もスケジュールに沿って行動していたりする。
        と言う事で、僕は今日の行動を頭の中で書き留める事にしてみた。
        
        朝の目覚め
        朝の散歩
        朝食
        昼寝
        毛づくろい
        昼寝
        昼飯
        昼寝
        昼の散歩
        昼寝
        毛づくろい
        昼寝
        運動会(筋トレ)
        夕飯
        就寝
        
        書き留める事により、意外な事実に気付かされる事がある、まさに今がそう。
        ほぼ食っちゃ寝の繰り返しだったとは・・・野良猫のぐうたらに今始めて気づかされた。
        ただ一つ猫にはふさわしくない予定がある事に気づかれたろうか?
        運動会(筋トレ)
        これは僕らのグループだけの特別なイベントだった。



        このイベントを決めたのはボス、そのボスの言い分はこうだ。
        野良猫たるもの強くあれ
        筋トレは男子のみ、だいたい3日に一回くらいの間隔で各自で行うことになっていた。
        筋トレメニューはボス曰く自分で考えろ自主性が大切って事。
        自分の得意な個所を伸ばしてもいいし、苦手な個所を補うトレーニングでもいいし。
        野良猫たるもの最後に頼りになるのはおのれ自身だ、とボスは言いたいのだろう。
        鍛えると言っても瞬発力を磨くか筋肉を増やすかのどちらか。
        持久力と言う項目は猫には無いんだ、ジョギングをしている猫なんて見た事もないだろう?
        僕は瞬発力と筋肉を増やす両方のトレーニングをしていた。
        えっ?、猫がどうやってトレーニングしているかって?
        それは猫の秘密♪、と言う事にしておいて欲しい。
        とにかく僕は定期的に筋トレをしていた。
        筋トレは各自で行う事になていたので当然サボる事も可能な訳だけど、それはボスを裏切る
        様な気がするし、トレーニング効果も実感出来ていたので、僕はサボる事無く真面目にトレ
        ーニングをこなしていた。

        そして普段の筋トレの成果を発揮する場が運動会。
        運動会の開催は満月の日の夕方と決まっていた。
        そして今日は満月の日。
        種目はボスが決めた以下の3種目
        1. 15mダッシュ
        2. ジャンプ
        3. 土堀り競争
        参加するのはボスを除いた男子のみ。女子は筋トレも免除されているので応援する側。
        ラビットはいつも参加する気満々だったがボスは認めなかった。それは僕やコアラにとって
        は好都合でもあった。ラビットに負ける格好悪い姿をリスに見せなくて済むからだ。
        そして僕は運動会が開催されるようになった当初の頃、土堀り競争なんて必要なのだろ
        うか?と感じていた。僕はその種目の存在について次のような推測をしていた。
        運動会と名乗る以上、全種目が2種目ではあまりにも寂しすぎる、せめて3種目はないと
        恰好がつかない。そこで普段野良猫が行っている行為、土堀りを強引に種目にねじ込んだ。
        きっとそんな所だろう。
        とは言いつつも僕はこの種目、まれに波乱が起こるので一番好きな種目になっていた。もし
        かしたらボスが僕やコアラに気を遣って取り入れてくれた種目かもしれない、と最近思うよ
        うになっていた。

        そして今は朝の散歩の途中。
        前方を見ながらリスが話しかけてくる。




リス  「ポニーさんとイーグルさん、なんだか楽しそう」
僕   「最近あの2匹のツーショットよく見かけるな」
        チーターとイーグルの口喧嘩にポニーが参戦して以来、ポニーとイーグルの距離が縮まり一
        緒にいる姿を見る機会が増えていた。
リス  「お兄ちゃんも、いつもより楽しそう」
僕   「そう見えるか?なんたって今日は待ちに待った運動会だからな」
リス  「いつもお兄ちゃんはドン欠なのに、そんなに楽しいの?」
        もう少しクッションを効かせて遠回しな言い方が出来ないものかと思うが、妹のリスにそれ
        を期待するのは少々無理な相談なのだろうか。
        とりあえず僕は答える。
僕   「ああ、ドン欠って言うのはな、下がりたくても、もう下がようがありませんって位置なん
         だ、言い方を変えれば抜かされる心配が皆無って事、つまり上だけ向いて当面のライバル
         つまりコアラを打ち負かす事だけを考えればいい訳だからな、お兄ちゃんは楽しくて楽し
         くて仕方がないんだ」
リス  「ねぇお兄ちゃん。そお言うのって、負け惜しみって言うの?」
        僕は一息ため息をついてから答えた。
僕   「・・・ なぁリス、そお言う時はなプラス思考だねって言ってくれると嬉しいものな
         んだぞ」
リス  「うん分った。お兄ちゃんは、プラス思考なんだね、これでいいの?」
        最後の一言が余計だろう、と思いながらも、良いお兄ちゃん的な対応をする。
僕   「お兄ちゃんはな、いつでもどんな時でもプラス思考なんだ」
リス    「お兄ちゃんって、単純」
        と言ってリスは笑った。
        リスが妹でなく弟だったら、頭をポカリと叩いていただろう。
        リスはさらに話を続けた。
リス  「今日のお兄ちゃんの目標はコアラさんに勝つこと?」
僕   「ああそうだ、今日こそはコアラに勝つお兄ちゃんを見せてやるからな」
リス  「がんばって、でもその言葉を聞いたの今日で100回目だよ」
僕   「お兄ちゃん、そんなに言ったかな?」
リス  「うん、だって昨日もお兄ちゃん寝言でコアラに勝つって10回は言ってたもん」
        僕はリスの言葉にドキリとした。僕は記憶に残らない夢を見ていたのだろうか?
僕   「えっ?!お兄ちゃん寝言でそんな事言ってたのか?」
リス  「うそ」
        と言って、リスはいたずらっぽく笑った。
僕   「・・・」
        リスが妹でなく弟だったら、強めにポカリと叩いていただろう。
リス  「お兄ちゃんがんばってね、期待しないで見てる」


僕   「期待してくれてもいいんだぞ」
リス  「なら、期待する」
僕   「そうしてくれ」
        僕はリスとのやり取りがめんどくさくなった。
        僕がドン欠で、コアラがブービー賞、それが運動会の僕とコアラの指定席だった。

        そろそろお昼時、僕は人間様から魚をゲットする為にいつもの場所に戻り様子を伺っていた。
        こうしていつも人間観察をしていると、人間様特有の傾向が分ってくるんだ。
        それは年を重ねてきたと思われる人間様ほど頭の色が白くて歩く速度もゆっくり、まるでそ
        こだけ時がゆっくりと流れているかのような、そんなオーラを僕は感じとっていた。
        猫も元々呑気な生き物、そんな訳で僕は年を重ねてきた人間様との触れ合いが好きだった。
        実際に頭を撫で撫で、喉をスリスリされる時の手の動きのペースや力加減が僕にとって絶妙
        に心地よかった。
        僕は頭の色が白い人間様の時は初対面から安心して身を任せる事ができていた。
        なんでこんな話をしたかと言うと、
        実はここ最近、定期的に同じ人間様から魚をゲットできる機会が増えていんだ。僕らにとっ
        ての常連様と言った所だろうか。その常連様はいつも二人寄り添いながらこの釣り場に訪れ
        ていた、人間界の言葉では老夫婦と呼ばれているのだろう、釣り竿を持っているのは紳士、
        婦人は付き添いだろう。
        老夫婦がここの釣り場に訪れるのは、釣り場が閑散としている日が多かった。
        それは僕らの食料事情にとっても好都合であった。
        僕は先ほどの散歩の途中、釣り場へ向かっていた老夫婦を見かけていた。
        
        僕と老夫婦の出会いは香箱座りに変化をもたらした頃からだった。
        それは、いつの日かのミーティングで話し合った香箱座りの話。
        僕はそのミーティング以降、香箱座りからの尻尾フリフリを実行するようになり、老夫婦と
        出会った。丁度その頃老夫婦がこの釣り場に訪れるようになった、とも言えなくもないが、
        まぁ一応効果はあったと言う事だ。
        勿論リスも僕の後ろで同じ動作をしていた。
        ちなみにこの間のミーティングで、その香箱座りの成果について話し合っていたんだ。
        結果はラビットとコアラは僕と同じく効果があったと言っていた。ポニーは効果無し、さす
        がに香箱座りからの肉球を見せはあまりにも不自然すぎるのだろう。
        チーターとイーグルは寝たふりをしていた。

        老夫婦の帰りを待っていると後ろからリスが話かけてきた。
リス  「さっき、老夫婦を見かけたの」
僕   「お兄ちゃんも見かけた、釣竿を持ってたから今日は老夫婦から貰えそうだな」


リス  「うん、この間老夫婦に撫で撫でされてすごく気持ちよかったの、またしてくれるかな?」
僕   「ああ・・・」
        僕はリスの言葉であまり思い出したくなかった前回の老夫婦との出来事を思い出してしまっ
        た。前回、魚をゲットしたのは僕ではなくリスの方だったんだ。
        その日、僕は釣りを終えて帰ってくる老夫婦を確認すると、老夫婦から正面に見えるように
        香箱座りをして老夫婦を受け入れる体勢をとっていた。
        (常連様になってしまえば、あえて後ろ向きで待つ必要も無いんだ)
        いつもは僕の前で腰をかがめ、まず僕とのコミュニケーションをとってくれていた老夫婦が
        その日に限って僕をスルーし、後ろにいるリスとコミュニケーションをとり、リスの前に魚
        を置いて去って行ったのだった。
        僕はショックを受けていた。
        ただ、人間様に臆病だったリスが老夫婦に対しては心を開きコミュニケーションをとってい
        た事が収穫と言えば収穫であった。
        今日、老夫婦はどちらに魚を与えるつもりなのだろう?
        僕は思いを巡らせた。
        この機会はリスが人間様に慣れる為の良い機会でもある、これからは老夫婦を相手にする時
        は僕は一歩引きリスを前面に出すべきか?
        それとも僕だって兄としてのプライドがある、僕が全面に出てアピールをしてお魚をゲット
        するべきなのか?
        前回の様子から老夫婦はリスの方がお気に入りであることは明らかだった。僕は心の余裕を
        少し失っていたのかもしれない、いつも通りに僕はリスの前で老夫婦を待っていた。
        僕の後ろ姿は余裕の無いオーラを放っていたのだろうか?リスが後ろから僕を気遣う声をか
        けてくれた。
リス  「お兄ちゃん、リスの分もいっぱいもらってね」
僕   「まかせとけっ!」
        と答えたものの、あまり自信は無かった。どちらに魚を分け与えるか、それを決めるのは老
        夫婦なのだから。

        老夫婦が釣り場の方から現れた。
        老夫婦も僕らが何処に居るかは分っている、しばらくすると僕らの存在を確認したようだっ
        た。老夫婦がゆっくりと僕らの方へ歩みを進めて来る。
        僕は焦って冷静さを失っていたのだろう、一番してはいけない物乞いする様な目線を老夫婦
        に送ってしまった。案の定、老夫婦は僕をスルーし前回と同様リスとコミュニケーションを
        取ってリスに魚を分け与えた。僕はその一部終始をただ眺めているしかなかった。
        老夫婦はよほどリスがお気に入りなのか?それとも僕を避けただけなのか?僕には分るはず
        も無い。
        そして老夫婦は去り際、ガッカリしている僕の前にそっと魚を1匹置いて去って行った。



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