目次
迷い仔猫の居候
page 1
第一幕 捨て猫の拾い方
間幕劇 猫と彼女
第二幕 猫への餌のやり方
間幕劇 猫と彼女のその後
第三幕 猫がいる生活
第四幕 捨て猫の元の飼い主
間幕劇 彼女が拾った猫の名は
第五幕 好奇心、猫を殺す
第六幕 上手の猫は爪を隠す
間幕劇 Has the cat got your tongue?
第七幕 居座り続ける居候猫
居候と猫の彼女
page 1
第一幕 居候猫と新たなる居候
間幕劇 再び拾った猫の名は
第二幕 Who's she? The cat's mother?
第三幕 彼女が拾った猫との生活
第四幕 逃走猫の帰巣本能
第五幕 猫叱るより猫を囲え
居候と猫の飼い主
page 1
第一幕 居候猫と新たなる居候の現状
間幕劇 猫は三年の恩を三日で忘れる
第二幕 猫にはまだ鈴をつけていない
間幕劇 犬猫も三日飼えば恩を忘れず
第三幕 There's more ways than one to kill a cat.
第四幕 放浪猫の後始末
Gナンバーの居候猫
page 1
第一幕 猫の飼い主に小判
第二幕 少女の心は猫の眼
第三幕 愛猫フォトコンテスト
第四幕 The cat is hungry when a crust contents her.
第五幕 猫眠、暁を覚えず
第六幕 猫の毛並みを確認すると。
居候猫の父の気がかり
page 1
第一幕 居候猫の現状
第二幕 愛猫フォトコンテスト結果発表
第三幕 猫には首輪を。
第四幕 少女の心は、今も猫の眼
第五幕 居候猫の恩返し
第六幕 The cat is in the cream pot.
第七幕 猫の手だって厭わない
第八幕 迷い仔猫の素性
第九幕 迷い仔猫の同居人
奥付
奥付

閉じる


<<最初から読む

30 / 44ページ

第三幕 愛猫フォトコンテスト

 エミリが報告にきてから二週間が経ったが、マオに特別変化は見られない。というか、マオの変化がよくわからない。
 過睡眠が兆候としてあげられる、と言われても、もともとよく寝ていたしなあ、だらだらと。
 そうまるで、猫みたいに。
 それは自分もだが。
 マオがテレビを見て、隆二が本を読んで、マオが飽きて隆二にちょっかいをだして、それを隆二が適当にあしらって。膨れっ面をしたマオがいつの間にか寝ていたり、気づいたら隆二も寝落ちしていたり、起きて気が向いてコーヒー飲んだり、マオが散歩に行ったり、コーヒーが切れて仕方なくコンビニに行ったり。それがいつもの、神山家の日常だった。
 神山家の日常は、いつだって怠惰で非生産的で、心地よい。
 いつだって眠り過ぎといえば眠り過ぎなのだ。だから違いなんて、わからない。わからないということは、きっと無い、ということだ。兆候なんて、無い。消えたりしない。
 最近の隆二は、ことあるごとにそう自分に言い聞かせて安心させている。安心、ということはつまり自分は心配しているのだ。不安に思っているのだ。そしてその度に、その事実にぶちあたる。
 脳裏をよぎるのは、あの言葉。
「理解してろよ、意識してろよ。目を逸らすなよ。ちゃんと考えてないとお前、後悔するぞ」
 呪いのように自分にまとわりつく、京介の言葉。
 いつだって見ないフリをしてきた。茜のことだって、京介のことだって、きちんと見ていたらもっと別の選択肢があったはずだ。
 だけれども、突きつけられる現実が怖くて、いつだって目を逸らしてきた。目先の快楽を選んで、未来の不幸を呼び寄せてきた。そんなこと、自分でよくわかっている。
 だからって、
「……じゃあどうすればいいんだよ」
 見ているだけじゃ駄目なのに、どうしたらいいのかわからない。
 口からこぼれ落ちた弱音に、自分で思わず嘲るような笑みを浮かべてしまう。
『んー? なんかいったー?』
 こちらを振り返ることなく、マオが尋ねて来る。視線はテレビに固定されている。
 マオの大好きな四字熟語シリーズとやらは、七転びヤオ君子まで無事放送が終了した。ただ、特撮版が終わったことにより、今度はアニメ版の再放送が、少し放送時間を変えて行われている。今だってマオは、アニメ版疑心暗鬼ミチコに釘付けだ。
「独り言。気にすんな」
『そー。ああっ、危ないっ』
 隆二の返答よりも、画面の中で背後から襲われたミチコの心配をする。思わず中腰になっている。
 その平和な姿に、思わず口元が緩む。大丈夫。ちゃんと見ている。ちゃんと見ている結果、判断している。マオは大丈夫だ。
 きゃぁっ! と悲鳴なんだか歓声なんだかわからない声をあげるマオは、ちゃんとここにいる。
 たっぷり三十分、わいわい騒ぎながら視聴を終えると、ふわりとスカートの裾を翻して隆二のところにやってきた。
 終わった途端、すぐこれだ。暇になった途端、構ってもらいにくる。気まぐれだ。
『ねー隆二ー』
 甘えるように、ソファーに座った隆二の膝に顎をのせて、上目遣いで告げる。
『お腹空いたー』
「また? テレビ見ていただけなのに、燃費悪いなお前」
 呆れて笑う。テレビを見ていただけなのに、すぐに空腹を訴えてくる。まあ、毎回毎回あんなに高いテンションでテレビを見ていたら、そりゃあエネルギーも消費しやすくなるだろう。
『だぁって、空いたんだもん』
「はいはい」
 マオはぷぅっとふくれたまま、隆二の膝から動かない。いつもならさらっと、行ってくるね! なんて言うのに、何か言いたげじっと隆二の顔を見ている。
「……なに」
 その視線の意味をおおよそ理解しながら尋ねると、
『……一緒に行こう?』
 小声で誘われる。そうだと思ったよ。
「……仕方ないな」
 しぶしぶそう言うと、マオの顔が一気に華やいだ。
 なんとなく、心配なことは心配だし。
『やった! お散歩!』
 浮かれたように宙を舞うマオの、すらっとした体つきを眺める。
 しかしまあ、よく寝て良く食べているのに、なんで育たないかなぁ。胸が。
 心底どうでもいいことを思った。

 

 最近の隆二の懸案事項はもう一つある。それがこの、手のひらの中にある小さな機械、携帯電話だ。
『慣れたー?』
 ソファーに座り、渋い顔でそれを睨む隆二の横で、マオがのんびりとした声で尋ねて来た。それに、無言を持って返事とする。くすり、とマオが笑った気がした。
『大丈夫だよー。メールもだいぶ、まあそれなりに、隆二にしてはちゃんとしてきたじゃん。打つのにすっごく時間かかってるけど』
「世間的には全然及第点じゃないってことだよな、それ」
『きゅーだいてん?』
「不合格だよな、ってこと」
『それはそうだね』
 しれっと答えられて、さらに渋い顔つきになる。
 隆二にしては珍しく、努力というものをしているのに、この有様だ。大体そもそも、この怠惰な性根を有する不死者は、頑張るとか努力とかそういうことが大の苦手だった。出来れば一生だらだらだけしていたい。
『たまの努力もスパイだよー』
 他人事だと思ってか、マオが楽しそうに笑う。
「スパイスな」
 なんで諜報員になるんだよ。
『ああ、それそれ』
「にしたって、効き過ぎだろ……」
 辛くて喰えたもんじゃない。
『ねー、それよりさ』
 初日からずっと、ケータイに興味津々のマオが横から覗き込みながら、
『そろそろ電話とメール以外のこともしてみようよ!』
「できるわけないだろ」
 そもそも、電話とメール以外になにができるのかもわからないのに。
『写真! 写真とろう!』
 マオがはしゃいだ声をあげる。まったく、どれだけケータイに興味津々なんだ。
「写真ー?」
 そもそもこれでとれるのか。あ、確かに良く見たらカメラのレンズみたいなのついているけど。
「やり方わかんないし」
『あたしがわかるから大丈夫!』
「なんでわかるんだよ」
『テレビとか見てたら大体わかるよ』
 どんだけテレビっ子なんだよだから。
「壊れたらどうするんだよ」
『大丈夫だよ、最近の電化製品はそう簡単には壊れないから』
「……昔の電化製品を知っているというのか」
 産まれたばかりのひよっこのくせして。
『えっと、あのね、その真ん中を押してメニューだして』
「無視か」
 言いながらも素直に言われたとおりにする。
『ほら、そこのカメラってやつ選択してー』
 マオがすらすらと述べていくとおりに操作していく。
「あ、本当だ」
 本当にカメラが起動した。
『真ん中押すとシャッターだから。ほらほら、とって』
 言いながら笑顔でピースサインするマオの方にレンズを向ける。案の定、ケータイの画面にはマオの姿は写らない。が、そのままシャッターを押してみる。かしゃっという音の後、保存しました、の文字。
『そこでもどって、ほらそれ、そのデータフォルダーってやつにはいっているから』
 さっきとった画像をひらく。写っていたのは、見慣れた赤いソファー、だけだ。
『……むぅ、写ってない』
 マオが不満そうに呟く。
「幽霊だからなー」
『心霊写真はぁー? ねー、心霊写真にはならないのー?』
「知るかよ、そこまで。マオ以外に幽霊の知り合いなんていないんだから」
『むぅ』
 心霊写真でなかったことがそんなに不満なのか。マオが頬をふくらませる。
『心霊写真とって、テレビに投稿したかったのに』
「……どんだけテレビっ子だよ、本当」
 生活の基軸がテレビなことに呆れて少し笑う。
『だってー、全国ネットぉー。テレビにでたかったー!』
「仮に心霊写真がとれていても、送り方わかんないし」
『エミリさんにやってもらうもん』
「……そんなことで嬢ちゃん頼るなよ」
 見返りが怖いじゃないか。
「それに、あんなピースで笑顔の心霊写真なんて怖くないだろ」
『だって可愛く写りたいもん!』
「なにがしたいの、お前」
 唇を尖らせるマオに、呆れたように言葉を返すと、
『……もういいっ! ちょっとやってみたかっただけだもん、隆二の意地悪っ!』
 何かが癇に障ったのか、ぷぅっとマオはむくれた。そのまま、ふぃっと壁を抜けて、隣の部屋へ消えてしまう。
「……なんなんだかねぇ」
 小さく呟く。よくわからないが、どうやら何か会話の仕方を失敗したようだ。今ひとつマオの考えていることや機嫌のスイッチがわからないのは性別の差か、年齢の差か。勝手に機嫌直しておいてくれるといいけどなー、機嫌とるの面倒だし、とひとでなしな事を思いながら、ソファーに座り直す。
 こういうやりとり、拗ねたマオのご機嫌をとる行為はとてつもなく面倒だが、でも僅かにどこか楽しい。それがまあつまり、一人じゃない、ということなんだろうな、と思う。
 ふっと小さく笑みが溢れる。
 認めたくないが、マオがきてから、種類や程度に差はあれど、笑うことが多くなった、と我ながら思う。一人じゃないから。
 ぼんやりとつけっぱなしのテレビを眺めていると、手の中でケータイが震える。ここに連絡してくる人なんて一人しかいなくて、案の定、表示は進藤エミリになっていた。
 ほんの少し、まだ緊張する指先で電話にでる。
「嬢ちゃん?」
「エミリです。今、良いですか? マオさんは?」
 言われて視線を動かすが、見えるところにはいない。隣の部屋で拗ねているんだろう。
「大丈夫」
「そうですか。ご報告があります」
「ああ」
「G011、それからG013が消えました」
「……そうか」
 ある程度予想していた用件に、溜息が溢れる。事態はどこかで動いている。
「G014もこの前から眠ったままで。おそらくは……」
 G014の次は、G015。では、その次は?
「……そうか」
「マオさんは、大丈夫ですか?」
「ああ」
「なら、いいんですけど。一応、ここまでのデータがでているらしいのに、なかなかこちに寄越さないからせっついています」
 忌々しげにエミリが告げる。研究班と仲が悪いとか言っていたな。その影響か。
「すみません。なにかわかりましたら、すぐに連絡しますので」
「ああ」
 今ひとつ頼りにならないが、頼るべきところはそこしかない。
「なにかあったら、いつでもいいので、連絡してくださいね」
 そのためのケータイですからね、携帯していてくださいね、と少し戯けて告げられる。それに少し微笑む。
「そういう冗談めいたことも、言うようになったんだな」
 ちょっと前には考えられないことだ。冗談を言うなんて。
 思ったままを告げたら、電話の向こうは急に沈黙した。
「嬢ちゃん?」
 奇妙に思って名前を呼ぶと、
「……エミリです」
 少し長い間のあと、そう返事がかえってきた。それからなんだか、忌々しげにエミリは続ける。
「わたしだって、多少は変わるんです」
「……別に悪いとは言ってないだろ」
 何をそんなに嫌そうに言うんだろうか。エミリはそれに答えず、ただ苛立のような溜息が一瞬聞こえた。
「ともかく、そういうわけですので」
 強い口調で言われる。
「ああ、わかった」
 まったくこっちの少女も、なにが地雷なのかわかったもんじゃない。軽く肩を竦めながら返事をする。
「それじゃあ失礼します」
「ああ……、ってもう切れてるし」
 早口で言ったエミリはそうそうに通話を終えたようだ。まったくどいつもこいつも自分勝手なんだから、と全力で自分を棚上げしたことを思いながら、隆二はケータイをソファーに置くと、軽く息を吐く。
 事態は動いているが、まったくもって何もわからん。
『エミリさんー?』
 唐突に左手からかけられた声に、驚いて視線をそちらに向ける。いつの間にか、マオがテレビの前に座っていた。まったく、いつの間に機嫌を直したのやら。
『ん、違うの?』
「……いや、そうだけど」
 自分で機嫌を直してくれたのはいいが、急過ぎるだろう。こっちの部屋にはいないものだと思って、安心し過ぎていた。
 マオにGナンバー消失のことを言うつもりはなかった。余計な心配をさせたくないから。言ったところで何かが変わるとも思えないし。
 なにかバレるようなこと言っただろうか。さっきの会話を思い返していると、
『隆二って、殆ど、ああとかうんとかしかいわないんだねー』
 おかしそうにマオが笑った。
 それを聞いて安心する。余計なことはマオの耳には入っていないようだ。
「ほっとけ」
 いつものように嫌そうに呟くと、マオがますます楽しそうに笑った。


第四幕 The cat is hungry when a crust contents her.

『今さっきね! テレビで見たんだけどね!』
 いつものようにソファーで本を読みながら、気がついたら寝ていた隆二が、目覚めて最初に言われた言葉はそれだった。
 言ったのは当然、居候猫。
「……うん、またテレビの話な」
 っていうか、人の腹の上に乗るなよ。
 キラキラした瞳の近過ぎる顔をさりげなく片手で遠ざけながら、適当な相槌を打つ。
『心霊写真って、怨念とか思いの強さでできるらしいよ!』
 まだ諦めてなかったのかよ、心霊写真。
 喉まででかかった言葉を、なんとか飲み込む。先日、この話でマオの機嫌を損ねたばかりだ。地雷がそこに埋まっていることを知っているのに、わざわざ踏みに行くほど悪趣味ではない。
 にしても、幽霊が幽霊のことをテレビで学ぶなよ……。
『強い思いを抱くから、写真とって!』
 期待に満ちた顔でマオが告げる。
 とりあえず降りろ、と跨がったままのマオをどかすと、ソファーに座り直す。
「えっと、悪いけど一旦整理するな」
 起き抜けの頭をフル稼働させ、
「心霊写真を撮りたいと」
『そう!』
 隆二の正面にまわりこんで、マオが何度も頷く。
「で、テレビに出すんだっけ?」
『そう! 深夜の番組でね、募集しているの!』
「あー、そう。……採用されなくても文句言わないな?」
 どうにか上手いこと心霊写真がとれたところで、放送に使われなかったら使われなかったで、ぶーたれるマオの様子が手にとるようにわかる。自分の想像にげんなりしながら問いかけると、
『へ?』
 採用されない、ということはちっとも考えていなかったらしい。マオが間抜けな顔をする。それでも、隆二の呆れたような視線に気がついたのか、
『言わない! 約束する!』
 慌てたように告げてくる。
「約束なー。約束は守らなくちゃいけないからなー」
『大丈夫、守る!』
 念を押すと、力強く頷いた。ここまで言っておけば、いざそのときになっても、「約束」と一言呟くだけで静かになってくれるだろう。
「……わかったよ」
 しぶしぶ、テーブルの上においてあったケータイを持ってくる。まあ、どうせ暇なのだ、付き合ってやっても罰はあたらないだろう。
『いいの!? やった!』
 マオが本当に嬉しそうに笑うから、悪い気はしないし。
 ええっと、それでどうしたら。
 あれ以来カメラの起動なんてさせていないから固まっていると、
『ふぅ、あのねー、そこを押してー』
 マオがわざとらしくため息をついてから説明してくれる。悪かったな、覚えてなくて。
 なんとかカメラの画面を出すと、マオに向ける。
『待ってね、今集中するから』
 眉間に人差し指をあてて、むむむむっと難しい顔をしながらマオが唸る。
「……何やってんの?」
『強い思い!』
 強い口調で言われた。心霊写真に写るような強い思いって、そういうことだったっけな? もっと現世への執着心とか、そういうことなんじゃないだろうか。別に詳しく知っているわけでもないけど。
 ケータイ片手にそんなマオを見ていると、きっとマオが顔をあげた。
『今っ!』
 叫ばれて、慌ててシャッターボタンを押す。あ、ちょっとぶれたかも。
『どう? どう?』
 叫ぶと同時にしていたピースサインを降ろすと、マオが駆け寄ってくる。なんとかさっきとった画像を出すと、
「あ」
『おおっ!』
 かすかに手ぶれが感じられる赤いソファーの写真。その真ん中に、うっすらと、浮かれた顔でピースサインしているマオの姿があった。うっすらとしていて、透けていて、体を通して奥の景色が見える。しかもよく見たら、上半身しかなかった。下半身がぷつり、と切れている。マオのその、心底楽しそうな笑顔をのぞけば、怖い心霊写真といっても差し支えない、気がする。いや、考えようによってはこの満面の笑みは怖いか。
『やったね! 大成功っ! ありがと隆二っ!』
 歌うように言いながら、浮かれたマオがぎゅっと隆二の首筋に抱きつく。
「あー、まあ、よかったな。成功して」
『うんっ!』
 顔を離して、満面の笑みでマオが頷く。
 それから隆二からは慣れると、
『やっぱり強い思いを抱いているといいのねー!』
 くるくると楽しそうに宙を回転しながら言う。まあ、喜んでいるならなんでもいいんだが、ピースサインの心霊写真って、なんだよ。幽霊のスナップ写真か。
「強い思いって、なに考えてたんだ?」
 うっかり消してマオに怒られたりしないように、それ以上その画像をいじらないように気をつけながら、ふっと気になって尋ねてみる。
『賞金一万円っ!』
 マオが弾んだ声を出す。
「……賞金?」
『そー。採用されると一万円でねー。隆二にはいろいろよくしてもらってるし、あたしただの居候だし、バイトも出来ないからなにかないかなーってずっと思ってて。手に入ったら、隆二の生活にちょっとぐらい足しになるんじゃ』
 そこで、弾んだ声がぴたりと止んだ。くるくるまわっていた動きも止まる。後ろ姿のマオがゆっくりと振り返る。
『……聞いてた?』
 恐る恐ると言った感じで尋ねて来る。
「聞いてた」
 素直に一つ頷く。
 正直、驚いた。居候だからなにかしなくちゃ、とか、そんなこと考えていたのか。別に気にしなくてよかったのに。
 ちょっと意外で、どういう顔をしていいのかわからなくて真顔になってしまう。
 それをどう受け取ったのか、瞬時にマオの顔が真っ赤になった。
『違うのっ! テレビにでたかったの! それだけなのっ! 賞金とかついでなのっ! 別に隆二のためとかじゃないのっ!』
 あわあわと両手を彷徨わせながら、早口でマオが言う。
「え、あ、うん」
 こっちも事態の処理が追いつかなくて、適当な相槌になってしまう。それがますます、マオを慌てさせたようだ。
『本当っ! 違うんだからねっ!』
 恥ずかしいのかなんなのか。むきになって否定すると、
『お腹空いたからご飯食べてくるっ! エミリさんに写真の送り方聞いといてよねっ!』
 吐きすてるようにそう言って、ふいっと壁を抜けて消えていった。
 お腹空いたって昨日食べたばかりじゃないか。まったく、嘘が下手なんだから。
 思いながらも、気づいたら、知らずに口元が緩んでいた。それに自分でも驚きながら、片手で隠す。
 ああ、なんだ、可愛いじゃないか。
「ふーん、賞金ね」
 そんな風に役に立とうとか無理に考えなくてもよかったのに、と思う。だけれども、なにかしようと考えていてくれたことが、何故だろ、なんだか嬉しい。
「バカだなぁ、あいつ」
 ふふっと、らしくない笑いが溢れる。顔がにやけているのが自分でもわかって、我ながら気味が悪い。こんな緩んだ顔は絶対に見せられない。だから、気持ちが落ち着くまで帰って来るなよ、と居候猫に対して念を送った。

 

 マオが帰ってきたのは、たっぷり一時間後。Gナンバーのこともあるし、さすがに隆二が探しに行こうかと思った頃だった。
「遅かったな」
 心配していたことなんてちっとも見せずにそういうと、
『なんかお腹いっぱいにならなくてー』
 のんびり言われた。その設定、まだ守っているのか。
『あ、エミリさんに聞いてくれたー?』
「ああ」
 頷く。ちゃんとメールしてみたのだ。忘れているとマオうるさそうだし。
「次来たら、やってくれるってよ」
 メールで説明するのが面倒なので、と書いてあったことは忘れることにする。
『本当? やった、ありがと!』
 軽く手を叩き、マオが笑う。
「なぁ」
 その嬉しそうな顔に問いかける。
『ん?』
「もう平気なのか、嬢ちゃんのこと」
 ついこの前まであんなに怖がっていたのに。あの嬢ちゃんは研究所の中では、比較的、どちらかといえばまともな部類ではあるが、だからといって急に距離感を縮めすぎだろう、エミリさんエミリさんって。ちょっと前まで名前を聞くのも嫌がっていたのに。
『んー』
 マオはほんの少し表情を曇らせる。
『たまにやっぱりちょっと怖いけど。今、エミリさんがあたしに何もしないのは、そういうお仕事がないからであって、もしそうしろって命令されたら、エミリさんまた何かしてくるのかもしれないな、って思うことはあるけど』
「……ああ」
 それは否定できない。そして、命令に背けということを、エミリに願ってはいけない。それは踏み込んではいけない領域だと、弁えている。それが彼女の生き方なのだから。まあ、口八丁で説得もどきぐらいはするけど。
 それもマオは、恐らくなんとなくわかっているのだろう。決して賢い部類ではないが、勘が鈍いわけでもないのだ。
『だけど、でも、エミリさん、良い人だから。あたしと普通に話してくれるし、ケータイくれるし』
 ああ、やっぱりケータイのくだりは、影響力大きいんだな。幽霊にも使えるケータイあげるよ、とか言われたら、あっさり誘拐されるんじゃないだろうか、こいつ。
『あたし、研究所のことは大嫌いだしなくなっちゃえってずっと思ってるけど。エミリさんのことは嫌いじゃないよ』
 ほんの少しだけ、マオは微笑んだ。少し強張った笑みだけれども。
『隆二とね、テレビとね、このソファーと』
 一つずつ、指折り数えながら列挙していく。
『あと、それから京介さんの次ぐらいに、エミリさんのこと好き』
「……そうか」
 屈託なく言われた京介の名前に、一瞬どきりとした。現在進行形で京介のことを好きだと言う、マオの屈託のなさになんだか心が揺さぶられる。そうか、別に無理に過去の話にしなくてもいいのか。そんなことを思う。
 あと、テレビとソファーの順位高過ぎだろ。知っていたけれども。
『研究所は嫌いだけど、それとエミリさんは関係ないから、今は平気』
 マオは微笑んだまま締めくくる。
「そっか」
 変なこと訊いて悪かったな、と言いながらその頭を撫でる。くすぐったそうにマオが笑い、それでも素直に撫でられるままになっていたのが、
『ああっ!』
 突然くわっと顔をあげて大声をだした。
「うわっ」
 それに驚いて手を離す。
『大変っ! ミチコはじまっちゃうっ! 隆二、テレビ! チャンネル!』
 大慌ててテレビの前に座るマオに呆れながら、チャンネルを合わせる。
 なあ、さっきの好きランキング、やっぱり俺の上にミチコがいるだろ? そう問いかけたい衝動にかられる。ばかばかしいし恥ずかしいし、口にはしないが。自分の上には何もいないのが当たり前だ、と言っているみたいで、なんだか自意識過剰にもとれる。
 オープニングテーマを一緒に熱唱しているマオを呆れて見ながら、ソファーに腰をおろす。しばらくマオを眺めていると、ソファーに置いていたケータイが震えた。着信、進藤エミリの文字。電話ということは、さっきの無駄な質問とは関係ない、重要な用件ということだろう。
「嬢ちゃん?」
「エミリです。今いいですか?」
「ああ」
 さりげなさを装って、マオから離れ、キッチンの方に向かう。
「研究班から資料を奪いとったのでお伝えします」
 奪い取ったのかよ。
「ああ」
 冷蔵庫と棚の隙間に身を隠すように背中を預ける。こんなことしなくても、テレビを見ているときのマオが、隆二の会話に気をとめるとは思えないが。
「Gナンバーが消滅している原因ですが、原動力の回路に異常が発生したことです」
 エミリは淡々と言葉を重ねて行く。その冷静さが、今はなんだか安心できる。頭が冷える。
「Gナンバーの原動力はご存知のとおり、人の精気です。摂取したそれを存在維持に使う回が経年劣化といいますか。うまく処理できなくなってきたんです。人間でいうと、そうですね、消化器官に病気が見つかったようなものだと思っていただければ」
「ああ」
「もともと無理矢理作り出しているものですから、多少の齟齬がでてしまうのはしょうがないこと、だと研究班が言い訳していました」
「……しょうがないですますなよ、バカが」
「まったくです」
 本当に仲が悪いのだろう。身内のことでありながら、エミリが冷たく吐きすてた。
「原動力が上手く処理されない。エネルギーが上手く消費できなくなるんです。燃費が悪くなる、といいますか。だから眠って行動を抑制することになるんです。エネルギーの消費が最小限で済むように、と。あとは、食事の量が増えたり」
「……待て、今なんて言った?」
 聞き捨てならないことを言われた。
「食事の量が増える、と。……心当たりが?」
「……大ありだ」
 衝動に任せて舌打ちする。
 最近、こころなしか増えた気がする食事の回数。燃費悪いな、と揶揄したことを思い出す。さっきなかなかお腹いっぱいにならなくて、とか言っていたのも、家を出て行く言い訳じゃなくて本当のことだったのかもしれない。
「はやく言えよ」
 もう一度舌打ち。
「すみません」
「止めていたのは研究班だろう?」
 あっさり謝るエミリに、それはそれで拍子抜けしながら続ける。
 それに、気づかなかったのは自分の落ち度だ。ヒントに気づいていたのに、それを結びつけて考えることが出来なかった。
「ちょっとマオの様子見てくる」
 急に持ち上がった不安に、背中を離し、テレビの方を向く。
「……マオ?」
 そこに居候猫の姿はなかった。
「マオっ」
 鋭く名前を呼び、そちらに足を踏み出したところで、
『なぁにー。今テレビ見ているんだけれどー』
 マオの面倒そうな声がして、次の瞬間には、さっきと変わらない場所に座っているマオの後ろ姿が視界に入ってきた。
 突然現れた姿に、足が止まる。
「神山さん?」
 電話の向こうでエミリの怪訝そうな声。
 そこにいるはずのマオが、今、見えなかった。
 視認、できなかった。一瞬消えた。
 視界から。
 ぞっと肌が粟立った。
 存在が、揺らいでいる?
 視認出来なくなるほどまでに、存在が揺らいでいる。消えかかっている?
「マオ!」
 そのことに行き当たると、慌てて駆け寄り、その手を掴む。
 マオが驚いたような顔をしてこちらを振り向いた。
『え、どうしたの?』
「大丈夫か?」
『なにが?』
 不思議そうな顔をするマオに、どこか強張った笑みでなんでもないと告げると、少しだけ距離をとる。そして放置していたケータイを耳に当てる。
「どうかしましたか?」
 エミリの声がどこか焦ったように聞こえる。
「頼む、すぐに来てくれ」
 思ったよりもあっさりと、頼る言葉が口から出た。そのことに自分で驚く。ああ、自分が誰かをこんな風に頼るなんて。それも研究所の人間を頼るなんて。
「もうこの際だ、研究班も連れてこい」
 背に腹は代えられない。例え代償にどんな無理難題をふっかけられても、ここでマオを失うことに比べたら安いものだ。それだけはあってはいけない。
「何がありましたか?」
「一瞬、視認できなかった」
 一拍の間のあと、
「すぐに行きます」
 エミリがそう返事して、すぐに通話が切れた。
 エミリがきて、研究班もきて、それをどうマオに説明したらいいものか。ふっとそんなことが頭をよぎる。
 これ以上、起こっていることを隠し通すのは無理だろうか。
 腹立ち紛れに片手で髪をかきむしると、マオの方をふりかえった。
「……マオ?」
 こぼれ落ちた声が掠れる。
 さっきと同じ場所に彼女は居た。ただ、さっきまでと違うのは。
「マオっ」
 慌ててかけよる。
 いつの間にか、少し目を話した隙に、マオは丸まって眠っていた。
「マオ、マオ」
 揺さぶる。なんで起こすの! と怒鳴られてもいい。とにかく一度、目を覚まして欲しかった。
 テレビでは、疑心暗鬼ミチコがやっている。丁度、変身して戦闘の真っ最中だ。
 だって、ありえない。マオが疑心暗鬼ミチコの途中で眠るなんて、こんな一番盛り上がる場面で眠るなんて、そんなこと。あってはならない。
「マオっ!」


第五幕 猫眠、暁を覚えず

 ぷかり、ぷかり、と水槽の中に浮かぶマオを、食い入るように隆二は見つめていた。斜め後ろでエミリも心配そうな顔をしている。
 突然部屋に現れた、この人が一人入れるほどの大型の水槽。研究班が持ち込んだものだ。Gナンバーの研究に使っていたもので、研究所ではGナンバーはこの水槽、厳密には水槽を満たしている少し粘着性のある水の中で管理していたらしい。普通に外にでているよりも、身体にかかる負担は軽減される、と彼らは言っていた。嘘か本当か、調べる手段が隆二にはない。だから、素直にそれを受け入れた。藁にもすがる思いで。
 彼らだって、貴重な、この風変わりな実験体が無くなることは阻止したいはずなのだ。それだけは信じられる。それしか信じられない。
 白衣を着た研究班の人間は、三人来ている。しかし彼らは全員、ダイニングの方でなんだか不満そうな顔をしている。
 わざわざ呼び出されたから来たのに、着くなり、
「悪いが、研究班は信じられん。そっから先に入って来るな」
 などと言われれば当然のことかもしれない。
 だけれども、隆二としてもこれが精一杯の譲歩なのだ。本当は、研究班の人間なんて家にあげたくない。それでも、マオを助けるためには、家に呼ばざるを得ない。
 まったく忌々しい。背中に感じる研究班の視線に一つ舌打ちする。これで役に立たなかったら、覚えとけよ。
 ゆらゆらと、マオの髪の毛が水に浮かんで揺れる。
 今はただ、見守ることしかできない。
 人よりすぐれた身体能力があっても、傷つかない体があっても、無くならない命があっても、そんなもの、なんの役にも立たない。
 苛立ちは自分に向かう。やり切れない気持ちを、爪を立てて拳を握ることでどうにか堪える。ぷちり、と皮膚が裂ける音がして、
「神山さん」
 その腕をそっとエミリに押さえられた。
 少し後ろでエミリが首を軽く横にふる。
「……悪い」
 苛立つな、落ち着け。自分を責めるのは後にしろ。じゃないと大切なものを見落としてしまう。また無くしてしまう。自分にそう言い聞かせると、一つ深呼吸する。
 血がにじんでいる右手を、左手でそっと押さえる。手を離した時には、傷痕は綺麗さっぱりなくなっていた。
 水槽の中のマオに視線を移す。閉じられた目蓋。
 じっと見つめていると、やがて、ぴくりとそれが動いた。
「マオっ」
 硝子に手をあて、名前を呼ぶ。
 ゆっくりと瞳が開く。
『りゅーじ?』
 舌足らずに名前を呼ばれる。それに少しだけ安堵する。
「マオっ、大丈夫かっ」
 マオは自分の置かれた状況を確認するかのように視線を軽く動かし、
『いやぁぁぁっ!』
 自分の置かれた状況を理解すると同時に悲鳴をあげた。
『いやっ、やっ! この中は、いやぁっ!』
 ばしゃばしゃと両手を動かし、体を捻り、もがく。
「マオ!」
 慌てて上から手を差し込むと、腕を掴んでひっぱりあげた。
「あ、こらっ、勝手にっ!」
「動かないでくださいっ」
 なんだか文句を言いそうになった白衣を、エミリが睨んで止める。
『いやぁぁっ』
 白衣を見つけて、さらにマオが悲鳴をあげる。
「マオっ」
 落ち着かせるように抱きしめる。白衣から庇うように、自分の体をマオと白衣の間に滑り込ませる。
『やだっ、やだっ』
「大丈夫、大丈夫だからっ」
 怯えたように呟くマオの頭を撫でながら、何度も囁く。
 しばらくそうしていると、ようやくマオは落ち着いたようだ。そっと体を離し、視線を合わせる。涙に濡れた頬を片手で拭うと、
「落ち着いたか?」
 出来るだけ優しい声で問いかける。
『ん』
 マオは小さく頷き、それでも隆二の腕を掴んだまま離そうとしない。
『……なんでぇ?』
 一瞬水槽に目を落として尋ねてくる。上半身は外に出ているが、下半身は浸かったままだ。
『これ、嫌い……。思い出すから』
 研究所にいたころを、ということだろう。目覚めたマオが研究所のにいたころを再現させられたら、どういう気持ちになるか。考えなかった自分の迂闊さを呪う。だからといって、完全に外にでることを是とするわけにもいかない。
「説明するから。だから嫌かもしれないけど、ここからでないように。できるか?」
 泣きそうなマオの頭を撫でる。
「全部が無理なら今みたいな形でいいから」
 それでも多少はなにか違うはずだ。
『……手』
「うん、繋いでいるから」
 頷くと、頭を撫でた手はそのままに、もう片方の手でマオの手を握る。そうすると、マオは小さく頷いた。
「ん、ごめんな。嬢ちゃん、頼む」
「はい」
 自分がするよりも幾分マシな説明をしてくれるだろう。エミリに説明を託す。
 エミリはGナンバーの消滅が続いていたことと、その原因、マオに起こっていることを、極めて平易な言葉で説明した。完全な解答とは言えないかもしれないが、マオに理解させるという意味では申し分ない説明の仕方だった。
 マオはきちんと理解したらしい。
『……あたし、消えちゃうのぉ?』
 泣きそうな声で言われた言葉に、
「消えない」
 強い口調で言葉を返す。
 そんなことにさせないために、招きたくもない白衣を呼んだのだ。
「消えさせない」
 ぎゅっと握った手に力をいれると、思いは伝わったのか。マオが小さく頭を動かし、手を握り返してきた。

 エミリが振り返り、白衣に告げる。
「出番ですよ」
「……おまえら、人使いが荒いぞ」
 苦々しげに白衣が呟きながらも、それでも仕事はきちんとするらしい。
「今、エネルギーの状態は?」
 こちらにくるなという言いつけを守り、ダイニングから言葉を投げかけてくる。
「マオさん、今、お腹空いていますか?」
 それをエミリが優しく翻訳して問いかけてくる。
『……うん、空いてる。さっき食べたのに』
「そうですか」
 わかりました、とエミリは安心させるように微笑んで答え、
「足りないそうです」
 白衣の方を振り返ると、冷たく言った。そのエミリの態度にも何かいいたそうに白衣は口をひらいたが、結局時間の無駄だと思ったらしい。言葉を飲み込む。
 代わりに、
「なら、これを」
 ピルケースを投げて来る。エミリがそれを片手で受け取ると、説明を促すように白衣を見る。
「人の精気をつめたカプセルだ。研究所ではいつも使っているGナンバーの食事だ」
 エミリがそれを開けると、赤と白の二色になったカプセルがいくつか入っていた。
『……知ってる、それ』
 マオが小さく呟く。
『あのころ、ご飯はそれだった』
「そうですか。……なら、偽物というわけではないのですね」
「進藤、お前はこちら側の人間なんだから信頼しろよな」
 嫌そうに白衣が呟くのを、隆二達は全員スルーする。
「これを食べていたんですね?」
『うん。それだと一個で足りていた』
「なるほど、わかりました」
 エミリがちらりと隆二に視線をやる。指示を仰ぐように。
「あげてやってくれ」
 そう頼むと、
「わたしがですか?」
 意外そうに尋ねられた。
「……不満か?」
「いえ、ご自分でやらなくていいのですか?」
「両手塞がってんだよ」
 怯えたマオにしがみつくように握られている腕を見る。
「嬢ちゃんは信頼している」
 彼女はマオをG016ではなく、マオとして見てくれている。少なくとも、この件にかんしては、彼女は信頼できる。
 エミリは驚いたように一度目を見開いてから、
「……ありがとうございます」
 小さな声で呟いた。それからカプセルを取り出すと、
「はい、マオさんどうぞ」
 差し出す。マオが小さく口をあけたところに、それを放り込んだ。
 どういう仕組みなのか、エミリの手を離れ、マオの口に入ったところでカプセルは見えなくなる。
 こくり、とマオの喉が動く。
「いっぱいになるまで与えろ」
 白衣の声がとんでくる。
「マオさん、どうですか?」
 問われてマオが小さく首をふる。不安そうな顔をして。
『いつもなら、これでよかったのに……』
「大丈夫、まだあるから」
 それに隆二は優しく言葉をかける。それにマオが躊躇いがちに頷いた。
 大丈夫、と言いながらも隆二自身、不安が拭えない。ケースの中にはまだ沢山のカプセルが詰まっている。これでひとまず安定すればいい。
 けれどももし、これを全部食べても足りなかったら?
 自分で考えた想像に、背筋が凍る。
 ありえない。そんなことあってはいけない。
「どうぞ」
 エミリが差し出すカプセルを飲み込むマオを見ながら、万が一が起きないように祈る。
 最初のころは、まだ余裕があった。大丈夫だろう、という気がしていた。
 だけれども、カプセルの量が半分になっても、未だ何も起きないとなると、事情はかわってくる。
 マオはもう完全に泣き顔だし、エミリも眉をひそめたままだ。
『……ごめんなさい』
 マオが泣き声で呟くと、慌てたようにエミリが笑顔を作った。
「マオさんのせいじゃないですから、謝らなくていいんですよ」
『だけど、お腹いっぱいにならないから……』
「大丈夫です。はい、どうぞ」
 マオの頭を撫でてやりながら、隆二は黙ってそのやりとりを見ていた。ここまで、大丈夫、という言葉が白々しく聞こえることもない。
「……なあ、一応、念のために聞くんだが、これって、これしかないのか?」
 振り返って白衣に尋ねると、悪びれもせず頷かれた。
「この役立たずが」
 舌打ちする。
 それが不満だったのか、白衣が何か言おうとするのを睨んで黙らせた。さすが研究班、隆二の身体構造がどうなっているのかも、きちんと書面で理解しているらしい。立ちはだかろうなんていうバカな気は起こさない。
 隆二に立ち向かおうとする意思のある唯一の少女は、残り少ないカプセルを、ゆっくりとマオに差し出している。指先がかすかに震えている。
 食べても食べても、足りない。
 最後のカプセルを飲み込んだあと、
『おなか、すいた』
 マオが小さく呟いた。
 食べても食べても、満腹にならない。満足しない。
 食べた端から消費されている。ぎりぎり存在を保つのに使われているのだろう。ということは、今体内に残ったエネルギーがなくなったら、その時は?
「……あいつら全員捧げたらどうにかなんないかな」
 背後の白衣達を思いながら小さく呟く。
「足りないかと」
 意外にもエミリはそれを咎めはせず、ただ事実を突きつけて来た。
「例え、わたしをいれたとしても、足りません」
「嬢ちゃんを巻き込む気はないけどな」
 小さく呟くと、エミリは意外そうに片眉をあげた。

『りゅーじ?』
 マオの目が、とろんっとしてくる。
『……ねむい』
「待てっ」
 大声を出してそれを遮る。遮ってから、ああでも寝かせた方がエネルギーの消費が少なくなっていいのか、と思い直す。
 けれども、今マオを寝かせてしまうことは、一言で言ってしまえば、怖い。もうそのまま目覚めてこない気がする。
 マオが片手で目を擦る。眠気に耐えるように。
「ごめんな」
 その頭を撫でようとして、動かした手が、つっと宙を切った。
「っ!」
 隣でエミリが悲鳴を飲み込む。
 今、確かにマオの頭の辺りを触ったはずなのに、手は何も触れなかった。
 マオは気づいていないのか、ぼーっとしている。
 存在がまた揺らいでいる。
 一つ深呼吸をして意を決すると、もう一度手を動かした。
 今度はちゃんと触れた。
 頭を軽く撫でてから、その手を頭に置いたままにする。離すのが怖い。もう触れなくなってしまうんじゃないかと思うと、怖い。
 マオがもう殆ど何も言わないのは、限界に近いからなのだろう。
 エネルギーが足りない。ここにいる人間四人を使ってもまだ足りない。このままだと消えてしまう。
 居候猫が。
 それならば……。
「……わかった」
 自分にできることは一つしか思い浮かばない。
「じゃあ俺のをやるよ」
 マオがほんの少し首を傾げるが、言葉が届いているのかはわからない。
「神山さんそれはっ」
「黙れ」
 エミリの悲鳴のような言葉を低い声で遮る。
 不死者は死んでもいないが生きてもいないから、マオの食事に値するような精気はない。それでも、死んではないのだから、なにか、それに該当するものはあるはずだ。
「どれだけ摂っても死なないんだ。さすがにこれだけあれば、足りるだろう」
「でも……」
 そんなことをして無事で済むのかどうかはわからなかった。マオは救えないかもしれないし、本当にそれで隆二が死なない保証も実のところない。不死者の定義において、そんなこと想定していないから。それでも、なにもしないでただみているだけなんて出来なかった。
 だって、
「いやなんだよ、もう誰かが消えるとかそういうのは!」
 自分で思ったよりも大きな声がでた。
 だってもう、考えただけで耐えられない。
 隣でエミリが息を呑んだ音が聞こえる。
「マオ、お前、言っただろ!」
 うつろな目をしたマオの両肩を掴む。顔を正面から覗き込み、強い口調で告げる。
「隆二にはあたしがいるから大丈夫だって! いなくなられたら、駄目なんだよ! 約束しただろうが。約束は守らなきゃ駄目なんだろ」
 全部、お前が言ったことだ。
『……やくそく』
 マオの瞳が少しだけ動く。小さな声で言葉が漏れる。
「ああ、約束しただろう」
 それに力強く頷く。
「ちょ、ちょっと待てっ」
 ようやく事態を理解したのか、白衣達が動き出す。
「お前等何を勝手に決めているんだ! そんなこと許可する訳にはっ」
 さすがに放っておくことができないと思ったらしく、こちらの部屋に入って来ようとする白衣を、
「来ないでください!」
 隆二の隣にいたエミリが叫ぶことで遮る。そして、鞄から取り出した銃を、白衣に向けた。
「来たら、撃ちます」
「なにをっ!」
「本気ですっ!」
「進藤、お前自分が何をしているのかわかっているのかっ」
「こんなことしてどうなるか」
「前回の失態もあるのに」
「うるさい黙れっ」
 大声をあげる白衣を、それよりも大きな声でエミリが遮った。らしくない言葉遣いと剣幕に、白衣達が固まる。
「確かに、わたしはこの間失敗しました。あのときは救えなかった。……違う、救い方がわからなかった。でも、今回は違います。マオさんが消えるのを、このまま手をこまねいて見ている。それが間違っていることはわかる。ならば、わたしは、それに抗います」
 いつもと同じ、淡々とした、それでいて強い意志を感じさせる声でエミリは続けた。
「もう何も、神山さんから奪わせたりさせません」
 はっきりと言われた言葉に、息を呑む。ああそうだ、もう何も盗らせない。こいつらには渡さない。
「嬢ちゃん」
 何か言おうと彼女を見ると、
「はやくしてください」
 冷たく一言言われた。
 そのいつもどおりな態度に救われる。ほんの少しだけ、心にゆとりが戻ってくる。
 彼女の言うとおりだ。どうなるかわからない。それでも、今、マオがいなくなることよりも怖いことなんてなにもなかった。
「ちょっとまて、落ち着いて考えろっ」
「最悪、共倒れだぞ!」
 白衣の声。
 共倒れ? ああ、それもいいじゃないか。
 マオを守れなくて、それより先、生きることにしがみついている意味なんて、あるか?
 事態を理解するだけの頭が回っていないのか、ぼんやりとこちらを見てくるマオの頬に手を添える。
「大丈夫」
 小さく微笑むと、マオの唇に唇を重ねた。


第六幕 猫の毛並みを確認すると。

 ここは、どこだろう?
 どこだかわからない。ただ暗い場所に隆二はいた。
 視線の先、僅かな光が見える。そちらに向かって歩き出す。
「……?」
 視界の先に、人影。目を凝らす。
 肩より少し長い綺麗な黒髪、線の細いシルエット。見覚えのある柄の、着物。
「茜っ」
 名前を呼ぶ。叫ぶ。
 人影は振り返る。隆二のよく知っている笑顔を浮かべて。
「茜っ」
 駆け出す。
 手を伸ばす。彼女の右手を掴み、
「あかねっ」
 その瞬間、彼女は白い骨となり、闇の中へと崩れ落ちた。
 喉の奥で悲鳴があがる。
『りゅーじ』
 背後から舌足らずな声で呼ばれて振り返る。
「マオっ」
 ふわりふわりと、居候猫が浮いていた。
 よかった、マオはまだ居た。
「マオ……」
 手を伸ばし、マオの右手を掴もうとすると、
『大丈夫だって言ったのに、嘘つき』
 淡々とマオが呟き、その姿が掻き消えた。
 掴み損ねた右手。
「っ、マオっ」
「帰って来るって言ったのに、嘘つき」
『大丈夫だって言ったのに、嘘つき』
「嘘つき」
『嘘つき』
 声が責め立ててくる。
 姿は見えないのに声だけが。
「だからちゃんと見とけって言ったのに」
 別の声がどこかで囁く。
「京介っ」
 声をあげても誰の姿も見えない。
「嘘つき」
『嘘つき』
「嘘つき」
 やめろ、やめてくれ。頼む……。
『隆二の、嘘つき』

 

 

「やめろっ!」
 叫んだ自分の声で、目が覚めた。
 跳ね起きる。
 体がなんだか重い。
 ああ、くそ。嫌な夢を見た。
 っていうか、ここはどこだ。
 辺りを見回すと、そこは知らない部屋だった。ベッドに寝かされていたらしい。
 意識を失うまでのことを思い返し、
「マオっ!」
 自分が何をしたのかを思い出し、慌ててベッドから出ようとする。
 そうだ、彼女は、無事なのだろうか。
 嘘つき、と夢の中で責め立てていた声が蘇る。
 違う違う違う。あれは夢で。
 いつになく重たい体を動かし、慌てて足を床につけたところで、
「りゅーじ!」
 名前を呼ばれる。顔をあげる。何かがドアを蹴破るような勢いであけると、部屋に飛び込んで来た。
「隆二!」
 そのままぴょんっと跳ねるようにして、隆二に抱きついてくる。
 慌ててそれを支えた。
「隆二! 隆二!」
 何度も名前を呼びながら、隆二の膝の上に向かいあうようにして座り、頬をすり寄せて来る。
「隆二! 隆二! ありがとう!」
 顔を離して微笑んだのは、まぎれも無くマオだった。
「マオっ、大丈夫か?」
 その肩をつかみ、問う。
「うん! ありがとう!」
 嬉しそうにマオは頷いて、隆二の首筋に両手を回すと、頬と頬をくっつける。
「そっか、よかった」
 安堵の吐息。
 無事でよかった。
 本当に。
 彼女の髪をくしゃりと撫でる。指先に絡み付く、柔らかい髪の毛の感触。
 頬に触れる柔らかい感触。
 ……感触?
「マオ?」
「んー?」
 名前を呼ぶと、どうしたの? とマオが頬を離し、首を傾げてくる。
 その頬を両手で掴み、引っ張る。
「い、いたい……」
 柔らかい。
 ……柔らかい?
 マオの体をじっと見る。いつもの白いワンピースだけが見える。その後ろにあるはずの、自分の足とか、床とかが見えない。
 ……見えない?
 そういえば、こいつ、ドアをあけて入ってこなかったか?
 もう一度マオの顔に視線を移すと、ふふふ、っとマオは何かを企むかのように笑った。
「お気づきですか?」
 その声は、鼓膜を通して聞こえてくる。
「……もしかして、実体化してる?」
 恐る恐る問うと、マオは大きく頷いた。それから耐え切れなくなったかのように、もう一度首筋に抱きついてくる。
「もうね、超嬉しい! 隆二大好き!」
「いや、まてこれは」
 説明を求めるがマオは聞く耳をもたず、
「……神山さんが精気を与えたからですよ」
 代わりに声がした。いつの間に来ていたのか、ドアの横に赤いシルエット。
「嬢ちゃん……」
「エミリです。不死者の神山さんが与えた、人間で言うところの精気にあたる何かが、なんらかの形でマオさんに作用して、そうなったようです。詳しいことは、まだ調べていますが」
 エミリが一つ、溜息をついた。
「まったく、とことん規格外ですね、あなた方は」
 溜息と一緒に吐き出された言葉。以前マオのことをイレギュラーだと評された時は不愉快に感じた。しかし今は、規格外の言葉を不快には思わなかった。その規格外の指し示す意味は、実験体レベルで規格外ではなく、存在として規格外だと受け取れた。だから不快には思わなかった。
「……返す言葉がない」
 だって、我ながら思う。予想外にも程がある、この展開は。
 くすくすとマオが笑う声が、耳をくすぐる。ちゃんと聴覚器官を使って。聞き慣れた声のはずなのに、なんだか違うものに感じる。
「ここは、研究所か?」
「はい、そうです。あのあと、神山さんも気を失われたので運んできました」
「ああ、すまん」
「いえ、運んだのはわたしではありませんので。せっかく来たのですから、力仕事ぐらいはしてもらわないと、本当の役立たずですからね」
 そこで一瞬、エミリの唇が皮肉っぽく歪んだ。ああ、運んだのはあの白衣達か。
「……研究バカにそんな力あったのか?」
「大の大人が三人もいるんですよ。それぐらいやってもらわないと。ひーひー言ってましたけどね」
 エミリが軽く肩をすくめるから、それに少し笑う。それは少し見たかったかもしれない。
「さて、色々と今後についてなどお話したいことがあるのですが」
 そこまで言って、珍しくエミリは口ごもった。
 隆二にぴったり抱きついて、頬をすり寄せているマオを見る。
「……あるのですが、あとにします」
 僅かに頬を赤くして、彼女は言った。
「……なんか、すまん」
 幽霊だったときはなんでもなかったのだが、いざ実体化されるとこうべだべたするのが恐ろしく恥ずかしい。人前でいちゃつく若者みたいだ。俺は何をやっているんだ。
「いえ。マオさんの気持ちが落ち着いたころにまた伺いますね。とりあえず、お二人でお話もあることでしょうし」
 エミリは小さく首を横に振ると、隆二をまっすぐ見つめて一言告げた。
「ご無事でなによりです」
 それから隆二の返事もまたずに、部屋をあとにした。
 赤が視界から消える。
 ぱたり、とドアがしまった。部屋には二人だけが残される。

「マオ、離れろ、とりあえず」
 エミリと話している間もひっついたままだったマオに声をかける。
「えー」
 なんだか不満げな声が返って来た。
「話がしたい。隣座れ」
 そう言うと、しぶしぶとマオは隆二から離れた。が、隣には座らず、なぜかベッドに倒れ込む。それからなんだか楽しそうに枕をベシベシ叩き出した。なんなの、こいつ。
 例え実体化していたところで、行動は変わらず意味不明なままだ。
 そんな隆二を気にすることなく、マオは、
「ねーねー、あたし、戻っちゃうのかなー。どう思う?」
 枕を叩きながら問いかけてくる。
「……さあ?」
 実体化していることすらも想定外なのだ。その後のことなんてわかるわけがない。
「戻っちゃうなら、それはそれでしょうがないかなーとは思うけど。でも、その前にコーヒー飲みたいな! 隆二いれてくれる?」
「ああ」
「やった、楽しみ!」
 マオの浮かれた声。枕を抱きかかえ、ころんっとベッドの上を転がる。
「マオ、本当に大丈夫なのか?」
「うん! なんか変な感じだけど、平気! もうお腹も空いてないし、眠くもないよ!」
 よいしょっと、と体を起こしながらマオが笑った。
「そうか」
 それに安堵の吐息を漏らす。色々イレギュラーな事態だが、とりあえず彼女が今もここにいてくれることに安心する。
「消えちゃうことはないって、言われた!」
「……研究班にか?」
「ん」
 そこでとまどったようにマオは頷く。
「大丈夫だったか? 調べたとか、言ってたけど」
 さっきの白衣の姿を見ただけで、取り乱したマオの姿を思い出す。自分の意識がしっかりしていれば、ついていてやれたのに。悔しく思っていると、
「ん、怖かったけど。でも、エミリさんがずっとついててくれたから」
 マオが意外なことを言い出した。
「嬢ちゃんが?」
「そう!」
 そこでふふっと嬉しそうに微笑む。
「エミリさんがね、言ってくれたの。わたしが一緒じゃない限り、マオさんには指一本触れさせません! って。あのね」
 そこで内緒話をするように声を潜める。
「嬉しかった。守ってくれたみたいで」
「そうか」
 さっきも庇ってもらったしな。今度改めてお礼を言おう。覚えていたら。
 あの少女は破天荒で、ファッションセンスは壊滅的だが、悪い子ではないのだ。
「りゅーじ!」
 言いながらマオが背後から抱きついてくる。
 いつものことといえばいつものことなのだが、実体化されると気まずいな、これ。ちゃんと感触や体温、というものがあって。
 そのまま髪の毛をくしゃくしゃっとなで回される。
「マオ」
 咎めるというよりも呆れて名前を呼ぶと、
「髪の毛!」
 なんだか楽しそうに言われる。それは知っている。
 そのまま手を下ろし、今度は隆二の頬に触れる。指先でつっつかれる。
「……お前、何がしたいの」
「触ったらどんななのかな! ってずっと思ってたの!」
 テンションの高い声で返される。
 それですとんっと、腑に落ちた。ああ、そうか、彼女にとって触覚というのは、初めての感覚器官なのか。
 そう思ったらそれ以上強くは止められず、掴まれた指先をそのままにする。指と指を絡めるように手を繋がれる。嬉しそうに笑う。
「隆二の家の赤いソファー、あれは触ったらどんななのかな、楽しみ!」
 そんなに楽しみにするようなものじゃない。もう古いものだし、傷んでいる。それでも彼女はあれに触れてみたいのだろう。
「じゃあ、帰ったら、コーヒーいれてやるから」
「うん!」
「ソファーに座って」
「テレビ見ようね!」
 お決まりの台詞は満面の笑顔のマオが引き取った。
「ああ」
 頷くと、その頭をくしゃりと撫でた。柔らかい髪の毛が指先に絡んだ。



読者登録

小高まあなさんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について