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目次

 目次

 

 

最近、あのコ、変なのよね

―――ある夫婦のある日の会話―――

 

ホテルニューオータに

 

我我は侵略された、我我は侵略された、我我は侵略された……

 

『盗まれたね』

――なんか変な二人のなんか変な《非哲学的》対話――

 

 

あれもそれもみーんな売春じゃない
哲学的対話 その一
 

入社面接

---「メリナガ製菓」---

 

 

 

 

 

 

 


最近、あのコ、変なのよね

最近、あのコ、変なのよね

―――ある夫婦のある日の会話―――

 

               「最近、あのコ、変なのよね」

               「どう?」

               「足元がふらつくのよ」

               「気のせいじゃないのか?」

               「歩くときふらふらするの」

               「幾つだったっけ、あいつ。」

               「十二か三ね」

               「もうか、まだか、どっちだ?」

               「まだよ。この間なんか、ふらついた拍子に柱に頭ぶつけてるの」

               「そっちは何ともなかったのか?」

               「そっちって?」

               「ぶつけた頭だよ」

               「大丈夫でしょう。それに、そう大した頭じゃないし」

               「覚えないし、忘れるしな」

               「丈夫なのだけがとりえだったのにね」

               「医者に見せたのか?」

               「特に何ともないって」

               「当てになるのか、その医者。やぶが多いからな」

               「でも、マタタビやっても喜ばないし」

               「そりゃ心配だな」

 

(完)

 

 

 


ホテルニューオータに

ホテルニューオータに   

 

 

    「今日はどこに泊まるの?」

「ホテルニュー……。
          「雑音がひどくてよく聞き取れない。
         「『ホテルニューオータ』に泊まる。」
     「『ホテルニューオータニ』?」
        「うん、『ホテルニューオータ』に。」

「どこの?」      

「オータの」      

           「キオイチョーじゃないの?」      

                「ナニチョーかまでは分からんよ」      

       「分かった」            

       「じゃ、そうゆうことで」     

 


記 〇六年二月

 

(注) 「ホテルニューオータ」は第一京浜沿いにあった実在のホテルの名称。


我我は侵略された、我我は侵略された、我我は侵略された……

我我は侵略された、我我は侵略された、我我は侵略された……

     

 

甲:我我は侵略された、我我は侵略された、我我は侵略された……。

 

乙:失礼ですが、「我我」とはどちら様ですか。

      

甲:我我を知らないのか。五千年の歴史、十五億の人口と一千万平方キロの領土(注1)、数百万の兵力、核兵器、大陸間弾道弾(ICBM)更には核ミサイル搭載原子力潜水艦を有し、有人衛星の打ち挙げ実績があり、国連ジョーニン理事国でもある我我のことだ。 我我は侵略された、我我は侵略された、我我は侵略された……。


乙:はあ。あなたがたは侵略されたんですか。

       

甲:我我が侵略されるなど断固として許されてはならぬのである。


乙:はあ、よく分かります。侵略は許されてはならないですよね。

 

甲:その通り。わが国の歴史教科書には「侵略される」という文言はあっても、「侵略する」という文言はないのである。我我は解放し、文明化することはあっても、侵略することはないのである。  ところで、あんたは?


乙:きっとご存知ありませんよ。時を遥かに遡れば私たちは血縁関係にあったかもしれません。モンゴロイドの一員たる私たちの遠い祖先はアジアの大地からはるばるこちらまで移動してきたようですから。

       

甲:いいから名乗りなさいって。あんたの国はどの辺にあって、領土はどれくらいの広さで、人口、それに兵力はどれくらいなのかね。あんたの国も侵略されたんだろう。大声で抗議しなくちゃ。

       

乙:国やら領土というのは私たちの土地のことでしょうか。人口というのは私の部族の仲間たちの数ことでしょうか。侵略というのは土地をすべて奪われ仲間を皆殺しにされるということでしょうか。
       

甲:そんなことされたのなら断固抗議すべきだ。
       

乙:あなたがたの場合、抗議して何とかなったんですか。
       

甲:まあ、向こうは一応反省してるなんて言ってるがね。口先だけさ。心の底から反省するまで抗議、糾弾は止めないよ。心の底から、だ。

乙:口先だけの反省なのか、それとも心の底からの反省なのか、どうやって見分けるんですか。

甲:当然、我我が判断するのだ。相手の反省を我我が口先だけのものと判断すればそれは口先だけのものであり、我我がそれを心の底からのものではないと判断すればそれは心の底からのものではないのだ。

乙:はぁ……。侵略された私たちの部族は疾うに絶滅したと思われているんですが、実は、私の祖先を含め、わずか十数名、生き残りはしたんです……。私たちは侵略されましたから、土地もすべて奪われ、仲間も殆ど殺されました。以来二百数十年、僅かな生き残りも私一人きりになりました。 何で抗議しないのかですって。どう抗議しようと、あの人たちは侵略したなんて認めやしませんし、そもそも絶滅したと思われていますから、相手にもしてくれません。もし抗議をしようものなら、保障金狙いの詐欺師扱いされるのが関の山ですよ。絶滅したと思われているんですから。
   万が一私が部族の末裔と認められ、あの人たちの耳に抗議が届いたにせよ、侵略される方が間抜けなんだと嘲られて終わりですよ。
   別に疑うわけではないんですが、確認させていただきたいので、改めてお尋ねしていいですか。

甲:ああ、お尋ねしてくれお尋ねしてくれ。

乙:あなたがたが侵略されたというのは本当なんですか。

我我は侵略された、我我は侵略された、我我は侵略された。五千年の歴史、十五億の人口と一千万平方キロの領土、数百万の兵力、核兵器……。

 

丙:我我も侵略されました。

 

甲:何者かね、あんた。

 

丙:チベット人ですけと……。

 

甲:おお、チベット族か。チベットは解放された、文明化された。解放された、文明化された。解放された、文明化された。中華はひとつ、諸族はみな兄弟。

 

丁;我我も侵略されました。

 

甲:で、あんたは

 

丁;ウイグル人ですが……。

 

甲:おお、ウイグル族か。新疆ウイグルは解放された、文明化された。解放された、文明化された。解放された、文明化された。中華はひとつ、諸族はみな兄弟。

 

戊:どっかで聞いたことあるよな、ないよな。ちょっと胡散臭いかも。確か、五族協和なんてのもあったし、他にも似たようなのが。お得意のパクリだったりして。

 

甲:ニッテーの侵略スローガンと一緒くたにするな。何者かね、あんた。

 

戊:ぼく、日本人です。

 

甲:我我は侵略された、我我は侵略された、我我は侵略された。

 

戊:で、漢族が長兄にして家長だったりして。

 

甲:はばかりながら、そうなる。家長の命には従ってもらわんと。

 

戊:よくゆうよ。

 

甲:何か言ったか。修身斉家治国平天下を知らぬわけもあるまい。

 

戊:ま、いちおー、聞いたことありますけどね。

 

仏:解放とか文明化とか、そうゆうの、普通、植民地化って言うんですよ。

 

甲:何者かね、あんた。いきなり口を挟んできて。

 

仏:フランス人ですが。

 

甲:ルイ・ヴュイトンにシャネル、モエ・エ・シャンドン……。ああ、飲みてえ。

 

戊:フランスも侵略したんですけど。

 

甲:また、あんたか。我我は侵略された、我我は侵略された、我我は侵略された。

 

戊:ドイツだって侵略したんですが。

 

甲:乗ってるぞ、ベンツ。BMWにアウディ、それにレクサス。

 

戊:レクサスは日本……。

 

甲:我我は侵略された、我我は侵略された、我我は侵略された。

 

戊:だからドイツも……。

 

甲:フォルクスワーゲン、マツダ。

 

戊:マツダは日本……。

 

甲:我我は侵略された、我我は侵略された、我我は侵略された。反省を、心からの反省を断固として強烈に求める。

 

戊:ドイツはすでに海外派兵もしていて、戦死者も出してますが、日本は……。

 

甲:我我は侵略された、我我は侵略された、我我は侵略された。歴史を直視せよ。

 

戊:義和団の乱では……。

 

甲:あれは満人のしでかしたことだ。我ら漢族の与り知らぬところである。

 

戊:我ら漢族には関係ないってのは、中華はひとつ、諸族はみな兄弟ってやつと矛盾しませんか。

 

甲:いろいろな兄弟関係があるのだ。世の中を知らんな、お主。

 

戊:仲が悪かったり、敵対する場合もあるってことで……。

 

甲:親子関係、夫婦関係、みな同じだよ。弁証法の基本だ。毛沢東思想の学習が足りん。

 

戊:義和団の乱ではイタリアも出兵したんですよ。

 

甲:大した数は出しとらんだろ。小国だからな。

 

戊:数の問題じゃないでしょ。とにかくイタリアも侵略したんですよ。

 

甲:フェラーリ、ランボルギーニ、マセラティ。乗ってるやついるぞ、知り合いに。

 

戊:それに枢軸国だったんですよ、イタリアは。

 

甲:言ったではないか、イタリアなど取るに足らぬ小国だと。ニュールンベルグ裁判も東京裁判もありはしたが、ローマ裁判などなかったではないか。

 

戊:日本は……。

 

甲:我我は侵略された、我我は侵略された、我我は侵略された。

 

戊:ロシアも……。

 

甲:共に偉大な対ファシズム戦争を戦って勝利を勝ち取った連合国同士である。

 

戊:ロシア帝国もソ連も……。

 

甲:共に偉大な対ファシズム戦争を戦って勝利を勝ち取った連合国同士である。

 

戊:違うような気がするがなあ。かつてロシアは満州を公然と侵略したし、ソ連は日本と満州を分け合うことで手打ちしたんですよ。

 

甲:我我は侵略された、我我は侵略された、我我は侵略された。

 

戊:イギリスも……。

 

甲:共に対ファシズム戦争を戦って勝利を勝ち取った連合国同士である。

 

戊:イギリスの方が先なんですよ、日本より……。

 

甲:我我は侵略された、我我は侵略された、我我は侵略された。侵略を断固として強烈に糾弾する。

 

戊:阿片の密輸を禁止したなんて言いがかりをつけて戦争を仕掛けたんですよ、イギリスは。

 

甲:取りあえず我らは対ファシズム戦争に勝利した戦勝国同士である。

 

戊:でも歴史を直視すれば世界中を侵略しまくった侵略国中の侵略国ですよ、イギリスは

 

甲:歴史にはとりあえず直視すべき歴史ととりあえず直視するには及ばぬ歴史があるのだ。歴史を正しく認識せよ。

 

戊:彼等の侵略、植民地化の長い歴史とその根深さに比べれば、それに伴うアフリカ人奴隷貿易の犯罪性はナチスドイツの所業の犯罪性に匹敵、いや、上回りさえする可能性を考えれば、日本の……。

 

甲:我我は侵略された、我我は侵略された、我我は侵略された。誤った歴史認識に断固として反対し、正しい歴史認識を強烈に要求する。

 

戊:あなたの歴史記述はところどころ黒く塗りつぶされてますけど。

 

甲:歴史を直視せよ。

 

戊:黒塗りになってちゃ直視できませんよ。

 

甲:黒塗りを直視せよ。

 

戊:黒だけしか見えませんよ。

 

甲:黒を直視せよ。歴史は黒やら白やら灰色やら、様々の色の織りなす段だら模様である。

 

戊:気の利いたこと、言うじゃないですか。現実直視についてはどうですか。

 

甲:現実は一瞬後にはすでに歴史である。人民大衆が直視するには及ばぬ現実、すなわち人民大衆が知るには及ばぬ歴史もあり、人民大衆が知るべきではない歴史もあるのである。人民の幸せが第一なのである。民はこれに由らしむべし、これを知らしむべからず。

 

戊:論語のこの箇所の解釈はさておき、あなたのもの言い、蒋介石政権の「訓政」とか、共産党政権の「代行主義」とか、知ること、考えること、判断することは少数の選良のすることだみたいな選良主義の匂い芬芬なんですけどねえ。あなたは、人民大衆とは一味違うらしいあなたは現実を直視してるんですか。

 

甲:当然のことだ。直視すべき現実は直視するのである。

 

戊:法輪功。

 

:反社会的、反人民的、反共的似非宗教組織。

 

大躍進。

 

:偉大なる毛沢東主席万歳。

 

:林彪。

 

:敵のスパイにして工作員、人民と国家の敵、売国奴。

 

:天安門。

 

:極めて少数の不逞の輩による反革命暴乱。死者三百余人、南京虐殺の死者三十万人。

 

:お手付き。天安門ですよ。……三千人と三万人だったりして。

 

:天安門は天安門である。三百人と三十万人である。

 

:チベット。

 

チベットは解放された、文明化された、解放された、文明化された解放された、文明化された

 

:ウイグル。

 

新疆ウイグルは解放された、文明化された、解放された、文明化された解放された、文明化された

 

:四人組。

 

ネズミには見向きもせず、鰹節より真珠が好きな泥棒猫集団。偉大なる鄧小平主席万歳。

 

:朝鮮半島。

 

:中華の辺境でもあり、東夷でもある。

 

:どっちなんですか。

 

:It depends.

 

:場合によりけり、ってことですね。英語、得意なんですか。

 

It depends.

 

:日本。

 

:我我は侵略された、我我は侵略された、我我は侵略された……  

 

:ルーベンス。

 

:我我は侵略された、我我は侵略された、我我は侵略された……  

 

:東アジアの歴史的大国なんだから、周辺諸国の見本になって……。

 

:我我は侵略された、我我は侵略された、我我は侵略された……  

 

:指は五本で箸は二本。

 

:我我は侵略された、我我は侵略された、我我は侵略された……  

 

:お疲れさんした。

 

 

記 〇五年十一月二十日(日)

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(注1)
WorldAtlas.com (http://worldatlas.com/webimage/countrys/asia/cn.htm) によれば、某国の人口は1,319,132,500人、国土面積は9,326,410平方キロ。

 

 


『盗まれたね』

『盗まれたね』

――なんか変な二人のなんか変な《非哲学的》対話――

 

               「すると、どこで盗まれたんですか」

             「もっぱら電車ん中だね」

             「何を盗まれました」

             「まず財布だね、それからノートパソコンとかアイパッドとかね」

             「で、現金はどうされました」

             「いろいろされたね」

             「使われたんですね」

             「うん、いろいろ使われたね」

             「ぜんぶ使われたんですか」

             「ああ、ぜんぶ使われたね」

             「で、アイパッドとかはどうされました」

             「いろいろされたね」

             「ご自身で使われたとか」

             「使われないね。分かられねえから」

             「使い方、分かられてないんですか」

             「分かられてねえね」

             「で、どうされたんですか」

             「質とかね」

             「質に入れられたんですね」

             「ああ、入れられたね」

             「分かりました。それでは18時25分、あなたを窃盗容疑で逮捕します」

             「うん、逮捕されらいね」

 

(完)



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