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終電で旧友と

終電で旧友と     Ho-Jo-Y

 

ヤバいな、今日も終電か。

 

少し眠くてぼんやりしながらも空いている席に腰を下ろす。寝過ごさなければ十分程で最寄り駅につくだろう。車内にいるのは飲み会帰りのサラリーマンの他に繁華街で遊んできたと思われる若者がそれぞれ少しずつ。ついこの間まで自分もあんな風だったのだと思い、少し懐かしくなる。と同時に自分はもうサラリーマンの側なのだと虚しさも覚える。大学を無事卒業し社会人になってから一年が経とうとしていた。大学までは楽しかったと心から思う。今はどうだろう。一応自分で選んだ仕事なのに大変さは想像以上だ。まあこのご時世、ブラック企業だのなんだのと騒がれていることを考えれば自分はまだまだ恵まれている方だと思うが。

 

やがてドアがバン!と閉まり、しばらくしてから列車は動き出した。これだから古い車両は。しかしむしろこの方が不思議と親しみが湧くのも事実だ。深夜の列車は話し声が少し聞こえるだけで、走っている音だけが目立つ。普段はうとうとしながら過ごすが今日に限っては乗っているうちに目が冴えてきた。寝過ごしてはならないという緊張からだろうか。ときどき入る車掌氏の放送もどこか眠たげだ。さすがに寝たりはしないだろうけれど。列車は深夜の町を走りながら、各駅に止まり少しづつ乗客をおろしていく。もともと人のまばらな車内は次第にもっと寂しくなった。

 

車窓に明かりが見えるようになり、大きな駅に滑り込む。ここで地下鉄と接続するのだ。ここまで地下鉄が開通したときのことを今でも覚えている。小学校のときだろうか。マンションが建ち、大きな駅ビルができたりとその後の発展にはめざましいものがあった。駅は明るく、がらん車内とは対象的だ。ホームを挟んで向かいに地下鉄からの列車がいて、地下鉄から乗り換えてくる人がこっち側に並んでいるのがわかる。ドアが開くと乗り換え客が乗ってきた。閑散とした車内の席がほぼ埋まり、立っている人もいる。車内がなんだか賑やかになったような気がして嬉しくなった。

 

またドアが閉まり、列車は再び動き出す。もうさっきのような虚しさはない。隣の車両からうつってくる人がいた。自分とは全然身なりが違う。クールビズなどと言われながらせいぜいネクタイをはずすぐらいしか許されずでスーツを着ている自分とは違い、向こうは随分ラフな格好をしている。もっともそんなに詳しくはないのでユニクロみたいだなという風にしか思えないのだが。

 

男は空いている自分の隣に座った。どこかで見たことのある顔だな、と思った。というより、近くでみると見慣れた顔である。少しぐらい会わなくたって、幼馴染の顔くらい簡単に思い出せる。

 

「マサだろ」

 

言い終わらないうちに向こうも口を開いた。

 

「よお、ユウ」

 

ユウキとマサト。互いを「マサ」、「ユウ」と呼び合う仲だ。小さい頃は毎日のように遊んでいた。小さい頃といったってそんな昔じゃない。社会人一年生、まだまだ若者のうち。幼稚園から大学まで、ずっと同じというのは珍しいんじゃないかと誇っているが、実際どうなんだろう。大学を卒業すると、僕は普通の勤め人に、マサのほうは海外にいってしまった。もう当分会えないものだと思っていたのだが。

 

「久しぶりだな、マサ。帰ってきてたのか」

「ああ、ちょっと前にな。もうたぶん日本にいられるはずだけど。」

「帰ってくるなら連絡ぐらいくれよ」

「あー悪い、悪い。まあユウが空港にお出迎えーとかいうことになっても困るしな」

「マサにそんなこと誰がするかよ」

「せっかく帰ってきたのにユウは冷たいなあ」

 

ああ、懐かしい。昔のノリのままだ。ただの悪ノリのような気もするけれど。

 

ふと列車が駅についたことに気づきマサを引き連れて慌てて降りる。もう少しで終電を乗り過ごしてしまうところだった。そういえばマサも自分と同じ駅でおろしてしまったけれどよかったのだろうか。案の定、マサが不満を言い始めた。

 

「ちょっと、俺の今の住みここじゃないんだけど」

「あ、マサ引っ越したのか。どこに?」

 

マサが言ったのはここから数駅先だった。この時間で帰るのは無理だろう。ああ、少し悪いことしてしまったかも。

 

「ユウは実家にまだいるのか?」

「そういう訳じゃないんだけどね」

 

大学生になり実家を出ようと思った。雑誌を集めてきたり、ネットを見たり、テレビの住みたい街№1!とかいうのを参考にしてみたりもした。実際にその街に行ってみたこともある。だけど住み慣れた街から抜け出すのはなかなか決心がつかなくて、近所のマンションを借りた。実家から徒歩三分という驚きの近さだ。

 

「やっぱりな、ユウらしいよ。かくいう俺もせっかく帰ってきたんだしあんまり離れたくはなくてさ。でもここにそのまま住み続けるのもなんか変だろ?だから隣町にしたんだよな」

 

そうか。やっぱり実家と同じ場所に住むのは「なんか変」なのか。まあでもここが気に入ってるならそれでいいじゃないか。

 

「それより終電降りちゃったら帰れないじゃん、どうすんだよ」

 

諦め声というか「しょうがないなあ」感が溢れるような声でマサが言う。

 

「つい昔のノリで」

「あーもうしゃーないな、ユウの家泊めてくれよ。まさか彼女が待ってるとかそんなことないよな」

「泊めてやるから俺をからかうんじゃない」

「んー?なんか隠してるのか?」

「もう一回言うぞ、俺をからかうんじゃない」

「まあそんなこと言うなって。ほら、行こうぜ」

 

僕らは駅から歩き出す。大抵の家からは明かりが消え、街灯やところどころの明かりがぼんやりとついている。上を見上げるといつになく綺麗な星空が広がっていた。

 

空を見るのは久しぶりだ。特に近頃は目の前に気をとられすぎて空の存在さえ忘れていたのかもしれない。子供の頃、遊んだ帰りに見上げた空、試合の帰りに見た空、塾帰りに見た星空、文化祭が終わったあとにふと見上げた空。思えば空はいつも身近にあった。そして、マサもいた。昔と比べて少し霞んでしまった星空は、自分の目が悪くなったせいなのか、空自体が変わってしまったのか。そういえばもうすぐ十五夜だな。

 

やがてマサを引き連れて自宅へ戻る。十二時を大きく過ぎてしまっていた。まさか自分で借りた家にマサを呼ぶ日が来ようとは。

 

「ちょっと随分立派なとこ住んでるじゃん、ユウ」

「まあ俺も成長したということだよ。なかなかいいだろ、ここ」

「だね。ユウらしくない」

「マサ、それどういう意味だよ」

「だって昔のユウってもっとドタバタしててそんなしっかりした人じゃなかったよ。ユウの家に行くなんて想像もできなかった。今も無理矢理俺を引き連れて電車降りちゃうし、変わってないか」

「それ言い返せないなあ」

「文化祭のときとかユウのせいですっごい危うかったし」

「昔はこのまんまでよかったんだけどね」

「あの頃は何考えてたんだろ。まあ今なんて全然想像できなかった」

「ずーっと高校生が続くとでも思ってたんじゃないか。でも実際そうだよな。少なくともこんな仕事に縛られた生活なんて生々しいっていうか、考えるには酷だろう」

「もう一回戻りたいな。あの頃に」

「行ってみるか」

「え?」

「ほら、俺らの高校の文化祭。もうすぐだったろ」

 

もう一回戻りたい。懐かしい日々に。大人になる途中でなくしてしまったもの、できなくなったこと。自分もすっかり変わってしまった。これから先、自分と、マサがどうなっていくのか。まだ自分にはわからない。

 

降り注ぎ、流れ、過ぎて行く時間の中で。

 

なんて、大げさかもしれないけれど。

 


ふかん

ふかん

かんきつ

 

「次の人」

 ……頭が痛い。

「次の人!早くしてくださいよ!」

「……誰ですか」

「神です!」

「はいはぁい、それで何の用でございましょうか」

「とりあえずあなたを裁きます!」

「やっぱ死後の世界とかそういう奴ですか」

「はい、そういう系です。理解が早くて大変助かります」

「それはどうも」

「と言うことで裁判を始めます。……はい終わりましたー」

「ずいぶん早いんですね」

「ま、自殺者は増える一方ですからねー」

「ありゃ、私は自殺ですか」

「あっ」

「あっ、じゃないですよ神様。何をやっているんですか」

「まあ、あなたに対しては言ってしまっても問題ないッスけどね」

「何それ怖い」

「まあそんなたいしたことではないです」

「ちなみに何自殺だったんですか」

「あなたは地獄にも天国にも行きませーん!」

「教えてくれないんですね……。ていうか、やっぱそういう概念もあるんですか」

「あなたには関係ない話ですがね、ありますよー。どっちも良いところですよー」

「それはそれでどうなんだろう……」

「それで、あなたの処遇ですが」

「はい」

「私の息子の秘書をやってもらいます」

「いいんですか、自殺者がやっても」

「あなたなら、きっと向いてますよ」

「そんなもんですかね」

「神職ですからね、あなた程度に心が死んでる方がいろいろ都合がいいんですよこれが」

「神職、って表現で良いんですかねそれは……。それより心が死んでるとか失礼じゃないですか」

「事実ですしねぇ」

「事実ですかぁ」

「ということで、明日からお願いしますよ、『シキミ』さん」

「それが私の名前ですか」

「生前の名前じゃなくて、今考えた名前ですけどね」

「……それはそれは。どうも」

 

       ◇

 

 私は扉の前に立っていた。

 ……神の息子の部屋が、こんな安っぽい扉で良いのだろうか。

 この部屋で合っているのやら不安になるレベルで安っぽい。

「どうぞ入ってください」

「あ、はい」

 促された。

「今日から秘書になる人だっけ?よろしく」

「どうも」

「あなたで6785267869人目だね」

「そうなんですか」

「いやー皆すぐに心病むんだよねー、風土が合わないんだろうね、全然」

「……ああ、そういうことだったんですか」

「え?」

「ああ、神様に『心が死んでるから向いてる』って言われたんですよ」

「うげ、初めて会った人にそんな事言ったんですか親父」

「ええ」

「さいですか」

「さいです」

「なんかごめんねー。そうだ、俺はサカズキって言うんだ。あんたはシキミさんだっけ?」

「そういうことになってます」

「じゃあ、明日からよろしくお願いします」

 今日が、その明日なんじゃないだろうか。それとも、お目通しだけって事だったのか。

 

       ◇

 

「半島という半島をちぎりたい……」

「何言ってるんですか唐突に」

「いや、だってあれ、なんか中途半端に突き出てて気になるじゃん……」

「一応、人間とか住んでるんですから、自重してください。神様にばれたら面倒くさいことになると思います」

「いやでも、あの形何なの……。あんな地形作った奴誰だよ!出て来いよ!」

「あなたの親父様じゃないですか。どうでもいいから仕事してください」

「そうだよ親父だよ……。というか親父だって大陸引きちぎって七つ位に分けたじゃん!」

「それとこれにどんな因果関係があるんですか」

「おれだってちぎっていいんじゃね?」

「親父様のあれには必要性がありましたが、あなたのそれにはまるで無いじゃないですか」

「でもちぎりたい」

「やめてください、千葉県石川県長崎県鹿児島県の面積が激減します」

「じゃあアラビア半島で妥協してやるよ」

「何を得意げにしているのか私には理解できません。世界最大の半島ちぎるとか、影響絶大すぎます。まず世界を牛耳ってから好きに天地創造すると良いと思います」

「けちくせー」

「甘さもまとめて死んでますからね」

 

       ◇

 

「よく保つねぇ」

「何がですか」

「息子の相手」

「そんなに大変ですか」

「大変でしょう、そりゃあ」

「6785267869人目って言われました」

「そんなにいたのかぁ、感慨深いな。なんかちょっと申し訳なくなってくるね」

「はぁ。それで何のご用でしょうか」

「ちょっと蘇我入鹿暗殺してきて」

「もう死んでるんじゃないんですか」

「天界だから、時系列はぐちゃぐちゃなんだよ。ちなみに蘇我入鹿が暗殺されるのはこれで7834回目かな。ヒトラーは298回、家康は61回、ケネディは13回」

「ケネディ大統領、思ったより死んでないですね」

「そこまで時代が進まないし、何より死ぬべき人じゃないしねぇ」

「家康は?」

「どっちでも良いんじゃない?とりあえず蘇我入鹿やってきてよ」

「なにでやるんですか?」

「弓矢」

「引いたこと無いです」

「どうにでもなるから」

「私がいない間、サカズキさんの秘書はどうするんですか」

「時間止めとくわ」

「わかりました、行ってきます」

「お気をつけて」

 どうにでもなると言うのに。

 

       ◇

 

「中臣鎌足も巻き添えで射っちゃったんですが」

「かまわないよ」

「そうですか」

「たぶん、決まってた事なんじゃないかなぁ」

「自信が持てないんですか」

「この世界はそろそろ私の管理を離れたがってるねぇ」

「どうするんですか」

「息子に任せるよ」

「私は」

「引き続き、秘書でお願い」

「了解しました」

「あー、今生の別れだね」

「そうですね」

「君の心、死んだままだったねえ」

「その方が都合が良いのでしょう?」

「そうだねぇ、はっはっは!」

「それでは」

「ばいばーい」

 

       ◇

 

「ということで、あなたが神になりましたが」

「感慨深えぇー!」

「そんなもんですか」

「そうだろ、これで好きなだけ天地創造できるぜ!半島だってちぎれるぜ!」

「あなたはまだそれを言いますか」

「まずはカムチャッカ半島だな!」

 

       ◇

 

       ◇

 

「記録はこんなもんでよろしいでしょうか」

「よろしいんじゃない」

「では、来世でもよろしくお願いします」

「まあ、健全な肉体にもすっかすかの心は宿るからね、また会えるだろーね」

「こういうときは、『楽しみにしてます』って言うんでしたっけ」

「そう、それで正解」

 


帰り道

帰り道     ツナマヨ

 

 

空からは水滴が

ポタリポタリ

 

 

部室を一人で片付ける

つもり

鍵をもらいに

職員室へ

 

 

鍵がない

そんな現実を受け入れる

 

 

水滴無視して

走る

 

部室に向かって

走る

 

 

鍵は空いていた

 

 

ドアノブひねり

中へ

 

 

タオルを首にかけた

マネージャーが

振り向いた

 

 

自然と笑みがこぼれる

 

 

一瞬で心が満たされる

 

 

 

 

 

 

 

帰路には傘をさす

二人の影が

伸びていた


五時間目

五時間目     加藤

 

 

チャイムが鳴る

席には着かない

やつはまだ来ない

 

やつらはサルだ

騒ぎ、食い、寝る

上裸が目に入る

 

方程式より弁当だ

実験よりゲームだ

音読より睡眠だ

 

弁当より方程式だ

ゲームより実験だ

睡眠より音読だ

 

チョークが耳障りだ

板書が目障りだ

やつが癪に障る

 

会話が耳障りだ

スマホが目障りだ

やつらが癪に障る

 

チャイムが鳴る

ノートは真っ白

気分は爽快

 

黒板は真っ白

気分はどんより

チャイムが鳴り終わる

 


新     ツナマヨ

 

 

春から始まる

新しい生活

 

新しいものを

買いそろえる

 

新しく始まる

新しい生活を

新しい気持ちで

新しく迎える

 

ワクワク感

 

始めて教室に入る

その瞬間

ある気持ちが

自分の脳裏を横切る

 

―トモダチ デキルカナ―

 

不安と―

不安と―

 

ドキドキ感

気持ちがいっぱいの中

 

続いてやってくるのは

センセイ

優しいセンセイ

怖いセンセイ

面白いセンセイ

はたまた

大きいセンセイ

男のセンセイ

 

どんなセンセイが

やってくるのか

 

心配で―

心配で―

 

心の中は

 

ドッキンドッキン

バックンバックン

 

高鳴りしている

 

ガラガラッガララッッ

 

ドア開いて

新しいセンセイがやってきた

 

見た目は怖い―

 

けれど

 

だんだん話していくと

心は落ちついてくる

 

なんだか

優しいセンセイに

思えてくる

 

 

朝が過ぎ

期待と不安が入り混じった

昼がやってきた

 

 

なぜかって…

給食だからさ

またある気持ちが

自分の脳裏を横切る

 

―キライナモノ デルカナ―

ふと見た空は

雲でいっぱいだった

 

 

給食の時がやってきた

 

 

危うく

キライナモノは

無かった

 

少し

ホッとした感に

おおわれた

 

あたたかい

あたたかい

やわらかな

陽射しで

 

ドギマギしたまま

生活してたら

 

続いて帰るときが

やってきた

 

そしてまたまた

ある気持ちが

自分の脳裏を横切る

 

―ヒトリデ カエルノカナ―

 

もう一つの気持ちも

自分の脳裏を横切る

 

―トモダチト カエリタイケド

                トモダチ イナイシナ―

 

不安

不安

不安の

気持ちだ

 

 

センセイの声が鳴り響く

 

―サヨナラ―

 

普通の挨拶だが

突き放されるように聞こえる

 

―トモダチト カエルンダヨ―

(ト、トモダチッ!?)

 

僕はトモダチなんていません

 

そう言ってやりたかった

 

でも

言えなかった

 

空がまた曇り

太陽が雲に負けていた

 

その瞬間

 

―ネェ イッショニ カエロ?―

 

言葉が出なかった

なんと言い返そうか

というより

自分に向けて

言われた言葉なのか

 

口が勝手に開いた

 

―イイヨ―

 

自分でも訳がわからない

さっぱりわからない

 

なぜ言ったのか

なぜ口が開いてしまったのか

 

トモダチではないのに

トモダチ扱いされたのは

 

初めてだった

 

 

楽しい時間が過ぎ

家へたどり着いた

 

母がいた

 

いつもとは違う

優しい目をしていた

 

今日の出来事を

隅から隅まで伝えた

 

伝え残すことなく

伝えた

 

夕方

外へ出た

 

みんなが歌っていた

 

新しい草が

新しい森が

新しい川が

新しい山が

新しい風が

新しい海が

 

そして

 

真っ赤な

真っ赤な

新しい夕陽が

 

僕のために

歌っていた

 

僕は

新しい月と星が

歌うのを待っていた

 



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