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あらすじ

10話までのあらすじ

 

山形県高畠町に住む女子中学生「冬咲ぼたん」は亀岡文殊堂へ参拝に行った際、文殊様の使いと名乗る唐獅子のシンハと出会い、高畠町を守る美少女戦士ラクシュミーに変身することとなる。

高畠町を襲う怪物ダデーナーの攻撃にピンチになるぼたん、しかし謎の赤い覆面戦士や同じくラクシュミーに変身したいとこの「竹田千代」に助けられて高畠を守る戦いに勝利していく。

しかし、ある日覆面戦士とダデーナーを操る謎の男が同級生の「赤木」と「青木」であること、二人が共謀して自作自演劇を演じていたことを知り、ましてや心肺停止に陥った赤木を助けるために人工呼吸まで施したぼたんは怒りに震える。

しかしその後二人の自演劇の目的が、友達をつっくて孤独を解消するためと言うことを知り、また、転校続きで孤独のつらさを知る千代にさとされ、4人は友人として付き合っていくことを誓う。

赤木と青木が喜んだのもつかの間、謎の少女が青木をボタンの使う技に似た力でダデーナーのように浄化してしまう。少女の正体は岩井戸、千年前に生まれた最初のラクシュミーで、ある事件がきっかけで正気を失って弥三郎婆という鬼婆として伝説に残るその人だった。

青木は犠牲になったものの、何とか岩井戸の攻撃から逃げ出した一行。しかし赤木は自分の正体がダデーナーであることを知ってショックでぼたんたちの前から逃げ出してしまう。

再び現れた赤城は復讐の鬼と化し、自分の力を強化するためにシンハの力の源である文珠を狙ってぼたんたちに襲い掛かる。

説得の末共闘することになるが、親の引越しと言うことで千代が戦線から離脱することになったのであった。

 

詳しくは

まほろば天女ラクシュミー 1~8総集編

http://p.booklog.jp/book/57534/read

 

まほろば天女ラクシュミー 9話 ラフランスの男(仮)

http://p.booklog.jp/book/76691/read

 

まほろば天女ラクシュミー 10話 最後の戦い

http://p.booklog.jp/book/77788/read

 をご覧ください。

 

 


11話 本当の狙い

        1

 

 農機具小屋の二階のわたしの部屋。

小さな窓にピンクのカーテンをかけると、コート掛けに引っかかっているゲーセンでゲットした数年前に流行ったきのこのキャラクターのぬいぐるみを突っついてからコートをつかむ。

それをまとうと石油ファンヒーターの火を消し部屋の出入り口へと向かう。

 出入り口近くの靴置き場の近く、幼稚園のとき使っていたウサギの柄の毛布の入った段ボール箱の中で、正月の疲れが抜け切らないでいるシンハをおこさぬよう気を使いながらスノートレーに足を通す。

「じゃ、いってきます」

 電気を消してそうつぶやくとシンハの耳がピクリと動いた、が、また寝息を立て始めた。

 今日はおさいと焼きの日、古いお札や縁起物を屋代川の川べりに立てられた高さ10メートルにもなる円錐形のわらの塔に納めてお焚き上げをする日だ。

 このお祭りの取材ということで、各学校へと散った新聞部の面々が受験を控えているはずの部長に集められた。

なんでも、一連の騒ぎにふさぎこんだムードのこの町を元気付け、また印象を回復するには元気のあるところを発信するのが一番だという理由らしい。

お札や縁起物のお焚き上げがどうして元気につながるのかというと、その理由は縁起物の中にある大日如来尊の大わらじが関係してくる。

いつごろからははっきりしないそうだが、かつて鉄道や自動車などの無い時代、出羽三山への参詣客が今の宮城県七ヶ宿から二井宿街道を通って高畠へと下ってくるときに、旅の無事と健脚で居られるよう祈願して元町にある大日如来尊にわらじを奉納した。

昭和の時代になって大わらじを奉納するようになり、奉納する前、八月十七日の縁日のときにおみこしとしてお披露目をしていたが、ある人が「夏では面白くない、冬にやれないものか?」とか言い出し、厳冬期にバケツで水をかぶって「よし死なない」と、おさいと焼きの日とあわせてわらじみこしを担ぐこととなった。

かつては羽山若連、今では大日如来尊保存会の皆さんが「がつぎ」一般的には「まこも」というらしいが、水辺に生える草で編んだわらじはなんと約4メートル。みこしの重量は約四百キロにもなり、水をかけられるたびその重量が増していく。

おおよそ四十人ほどでかつくのだが、かつて友人に誘われて担いだお父さんいわく、寒さも重さもあいまって

「いやぁ、あとたくさんだ……」

とのことだった。

 

縁結びどおり商店街とまほろばどおり商店街の交差する信号から、消雪のために中央から水の出ている道路を東へ約300メートル行ったところに、高さ5メートルにもなる石造りの大日如来尊はある。その隣にあるクリーニング店が担ぎ手の控え室となり、その前にはすでにウマと呼ばれる台に載せられた大きなわらじみこしが準備されていた。

そしてなんだのかんだのいっても絵になる被写体のため、日下部君を含めた50人ほどのカメラマンがスタンバイしている。

そこからやや離れたところにフリースの上にナイロンのジャンパーを引っ掛けた部長が一人で立っていた。いろいろあって以降、実際に会うのは久しぶりだ。ほかの人がいないのは少し気まずい気もするが、

「どうも……」

 と、歯切れの悪い挨拶をする。

「やあ、ひさしぶり」

 と、今までと変わらないような挨拶を返す部長。だがわたしは心配で

「あの~、あの件ですけど……」

 と、ラクシュの正体について恐るおそるたずねる。

「ああ、あの件なら心配ないよ。ぼかぁ口は堅いんだ」

「ならいいですけど、その代わり……とかやめてくださいよ」

「見くびらんでくれよ、命の恩人にそんなこといえるもんか」

「スミマセン……」

 と謝るわたしに部長はンフフと笑った。

「ところで竹田さんは引っ越したって言ったっけか……」

「ええ……」

「それじゃぁ大変だ。ここだけの話、彼女もそうなんだろう? それと赤木君と青木君」

「……まぁ、あの……ご想像にお任せします」

「なるほどね……」

 にごした答えを肯定と受け取った部長は腕を組み、あごに手を当てると、

「う~ん、さっきはああは言ったけど、いずれ全部聞かせてくれないか?春からこの町で起きてきた事件のこと……」

 といってこちらを見た。

「キュリオシティ! 好奇心がおさえきれない」

「……考えておきます……」

 そういってわたしは視線をそらした。この件はそろそろ終わりにしとかないとめんどくさいことになりそうだ。

「そういえばほかのみんなは? 日下部君はあそこにいましたけど……」

 話題を変えるために質問をすると部長はまた腕を組んで

「吉田君はあの日の件がまだトラウマらしくてな、今日は来たくないって言ってた」

「そうなんですか……」

「で、赤木君だが……」

 そういったとたんクリーニング店の前がにぎやかになった。どうやら中から担ぎ手が出てきたようだ。頭にはねじり鉢巻、白い短パンに、足袋とわらじ、裸の上半身が見てるだけで寒そうだ。その中でもひときわガタイの良いのが一人、赤木君だ……

「部長、あれ……」

「ああ、今年は担ぎ手が少ないそうで目をつけられてな、で断りきれずに……てなわけだ」

「どごのあんちゃや?」

「なにスポーツしった?」

物怖じしないおじさんたちにぴしゃぴしゃと肌を叩かれ、何がしか声をかけられる赤木君は戸惑ったように背中を丸めていた。

 

        2

 

神事を済ませ、わっしょいわっしょいと威勢の良い掛け声とともに一度東と向かったみこしは、御入水地区の三叉路でUターンし再び町の中心部へと向かう。

三度目の休憩をとるのは、夏まつりそしてクラシックカーと騒ぎの中心になったいつものあの十字路だ。

ウマに乗せられたみこしを囲んだ担ぎ手たちの肌は上気して赤くなっている。震えながら体を温めるための日本酒を飲んだりタバコをすったり、あろうことか自らバケツを手に取り自身に水をかけている猛者までいる。

そんなにぎやかな一団から少し離れたところに赤木君は一人立っていた。

途中で買った缶コーヒーを片手にわたしは彼に近づいた。

「ハイ、ご苦労様。疲れた?」

「あ、うん、いや、それほどでも」

 赤木君ははにかみながらコーヒーのプルタブを開けた。

「俺は重さはそれほどでもないんだが、肩があわないって言われて……なかなか気を使う」

 そういってコーヒーをひとすすりする。

「うまい、温まるな……ありがとう……」

そういって彼は微笑むが、すぐに何か寂しそうな顔になる。

「……こんなに楽しくていいんだろうか?」

 彼がつぶやいた。

「どうして?」

「なんだか青木に申し訳ないような気がして……」

 そういって曇った空を見上げる赤木君。

「いろんな人に声をかけられて、成り行きとはいえ一緒にみこしを担いで、お互いを気遣いながら同じ事を成すために全力を出して力を合わせる……すごい充実感を感じるんだ……この場にあいつもいればいいのに……俺ばっかりこんな思いして……ほんとにいいのかなって……」

 赤木君の声が震えていた。寒さのせいばかりではないようだ。

「……いいんじゃないかな」

「え?」

 わたしの答えに赤木君がうるんだ目を向ける。

「いいのよ、青木君の分まで楽しむの。ほら、青木君ってまずは赤木君を人気者にして……なんていってたじゃない? 赤木君の喜んでるところを見たら青木君もきっと喜ぶと思うわ」

「……そ、そうかな……」

「そうよ、きっとそう」

 少しの沈黙の後にまだ不安げにたずねる赤木君にわたしははっきりと答えた。

赤木君の表情が少し和らいだ気がした。と、そこに

「お? あんちゃ、めんごい彼女いだんだな」

 と、一升瓶を持った担ぎ手のおじさんが近寄ってきた。

「え?」

「……か、彼女だなんて……」

 どうリアクションしていいかわからないわたしを尻目に、おじさんは紙コップに日本酒をついで赤木君へと差し出す。

「ほら、あったまっとぎコーヒーよりこいづでよぉ」

「だ、ダメですよ! 彼まだ中学生なんですから」

 あわてて止めに入る。

「お祭りだものいいべした、なんだって固い彼女さんだごど、こんじゃチューもさせでもらわんにぇべ?」

「チュ、チューぐらいもう……」

 といってハッとした。売り言葉に買い言葉、気づいたときにはもう遅かった。

 おじさんのニタニタといういやらしい笑みに耳たぶまで赤くなっていくのが自分でもわかる。

と、そのとき、悲鳴とただ事ではない喧騒が離れた場所で巻き起こる。

ダデーナーだ。

先ほどの酔っ払ったおじさんはあわてて逃げ出してしまった。

セクハラ地獄から免れたこのときばかりはダデーナーが仏様に見えた。

 

        3

 

 人目を避けて変身したわたしたちが現場にたどり着くと、大方の予想通り大わらじにダデーナーが取り付いていた。

ふらふわと宙に浮かぶ二足のわらじ。

なんとなく攻撃パターンが読める。

案の定つま先が上がって……ほらきた、人を茶色いカサカサ動く「アレ」に見立てたように叩きつけてくる。

余裕でバックステップでかわすが、その威力!アスファルトを叩き割り、その圧力で消雪用の水が一瞬まるで噴水のように3メートルあまりもの高さに噴き上がった。

いまだ起き上がってこないわらじに対して反撃を試みた赤木君がもう一足のわらじにはね飛ばされる。二足のコンビネーションプレイか……トゥインクルファウンテンの儀式のための時間作りのことを考えるとやりづらそうだ。

赤木君が倒れているため二対一になったせいか、わたしに対しての集中攻撃が始まった。

まるで巨人がステップを踏んでいるかのように今度は連続で叩きつけの攻撃を行ってくる。

とはいえ攻撃自体は単調で回避するのにそれほど苦は感じない。

何とか回避しながらファウンテンのための踊りを踊れないものかと思っていると、片方のわらじが最初のときのように大きく振りかぶった構えを見せた。

でもその場所は間合いが少し遠い。

一応どんな攻撃にも対応できるようにと、両足を肩幅に、かかとを少し浮かし腰を落として身構える。

振りかぶったわらじは回避する必要も無いほど前の道路を激しく叩く。

先ほど以上の衝撃が響き、叩いた地点から順に消雪の水が噴きあが

「んごおっほおぉおおぉおっっ!」

 

ありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえない

 

予想だにしなかった「ポイント」へ叩き込まれた攻撃の余波のせいで、わたしは海老反りになり、頭の中がその言葉だけで満たされた。

およそ人間のもっとも弱く敏感な部位を突然撃ち貫かれたわたしはまともに立ってはいられなかった。この小学生のいたずらのような攻撃を狙ってやったというのなら、このダデーナーはなんという変態なんだ……

そしてこの変態は、無論こんな無防備な体勢を待っててくれるほどやさしい相手ではなかった。

柔らかな草が素材とはいえたっぷりと水を吸って重量を増したそれは、すくい上げるようにわたしの体をとらえ、受身すら取れないわたしは体をバラバラにされるような痛みを感じながら空中へと放り上げられた。

はっきりしない意識でうっすら黄褐色のものが見え

「がはあっ!」

 打ち据えられたわたしはアスファルトへと叩きつけられ2メートルは跳ねた。

 

 気がつくとわたしは赤木君の腕の中にいた。

彼の視線の先を見ると、道路に折り重なっていた二足のわらじダデーナーが再びゆっくりと中に浮き上がっていく。

たぶん彼が抱きかかえて運んでくれなかったらわたしはあの下にいたのだろう。

 身構えようとして全身に激痛が走る。

 痛みにのけぞるわたしを落とさぬよう赤木君がしっかり抱きしめてくれる。

 どうやら状況は最悪らしい。

 わらじはくるくると回転していたが、突然フリスビーのようにこちらへ向かって突っ込んできた。

 赤木君が横っ飛びでかわしたので、わらじは背後の電柱をなぎ倒した。

着地点に時間差で襲い掛かってきたわらじも何とか飛びのいてかわす。

 普段のラクシュミーならなんて事のないこんな動きだが、抱きかかえられているだけでもワンアクションごとに痛みが襲ってくる。

 再び宙に浮きくるくると回りだすわらじ。それを見た赤木君はわたしを胸に抱きながら一目散に逃げ出した。

「だ…やっ……」

 ダメだよやっつけなきゃ、といいたいのだが言葉がだせない。

「しゃべるな!舌をかむ!」

 赤木君は信号のある交差点を左に折れ、屋代川の河川敷へと向かう。

 わらじのダデーナーが町を破壊するのではないかと不安に思ったが、幸か不幸か二足ともわたしたちを追いかけてきた。

 時折突っ込んでくるダデーナーを何とかジャンプでかわしながら河川敷を東へと向かう。

走りながらわたしの回復を待つつもりだろうか、それとも人気の少ない方へとおびき寄せて人や建物に対する被害を少なくしようという赤木君なりの気遣いなのだろうか、しゃべる余裕すらないわたしたちが向かう先にはうずたかく円錐形に積み上げられたおさいと焼きのわらの塔が見えてきた。

わらの塔とはいえ、その芯には木製の骨組みがある。そうでもなければ昨年一年飾られてお役目を終えたわらじが掛けられ、また頂上付近に大きなだるまをいくつか棒に刺して突き立てるようなこともできない。

そのわらの塔を赤木君はどういうわけか登り始めた。

追い詰められるだけではないかという不安がわたしの胸に渦巻いたが、体を動かせない以上彼を信じるほかは無い。

ついに頂上へたどり着き、さらにいちばん高い位置にあるだるまの上にバランスをとって立つ赤木君。しかし、すでにその少し上にはもうわらじが二足とも待ち構えていた。

「あの、盾みたいなやつは出せるか?」

「パリッチャ……」

 わたしはためしに気をこめる。何とかなりそうだ。

「何とか……」

「なら、合図したら全力で上に張ってくれ」

 答えようと赤木君の顔を見るとさらにその上、わらじが反り返っているのが見えた。

 なんとなく赤木君のしようとしている事を理解したその矢先、わらじがその体を叩きつけてきた。このタイミングだな。と思ったとたん

「今だ!」

 と、赤木君が叫び、同時に中に身を投げ出した。

 わたしは言われたとおりにパリッチャを張る。

 そこをダデーナーに激しく叩かれ、赤木君がクッションになってくれたとはいえわたしたちは地面に叩きつけられる。

 追撃が来るかと振り返ったその目に映ったのは、わらの塔の頂上付近に突き立てられただるまの串が幾本も刺さって身動きが取れなくなっているわらじダデーナーたちの姿だった。

「今がチャンスだ!」

 赤木君が叫ぶ、わたしは震える手を何とか胸の如意宝珠まで導くとトゥインクルロッドを出す。しかし、

「……ダメ、もてない……それに足も……」

 立ち上がることさえできないこの体では気を集中させるための儀式など……いずれ串から抜け出したダデーナーに叩き潰されてしまうのか……

 あきらめかけたそのとき、赤木君が向かい合うようにわたしの腰を抱き体を起こす。そして彼の大きな手でわたしの手ごとロッドを握る。

「俺がお前の手足になる。だから教えてくれ、どう動けばいいかを」

 赤木君の必死なまなざしがわたしの心に火をつけた。そうだ、あきらめるなんて馬鹿なことしてたまるか。ゴキブリ扱いされて死んでいくなんてまっぴらだ!

「ゆっくりと反時計回りで回って。急がないで、ゆっくり……ゆっくり……」

 回転は何とか赤木君に任せて、せめて手の動きだけでも正確に……

 やった、いつもよりゆっくりだけど力が満ちてくるのがわかる。

 わらじは?

いや、あせるな、ゆっくり、確実にだ。

チャンスは一度きり、慎重にそして確実に力をためるんだ。

いつもの何倍もの時間がかかったが気力が満ちた。

わらじは?

よかった、まだもがいてる!

「気力……充実……」

 わたしの言葉に赤木君がうなずく。

 二人で構えたロッドをゆっくりと、確実にわらの塔の頂上へと向ける。

「ラクシュミー……トゥインクル……ファウンテェエェエエェェェーーーーン!」

 叫びとともに輝く光がわらじダデーナーへと向かってのびる。

「ダデェエェェエェェェエェエエナァァァァァアアアアアアァァー…………」

 わらじダデーナーが悲鳴を上げる。

途中痛みで何度も意識が飛びそうになるが、そのつど赤木君がぐっと手を握ってくれて正気を取り戻す。

おそらくほんの十数秒やそこらだったのだろうが、悲鳴がやむまでがものすごく長い時間に感じられた。

 

               4

 

赤木君が拾ってきてくれた文珠は4つあった。

その文珠の残った力を使ってダメージを回復させると、人気の無い場所を探し変身をといた。

「あれ?」

「どうかしたか?」

 同じく変身を説いた赤木君が覗き込む。

「如意宝珠が……」

 なぜだろう、いつもなら変身をとくと不思議な力でシンハの元へと返るはずの如意宝珠が手に握られている。

 シンハが疲れきって寝てるから?

いや、なんだかわからないがすごくいやな予感がする。

コートのポケットをまさぐって携帯電話を取り出すと表示しきれないほどの着信履歴と留守電メッセージ、全部自宅からだ。

まさかシンハに?と思った瞬間携帯が鳴った。また家からだ。

「もしもし」

「あぁやっと出た、まず肝心なときに電話さ出ねんだがら……」

 電話の主はお母さんだった。

「ゴメ……」

「そがなごどよりお前の部屋大変なんだず! 竜巻来て農機具小屋のお前の部屋だげバラバラになったんだは。竜巻の中さ人影みだいな見えだがらお前だど思って、んだげんどお祭りさ行ってだがらど思って何べんも電話するのにさっぱり出ねくて……」

竜巻?

人影?

岩井戸!

「お母さん!シンハは?シンハは?」

「まずいいがら帰って来い! はやぐ顔見せで安心させでけろ~」

 お母さんの声が最後は泣き声になっていた。

 

 夕暮れも迫るころ家にたどり着くと、それは想像以上の惨状だった。農機具小屋の上半分が花でも開いたかのようにひろがっていた。

 気をつけながら階段を上ると何も無かった。学校の教科書はおろか、ピンクのカーテンも、きのこのぬいぐるみも、石油ファンヒーターも、ウサギの毛布も……果樹園のほうにがれきが散乱しているようだが、事実上、今わたしの身につけているモノを除いて全てが失われてしまっていた。

「シンハ!……シンハーーーーッ!」

 シンハがいない……まさか岩井戸に……と不安で胸が押しつぶされそうな気持ちになる。と、

「ぼーたーん、シンハちゃんこっちゃいだぞー」

 と、下から声がする。おばあちゃんがシンハを抱きかかえてくれている。

 わたしはあわてて階段を駆け下り、おばあちゃんからシンハを受け取る。

「よかった!息がある!」

 シンハはわずかながらも胸を上下させているようだ。

「なんだかシンハのうめき声っていうが、お前のごど名前呼んでるみだいに聞こえでよぉ」

 わたしはポケットから文珠を取り出すと、シンハの胸元に押し付けるように当てる。

 シンハはひとつ大きな深呼吸をすると、うっすらと瞳を開いた。

 その黒々とした瞳でわたしの顔を認めると、のどを詰まらせながら大粒の涙を流した。

 いつもとは違うそのシンハの様子に、わたしはいたたまれずにシンハをやさしく抱きしめた。

 

「なるほどねー、遂に動き出したってわけか……あたしがいなくなったとたんかぁ……」

 とりあえず寝部屋にと準備された客間で、電話越しの千代ちんの声は複雑そうだった。

「それで今はシンハ弱っちゃっててさ、話できる状態じゃないみたいなんだ。また詳しいことわかったら連絡するけど……」

「うん、待ってる。それにしても赤木君とのコンビもなかなか様になってるんじゃないの?」

「え?」

「部長がメールで写真送ってきたの、抱っこされてるトコ」

「だっ、だってあれマジでやばかったんだよ! 叩きつけられてから体まともに動かせなくなって。ファウンテンだって赤木君に手伝ってもらってやっと撃てたみたいなもんだし」

「ファウンテンを手伝ってもらった?」

「そう、ロッドも持てないから一緒に持ってもらって、体支えてもらって、おさいと焼きの塔に刺さったダデーナーに向かって一緒に……」

「なんだか想像してみたらさ、ケーキ入刀やキャンドルサービスみたいだね。初めての共同作業……みたいな」

「……なんで千代ちんはそっち方向に話を持ってくのよ!」

 わたしの反応に千代ちんはケタケタと笑っている。しかし、突然まじめな声になって

「二人とも絶対に死んだりしたらだめだからね。そんなことになったらあたし、悔やんでも悔やみきれないから……」

 と言った。

「千代ちん……」

 しんみりとした空気に、お母さんのいい加減に寝なさいというお小言が聞こえてきた。

 わたしは電話を終えるとまぶたを閉じる。

体は疲れているものの、様々な不安が澱のようにわたしの心にたまってしまい、その日はなかなか眠りにつくことができなかった。

 

         5

 

 翌日は学校を休んで、竜巻に吹き飛ばされたものを拾いに雪深い果樹園へと足を踏み入れた。

 何とか気持ちも落ち着いて、歩けるようになったシンハもわたしの後を付いてきた。

「岩井戸の本当の狙いは反魂の術で弥三郎達をこの世に呼び戻すことだったッハ。そのために如意宝珠を手に入れるのがこの春からの出来事の目的だったッハ」

 千代ちんが使っていた如意宝珠と今まで苦労して集めた文珠を全て奪い去ってしまった岩井戸は、東日本大震災の際に封印から目を覚ましたらしい。

 シンハを含む山形の神様たちが吾妻の山と奥羽山脈に瘴気、おそらく原発事故の放射性物質のことだと思うが、それを阻むために力を注いだ際に封印の力が緩んでこの世によみがえったと言うことだそうだ。

岩井戸はたくさん人の死んだ三陸へと渡り、無くなった人の戸籍を乗っ取って現代社会に溶け込んだという。

そんな中、岩井戸は反魂の術の存在を知ったという。

「反魂の術ってなによ?」

「反魂の術を説明する前にこの世の大まかな成り立ちを説明するッハ。この世は空〈クウ〉から色〈シキ〉が生じてまた空〈クウ〉に戻るッハ」

「どういうこと?」

「つまり人間には知覚しづらい大きな塊があると思うッハ、これが空〈クウ〉だッハ。生きとし生きるものすべてこの空〈クウ〉から生じて空〈クウ〉へと戻るんだッハ」

「? ?」

「反魂の術はこの空〈クウ〉へと戻った魂を再びこの世に戻す術のことだッハ」

「つまり生き返らせるって言うこと」

「そういうことだッハ」

「それのどこが問題なの?まぁゾンビみたいで気持ち悪い話だと思うけど……」

「死んだばっかりならまだそれほど問題は無いッハ、いや、過去には問題だらけだったと聞くけどッハ」

「どっちよ?」

「過去に起きた問題っていうのはゾンビみたいで気持ち悪いって言う問題だッハ。だけどこれから起こる問題はそんなレベルじゃすまない問題だッハ…」

「ゾンビレベルじゃないって言うと」

「空〈クウ〉へと帰った色、簡単に言うと魂は、再び空〈クウ〉とひとつになって、しばらくしたらまた色〈シキ〉、別の命となってこの世へと戻るッハ、俗に言う輪廻転生だッハ」

「うん、なんとなくわかる。魂が新たな体に帰ってくるのね」

「ただ、千年もたてばその魂はてんでバラバラになってしまうわけだッハ」

「?」

「たとえば缶コーヒーがあるッハ。それをもったいないけど流しに流すとするッハ。これを千年後もとの量きっちり同じものを缶の中に戻しなさいって言われたらできるッハ?」

「無茶よ!覆水盆に帰らずどころの話じゃないでしょ」

「そう、水分は汚水処理されたあと海へと流れて、蒸発して雨になって降り注ぐを幾度と無く繰り返し世界中に広がるッハ。たんぱく質脂質糖質そのほかミネラルも微生物に分解されて、食物連鎖に組み込まれて分子レベルで見れば同様に世界中へと拡散するッハ」

「うん」

「魂も同じだッハ、空〈クウ〉に帰った魂は、空〈クウ〉の中にすっかり混ざってしまうッハ。その後輪廻転生を繰り返して弥三郎や弥彦の魂は千年の間に今生きている人、いや人だけでなくすべての生き物に混ざっている可能性を否定できないッハ」

「なんかいやな予感がしてきたわ」

「千年前の魂をよみがえらせるということは、今ある魂からその部分部分を抜き取らなくてはならないッハ」

「そんなことしたら…」

「量によってなんともいえないけどある程度バランスが崩れるッハね」

「でもその程度、バランスが崩れるくらいですむなら……」

「いや、魂のバランスが崩れるって言うことは、心にゆがみができるって言うことだッハ。凶暴性を持ったり鬱になったり……」

「うへぁ……」

「それともうひとつの問題は、魂や体の再構築にかかるエネルギーだッハ。こっちのほうが直接的な脅威だッハ」

「エネルギー?」

「そう、さっきの缶コーヒーの例も常識的には無理でも、やろうと思って手間と暇をかければやってやれないことはないッハ」

「そりゃぁ、まぁ…」

「そのためにかかるエネルギーやお金がバカみたいにかかるだろうって言うのはぼたんでもわかるッハね」

「うん……」

「しかし、チンターマニがあればそのエネルギーを集めることもできなくはないッハ」

「……うん…ん? でもそれってまさか?」

「そう、千年前、岩井戸が病気に打ち勝つエネルギーを得ようとして、結果集落ひとつを壊滅させたあの方法だッハ。もし同じ方法を使って岩井戸がエネルギーを集めようとするのなら、千年も前の魂を三体も呼び戻すのに、この星の生命すべて、深海にすむ微生物までもが死に絶えてしまってもおかしくないくらいのエネルギーが必要になるッハ!」

「!?」

 あまりのスケールの話にわたしは言葉を失った。シンハはなおも言葉を続ける。

「ちなみに実際八十年位前に同じことをしようとした人間がいたッハ」

「だれなの?……」

「アドルフ・ヒトラー……ぼたんも知っているッハ?」

「そりゃ、さすがに……」

 とんでもない名前に呆然とした。

「オカルトに傾倒したヒトラーはある一人の人間をよみがえらせようとしたッハ。彼の名前はイエス・キリスト」

「キリストぉ!」

 さらにとんでもない名前に叫ばずにはいられなかった。

「そうだッハ、二千年前の人間をよみがえらせるため、ヨーロッパでは賢者の石と呼ばれていたチンターマニを奪おうとして、あるジプシーの司祭を追いかけてポーランドへと侵攻したッハ。その後彼の後を追うように、フランス、そしてソビエトまで手を伸ばしたッハ。国としての安全保障もさることながら人類全ての命運がかかっている事案だッハ。真実を知る秘密結社の幹部は各国代表にこれを止めるように密命を出したッハ。これが第二次大戦の原因だッハ。ちなみにこのとき動いたのがユダヤ教徒で、そのせいでヒトラーに弾圧を受けたんだッハ」

「……ちょっと、何で仏教系なのにキリスト教徒やユダヤ教徒のことを……」

「ぶっちゃけるとブラフマンもヤハウェも全て空〈クウ〉だッハ。ギリシャ神話の混沌〈カオス〉や日本神話の国生み、あとは俗っぽくなるけどクトゥルフ神話のアブホースやウボ=サスラあたりを想像するとわかりやすいかも知れないッハ」

「ごめん、最後のよくわかんなかった…」

「最後のはどうでもいいけど、こういうのはある程度偶像化しないと人間にとって理解するのが難しいんだッハ。日本人にいちばんわかりやすい解釈は手塚治虫の火の鳥かも知れないッハね。結局は捉え方の違いで言葉が違うだけなんだッハ」

 この町の話だけのことと思いきや、突然世界規模の話になって頭がどうにかなりそうだ。

「岩井戸は去年の正月、僕からチンターマニを奪おうとしたッハ。しかしそのときは見つけることができなかったッハ。そこで彼女はダデーナーを生みだしたッハ。ダデーナーが暴れれば僕がラクシュミーを生み出す。そのときチンターマニがこの世に現れると読んでの行動だッハ。そうして生まれたのは結局赤木と青木だったけど、結果オーライでこの町に混乱が生まれたッハ……」

「……そしてわたしがラクシュミーになった」

「そう、でも僕が用心のためにチンターマニを都度つど回収していたから岩井戸もなかなか手をだせなかったッハ……そこに千代もラクシュミーになった……」

「千代ちん……」

「千代がラクシュミーになって岩井戸はその素性を調べたッハ。そして作戦を変更したッハ」

「作戦を変更?」

「つまり恐怖心を煽るという作戦だッハ。夏まつりで暴れて、クラシックカーで暴れて、学校で暴れて、この町にいると娘に危険が及ぶ。そう千代の父親に意識付けたッハ」

「お父さんに?」

「千代の父親は転勤族だッハ。仕事はもとより家族の命を大切にするはず。読みどおり僕がお正月で消耗するというばっちりのタイミングで引越しを決意したッハ」

「……」

「それからはぼたんも知ってのとおりだッハ。町で陽動作戦をしている間に無防備な僕を襲ったッハ。結果こんなことになって……ぼたんには、本当に申し訳なく思うッハ……」

 そういうとシンハは声を詰まらせて嗚咽を漏らし始めた。

「世界の危機とかそんな話に比べたらわたしの部屋なんてすごくちっぽけなことよ、気にしないでシンハ……」

 と、フォローはするものの、その後は二人とも押し黙ったまま黙々と作業を続けた。

 

 あらかためぼしいものは拾い集め、雪も落ちてきたので昼には少し早いが家へと戻る。

とりあえず寝部屋にと準備された客間に向かう廊下で、おばあちゃんが聴いていたラジオの声が耳に入った。

『変えられることは変える努力をしましょう。変えられないことはそのまま受け入れましょう。起きてしまったことを嘆いているよりも、これからできることを皆で一緒に考えましょう』

 これからできること……いったい何ができるんだろう……

 この町を守る戦いから、この星を守る戦いへ……突然にスケールが大きくなってしまった。

 とはいえ、やることは変わらない。

岩井戸の居所を突き止めて計画を何とかしてやめさせる。それだけだ。

 そういえばその計画とやらはいつまでに完成されてしまうのだろう。不安を感じてシンハにたずねる。

「僕の見立てでは二ヶ月はかかるッハ。如意宝珠にはコンピューターで言うところのプロテクトをかけているッハ。プロテクトをはずしてフォーマットして、岩井戸が使えるようになるまでそのくらいはかかると思うッハ」

「二ヶ月……それがタイムリミット……」

 おそらく長いようで短いんだろうな……とはいえ、最初に考えていたよりも余裕はあるような気がしてきた。

 ともあれ腹が減っては戦はできぬ。いい考えもまとまらないだろう。

「お母さーん、お昼なにー?」

 わたしは台所へとかけこんだ。

第十一話 了


おまけ

先日いつも舞台になる「縁結び通り商店街」で第1回わんにゃんペット祭りが開催されました。

あいにくの雨天にもかかわらず多くのお客様にご来場いただきましてまことにありがとうございました。

その会場にて、上記商品を見つけました。

わんちゃんを飼ってる方用の商品開発ということで実行委員会のほうで企画して

ファインさんに作ってもらったそうですが、おれまかメンバーはシンハのおやつと呼んで大喜びでした。

ためしに一袋買って食べましたが、実際わんちゃん用に薄味仕立てでしょうゆが欲しかったです。


奥付

ちょこぼーる加藤の本

 

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著者 : チョコボール加藤
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