閉じる


<<最初から読む

8 / 22ページ

ふかん

ふかん

かんきつ

 

「次の人」

 ……頭が痛い。

「次の人!早くしてくださいよ!」

「……誰ですか」

「神です!」

「はいはぁい、それで何の用でございましょうか」

「とりあえずあなたを裁きます!」

「やっぱ死後の世界とかそういう奴ですか」

「はい、そういう系です。理解が早くて大変助かります」

「それはどうも」

「と言うことで裁判を始めます。……はい終わりましたー」

「ずいぶん早いんですね」

「ま、自殺者は増える一方ですからねー」

「ありゃ、私は自殺ですか」

「あっ」

「あっ、じゃないですよ神様。何をやっているんですか」

「まあ、あなたに対しては言ってしまっても問題ないッスけどね」

「何それ怖い」

「まあそんなたいしたことではないです」

「ちなみに何自殺だったんですか」

「あなたは地獄にも天国にも行きませーん!」

「教えてくれないんですね……。ていうか、やっぱそういう概念もあるんですか」

「あなたには関係ない話ですがね、ありますよー。どっちも良いところですよー」

「それはそれでどうなんだろう……」

「それで、あなたの処遇ですが」

「はい」

「私の息子の秘書をやってもらいます」

「いいんですか、自殺者がやっても」

「あなたなら、きっと向いてますよ」

「そんなもんですかね」

「神職ですからね、あなた程度に心が死んでる方がいろいろ都合がいいんですよこれが」

「神職、って表現で良いんですかねそれは……。それより心が死んでるとか失礼じゃないですか」

「事実ですしねぇ」

「事実ですかぁ」

「ということで、明日からお願いしますよ、『シキミ』さん」

「それが私の名前ですか」

「生前の名前じゃなくて、今考えた名前ですけどね」

「……それはそれは。どうも」

 

       ◇

 

 私は扉の前に立っていた。

 ……神の息子の部屋が、こんな安っぽい扉で良いのだろうか。

 この部屋で合っているのやら不安になるレベルで安っぽい。

「どうぞ入ってください」

「あ、はい」

 促された。

「今日から秘書になる人だっけ?よろしく」

「どうも」

「あなたで6785267869人目だね」

「そうなんですか」

「いやー皆すぐに心病むんだよねー、風土が合わないんだろうね、全然」

「……ああ、そういうことだったんですか」

「え?」

「ああ、神様に『心が死んでるから向いてる』って言われたんですよ」

「うげ、初めて会った人にそんな事言ったんですか親父」

「ええ」

「さいですか」

「さいです」

「なんかごめんねー。そうだ、俺はサカズキって言うんだ。あんたはシキミさんだっけ?」

「そういうことになってます」

「じゃあ、明日からよろしくお願いします」

 今日が、その明日なんじゃないだろうか。それとも、お目通しだけって事だったのか。

 

       ◇

 

「半島という半島をちぎりたい……」

「何言ってるんですか唐突に」

「いや、だってあれ、なんか中途半端に突き出てて気になるじゃん……」

「一応、人間とか住んでるんですから、自重してください。神様にばれたら面倒くさいことになると思います」

「いやでも、あの形何なの……。あんな地形作った奴誰だよ!出て来いよ!」

「あなたの親父様じゃないですか。どうでもいいから仕事してください」

「そうだよ親父だよ……。というか親父だって大陸引きちぎって七つ位に分けたじゃん!」

「それとこれにどんな因果関係があるんですか」

「おれだってちぎっていいんじゃね?」

「親父様のあれには必要性がありましたが、あなたのそれにはまるで無いじゃないですか」

「でもちぎりたい」

「やめてください、千葉県石川県長崎県鹿児島県の面積が激減します」

「じゃあアラビア半島で妥協してやるよ」

「何を得意げにしているのか私には理解できません。世界最大の半島ちぎるとか、影響絶大すぎます。まず世界を牛耳ってから好きに天地創造すると良いと思います」

「けちくせー」

「甘さもまとめて死んでますからね」

 

       ◇

 

「よく保つねぇ」

「何がですか」

「息子の相手」

「そんなに大変ですか」

「大変でしょう、そりゃあ」

「6785267869人目って言われました」

「そんなにいたのかぁ、感慨深いな。なんかちょっと申し訳なくなってくるね」

「はぁ。それで何のご用でしょうか」

「ちょっと蘇我入鹿暗殺してきて」

「もう死んでるんじゃないんですか」

「天界だから、時系列はぐちゃぐちゃなんだよ。ちなみに蘇我入鹿が暗殺されるのはこれで7834回目かな。ヒトラーは298回、家康は61回、ケネディは13回」

「ケネディ大統領、思ったより死んでないですね」

「そこまで時代が進まないし、何より死ぬべき人じゃないしねぇ」

「家康は?」

「どっちでも良いんじゃない?とりあえず蘇我入鹿やってきてよ」

「なにでやるんですか?」

「弓矢」

「引いたこと無いです」

「どうにでもなるから」

「私がいない間、サカズキさんの秘書はどうするんですか」

「時間止めとくわ」

「わかりました、行ってきます」

「お気をつけて」

 どうにでもなると言うのに。

 

       ◇

 

「中臣鎌足も巻き添えで射っちゃったんですが」

「かまわないよ」

「そうですか」

「たぶん、決まってた事なんじゃないかなぁ」

「自信が持てないんですか」

「この世界はそろそろ私の管理を離れたがってるねぇ」

「どうするんですか」

「息子に任せるよ」

「私は」

「引き続き、秘書でお願い」

「了解しました」

「あー、今生の別れだね」

「そうですね」

「君の心、死んだままだったねえ」

「その方が都合が良いのでしょう?」

「そうだねぇ、はっはっは!」

「それでは」

「ばいばーい」

 

       ◇

 

「ということで、あなたが神になりましたが」

「感慨深えぇー!」

「そんなもんですか」

「そうだろ、これで好きなだけ天地創造できるぜ!半島だってちぎれるぜ!」

「あなたはまだそれを言いますか」

「まずはカムチャッカ半島だな!」

 

       ◇

 

       ◇

 

「記録はこんなもんでよろしいでしょうか」

「よろしいんじゃない」

「では、来世でもよろしくお願いします」

「まあ、健全な肉体にもすっかすかの心は宿るからね、また会えるだろーね」

「こういうときは、『楽しみにしてます』って言うんでしたっけ」

「そう、それで正解」

 


帰り道

帰り道     ツナマヨ

 

 

空からは水滴が

ポタリポタリ

 

 

部室を一人で片付ける

つもり

鍵をもらいに

職員室へ

 

 

鍵がない

そんな現実を受け入れる

 

 

水滴無視して

走る

 

部室に向かって

走る

 

 

鍵は空いていた

 

 

ドアノブひねり

中へ

 

 

タオルを首にかけた

マネージャーが

振り向いた

 

 

自然と笑みがこぼれる

 

 

一瞬で心が満たされる

 

 

 

 

 

 

 

帰路には傘をさす

二人の影が

伸びていた


五時間目

五時間目     加藤

 

 

チャイムが鳴る

席には着かない

やつはまだ来ない

 

やつらはサルだ

騒ぎ、食い、寝る

上裸が目に入る

 

方程式より弁当だ

実験よりゲームだ

音読より睡眠だ

 

弁当より方程式だ

ゲームより実験だ

睡眠より音読だ

 

チョークが耳障りだ

板書が目障りだ

やつが癪に障る

 

会話が耳障りだ

スマホが目障りだ

やつらが癪に障る

 

チャイムが鳴る

ノートは真っ白

気分は爽快

 

黒板は真っ白

気分はどんより

チャイムが鳴り終わる

 


新     ツナマヨ

 

 

春から始まる

新しい生活

 

新しいものを

買いそろえる

 

新しく始まる

新しい生活を

新しい気持ちで

新しく迎える

 

ワクワク感

 

始めて教室に入る

その瞬間

ある気持ちが

自分の脳裏を横切る

 

―トモダチ デキルカナ―

 

不安と―

不安と―

 

ドキドキ感

気持ちがいっぱいの中

 

続いてやってくるのは

センセイ

優しいセンセイ

怖いセンセイ

面白いセンセイ

はたまた

大きいセンセイ

男のセンセイ

 

どんなセンセイが

やってくるのか

 

心配で―

心配で―

 

心の中は

 

ドッキンドッキン

バックンバックン

 

高鳴りしている

 

ガラガラッガララッッ

 

ドア開いて

新しいセンセイがやってきた

 

見た目は怖い―

 

けれど

 

だんだん話していくと

心は落ちついてくる

 

なんだか

優しいセンセイに

思えてくる

 

 

朝が過ぎ

期待と不安が入り混じった

昼がやってきた

 

 

なぜかって…

給食だからさ

またある気持ちが

自分の脳裏を横切る

 

―キライナモノ デルカナ―

ふと見た空は

雲でいっぱいだった

 

 

給食の時がやってきた

 

 

危うく

キライナモノは

無かった

 

少し

ホッとした感に

おおわれた

 

あたたかい

あたたかい

やわらかな

陽射しで

 

ドギマギしたまま

生活してたら

 

続いて帰るときが

やってきた

 

そしてまたまた

ある気持ちが

自分の脳裏を横切る

 

―ヒトリデ カエルノカナ―

 

もう一つの気持ちも

自分の脳裏を横切る

 

―トモダチト カエリタイケド

                トモダチ イナイシナ―

 

不安

不安

不安の

気持ちだ

 

 

センセイの声が鳴り響く

 

―サヨナラ―

 

普通の挨拶だが

突き放されるように聞こえる

 

―トモダチト カエルンダヨ―

(ト、トモダチッ!?)

 

僕はトモダチなんていません

 

そう言ってやりたかった

 

でも

言えなかった

 

空がまた曇り

太陽が雲に負けていた

 

その瞬間

 

―ネェ イッショニ カエロ?―

 

言葉が出なかった

なんと言い返そうか

というより

自分に向けて

言われた言葉なのか

 

口が勝手に開いた

 

―イイヨ―

 

自分でも訳がわからない

さっぱりわからない

 

なぜ言ったのか

なぜ口が開いてしまったのか

 

トモダチではないのに

トモダチ扱いされたのは

 

初めてだった

 

 

楽しい時間が過ぎ

家へたどり着いた

 

母がいた

 

いつもとは違う

優しい目をしていた

 

今日の出来事を

隅から隅まで伝えた

 

伝え残すことなく

伝えた

 

夕方

外へ出た

 

みんなが歌っていた

 

新しい草が

新しい森が

新しい川が

新しい山が

新しい風が

新しい海が

 

そして

 

真っ赤な

真っ赤な

新しい夕陽が

 

僕のために

歌っていた

 

僕は

新しい月と星が

歌うのを待っていた

 


被害者のアリバイ

被害者のアリバイ     星野徹

 

 

 1・アリバイの作成

 酒井俊二は目の前にそびえたつマンションを見上げ、小さくため息をついた。ここはX川で有名なS県K市郊外に位置する、再開発計画がばっちり頓挫した街角。まわりには見るからに安そうなボロマンションや、わりと高そうなボロマンションが並んでいる。香川晴美の安マンションは、その中間といったところだ。

 時刻は夜中の1時ちょうど。俊二は周りに人がいないのを確かめ、晴美のマンションの向かいに立つほとんど壊れかけた家の影に隠れた。晴美によるとこの家は何年も前から空き家で、茂みが生い茂っているため隠れるのにもってこいだ。しかもマンションに出入りする人間がよく見える。

 時間が時間なので人通りはほとんど無かったが、目的の人物は意外とすぐに現れた。

 1時16分、まっ黒なスーツに身を包んだ晴美が、同じく黒いハイヒールの音を響かせながらこちらへ歩いてきた。

 晴美は俊二が空き家に隠れているとはつゆ知らず、そのままマンションの自動ドアをくぐった。

 とその時、晴美が振り向いて俊二の隠れる方を見た。

「ば、ば、ばれた!」

 俊二はあからさまに動揺し、全力で頭を下げて茂みに体を隠した。しかしそこは頭隠して尻隠さず。頭を下げた分、下半身がばっちり茂みの上に出てしまった。俊二は急いで地面に這いつくばり、マンションの方を伺う。

 といっても、あせっていたのは俊二の方だけ。晴美は俊二に気付いたようには見えず、ロビーの奥へ歩いて行った。

「まあ、これくらい想定内さ……」

 別に誰も見ていないのに、俊二は先ほどの動揺をごまかすために精一杯胸を張り歩きだした。

 

 人通りのない道を急いで横切り、マンションの正面に立つ。そして、自動ドアをくぐると俊二は忍び足で右側の壁に体を押し付け、ゆっくりと動き出した。

 壁に張り付くように歩く俊二の真上には、一台のまっ黒い機械、防犯カメラ。二年前に管理人が取り付けたというカメラだが、ここの管理人はよっぽど適当な人だったらしい。実はこのカメラ、設置する時に角度を間違えたらしくロビーの左側しか映っていないのだ。

 これは晴美が言っていた話だが、管理人は七、八〇歳のおじいちゃんで、色々と不器用な人なのだ。機械いじりが苦手でよくぶっ壊すらしい。まあ、そのおかげで俊二は今回の計画を思いついたのだが。

 とにかく、俊二は防犯カメラに映ることなく五メートルほど進んで体を壁から離した。

 そして廊下をまっすぐ進み、右側にある銀色のドアが晴美の部屋だ。ドアにはローマ字でHARUMI KAGAWAとピンク色で書かれている。

 俊二は少しのためらいを振り捨て、急いでドアノブに手をかけた。ここで時間がかかっては計画が台無しだ。

 部屋に入り、廊下の先の正面にあるドアを開ける。

 晴美はリビングのソファに座ってテレビを見ていたが、俊二がドアを開けるとすぐにこちらを振り向いた。いきなり人が入ってきて一瞬驚いたような顔をしたが、俊二だとわかると安心したようだ。

「あれ、俊ちゃんどうしたの?」

 満面の笑みで聞いてきた。俊二には、その笑顔がなぜか不気味に思えた。テレビではどこか見たことのある芸人がバカみたいに笑っている。

 色々晴美に言いたいことはあったが、なにせ時間がない。

「ごめんな、晴美」

 そう言うと俊二はズボンのポケットからロープを取り出し、晴美に襲いかかった。晴美は何が起こっているのか理解できないのか抵抗してこない。

 ソファに座る晴美の首の後ろからロープを回し、全身全霊の力を込めて引っ張る。晴美はやっと身の危険を感じ暴れ出したが、小柄な晴美を抑え込むくらい俊二には余裕だった。

 そして数秒後、驚くほどあっけなく晴美は動かなくなった。

「やっぱり殺しは絞殺が一番だったな」

 俊二は微動だにしない晴美の死体を見おろし、そうつぶやいた。以前、俊二が推理小説を読んでいたときに晴美が言ったのだ。

「撲殺とか刺殺とかって血がでるから嫌だよね。もしやるなら絞殺が一番だよ」

 それを笑顔で言われたときは不気味に思った。しかし、実際にやってみると確かに絞殺は実に簡単で、むしろ人を殺した、という感覚もあまり感じないくらいだ。

 ただ、計画はここからが重要だ。俊二は晴美を殺したが、もちろん俊二は捕まりたくない。そこで必要なのが、アリバイ作りだ。アリバイさえあれば、どれだけ怪しくても逮捕されることはない。

 俊二は急いでロープを回収し、晴美の部屋から出た。腕時計を見ると時刻は1時22分。良いペースだ。マンションの廊下をダッシュして、ロビーもさっきと同じように壁に張り付いてすりぬける。

 そしてマンションを出ると、向かいの空き家のとなり、工事中と書かれた空き地の中へと入って行った。ここも空き家と同じように、何年も前から「工事中」なのだそうだ。この奥には俊二のまっ黒い愛車が停めてある。闇の中で、黒い車は全く目立たない。

 車に乗り込んだ俊二はすぐにエンジンをかけてゆっくりと発車した。もっとスピードを出したいが、この空き地は地面が滅茶苦茶に荒れているので下手すると車が壊れる。

 途中トランクの方からドン、と音が聞こえた気がしたが、車は無事に空き地を出た。

 そのとたん車は猛スピードで動き出し、道をM市の方向へと走っていった。

 

 M市はK市のとなりに位置しており、俊二の住むアパートがある。

 ただ、K市のとなりといっても実は行き来にかなり時間がかかる。K市とM市の間には有名なX川が流れており、しかも橋が2本しか架かっていないのだ。もちろん橋を増やす計画はあったのだが、最近の不況で頓挫したらしい。実に不便だ。

 よって晴美のマンションから俊二のアパートへと行くには橋のある道へと大きく迂回しなければならず、車で少なくとも50分はかかってしまうのだ。直線距離にすれば車で30分くらいの距離なのだが。

 さて俊二の車はというと、橋のある方ではなく、まっすぐアパートの方へと向かっていた。もちろんそのままではX川にぶつかってしまう。

 10分ほどすると、俊二の前にはやはりX川が見えてきた。当然車はストップする。と思いきや、何とスピードを上げ始めたではないか!

 X川に向かって全力疾走する車。と、車の前方に見えたのは二つのゆるい滑り台だった。もちろん俊二が先ほど、晴美のマンションに向かう前に設置したものだ。木でできた二つの台の幅は車のタイヤの幅と同じにしっかりと固定してある。

 それから何が起きたかはもうおわかりだろう。

 俊二の黒い車はジャンプ台に猛スピードで突っ込み、華麗に夜の闇を舞ったのだった。

 

 数分後、俊二の車はM市の道を無事に走っていた。計画の最も重要な、そして最も無茶な部分が成功し、俊二は胸をなでおろしていた。

 車でX川を飛び越えられるのではないか、と言い出したのは実は晴美で、俊二は初めて聞いた時は絶対に不可能だと思っていた。しかし晴美に何度も言われて車の重さやスピード、川幅等を計算してみたところ、川幅が5メートルと最も狭くなる一か所では、それが理論上可能だとわかったのだ。

 今回の計画を思いついたのはそれから間もないころだ。

 

 俊二がアパートの駐車場に到着したのは1時50分のことだった。俊二は車を降り、駐車場の入口に設置された防犯カメラの前をさりげなく通る。これで、計画はすべて成功だった。

 晴美は1時16分にマンションの防犯カメラに映っている。つまり晴美が殺されたのは16分より後だということになり、その時犯人はK市のマンションにいたということになる。

 警察は晴美の恋人だった俊二を疑うだろうが、1時50分にM市の駐車場の防犯カメラに映っている俊二には犯行は不可能なのだ。なぜならマンションから駐車場には50分はかかるのだから。

 俊二はとてつもない達成感を感じていた。あとはジャンプ台を回収しに行くだけだ。

 その時、後ろから足音が聞こえた。振り向いた直後、俊二は腹に鈍い痛みを感じた。見ると腹にはナイフが刺さっている。俊二の正面には一人の女が立っていた。

「どうして……」

 俊二にナイフを突き刺した女は、なんとついさっき俊二が殺したはずの晴美だった! 俊二は晴美に詰め寄ろうとしたが、少し歩いただけで力尽き、地面に倒れこんだ。

 俊二がこと切れる様子を、駐車場の防犯カメラは黙々と映し続けていた。

 

 2・アリバイの利用

 香川晴美は、俊二が目の前で力尽きる様子を見てほくそ笑んだ。これで、計画はすべて上手くいったことになる。

 俊二は今回の私を殺す計画を自分で思いついたと考えているだろうが、本当は私がすべて操っていたのだ。

 空き家の存在を教え、防犯カメラの死角について教え、絞殺をするように仕向け、そしてX川を車で飛び越えられることに気付かせる。

 それだけすれば、俊二が今回の計画を思いつくだろう、とは簡単に予想できた。俊二は良い人ではあるが、それぐらい単純な人だ。

 俊二がいつ計画を実行するかはわからなかったが、今日仕事から帰ってマンションに着いた時、振り向くと向かいの空き家で俊二がのたうちまわっているのが見えたのだ。私はそれで計画の実行が今日だと察した。

 私は何も気づかなかったふりをして部屋に入り、俊二がやって来るのを待った。すると俊二はすぐに現れてくれた。

 死んだふりは難しかったけれど、俊二が簡単にだまされてくれて助かった。そもそも絞殺をするように仕向けたのは、死んだふりがしやすいからに他ならない。

 俊二が部屋を出ていくと、私はナイフを手に取り急いであとを追った。防犯カメラに映らないようロビーを抜けると、俊二がはす向かいの空き地へ入って行くのが見えた。

 俊二が車に入ったのを確認して、私は茂みに隠れながら車の後ろへと駆け寄る。幸運なことに俊二は運転に集中していて、私がトランクに忍び込んでも全く気がつかなかった。別に気づかれても、私はまだ何も悪いことはしていないのだから問題はなかったが。

 トランクの中は真っ暗だったが、そのあとの30分はジェットコースターに乗っているようでとても楽しかった。特に車がX川を飛び越えたときは、体がふわりと浮いてかなり気持ちよかった。

 しばらくして車が止まったとき、私は少し待ってトランクを出て、ナイフをしっかりと構えた。俊二は丁度駐車場の防犯カメラのところだった。すぐに私は駆け足でそちらへ向かい、防犯カメラに映らないようにして、そして俊二の腹へとナイフを突き立てたのだった。

 1時51分、俊二は上手く防犯カメラの目の前で息絶えてくれた。

 私は1時16分にマンションの防犯カメラに映っている。よって1時51分に駐車場で俊二を殺すことは不可能なのだ。アリバイさえあれば、私は逮捕されることはない。

 晴美は高らかな笑い声を上げ、ジャンプ台を探して回収するために歩きだしたのだった。



読者登録

tkbungeiさんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について