閉じる


<<最初から読む

9 / 27ページ

クリーンアップ初め

一月の巻

52. クリーンアップ初め


 仕事納めはしたものの「干潟納め」は叶わなかった。一年の締めくくりとして歳末リセットクリーンアップを実行する手もあったが、不慮の風邪で作業スケジュールが狂ってしまったこともあり、見送り。センター大掃除は予定内だったが、本年最後の土日の過ごし方がいけなかった。彼女と過ごす時間も作れず、サーバのメンテやらバックアップやらに追われることになる。晦日中に何とか仕事納めとなり、大晦日の約束に間に合わせることはできたものの、じっくりスローに過ごせなかったのがどうにも居たたまれない。

 毎日でも彼に逢いたい彼女、そんな気持ちに応えたいのはやまやまな彼。千歳としては、仕事の性格上、自由が利きそうで案外そうでもないという事情あってのスローラブなのだが、やはりプロセス主義者としての何かが邪魔をして、櫻の加速を抑えてしまっているようである。

 本日一番乗りの発起人は、寒々とした干潟を観望しつつ、自身の置かれた複数のプロセスを展望している。一年の計を巡らすには恰好の場であるが、相も変わらぬ漂着ぶりを見ていると、頭は冷静でも心はざわついてくる。おそらくはこのまま年を越してしまったのだろう。一人でも片付けに来るんだった、と悔悟するばかり。だが、年始早々溜息を吐く訳には行かない。またここから、このゴミから何かが始まるのである。

 higata@では賀詞を交歓し合ったりしていたが、実際にメンバー間で顔を合わせるのは今日が最初。それぞれ楽しみにしている筈だが、定刻の十時にやってきたのは、この二人くらいである。

 「おーい、Goさーん、STOP!!」

 「弥生嬢じゃございませんか。Goと呼んでStopって、それシャレ?」

 何故かぬかるみが目立つグランド脇道。ノロノロのRSB(リバーサイドバイク)を停車させるのは訳なかった。

 「あけおめ、でございます。今年もよろしくネ」

 ツッコミを期待していた業平だったが、こう来られては調子も狂う。つい深々とお辞儀してしまうのであった。「苦しうない、面(おもて)を上げぃ、アハハ」 仲良く干潟入りとなる。


 三人で会釈し合っている間、冴えない顔した姉君と上機嫌の妹君は、バスを下車したところである。午後以降の予定を考慮して、今日は自転車ではない。姉妹でゆったり会話するには適したシチュエーションなのだが、

 「年越しは一緒に過ごせたんでしょ。私、ちゃんとその辺も考えて...」

 「まぁね。宅にお招きして、一緒にカウントダウンもできたし、終夜電車に乗って初詣にも行かせていただきましたし。おかげ様で」

 「上出来じゃない」

 「なのにさ、その後はセンター開館日までパッタリよ。昨日だって、文花さん休みで、せっかく二人きりだったのに、何かパッとしないってゆーか...」

 「姉さん、ピッチ上げ過ぎてない?」

 「上げられないから、どうしたもんかってなるのよ。蒼葉はいいわよ、情熱系だから。ちょぴうらやましいかも」

 「あら、私だって。アラサーのゆっくりラブ、いいなぁって。櫻姉見てたら、うらやましくなっちゃったから、それでわざわざ渡仏したのよ」

 姉妹喧嘩ではないのでいいのだが、お互いに刺戟し合っていることは明らか。どちらからともなく足を止める姉妹。上出来の妹はなだめるように言って聞かせる。

 「まぁ、いずれ一緒になるんだろうから、今はそのヤキモキ感を楽しめばいいのよ。今のうちよ、そういうのって。あとは二月十四日が来るまで待つ。その日になったら、一気に仕掛けちゃえ。ネ?」

 「蒼葉...」

 河原の桜はすっかり葉を落とし、寒々しく見えるが、内に秘めたる何とやら、である。春に向け、開花に備え、着実にエネルギーを蓄えている。櫻はそんな木々を見上げながら、再び想いを充填していく。「想い? じゃ済まない?」 晩夏は想いだったが、今となっては愛慕の念だろうか。それは密かに、そして確かに募っていく感情。唇に指を当てる仕草が増えた姉を見ながら、妹も同じように感情の変化を感じ取る。「そういうのもC’est la vie.かな」


 新年挨拶方々、欠席連絡を入れていたのは、南実、文花、冬木の三人。となると、あとはこのカップルが来ないと始まらないことになる。こっちは自転車並走かつ爆走中。

 「八クン、もっと早く起こしてくんなきゃー」

 「まさか、そこまで支度に時間がかかるとは思わなんだから」

 「クルクルルフロンさんで通ってんだから、しっかりウエーブ入れないとダメなんよ」

 「こうやって風切って走ってるうちに、ちゃんとクルクルになるっしょ。これぞナチュラルウェーブ。へへ」

 いつもならバシっとやるところ、さすがに走行中は難しい。

 「んなこと言うから何か無造作風になってきちゃったしぃ」

 「ラブリーな感じでいいと思うよ」

 どこか危なげな二台の自転車だが、グランド脇道に入ると、益々ヨロヨロになっている。誰もいないのをいいことに、堂々とグランドを横切っていた姉妹は、離れたところを抜き去っていくその頼りない二台を見つけ、クスクスやっている。ハンドル操作に集中しているカップルはそれどころではない。当然、姉妹にも気付かない。


 カップルとは言えないかも知れないが、仲良しであることは相違ない。より若い二人組が、後続のバスで到着した。千住姉妹に遅れること十数分。

 「六月クン、干潟来んの久しぶりじゃない?」

 「姉ちゃんと同じ。十月以来だったりする」

 「じゃ崖崩れ現場のその後ってまだ見てないのかぁ」

 「う、崖、崩れ...」

 足取りが重くなってしまった小六男子である。中二女子は笑いをこらえるように先を急ぐ。

 「ほら、早くしないと崩れちゃうかも」

 「あ、姉御ー」

 冬休みラストデーにして、干潟参り初日である。絵日記でもあれば締めくくりのネタとしてはバッチリだろう。だが、二人にとっては宿題も何もない。あるのは宿題を超越した何か、である。


 かくして、十時十五分を回り、メンバーが揃う。

 「では改めまして、皆様あけましておめでとうございます。今日は干潟初め。干潟の方もあけまして、ですね」

 一同恭しく頭を下げ合っているが、櫻のおなじみの弁舌に苦笑いが浮かぶ。嗚呼、越年漂着...とさっきから沈痛な面持ちを引きずっていた千歳だが、これで表情がリセットされる。「よし、干潟もリセットだぁ!」 声には出さずとも、意気は揚々。干潟の方もキラキラし始めた。

 「あーぁ、年が変わっても、櫻姉効果は健在か。すっかり晴れちゃったじゃん」

 「何よルフロン、そんなに雨が好きなの?」

 「この時季はやっぱ雪でしょ。雪が降りゃあさ、ゴミも隠れちゃうから、楽々...」

 周囲は何となく白々としているが、舞恵はハイテンション。クルクルが高じてバサバサになっているもんだから、余計に可笑(おか)しい。

 「私も雪は好きだけど、それって何か違うなぁ。神隠しならぬゴミ隠し?」

 「あぁ、いざって時はハチが居ますから。雪の中を駆け回って、ここ掘れってやってくれるよ、ネ?」

 「ウー・・・」

 ハレ女さんも雨女さんも大笑い。その傍らで蒼葉はふと考える。「白い干潟かぁ。積もったら来てみるか」

 次の画題を得たようである。


 日射に応じて、気温も上がって来た。櫻は前回出し損なったアナログ温湿度計を手にすると、

 「さ、気温は二桁。湿度は五十パー。クリーンアップ日和ですワ。始めましょっ」

 千歳を目で追う櫻。目線が合うとウインクして返す。今更ながら、バキューンである。

 「千兄、大丈夫?」

 「あ、姉御...て、何かまた背伸びた?」

 「伸び盛り、育ち盛り、ですから。ついでにお色気の方も、どう?」

 もう少女とは呼べなくなっているのは事実。ウインクして魅せる小梅にちょっぴりキュンとなる千兄であった。大丈夫とはとても言えない。


 崖の修復に着手し始めたらしく、例の拡幅ルートの方は一時的に通行を止めるための小フェンスが設置されている。下手に崖上を歩かれて崩落するようなことがあっては河川行政の名が廃(すた)るというもの。沽券に関わるから、という理由かも知れないが、やらないよりはいい。応急的ながら、まぁ評価ができる策である。ヨシはすっかり枯れ、くすんだ色を辺り一面に拡げる。夏場のあの勢いは何処へやらだが、これも木々と同じ。次のシーズンを待ち侘びるの図、といったところだろうか。そんな枯れヨシを払いながら、九名はかつてのルート、脇の細径からソロソロと下りて行く。

 「ま、吹き溜まり、あ、潮溜まり?は散々だけど、水際はそれほどでもないスね」

 「でも、流木が邪魔だぁね。大雨って降ったっけか?」

 八広と業平がブツクサやっていると、弥生が割って入ってきた。

 「そう言えば、Goさん。ご自慢の機材は? 吸引機見たかったのにぃ」

 「あれは微細ゴミ担当の小松さん向けだったから。それに論文まとめるのに必要なデータは揃ったとかで、何かもういいみたいな? そんな感じ」

 「小松さんどうこうじゃなくて、むしろ居ない時こそ使わなきゃ。てゆうか、その話、メーリスに流れてないし。何でGoさん知ってんの?」

 「ふ、文花さんから聞いたんだ」

 「何だかなぁ...」

 毒気モードではあるが、やはりちょっと違う感じの弥生嬢である。仮に今日、文花がクルマで機材ともども乗り付けて来たりでもしたらどうなっていたか。ヒヤヒヤが続く業平である。

 そんな二人を余所(よそ)に、クリーンアップ初めはすでに始まっている。居ても立ってもという程ではないにしろ、ここに来ると体が勝手に動いてしまうらしい。まずは大物、というのも習慣化しているせいか、男衆二人は古木の根っこを手始めに、木枠やら角材など木関係を担ぎ出す。業平が加わった後は、より重たい部類、大型シート、ウォーターサーバ、そして、

 「ハハァ、久々登場だねぇ。バッテリー。しかも三つ、いやあっちにもあるから四つか」

 「こいつぁ明らかに不法投棄スね。漂流したらご喝采」

 「これ使えればな。そしたら油化装置とか発電機とかも要らないだろうに...」

 まだ修復前なので、えぐれた崖地が隠れ蓑のようになっていて、ここぞとばかりに置き去られているのである。男性三氏は、処遇に窮しつつも、どこか楽しげに談議している。

 「やっぱりホイッスルとか吹いてタイムキープしないとダメかしら」

 「まぁまぁ。軽はずみに持ち上げると腰に来るぞい、とか打合せしてるんよ、きっと」

 「Goさん、おっちょこちょいだからなぁ。心配...」

 三氏に対応するように、三人の女性達は手を休めつつも、本日の厄介エリア、干潟中央から水際に向けペットボトルなんかを放っている。大物除去後の干潟面は広さを増し、余程の大波が来ない限りは大丈夫との判断でとにかくポイポイ。こっちも何だかんだで楽しそうである。

 期せずしてお相手不在になっている蒼葉は、上流側に漂着していた(いや放置か?)取っ手付きのプラカゴを活用し、拾ってはポイ、というのを繰り返している。誰が云ったか、干潟をうろつく女というだけのことはある。隈(くま)なく周回し、テキパキと、やはり愉快そうに片付けていく。その所作、その足取り、そして表情。何につけ画(え)になるのがモデルさんである。

 バッテリートリオよりも下流側では、例の新名所、入り江の辺りを少年がポイポイやっている。ここまで深々となってしまったのは、自然の作用・摂理ゆえ、六月が負うものでは毛頭ないのだが、きっかけを与えてしまったことを自責しているらしく、やたら寡黙に一つまた一つ... 見かねた小梅が優しく声をかけてくる。

 「六月クンたら、そんな顔しちゃってぇ。スマイル、スマイル...」

 「だって、まさかこんなことになってるなんて。オイラのせいだ」

 「トーチャンに頼んであるからさ。そのうち元通りになると思う。ダイジョブ」

 「それって、グッジョブ?」

 六月のいつものスマイルが少し戻ってひと安心。

 「積石んとこに引っかかってたんだ。これに入れちゃお」

 紙燈籠を回収した時と同じような発泡スチロール箱を小梅は手にしている。六月は何となく懐かしげにそれを見遣ると、我れ先にとトレイやら小型ペットボトルやらを突っ込み始めた。

 「あ、ズルイ。小梅も!」

 てな感じで箱入れ競争をしていると、二人で同時に手にするものも出てくる。それは当所では常連の配管被覆。

 「何かリレーしてるみたいだ」

 「でも、ヘニャヘニャ」

 形状は兎も角として、バトンを受け渡す、そんな仲というのがよくわかる。これって友達以上?


 今回は誰が何、というのはない。気分次第、手当たり次第、である。それでも各自要領は弁えているので、目に見えてリセットは進んで行く。が、如何(いかん)せん手許が覚束ない。好天かつ適温につき、悴(かじか)んだりすることはないのだが、軍手を外せない以上、ポイポイにも限度が生じてくるのである。中央を覆う漂着ヨシにはなお、フタの類、吸殻、個別包装、小ストローなんかが絡んでいるが、軍手越しではつかみにくい。さらば枝を鷲づかみにしてバサバサやればよかろうとなるも、これが存外にも湿気を含んでいて、軽々とはいかない。何回かに分けてバサつかせるのも手だが、その回数たるや、である。

 さらに良からぬは、服装か。男性陣は示し合わせたように汚れても良さそうなジャンパーだかジージャンだかをヒラつかせているのでまだしも、年改まって最初の顔見世ということもあって、女性陣は相応のファッションに身を包んでいたりする。クリーンアップスタイルにはなっているものの、舞恵はフード付きのブルゾン、弥生はミリタリー系ロングコート、千住姉妹は色違いだが、同型のカジュアルトレンチコート、小梅嬢はボアブルゾンである。

 「初姉のこっそり借りて来ちゃったんだ」

 「多少大きい、っていうくらいね。よくお似合いで」

 「エへへ、櫻さんのも着てみたい、な」

 「ハハ、おませさんネ」

 時節柄、軽装という訳には行かないが、脱いだり着たりが易々とできないというのは考え物。男性諸氏よりも力が入っていた上、気温上昇も手伝って、すっかりポカポカしているシスターズである。動きにキレがなくなってきたとこへ、残ったのは拾いにくい表層ゴミ、というのがここまでの運び。ひとつ衣装替えでもして、ひと息入れるのが良さそうだ。


 スクープ系を追っていた千歳だったが、かくして被写体の変更を迫られることになる。干潟はさながらファッションショーの舞台。

 「千歳さん、どう?」

 小寒だけに、あまり寒くもないため、総員とっかえひっかえで外套の試着に夢中になる。

 「千さんたら、櫻姉ばっか撮って。私も」

 千住姉妹は、タイプの異なるブルゾンを着用中。カメラマンはポーズを指示するでもなく、ただポーとした感じで、シャッターを押している。姉妹の間に、ロングコートの小梅が入り込んでも、これといった反応がない。

 「何か千兄、おかしくない?」

 「まだお熱があるみたいネ」

 「おかしいなぁ。風邪は治ったはずなのに...」

 千歳は、「はい、ポー...」と言いかけて、そのまま停止。ズが出るまでに時間がかかったため、ずっこけ写真になってしまうのであった。

 そんなずっこけ組を他所に、揃いのトレンチコートの二人は、ヒソヒソ話に興じている。

 「いいな、その髪の感じ。あたしも無造作路線で行こっかな」

 「だからさ、これはその、風のイタズラで」

 弥生は、見た目ざっくばらん but 内面ナイーブの舞恵に、ちょっとしたヒントを得たところである。

 「ねぇルフロンさん、意中の人を射止めるのって、ボサボサとかデレデレとか、そんな要素がカギだったりする?」

 「ナヌ? 何か聞き捨てならんなぁ。でも、それって当たってるかも。Bossa de レレとでもしとくか」

 「あ、でもなぁ、キャラ変えるのって、ちょっとなぁ」

 「舞恵のはあんまし参考にならんさ。櫻姉のホラ、咲くlove系がオススメ。秘めた想いを少しずつつーか、ステディ感が大事よね、やっぱ」

 「櫻さんのは相思相愛だもん」

 「いや、そうは言っても、何らかのアクションがないとさ」

 「下手に仕掛けてNGってのはイヤ。また引きこもりになっちゃう」

 「弥生ちゃん...」

 空気の読める(?)カメラマン千歳は、この二人については遠くからシャッターを押すにとどめた。


 業平、八広、六月の各年代トリオは、千歳を羨ましく見ながらも、せっせと漂着ヨシと向き合っている。蒼葉ご用達のカゴを空にして、その上でバサバサ。目立つゴミが引っかかっているのを中心に振り落としている。六月は、カゴに入り損なったのを拾いながら、ファッションショーに視線を転じる。蒼葉に対する萌えモードは封印。年の近い姉御が今は気になる。「何なんだろ、この感じ」 兄貴分は近くに一応いるものの、この手の相談に乗ってもらうにはイマ一つ。

 「あちゃー、これってチャッカ何とかスか?」

 「火が点いたら、燃えーだね。な、六月氏」

 「ハ、ハハ...(やっぱダメだ)」


 とまぁこんな具合でヨシをどかしていたら、冒頭で話題になった雪が出てきた。

 「ハハァ、こりゃまたよく溜まったもんで」

 「飛び散るのをヨシが塞いでたってことスか」

 試着と撮影を終えた一団がゾロゾロと集まって来る。

 「あら、粉雪じゃん」 舞恵は楽しげ。

 「は、早く集めないと」 櫻は物憂げ。

 「いっそ、パーっとやっちゃえば?」

 「ルフロン、あなたねぇ」

 「やべ、ウソウソ」

 「これでゴミ隠しだ、デコレーションだ、て言いたいのはわかるけど、そういうのはね、文字通り『粉飾』なんよ。わかった?」

 一同苦笑気味なれど呆然。愛妹の出番ではあるが、

 「櫻姉ったらぁ...。うまいけど、干潟三周ね」 さすがにフォローしようがなく、指令を出すのが精一杯。ピューとかなったら、それこそパーである。

 今日の課題は、微細ゴミとどこまで対峙するか、である。発泡スチロール粉雪は何とか回収できたが、この調子だとまだまだ発掘されそうな予感。ヨシ束ごと袋詰めするというのもアリだが、袋が足りない。

 「Goさん、やっぱ要るじゃん。掃除機」

 「充電式、早期開発します。でも開発費がなぁ」

 弥生のツッコミが今となっては快い。だが、余裕がないのは事実。舞恵はこれを聞いてポンと手を打つ。「二人とも応援したげるさ。フフ」


 蒼葉の指示通り、干潟を周回していた櫻がここで一旦仕切りを入れる。

 「ま、今日のところは、細々したのは目をつぶるということで。あとで束を奥に押しやるってんでいかがでしょ? 今はまず散らかしちゃったのを拾いましょう。何か水位上がって来たみたいだし」

 千歳は率先して、ポイポイ品を収集しにジメジメ観のある地点に足を向ける。だが、水気をたっぷり含んだ水際は、歩く者の足を捕捉するようにできていた。「な、なんと...」

 集合時刻前後は、むしろ退潮していたように感じていた弥生は、ケータイを取り出すと潮汐情報を探し始める。

 「あぁ、千さん、今日は十時前が干潮ピークだったみたい。つまり退きたて、てこと」

 「ハハ、珈琲は挽き立てが良いけど、干潟はそういう訳にはいかないってか」

 ペットボトル等々をカゴに入れて戻って来たのはいいとしても、泥靴ってのが冴えない。おまけにこの駄弁と来た。

 「違いがわかる男、か。フフフ」 櫻はウケているが、

 「千兄も櫻姉もしょうがないなぁ」 小梅は半ば呆れている。

 「じゃ仲良く周ってらっしゃい」 蒼葉は毎度この調子。


 可能な限りのリセットを終え、結果がまとまったのはメンバー集合から実に一時間余り後。ショーとかシャレとかで休み休みだったことを考えれば、ペースとしてはまぁまぁか。

 「ではでは、モバイルDUO、行きまーす!」

 「頑張ってね」

 「二人でやるのよ、Goさん♪」

 名称が決まったことで、その意義もより明確になった。一人が読み上げ、一人が入力する、二人でDUO。こうした地域貢献活動に華を添えるシステム、と言ったら言い過ぎか。ともあれ、設計者と開発者は、今度はそんな華の部分を自ら検証するように、あぁだこうだやりながらも和やかにピピとやっている。

 「そっかぁ、数が多い品目が上に来るようにねぇ。さすがだね」

 「オホホ、まだまだ進化させますわよ」

 

 

 新年初入力&初送信された内容(抜粋)は次の通り。

 ワースト1(1):ペットボトル/四十、ワースト2(3):プラスチックの袋・破片/三十五、ワースト3(2):食品の包装・容器類/三十三、ワースト4(4):発泡スチロール破片/二十四、ワースト5(-):タバコの吸殻・フィルター/二十二(*カッコ内は、十二月の回の順位)。前回ワースト5だったフタ・キャップは、一つ順位を下げ、十七。ワースト1のペットボトルにはフタが付いた状態のものが多いため、外して数え直せば、間違いなくワースト5内に入るだろう。ただし、世界共通の調査では、あるがままの状態が優先されるため、外した分が上乗せされることはない。その辺は六月も十分承知している。

 加算しようがしまいがフタはフタである。アフターケアが欠かせない。少年は千歳のバケツを拝借し、フタを外しては洗って、というのを繰り返している。

 「堀之内センセと相談したら、とにかく再生工場に持って行こうって話になったノダ」

 「へぇ、わざわざ?」 蒼葉が尋ねる。

 「春休みのどこかで、場所は木更津。小児料金狙いならホリデーパスだけど、平日に行くとなると18きっぷかなぁ。あ、ぶんかさんも一緒に行くことになるかも。そしたらクルマ」

 「何かのついでならいいけど。そっか、電車乗るのがメインか」

 「小梅もついてこっかな」 蒼葉を制するように姉御がしゃしゃり出る。

 「小梅ちゃんが付き添ってくれるんなら、あたしはいいか。でも春の房総方面ていいかもね」

 実の姉も乗り気になっている。どうやらこの話、ちょっと大きくなりそうである。

 

【参考情報】 越年投棄品 / 2008.1.6の漂着ゴミ


CとSのR

53. CとSのR


 忠実なハチ君がここ掘れ云々とかやると、まだまだ出てきそうではあったが、今日のところは正におあずけ。リーダーの一計で、手が回らない分は干潟奥に退避させるなどしてあるが、収集数量が前月よりも減じたのはまぁよしとしたい。十から二十の間のゴミは、大小スプレー缶、各種ストロー、個別包装類(小袋)、紙パック類、食品用途外の容器&袋類といったところ。白物のプラ容器は、用途の別が付けにくいものもあるが、明らかなのは納豆、豆腐、そして、

 「何で茶碗蒸しの容器が棄ててあんだか」

 「え、それってお茶碗じゃないでしょ。正しくはプラ容器蒸し」

 「じゃプラ容器蒸しの容器? って、櫻さん、あのねぇ」

 「どうも千歳さんと喋ってると茶番になっちゃうから困るのよねぇ」

 茶碗と来れば茶番で返すのが櫻流。二十代女性陣はこの際無視!の構えだが、小梅は一人でクスクスやっている。六月はそんな小梅を見て、満面のスマイル。茶番も捨てたものではない。

 袋詰めはまだ仕掛(しかかり)中。千歳はプラ容器をひとまず置いて、スクープネタを撮り蒐(あつ)めることにした。バッテリーなど序盤の重量系は現場で押さえたので、今はその他の袋入り前の品々が中心。ペットフードの缶、クリアファイルとバインダーのセット、ヘルメット... 折り畳んだブルーシートに至ってはまだ使えそうな品である。

 「あ、隅田さん、こいつも」

 八広が手にしているのは赤い筒。

 「て、これもまだ使える系?」

 以前ほどデレデレした観はないが、彼氏にしっかり寄り添っているルフロン嬢がチャチャを入れる。

 「あん? 発煙筒でござんすか。煙が出たらお立会いーってね」

 そう言えばこのお嬢さん、煙とご縁のある女性だった。

 「ルフロン、今日は大丈夫? 煙と来りゃ... あ、業平さんもだ」

 話し振りこそ普通だが、目線は厳しい櫻である。

 「文花さんにもクギ刺されてるし、ここ数カ月は禁煙キープしてるから」

 「あーら、舞恵もよ。今年に入ってからはずっとリフレッシュ中。新ルフロン、いやいや蒼葉ちゃん、新しいってフランス語で何だったっけ?」

 「nouveauネ。ホラ新酒のこと、ボジョレ...」

 「そうだそうだ、ルフロンヌーヴォー。これで決まり。皆さんヨロシクです」

 と、ここで拍手でもして旨く盛り上げておけばいいものを彼氏はついつまらないことを口走ってしまう。

 「ヌーっと現われて、怒るとヴォー、ヘヘ」

 「このぉ、ハチ!」

 仰せの通り、怒ると怖いヌーヴォーさんである。こうなると、発煙じゃ済まない。

 「ハハ、発火しちゃったい」

 六月が見事盛り上げる。だが、弟のそんな絶妙ギャグも姉の耳には届かない。弥生は業平の口から文花の名前が出てくるのがどうにも気になっていて表情が硬くなっている。

 「そっか、イブの先約ってもしかすると...」

 久々にピピっと来たらしく、今度は口許から表情が緩んできた。だが、胸の内は赤い筒状態。我ながら燻(くすぶ)るものを感じずにはいられない弥生嬢であった。


 何はともあれ賑やかにやっている面々だが、発起人はモードが変わってきた。週末のセンター行事、ゴミ減らし協議の件で頭がいっぱいになって来たのである。まずは今回のデータを加算して、現状を整理して、そんでもって現実的な解決策をいかにして導き出すか。そのためにはあと何が必要か。

 「千歳さん、今日は何か変よ。大丈夫?」

 「今度の協議の場でね、話し合いに必要な題材をどう出そうかな、って」

 「今日のを含めて、今までの集計についてはご心配なく。早めにまとめて送りますから」

 「先週もプレゼン用のをあれこれ作ってたんだけど、やっぱ集計次第だね。助かります」

 櫻は一瞬息を止め、真顔で聞き返す。

 「先週って? 正月二日とか三日とか、ってこと?」

 「櫻さんとデートしたかったけど、そんなこんなで連絡しそびれちゃって。失礼しました」

 「なぁんだ。それならそうと」

 一人でヤキモキしていたのが情けないやら、それがまた面白おかしいやら、急に力が抜けたようになってしまう彼女である。だが、すぐにシャキっと背筋を伸ばすと、

 「千歳さん、何て言うかこう理想像みたいのってあるでしょ? それを一例としてプレゼンして、会場からも『こうありたい』って声を集めると、具体策が見えて来ませんこと?」

 「あ、業務プロセス改革でもそういうのあったっけ。As IsとTo Beだ。そうだそうだ」

 櫻の機転に救われる千歳であった。理想像とは言い得ないが、かねてから思料していたことはある。その一つは、上流側、特にバーベキュー広場を発生源とするゴミを抑止したい、である。三月の衝撃、つまりその系統の漂着ゴミが彼を駆り立て、輪を広げつつ、様々なプロセスを派生させつつ、今日の回まで至っていることを考えると、まずはその点を特化させて悪いことはない。勿論、より根源的に、ゴミにならないような商品とは、ゴミを出させないようにするためのサービスとは、といった討議もあって然るべきではある。だが、まずは身近なところから、取り組みやすいところから、であろう。飛躍し過ぎないTo Be(飛べと読めるがそうではない)をプレゼンターがまず示せばいい訳だ。頻りに頷く千歳を見て、櫻はもうひと声かけてみる。

 「週明けには河川事務所からの回答書も来るでしょうから、それを見ながら協議して、また要望出してみるってのもいいかも。いざという時は、愛娘(まなむすめ)作戦?もあることだし」

 「櫻さん、ありがとっ!」

 気が付くと、両手で思いきり握手している。櫻は心の中でこう呟く。「そうそう、その勢い。加速よ加速。フフ」


 真面目なお二人さんが事前協議をしている間に、再資源化系の濯(すす)ぎ、可燃・不燃の仕分けと袋詰め等々は進んでいた。各員は今、思い思いの時を過ごしている。

 フタの収集を終えた六月は、業平の[プラ]チェックを見学しつつ、袋に印字された銘柄を目で追ったりしている。スキャナで読み込めば、メーカー名や品名は蓄積されるものの、感触とか質感といった感覚的な情報は不可能。ところが、この少年の目と手に掛かれば、総合的に記憶されてしまうから空恐ろしい。

 「何つうか、人間スキャナだねぇ。六月氏は」

 「へへ。でも[プラ]の表示んとこに、PPとかPEてのまで打ってあるてのは知らなんだ」

 「その辺も記憶しちゃうってか?」

 「いやぁ、さすがにメモしないと。でもそのうち見るか触るかすれば違いがわかるようになるかも、です」

 「自動分別人間かぁ?」

 「人間だったら手動っしょ?」

 ごもっとも、である。


 新年初リセットを終えた干潟は、幾分水嵩が増したとはいえ、すっかり広々となっている。この清々しさを満喫しない手はなかろう、ということで、女性が二人、さっきから行ったり来たりしている。

 「ねぇ、蒼葉さん、油絵ってその後どうなったんですか?」

 「今月中には審査結果が来ることにはなってる。ま、結果はどうあれ、新作をね、早速描こうとは思ってんだ」

 「今度はしっかり見学したいな」

 「じゃ、塾がお休みの日にでも。晴れた日の午後とか。または雪の日。雨はツライけど、雪なら何とか」

 画家たる者、明確なモチーフがある限り、コンディションを問うたりはしない。そんな態度は、自然と歩く姿勢にも表れている。早くも見習うべきものを見出した小梅はいま一度背筋を伸ばすと、蒼葉を追うようにシャキシャキ歩き出した。


 [プラ]ブラザーズの様子を眺めていた千歳だが、触発されるものがあったか、袋を閉じようとしていた手を止め、俄かに手動分別を始めた。汚れが少なそうなのを選び出しているようだが、何でまた?

 「ちょいちょい、隅田のお兄さん、お探し物か何かですかい? さては、宝探し?」

 弥生ではなく、舞恵がツッコミを入れてくれる。

 「ハハ、たまには見本でも、と思って」

 「そうか、今度の土曜日、それを出そうってか」

 早々とタネ明かしするのは櫻。

 「画像を映し出すつもりだったけど、よりリアリティがあった方が議論しやすいかな、と思って」

 「漂着初物(ハツモノ)ってことでも、とっとくといいことあるかも、スね」

 「さすがはお宝の八っつぁん。初物って言われりゃ、ゴミも捨てたもんじゃないって、そう思えるさ」

 珍しく彼氏を持ち上げるルフロンである。話はここから、一月の予定等々に。

 「で、エドさんの情報誌スケジュールを逆算して、一月の第三週、多分ギリギリで金曜日になりそうなのよ、例の商業施設訪問」

 「あぁ、CSRインタビューの件スか」

 「あれって九月だったかな。エド氏と石島母が話し込んでてさ。CSRがどうのって確かに言ってた気がする。ちゃんとそういう話に発展してたとは...」

 弥生はイマイチ呑み込めていないようである。

 「そのぉ、CSRって何ですかぁ?」

 こう来ると、ついからかいたくなるのが櫻の性分である。

 「Cは、Chitoseさん、SはSakuraさん。RはrelationのR。二人はどうなってんの?ってことよ。ネ、Chitoseさん♪」

 「Rはresearchかな。二人で仲良くゴミ調べ」

 その益々困惑した顔を舞恵に向けてみるも、答えは出ない。

 「おぉおぉ、CさんもSさんも息合わせちゃって。せっかく学生さんが真面目に質問してんのにねぇ。で、何の略だっけ? 八クン」

 「企業の社会的責任。金融機関も例外じゃないよ。ルフロンさん」

 「ホーイ。ま、舞恵はちゃんと考えてるさ。本業優先だろうけど、社会貢献活動だってCSRざんしょ? 支店の皆さんに声かけてクリーンアップってのも良さげだし」

 髪型については何ともいえないが、言動は頼もしい限りの今日のルフロンさんである。


 高度は低いが太陽は南中状態に近づいている。袋を閉じたら、お開き!と行きたいところだが、そうならないのがこの人達のいいところ。雑談はまだまだ続く。

 「それより音楽会さ、次はいつ?」

 「今ここにいる皆さんのご都合次第。決まったらすぐにでも押さえます」

 「皆さんてゆーか、Goさんしょ、まずは」

 「てへへ」

 これには、千歳も櫻も「へ? だ、ったの?」となる。自分達のことで頭がいっぱいだったか、すっかり感度が鈍っていたようだ。

 若い二人が話し込んでいる間、higata@の七人は集い、予定の協議を続ける。

 「んじゃ、多少怪しいけど一月二十日で仮押さえネ」 ルフロンはすっかりその気。

 「Goさんは必須。あとは、あたし、それとリズム隊のお二人が練習量を増やせば、格好はつくと思う」 弥生は誰かさんと一緒ならばそれでいいみたいな口ぶり。

 「何かこうなってくると、どっかで発表会とか。どうスか、Cさん、Sさん?」 Y氏が尋ねる。

 「例の発電機で以って、どこまで音が出せるかがポイント、かな」

 「って、千歳さん、本気でここで演(や)るつもり?」

 この件の言いだしっぺ、舞恵が口を挟む。

 「ま、メーリスに話振ってみるに限るさ。お騒がせエドさんとか、知恵貸してくれっかもよ」

 音楽会にしろ、発表会にしろ、彼女がハマっているのには、明快な理由があった。「自作をどっかで形にしてもらいたいし、流木アート楽器も試したいし、オホホ」

 この調子だと、一月もあわただしくなりそうである。


 六月はいつになくオドオド。対照的に小梅はチャキチャキ。二人の干潟デビュー当時は、これが逆だったような気がするが、いつの間にひっくり返ったのやら?

 「で、姉御の姉御、えっとつまり...」

 「初姉がどしたの?」

 「試験てこれから?」

 「そ、もう家ん中、大変よ。でもね、試験日=誕生日なんだって。だから変に張り切っちゃって。そんでもって合格発表日は小梅の誕生日。何としても受かってもらわないと...」

 七人はいつしか二人を囲むようにブラついている。六月はそんな衆人に気を取られることなく、堂々とあるものを差し出す。

 「勝田とか勝田台は遠いし、御徒(カチ)町ってのも何だし。『信じ行く』で新宿ってのも考えたけど、ちょっとね。そんで思いついたのがこれ。大姉御の合格祈願」

 それは、京成押上線、押上ó八広と印字された切符だった。これを見て駅名の当人が黙っていよう筈はない。

 「おぉ、そう来たか。でも押上ってのはまた...」

 「押して上げて、末広がりー。いいっしょ」

 「六月クン、ありがと。でも小梅の分は?」

 ちゃんともう一枚持っているから心憎い。

 「いいなぁそういうの。でも、合格祈願の定番は、やっぱ櫻さんに因んだ駅名じゃない? ホラ、京成佐倉とか」

 「ヘヘ、その佐倉って、勝田台より遠いじゃないですか。だから...」

 「青葉もいいと思うんだけどなぁ。そうだ、六月君。桜新町とさ青葉台を結ぶ切符ってのもあるよね。それって何か良くない?」

 「ウーン、桜と青葉の間って、あんまし」

 「あ、そうか...」

 日は照ってるし、無風なのだが、どこかでピューとなるのを感じる一同だった。受験生本人が今ここに居ないからいいようなものの、禁句は禁句。想起するのさえ憚られる。

 「ちなみに、東北新幹線あおば号は1997年10月に、寝台特急さくらは2005年3月に、残念ながら廃止ー、だそうです。ネ、六月?」

 弥生の毒がここへ来て炸裂。だが、毒の情報源は何を隠そう六月君である。

 「あー、それ禁句だったのに」

 「フン、実の姉に縁起物よこさないからよ。バツじゃ」

 千住姉妹は、苦りきった顔でお互いを見る。

 「どっちも廃止てか」

 「ま、痛み分けってことね。お姉様」

 これにて一件落着。ようやくお開きとなった。


 徒歩組は袋を受け持ち、荷台付き自転車を押す二人は、バッテリーを運ぶ。業平はRSBのため、どっちつかずではあったが、いつもの通り再資源化系を担ぎ出す。今回は軽めなのだが思うように進まず往路同様ノロノロ。まだ乾ききっていないグランドには、こうして様々な線と足跡が残ることになる。辺りの空気は暖かながらも小寒らしい凛とした感じを含む。グランドを縦断するのは気分がいいものだが、そんな空気を深呼吸しながらとあらば、さらに爽快、これぞリフレッシュ!である。


 「ではでは、今度は土曜日。新年会もあるし。来られる方はぜひ!」

 「これまでの集計結果の発表もあります。ね、櫻さん?」

 「え、私が発表? 千歳さんでしょ?」

 こんな譲り合いはこの二人だからこそ。舞恵は「またかいな」という顔をしつつも、

 「まぁまぁ。二人でおやんなさいよ。CSRなんでしょ」

 かくして、ゴミ減らし協議の行方はCとSの二人に委ねられることになる。

 バッテリーを降ろすと、舞恵と八広はひと走り。新たに見つけたランチ店へ急ぐ。小梅と六月は、業平&弥生のおじゃま、いやお供をするとかで、一緒にノロノロと商業施設方面へ向かって行った。残るは、千がつく三人。初音がいなくともカフェめし店、という選択肢もあるのだが、姉妹はズバリ千歳宅を指定。

 「何か調達してからだったらいいでしょ。ネ?」

 「ハハ、すっかり休憩場所になってるような。ま、大歓迎ですが」

 「私、千さんとこ初めてね。こんな風にお二人の邪魔するのも初めて?」

 「あーら、少なくとも一回、十一月にあったでしょ。忘れたの?」

 「だって、もうちゃんとキ...」

 お淑(しと)やかな姉は、おてんばな妹の口の前で手を翳し、続きを遮る。

 「やぁね、恥ずかしい...」

 「何それ? 毎日でもどうこうって言ってたじゃん」

 「蒼葉!」

 「あ、そっかそっか。私、川の方、向いてますから。どうぞ、ご遠慮なく」

 妹はどこまでも姉想い、加えて兄(?)想いでもある。今は何分咲きかに進展している二人だが、三十路の恋はつつましくありたいとどこかで思っているのだろう。蒼葉の言葉に甘えるフリして、腕を組んで歩くにとどめている。

 「お互いにペースを尊重し合ってる、そんな感じ... いいなぁ」

 蒼葉は少し距離を置きながら、二人のペースを推し量りながら、でもって、シャキシャキと歩くのだった。


 キ、と来れば忘れちゃいけないのが清さんである。干潟詣でに行くつもりではあったが、途中で「道草」状態。

 「ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ...」

 

 

 いずれは喰うことになるのだが、今日のところは同じ道草でも捜索・採集どまり。荒川の河川敷においては限定的ではあるが、先生にかかればこの通り、三種は見つかることになる。そう、明日は七草である。

 「ま、何も明日じゃなくてもな。土曜に振る舞うさ」

 鏡開きの翌日だけに、新年会はモチネタ中心かと思いきや、粥が出てくることがまず確定的になった。だが、掃部(カモン)公の差し入れはそんなもんじゃ済まない。本日午後はひたすら何かに興じるおつもりである。

 「おふみさんをビックリさせてやらねぇと」 乞うご期待?!

 

【参考情報】 赤い筒にはご用心 / 仮想縁起切符 / 荒川土手と七草


アプローチ、ソリューション

一月の巻(おまけ)

54. アプローチ、ソリューション


 決して気が急いていた訳ではないのだが、本日午後の協議の切り盛り役、Cさん、Sさんはともに早めのセンターご到着。図書館の前でバッタリ出くわして、思わず「へ?」と顔を見合わせる始末。本来は「おはよう」状態なのだが、挨拶し損なっている。

 「千歳さん、カギ持ってないのに。どして?」

 「待ち伏せして、おどかしちゃおっかな、ってね」

 「まぁ、誰かさんの真似? 今頃仕返ししようったってそうはさせないんだから」

 正直なことを言えば、早く支度して午後に備えたい、ということなのだが、千歳も随分と茶目っ気が出てきたものである。櫻も本当のところはわかっているつもりなので、ここは緊張を紛らわす上で、違う話題を振ってみる。

 「何かルフロンからメールが来てね。音を拾ってくれとかって」

 「彼女も曲作るってこと?」

 「廃品で拵(こしら)えた楽器叩いてたら思いついたんだって。で、テーマは波、だとか」

 「そういや、ウエーブがどうのって言ってたね。ま、一度拙宅に来てもらうか、それとも千住邸の別宅か... 口ずさんでもらってその場で曲にできる環境があれば、ってことかな」

 higata@メンバー間で交流が進むのは喜ばしい。だが、舞恵が彼氏宅に来ちゃうというのはちょっと違う気がする。彼女とはちょっとイイ仲ではあるので、別に悪い気はしないのだが、千歳が平気でそういうことを口走るようになったのが意想外。妹が千歳宅に、というのは想定内だったが、それでもヤキモキさせられたくらいである。余計な話をしてしまったものだと櫻は思う。

 「私もね、新曲作ったの。ま、新曲って言っても、八月から九月にかけてだけど。でもね、待ちぼうけしてた二日と三日に練習して、格好はつきました。だから、それと合わせてウチで。ネ?」

 「待ちぼうけ... そっかぁ。じゃ、お詫び方々、お伺いするってことで。機材はヌキ、かな」

 新曲のどうこうは二の次である。回避策を打ち出せて、少しホッとする櫻であった。


 KanNaに載っている各団体の基礎情報は、定期的に更新してもらう必要がある。そのための案内は、先週の出勤日に千歳に発信してもらった。年始のご挨拶(&新年会のお誘い)付きだったのが良かったようで、返礼を兼ねた返信が早々と届いていて、今朝もそれらのチェックに余念がない櫻である。千歳の方は協議スペースの一角で見本用のゴミを拡げて再点検。十時前だと言うのに、二人してお仕事モード。暖房をONにするのも失念している。

 「おぉ寒ぅ... 中は暖かいと思ってたのに」

 「あ、文花さん、おはようございます」

 「あれ、ダーリンは?」

 「だから、その呼び方は...」

 「あ、あっちか。おすみさん、おはよっ! じゃないや、あけまして...」

 千歳がノコノコ現われる。「おめでとうございます、ですね」

 「今年もよろしくね。今日も早速お世話になります」

 櫻は何となく赤ら顔になったまま。八日に出てきて以来、今週はずっとテンションが高い文花は、千歳との年初挨拶もそこそこに、

 「櫻さんたら、やっぱアツアツなのねぇ。暖房入れなくて済むってのは立派な省エネ。でも私はダメ」

 「文花さんたらぁ...」

 櫻が切り返せない程、とにかく冗舌な訳である。


 満載の野菜バスケットだけでも絶賛モノだが、鏡餅がおまけに付いてくる辺りがさすが。

 「ま、これは新年会が始まってからのお楽しみ。アルコール類とかはまたあとで」

 世話を焼くのがお好きな事務局長としては、その手の催しを優先したいところではあるが、ゴミ減らし協議の下打合せをしないことには始まらない。

 「前回と違ってお気楽な感じでいいと思うけど、どう?」

 「櫻さんから送ってもらった集計見てたら、いろいろと思うところが出てきちゃいまして。自分でどこまで論点を絞るか、って感じです」

 「そっか、文花さん、今日の資料まだお見せしてませんでしたね。今持って来ます」

 干潟でのこれまでの集計結果、国内の海洋ゴミ調査概況との比較、論点整理案、ゴミ減らしにつなげるためのフロー案、あとは参加者自らが解決策を書き込めるブランクシートなどがセットされている。

 「お二人の合作ってとこかしらね。本番が楽しみですワ。ま、あと付け足すなら、河川事務所と商業施設に物申すシートとか、かな」

 「その場で書いてもらって、ってことですね」

 「ちょっとシャクだけど、Edyさん流儀ってゆーか。その方が言いやすいし、集めやすいでしょ?」

 「じゃ、あとは段取り通り。司会しながらそのまま、まず私が発表しますね」


 土曜のランチタイムは三人で、というのが定着しつつある。一月クリーンアップの振り返りなどをしているが、話は少々脱線気味。

 「弥生ちゃんたら、GoさんGoさんて。いつからそんな呼び方するようになったんだか」

 「でもって、ツッコミのパターンが変わってきてるんですよ。何か気があるんじゃないって」

 文花と業平がそれなりに親しくなっているのは承知しているが、どこまでどう、というのは本人じゃないとわからない。それを探ってやろうという心算(つもり)はないのだが、あわよくば、というのは有り得る。

 「そ、そうなんだ。ホホホ」

 自称、恋多き女であればいくらでも交わしようがある筈だが、二人してお節介情報を提供されてはたまらない。笑って誤魔化すのが精一杯である。


 開会は十四時なので、まだ客は来ない時分なのだが、熱心な女性が早々にやって来た。

 「こないだはどうもです。文花さんはあけおめ、ですね」

 「あら、噂をすれば... どうも、今年もよろしゅうに」

 内心かなり焦ってはいるが、大人の女性の面目を保っている文花である。櫻と千歳は配付資料をホチキス留めしながら、何となく様子を見守る。

 「ねぇ、文花さん、クリスマスイブって、どなたと過ごされたんですか?」

 「何よいきなり。いいじゃない、誰とだって」

 強力な鋭気を放つ弥生に、文花はたじろぐ。隙アリと見るや、さらなるツッコミを入れる。

 「あたしも知ってる人ですよね?」

 「さぁ、どうかしら?」

 「ま、いいや。文花さんがライバルってことなら、こっちも張り合う甲斐がありますワ。どうぞお手柔らかに」

 「・・・」

 弥生にとっては、協議も新年会もあったものではない。真相を確かめるために乗り込んできたというのが正しい。

 こういう状況において止めるべきは、ホチキスではなく、二人の女性のやりとり?と一寸悩んでいるご両人である。午前中は心なしか暖かだったが、ここへ来て急遽ヒヤヒヤ。

 「あら、千歳さん、その資料、留まってないんじゃ?」

 「ハハ、針切れでした。て、櫻さんだって、それ綴じ方おかしくない?」

 「あ、逆だ」

 無理もなかろう。


 お人好しがアダとなり、期せずして三角形を担うことになっている当の業平氏は、この事態を知ってか知らずかご欠席。「Goさん、今日来ないのかぁ...」 弥生はピピならぬ、ピリピリモードながら、時に浮かない顔で受付にいる。

 「弥生姉さん? 大丈夫?」

 「あ、小梅嬢。いらっしゃい」

 「お手伝いしましょうか?」

 とまぁこんな具合である。

 案内メールの他に、KanNaのイベント情報掲示が効いたか、寒々した小雨日にしては程々の集客である。清や八広のほか、理事や運営委員の何人かも駆けつけ、開会時刻までに三十名近くが会場を埋める。いつでも開会OKである。


 「皆さん、こんにちは。あいにくのお天気ですが、大勢の方にお集まりいただき、ありがたく存じます。本日の催しはご案内の通りですが、今回のような形で定期的にイベントを設ける予定です。本年も引き続き、当センターをご愛顧ご活用いただきますよう、年始のご挨拶を兼ね、まずはお願い申し上げます」

 櫻にしてはえらく粛々とした挨拶で始まったので、何となく静まり返っているが、拍手もチラホラ。出だしは抑えめ、徐々に加速、ということらしい。プロジェクタ操作は千歳に任せ、早速これまでの経緯と集計結果の話に移る。

 「十月の一斉クリーンアップの時は、クイズ形式で発表したりしましたが、今回はそのままズバリご紹介します。五月から先だっての一月の回まで九回分、あくまで定点調査としての集計です。次点、生活雑貨で九十一、一例はここに映っている通りです。ワースト十位:配管被覆九十八、九位:紙パックが百ちょうど...」 配付資料の方には、集計表の抜粋を入れ込んであるが、プロジェクタで映し出す分は、品目ごとに一枚一枚という設定。カウントダウン式にスライドショーが展開され、収集数と写真が大きく投影されていく。八位:飲料缶/百二十七、七位:袋類/百四十三、六位:タバコの吸殻/百四十六、ここまで順当な感じか。

 「さて、ここからは数が増えてまいります。二百台はなく一気に三百台に突入です。五位は、発泡スチロール破片、といってもある程度の大きさのものを数えました。三百二十九です。粉々になってしまったものも勿論あります。メンバーの中には粉雪だぁとか言って、はしゃぐのもいますが、とんでもございません。そのままにはしておけないので、できるだけ回収するようにはしています。さすがに数えてはいませんけど」 櫻のペースになってきて、会場の反応も上向いてきた。四位:フタ・キャップ/三百六十八、三位:飲料用プラボトル(ペットボトル)/四百三十八、と数が増すのに応じて、今度はどよめきが起こる。待ってましたとばかりに、発表者は畳み掛ける。

 「ワーストの二位と一位は、正直申し上げて区別がしにくいところなんですが、形状がハッキリしているものは包装・容器とし、それ以外は破片として数えました。お菓子の個別包装、小さい袋については途中から分けましたが、それも足すと全部で千二百くらいになります。ちなみに二位は破片の方で五百三十四、堂々の一位は包装・容器で五百六十九。小型袋は七十八です。あと、カップめんの容器、食品トレイも別カウントでしたね。とにかくこの手のプラスチック、発泡スチレン関係なんです、特に多いのは。漂流・漂着しやすい、だから拾いやすい、という点ではまだいいと言えますが、それにしても、でしょ?」

 千歳は一応、隠れたワースト1、「レジンペレット」のスライドも複数枚用意しておいた。次にクリックすると出てくる手前で待機しているが、はてどうしたものか。ワースト一~十一のおさらいを映し出されたところで今は止まっている。

 「あ、ちょうどよかった。たった今、研究者が到着しました。小松さーん!」

 「え? あ、すみません。遅くなりまして...」

 「み」で始まるお名前のお三方がゾロゾロと頭を下げつつやって来る。南実に緑、そして湊である。

 「はぁ、これがこれまでの... そうそう、海洋ゴミの直近の概況ってどうしました?」

 「あ、これからです。あぁ、あれって情報源は、そっかぁ」

 「もしよければ、代わりましょうか」

 「皆さん、失礼しました。では、ここからは小松南実先生に交代します」

 これといった打合せをした訳ではないのだが、何故か阿吽(あうん)の呼吸になっている。千歳はすでにクリックした後。南実に画面を見るよう促す。

 「ハハ、隠れ一位かぁ。皆さん、改めまして、粒々担当の小松でございます。これが私の主な研究品目でして...」

 数分間のレジンペレット講義が始まる。得意満面、実に生き生きと話す南実。櫻はにこやかに聞いているが、それ以上に千歳がニコニコ、いや惚れ惚れした感じで聞き入っているのを見つけると忽ち曇り顔に。「千歳さんたら、ブツブツ...」


 「という訳で、ご当地で集めて数えた結果は、六百超でした。数回抜けてはいるんですが、やはり多かった。確かに隠れワーストですね」

 一人でコツコツと調べていたことがわかり、今ここにいるhigata@各位はただただ敬服するばかり。櫻もハッとなり、思わず拍手を送る。そしてそれは会場全体に伝わり、大きな喝采となって響く。

 「いやぁ、参ったなぁ。あ、ありがとうございます」

 こうなると、調子が上がらない訳にはいかない。お次のスライドはこれまた得意の海ゴミネタである。咳払い一つ、そして、

 「国内各地の海岸での調査結果、最新の概況がこちらになります。川ゴミは除いてありますが、河口部分は含まれます。海辺に漂着するのは、やはり発泡スチロールであり、プラスチックであり、荒川の一会場での結果と重なるものがあります。違いとして大きいのは、タバコの吸殻が多いこと、そして、特に瀬戸内海に面した海岸での話ですが、カキの養殖に使うパイプが多く見つかること、でしょうね。広島では万単位で出てくることもあるそうで、全体でも上位になってます」

 百五十ほどの海岸での集計というだけあって、とにかく桁が違う。ワースト上位三品目についてはいずれも五~六万に上り、十位前後まではとにかく五桁。いつもの干潟でコツコツ調べた結果の合計が四千前後というのを考えると、やはりスケールが大きい。だが、彼らの取り組みも決して小さい訳ではない。川ゴミを含めた総計では、九月と十月の分がこれに加算されることになり、統計の一角を占めることになる。千歳は改めて思う。川ゴミも海ゴミもつながっていて、どこも深刻である、ということを。

 その黒い長筒の画像が映し出されると、小梅は思わず声が出かかる。「て、もしかして、あの棒?」 八月に二見近くの海で確かに同じようなものを見つけ、手にしていたのは紛れもなく当のパイプだったのである。ようやく謎が解けて、ゆっくり頷いてはみるものの、まだまだ解せないことがある。「どうやって使うの? どうして流れて来るの? ムム」 自発的環境教育に終わりはないようだ。

 その隣で、手元の集計表に目を落として唸っているのは八広氏。「須磨で見かけたのは、吸殻がダントツであとは破片だったかな。ルフロンが来たら、もいっぺん照合してみよ」 こちらもなかなか熱心である。


 「という訳で、流れ着いたからには、ゴミを救出する、そして調べる、これが人々の役目です。ご当地の干潟も同じ。漂着、回収、集計、これを繰り返すことがゴミ減らしの第一歩だと思います」

 まとめのような話が出たところで、櫻が引き取る。

 「質問はまた後ほどということで。小松先生に皆さんもう一度、拍手を」

 これでは千歳もやりにくかろう。だが、そこはマネージャー。流れを活かすのはお手の物。

 「では、ここからはディスカッションに移りたいと思います。が、その前に...」

 過去の漂着状況を写した画は、配付資料にも何枚か入れておいたが、メインはプロジェクタでの大写し。ざっと顔ぶれを見る限り、客の半分程度は現地を知っている。それでも、こういうのが出てくれば改めて衝撃も走るようで、何となくザワザワしている。モノログでおなじみのスクープ系の数々。だが、所詮は2D。客席の様子を窺いながら、千歳は用意していた3D品を並べ始める。こういう時は何につけ実物に限る。その方が論議もしやすいだろう。

 「これは全て、先だって現場で拾い集めた現物です。今日のために見本として持って参りました。欲しい方がいらっしゃったら、手を挙げてくださいね。へへ」

 今日はどんな仕切りを見せてくれるのか、櫻は司会席からその辺を楽しみながら見ていたが、俄かアシスタントに指名され、どこかの通販番組のような状況に立たされる。

 「ハハァ、まだ使えそうなのも確かにありますが、どうなんでしょ? あ、これなんかいいかも知れませんね。センタクバサミ。あとは...」

 ここは一つ櫻に任せるとするか。だが、しかし、

 「ライターですね。ライターと言えば書くのが仕事ですから、ボールペン。ボールつながりでゴルフボール。あ、傘の柄です。ゴルフのスイングか何かしてこれだけ残っちゃった、て訳ではないと思いますが...」

 番組でもアシスタントが暴走するのが一つの見所だったりするが、ここではどうなんだろう。とりあえず違う意味で会場はざわついている。文花が云っていたお気楽な感じで、という点で忠実ではあるが、はて?

 「で、櫻さん、今ご紹介いただいたのは何かの拍子でうっかり、って感じのものだったと思うんですが、こっちはどうでしょうね?」

 長机に置かれた見本品はどうやら一定のグルーピングが為されているようだった。千歳が示したのは、ファストフード系紙コップとストロー、クイックメニュー系弁当容器、お豆腐容器、ペットボトル、食品缶、袋類いろいろ。

 「そうですね。一過性って言うか、使い捨て関係ですかね」

 「ですね。意図的にポイ捨てしたと思われるものばかり。微力ではありますが、一応、ペットボトル、ビン、缶、食品トレイ、プラスチック容器包装類については、支障がなさそうなのを選んでリサイクルに出してはいるんですけどね。さて、その隣ですが...」

 洗面器の破片、発泡スチロールブロック、そして、

 「ははぁ、これが細かくなって、こうなるって」

 「ちょっとお見せしにくいので、休憩時間にでもじっくりご覧ください。粉雪もどきのスチレン粒、そしてレジンペレット以外の微細プラスチックなどなどです。放っておくと、どんどん細かくなってしまうってことで。芝の欠片(かけら)はもともとですが...」

 笑い声とか溜息とか、いろいろと交錯する中、一人ミステリー作家さんは、頻りにメモをとっていた。「洗面器で殴ったら、割れて破片が散らばった。だが、自然作用で砕ける可能性もあるから、凶器とは断定できない。トリックとして使える?」 洗面器何とか事件てのはあまり聞いたことがないような...

 水道水で洗って乾燥させたことになっているが、素手で触れるには抵抗がなくもない。ここまでは平然とこなしていた櫻だったが、さすがにこれには手が止まる。

 「ハハハ、一足でもサンダル、でございますか」

 「あ、ここはうっかり系でもありますが、何となくミステリー関係です。これ失くしちゃった人、どうやって帰ったのかが気になります」

 「で、ミステリー? 何だかなぁ」

 緑は引き続きメモをとる。ミステリー云々とやられちゃ放っておけない。「まさか何かのトラブルに巻き込まれて、サンダルだけ漂着?」 そのまま悲鳴が上がりそうな場面だったが、隣の清と目が合って、思わずゴクリ。

 「大丈夫かぁ? 青白い顔して。緑色ならまだわかるが」

 「いや、大丈夫じゃないわね。カモンさん、ホラあれ」

 今度は清が蒼白気味。目線の先には銃口が。

 「おもちゃの銃ですね。これは何ゴミなんでしょ?」

 「ま、見かけ上は危険ゴミですね。これが本物だったらとんでもないですが、違法性や事件性を感じさせる物品は実際にあります。不法投棄されたと思われるテレビやバッテリー、何故か財布、個人情報が入ったバインダー、あと、キャッシュカードも、ね?」

 櫻はよっぽど小突いてやろうかと思ったが、場が場なので控えている。だが、「おっと、この管は何でしょう? 相方をひっぱたく用でしょうか」とか言いながら、早速、隣人をバシ! 「あ、普段は配管被覆って言ってます。まとまって見つかることが多いので、投棄品だろうと。(いてて)」

 「カキのパイプは見つかりませんが、代わりに川ではこういうのが出てくる、ということですね。(ベー)」

 パイプでやられてたら、「いてて」じゃ済まなかっただろう。


 小芝居に引っ張られて、本題を失念するところだった。腕をさすりながら、千歳は再度プレゼンター席へ。開会からすでに三十分近く経っているが、時間配分としてはこんなところだろう。ここからは二時間。休憩時間がどこかに入るにしても協議するには申し分ない大枠である。

 「一会場での例ではありますが、縮図という見方もできます。で、ご覧いただいたようにいくつかパターンがある訳です。傾向と対策というのも何ですが、ちょっと整理してみたのがこれです」

 資料の方には「論点整理」との標題と、ブランクの三つの枠が書かれた一枚がある。手抜きともとれるが、これはちょっとした演出。ここまでの報告と演習から見えてきた論点をその場で書き込んでもらおうということらしい。とは言っても、プロジェクタの方にはすでに「大量」「厄介」「不法」のカテゴリーが例示されている。

 「他にもいろいろ見方は出てくると思うんですが、これまでの九回分のまとめを見て、こういうことかな、と。このうち、議論の中心としてはやはり量が多いものになろうかと思うんですが、いかがでしょう?」

 higata@メンバーから異論が出なければ、このまま行けるだろう。こうした分析や考察もメーリングリスト上で多少は交わしているので、思うところは同じなのである。ひとしきり見渡してからひと息入れる。思いの丈を一つ披瀝(ひれき)させてもらおう、今、正にその時。

 「理想は漂着ゼロですが、そうは言っても...というのが実状です。ならば、せめて海に流れ行かないように、正しく『水際』で拾って、止めようって話です。この水際作戦だけを考えれば、漂着はむしろ大歓迎。でも同時に、元から減らすことも考えたい。そのために今すぐにできること、時間をかければできるであろうこと、いろいろあると思います」

 挙手一番手は、南実だった。

 「そのぉ何て言うか、水を注(さ)すようですが、再資源化系とそうでない系って分け方はどうなんでしょ?」

 「拾ってみたら分けられた、って感じじゃないでしょうかね。つまり、結果論かなぁって。ごもっともではあるんですが」

 「再資源化を促す仕掛けをしっかりさせれば減らせる、ってのはあると思いますよ」

 こういうやりとりが生じることはある程度想定していたが、ちょっと早かったか。千歳は正月休み返上で練っていた図式をここで投影することにした。

 「ポイントはどこで減らすか、だと思います。お手許の資料、またはスライドをご覧ください」

 それはモノの流れを一般化したフローチャートである。

(マーケティング→商品企画→)原材料の栽培・採取→調達(輸出入・運搬)→加工・製造→検査・梱包・出荷→物流→販売→購入・使用・消費→ と続く。

 「これらの過程で発生する廃棄物も多々ありますが、世間でゴミと呼ばれるものは、この消費の次に来るものです。で、ここからが運命の岐(わか)れ路。①できるだけ元々の形で使い回すリユース、それがNGならリサイクル、リサイクル材料は、再び原材料のところに戻ると仮定します。そして、②自治体の手による廃棄・焼却・埋立処分。焼却の中にはプラスチックを燃やした熱を発電などに回すことでリサイクルと称するケースも増えてますが、そのリサイクルは①とは別枠と考えます。この②をできるだけ減らす、または①に回す、というのが望ましいんでしょうけど、それどころじゃないのがある訳です。それが、③散乱、漂流、漂着、埋没のゴミ達でしょう。②の全体量からすれば多くないかも知れませんが、放置しておいていい筈はありません。小松さんのご意見はこの③を①にするか、②にするか、ってこと...」 当人に視線を送ると、ちょっと首を傾げているが、とりあえず、続ける。

 「と思い、このフローを出したのですが... 兎も角、これを引用するなら、どうもそればかりじゃなさそうだ、じゃどこからどうゴミを抑えるべきか、ってのがまた見えてくるんじゃないかと」

 櫻はちょっと身を引く感じで聴講していたが、「そうか、生産プロセスセクションどうこうってのは、これだったのかぁ。プロセスマネジメント...」と五月に聞いた話なんかを思い起こしてみるのであった。前職では憂き目を見たが、その手法を市民活動にあえて応用することで、何かが報われる気がしていたマネージャーである。その甲斐あったか、効果は早くも表れる。南実は首を垂直に戻すと、まるで開眼したかの如く瞳(め)を光らせる。十月に続いてのお目覚め(?)である。

 「何だか私ったら、現場主義が高じて、現象に捉われちゃってたかも。発生源対策ってことでは、上流フローも含めて考えないと。まだまだだわ」

 フロー、つまり、流れ。レジンペレットについては、正しく川の上流や支流からも流れ込んでくる可能性はある訳だが、その現実的なフローはまだしも、生産プロセスにおけるフローの押さえ方が甘かったと、研究員は自省する。粒々の組成や量を調べるに至ったのは、もともとは「どうしてこんなものが? いったいどこから?」だった。だが、究明に腐心する余り、研究の本分がおろそかになっていたのである。流出したとしても環境負荷を減じる方法があるのではないか、そもそもプラスチックの需要を減らすところから考究しないといけないのではないか、そう、研究とは発生抑制なり予防なりに向けられてこそ、より意義も高まるのである。

 南実が千歳を見る目が、これでまた変わることになる。そんな目線に気付いたか否か、「つまり、予防の方の比重を高めていくと、全体的な負担は減っていくだろう、という想定です」 今思っていたことがそのままプレゼンターの口から出てきた。首を大きく縦に振ってみる南実。だが、「てことは、論文の方も修正しないと... ハハ」 首を前に振った状態でうなだれてしまった。このガックリの理由を知る者は、この場にはおそらく、いない。


 受付係をさっさと切り上げてどうしていたかと言うと、進んで記録係を引き受けていた弥生である。後方にテーブル席を設け、カタカタと早打ちを続けていたが、その速度とは裏腹に、自分の言葉にならない、議論が消化できない、そんなもどかしさを覚えていた。

 「これも学問のうち、か。しかし千さんのアプローチって、システマチックなのかそうでないのか...」 ゴミの捉え方と議論すべき対象範囲は見えているのだが、何らかの解が示されないことには、動かされるものがない。彼女の専攻からすると、社会科学的ソリューションということになるだろう。解決策ありき、協議はそれから、というのが弥生流アプローチのようである。

 南実に続いて、新理事や新運営委員あたりからも意見が出て、今のところは特に製造と販売に焦点が当たる格好になっている。大量に出るということは、それだけ売れている証し。その理由は扱いやすい、便利、楽、いろいろ考えられるが、九月の回のランチタイムで話し合った点にズバリ符合する。そう「安易なモノは、安易に捨てられる」である。作り手、売り手の姿勢に安易さはないか、そうしたチェックであれば市民の日常生活の延長でできなくもない。消費者側の自戒を含め、声を上げる、届ける... こうした行動原点を確認するところまで話は進んだ。但し、メーカーや事業者への働きかけ、というのは市民運動として脈々と続いていること。より具体的・直接的な提言がここらでほしい。

 「干潟などでの漂着物の実態、ゴミが発生するフロー、抑制策の力点、その辺りは共有できたかと思います。メーカー側の事情をしっかりヒアリングする必要はありますが、ここまでがいわゆる現状認識(As-Is)ということで一旦区切りたいと思います。で、皆さんにはここで、じゃあこうしたらいいんじゃないか、という観点で『物申すシート』に一筆いただければ、と。河川事務所向け、商業施設向け、と分かれているのはそれぞれに意見を伝える場が用意されているためです。詳しくは後ほどお話ししますが、今は思ったこと、というより、前向きな提案を一つお願いします」

 十五時十五分、休憩時間に入る。ここまで、中学生の小梅にはちょっと難しかったかも知れないが、隣でトーチャンが役人なりにわかる部分を解説してくれたりしたので、何とか持ち応えた。だが、本当のところはちょっと違う。普段はからかって愉しませてもらっている千兄が、こういう場になると全くの別人になることがわかり、面映いやら後ろめたいやら、ちょっとドキドキもしたりして、気付いたら前半終了、だったのだ。


 南実は千歳に言い寄ろうとしていたが、質問者に遮られて断念。さらには駆けつけたばかりの蒼葉に先を越されてしまった。

 「千兄さん、これどうぞ。ノド渇くでしょ?」

 使い回しペットボトルにミネラルウォーターを入れて来たんだとか。これぞ、リサイクル以前に優先されるべきリユース(再使用)である。だが、そんなことに感心している場合ではない。

 「て、蒼葉さん、今、僕のこと...」

 「いずれはそう呼ばせてもらうことになるでしょうから、今から盛り上げておこうと思って。ダメ?」

 協議後半に向け、気合いを入れ直していた千歳だったが、これですっかり気抜け状態。いただいたのは発泡水ではなかったが、仮に発泡していても、やはり気抜け水のような感覚になってしまっただろう。そこへパチパチと発泡、いや面前で手を叩かれて、ハッ!となる。

 「千さん、あたしも前に来ていい? 進み方によっちゃツッコミ入れたいし、そのぉ...」

 「発言を記録してもらいながら、でよければ。そのまま、プロジェクタで映し出す用だけど」

 「はぁ、ま、やってみます」

 十五時半、再開間際。ここで遅れ馳せながら、冬木がご到着。だが、目が合っても会釈してるようなそうでないようなコソコソした感じで、席を見つけるや否や素早く腰掛ける。横には見慣れない人物がいたが、話し込んでいるところを見ると、はて? チームの一員か、それとも... メンバーと接触、というのがピッタリ来る図である。櫻はそれを見逃さなかった。出端からツッコミを入れてみる。

 「では、物申すシート、集めさせていただきます。まだの方はまた後ほど。で、商業施設向けの件について、先にご説明します。干潟から比較的近い場所に複合型のショッピングセンターがありまして、そちらにゴミ対策などの話を伺いに行く予定がございます。来週金曜日の午後です。傍聴もできるよう調整してもらっていたんですが、榎戸さん、どうでしょ?」

 相変わらず、話をあまり聞いてなかったようだが、「あっ、はい。よろしくお願いします。集合場所は...」 隣人と確認をとるようにして、詳細を告げる。

 「てな訳で、いただいたご提案をここで共有して、当日問いかけてみよう、という趣旨でした。付け加えたいことが出てきたら、随時お受けします。ね、隅田さん?」

 「あ、ありがとうございます。で、早速、桑川さんにシートの内容を速記してもらっているところです。先に商業施設の方って出ますかね?」

 容器包装類もスーパー店頭で回収する、さらには油化も、とか、プラスチックは生分解性への転換を速やかに、とか、いっそのこと、生き物が食べたくなる素材で作ってはどうか、なんてのまで出ている。容器包装メーカー社員も巻き込んで、皆で調査型クリーンアップに参加してもらっては、というのはありきたりのようだが、最も即効性がありそうな一案。ただのクリーンアップ行事ではなく、調査も、というところがカギである。漂着・散乱の実状をデータを介してより深く知ってもらうことで、より負荷の少ない商品が開発されることになるなら、この上ないだろう。ちなみに文花がエコプロでゲットしたバイオマス某の資料は休憩時間中に回覧済み。少なからずヒントにはなったようだが、決定打とはならなかった。

 「おかげ様で何となく策が見えてきた気がします。提案された方で、補足とかはございませんか?」

 こんな感じで、プレゼンターと会場とでいくつかのやりとりが繰り広げられ、To-Beの方も輪郭がハッキリしてきた。櫻はヒントを提供した覚えはあっても、こういう形で昇華されるとは思ってもみなかったので、呆気に取られるやら、誇らしいやら。論点整理は前半のうちに済んでいたものの、今となっては自身の心境の整理が必要なように感じていた。「千歳さんにカウンセリングしてもらったりして。フフ」

 As-IsとTo-Beは対比することで、より明確になる。弥生には手を休めてもらって、ここからは得意の打ち込み&投影で、千歳が仕切る。

 「進め方が前後してしまいましたが、ここで『こうなっている』と『こうしたい』を並べてみようと思います」

 箇条書きで記されていくのは、

・漂着は続く → 漂着を少しでも抑える → 素材レベルでの対策など

・今は拾うしかない → 量が減ればその負担は減る → その分、新たな策に手が回せる

・実態が知られていない → 知ってもらう努力をしつつ、関係企業などの参加を促す → 本業に活かしてもらう(商品企画段階からの抑制策など)

 など。解を見つけたらしい弥生がここぞとばかりに手を挙げる。

 「その、知ってもらうってことでは、調べた結果をより速く広く伝えるのも大事ですよね。隅田さんのブログには一部出てますが、センターや流域情報誌のサイトとかでも速報を載せられればいいんじゃないでしょうか? システムを改造すれば、リアルタイムでも行けそう...」

 「システム開発者がこう云うんですから、これはぜひやってもらいましょう。とっかかりは荒川下流でしょうけど、もしかするとあちこちで、ってなるかも知れないし」

 「ハ、ハハ...」

 ツールではあるが、立派なソリューションである。ただ、応用範囲について本人はあまり考えていなかった。あくまでコミュニティビジネスレベルだったのである。弥生はプログラムを卒論ネタに、卒業後は見習い起業、という方向性を固めつつあったが、これで発展的見直しを迫られることになる。

 

【参考情報】 2007年5月から2008年1月にかけての月例調査まとめ(→参考PDF) / 日本における国際海岸クリーンアップ(ICC)2007年秋のワースト10 / モノづくりの流れと循環(例)


ジレンマとその先(前編)

55. ジレンマとその先(前編)


 「今すぐにでも、ということでは、春先に増えるであろうバーベキュー関係のゴミに対して、どう先手を打つか、というのがあります。これをうまく抑え込めれば、今後の取り組みも違ってくるだろう、と個人的には考えてまして...」

 道ゴミや街ゴミなど、いわゆる陸ゴミが川に流入して、という話もなくはないが、発生源がハッキリしているのがあるなら、それが優先。策も講じやすい。話を拡げておいて、また収束させる、そんな進め方には異議も出そうではあったが、これが千歳の考える、飛び過ぎないTo-Be論なのである。


 ケータリングも頼んではあるが、ゴミ減らしがどうのとやった後でゴミになるようなものはあまり振る舞えない手前、できるだけ自前で大皿料理などを出すべく、文花は仕度を始める。休憩時間以降は、出たり入ったりで落ち着かなかったが、そろそろ事務局長のお役回りが来たようだ。

 「では、この辺で河川事務所向けに移るとしましょうか。先月の会合に続き、石島課長にお出でいただいてますが、いきなり話を向けるのも何なので、まずは届いたばかりの回答書の中味を伺ってから、ということで。えっと、代読がいいですかね?」

 「あ、ハイハイ。じゃここは私、矢ノ倉からお話しします。石島課長、これ確かに拝受しました。ありがとうございました。干潟における自然再生工事の件、回答書を要約して読み上げますね」

 文花はエプロンをしたままなので、パッと見は「おや?」となるのだが、話は至って真面目。注目されていることがよくわかるので、舌も滑らかである。

 概括すると、①再生工事は凍結、②引き波や漂着の状況については調査を継続、③崖地の崩落箇所は何らかの保全を試行、そして、

 「若干の予算が確保できたので、ゴミ発生予防策など、より有効な使途に、とのご回答を頂戴しました」

 「おぅ石島さんよ、なかなかやるじゃねぇか」

 「ハハ、こいつはどうも。これも皆さんのおかげです」

 どうやらセンター理事連名での見解書が物を云ったようである。行政側は、然るべき書面が来れば職員も話を通しやすくなるし、案外動きが良くなるものなのだ。どう使うかを検討するのはこれからだが、まずはめでたい。どことなく拍手が起こり、次女も嬉しそうにしている。会議スペースの陰では、いつの間にやら細君が佇んでいて、丁度聞き耳を立てていたところだった。「ホホ、良かったわね。課長殿」


 さて、こういう展開になると俄然、物申すシートも活きてくるというもの。弥生は一応、要望のいくつかを打ち、映しているが、いま一つピピと来ていない様子。

 「そうですね、メーカーに物申せるのがまた別の省庁ってことだと、ちょっと噛み合わないですね。となると、やはり現場レベルでの対策が中心、かぁ...」

 膠着しかけたところで、途中提出されたシートの中に、面白いのが混ざっていた。

 「えっと、巨岩に縄を締めて、棄てられそうな場所に安置、へへ」

 「あぁ、以前、掃部先生からも聞いたことがありましたね。場を浄める上でも有効、されど...」 浄めと来れば、清さん。

 「ま、やらねぇよりはいいかもよ。秋の大水で上流からゴロゴロ転がってきて、持て余してんのとかあんだろ?」

 「えぇ探せば何処かに。じゃ、それを試しにバーベキューエリアに設置してみましょうか」

 小梅はここで課長に入れ知恵をする。「ねぇ、二見の夫婦岩、真似てみたら?」「二つあれば、な」

 父と娘の静かな会話が交わされる時、プレゼンター席では騒々しいことになっていた。一案出たところで、さらに、と行きたかったが、

 「そうそう、最初に分けた他のはどうすんの? 『厄介』と『不法』?」

 「何か要望が出てれば、だけど。そういうのある?」

 「人任せ? 千さんだったら、ちゃんと考えてあんでしょ!」

 見かねた櫻が引き取る。

 「皆さん、すみません。ちょっと中断します。そうですね、三分後、十六時五分に再開ってことで」

 思わぬ展開に千歳はキョトンとしているが、とりあえずは救われた恰好。櫻は弥生以上にピリピリしている。

 「弥生ちゃん、そんなに突っ込まなくても...」

 「だって、何かスッキリしなくて。この際、でしょ? 不法はやってもいいと思う」

 「事件性があるのは別としても、それが河川事務所の仕事だもんね。やって当たり前とか言わずに、ちゃんと訊いた方がいいか」

 スクリーンには、箇条書きの続きで、

・不法投棄も存在する →

 と、As-Isの一文が追加される。これに照応しそうな要望として、水上からの監視を、というのが挙がってはいた。だが、これは芽を摘む上ではよしとしても、根本的な解決のため、とは言い難い。そこはあえて伏せておいて、協議に付すのも良さそうだが。

 ともあれ、この「不法」にまつわるTo-Beは、広範な論議を呼ぶ可能性がある。はじめにカテゴリー分けして「大量」に絞ったのは、一定の帰結でとどめ、確実なソリューションを得たいとする千歳なりのプロセスマネジメント、そのものだったのである。弥生には、この協議手法自体が解の一つという理解が及ばなかったことが、もどかしさにつながっていたようだ。


 この間、京は小梅を呼び出して、文花の仕度を手伝うよう促す。これで人手不足は解消。男手の一つも欲しいところではあったが、それはあとのお楽しみ。今のところは女性三人、仲睦まじく、でいいのである。

 余裕の進行だった筈だが、やや押せ押せ感が出てきた。こうなったら、このまままとめにつなげよう。千歳は覚悟を決め、まず課長殿に振る。

 「で、不法投棄についても、岩を鎮座させることで予防できそうな気もするのですが、石島さん、どうですか?」

 「取り締まりや監視は常々やってはいますが、さらなる予防策ということでしたら、それでもいいかと。監視カメラ取り付けるよりも安上がりですしね」

 「監視強化については、要望の中にもありました。ただ、ここはやはり棄てさせない環境づくりが先決なのかな、と思います。看板を設置しても流れてしまっては仕方ないので、置物を、というのは良さそうです。でも、もうちょっと妙案があるような気もします。ここはご当地でクリーンアップ経験のある皆さんに聞いてみるとしましょうか。じゃ、五十音順で蒼葉さんから」

 「え? 私? そうですねぇ、できるだけマメに片付けるってことでしょうか。干潟や川の本来の姿に近づけるっていうか、ピカピカになってれば、そうそう捨てられないでしょうから」

 こんな調子で、higata@各位からの声を集める管理人である。生でメーリングリストを交換し合っている、そんな案配。櫻が続く。

 「地域の実態をしっかり把握して伝えること、かなぁ。ここにこんなゴミが、とか、ここが投棄されやすい、とか。住民はしっかりチェックしてるぞ、ってのを発信する。マップにして掲示すれば少しは予防になるでしょう、ね」

 文花は後回しで、冬木の番。「やっぱり情報誌等で呼びかけるなり、喚起するなりってとこでしょうか。あとはソーシャルビジネス、あ、いや失敬。わかりにくいですよね」 そして、南実。「ゴミだって思うから棄てたくなるんでしょうね。家電製品は有価物の塊。電子機器は貴金属の集合体。プラスチックだって石油が枯渇したら貴重品ですよ。逆転の発想というか、社会的風潮を皆で作るってのはどうでしょうね?」

 こういう流れだと、八広も話し易い。発言がなかった訳ではないが、何となく低調だった弁論家は、ここで一気に語り始める。

 「今の話を継ぐなら、人の心理に訴える手が考えられますね。極端な例で云えば、どうもゴミを拾う人が増えているらしい、という風評作戦とか。拾わないのが少数派ってのがわかると、どっかの国民は多数派に転じようとしますから、それを利用する。つまり、拾う人手を増やす。あとは、ゴミの投棄が、自分に跳ね返ってくることを説く。目の前からゴミは消えても、心の中にはゴミが溜まるって話です。本人はスッキリしたつもりでも、その裏で蝕(むしば)まれる何かがある、なんてのが広まると、効き目あるんじゃないスか?」

 会場は水を打ったようになってしまうが、これは予定調和。弥生の毒舌トークが輪をかければ、さらにひんやりと引き締まっていいだろう。と、思いきや、文花が小梅を連れて戻って来た。

 「私もいいですか?」

 「あ、ハイ、どうぞ」

 「その、地球環境以上に、地域環境を見つめる目というか、市民の皆さんがここはいいところだ、って認識を高めてもらうことが何よりの予防になるような気がして。ね、櫻さん?」

 「えぇ、ご近所の何とか力(ぢから)ってのもありますが、一般的には地域力って言いますかね」

 「あとは現場力でしょ?」

 小梅がさらりと言ってのける。衆目が注ぐのを受け、さらに長めの一言。

 「わたくしは、生き物にとって快適な環境は、人にとっても同じく快適、ということをより多くの人々が知ること、ではないかと考えます(へへ)」

 トーチャンが目を丸くしたのは言うに及ばず。会場からは割れんばかりの拍手が起こる。higata@の面々はむしろ当然という面持ちだが、やはり頻りに手を叩いている。大人の話し方を聞き入っているうちに、自然と身につけたようだが、それにしても大した弁舌である。

 こうなると、弥生は下手なことを話せない。どう出るのかとメンバーは興味津々だったが、「地域の実情をデータ化して、素早く広める、あたし、やってみます!」 何と自ら名乗り上げてしまった。解決策は自分で、これぞ究極のソリューションである。すっきりした顔で会場を見回すと、目が合う人全てから熱い拍手が送られる。彼女にもう迷いはない。


 さすがはhigata@各位、現場経験に裏打ちされているだけのことはある。自ら設定したまとめではあったが、あまりに上々だったため、新たに言葉を探さなければならなくなる。千歳は窮々としながらも、紡ぐように話し始めた。

 「ありがとうございました。今のような思いや考えを一人ひとりが持つこと、実践すること、そしてとにかく現場へ、ということになるでしょうか。干潟も川も生き物もきっと笑顔で迎え入れてくれると思います。自然が微笑む場所には、きっとゴミはなくなっている、そう信じたい、です」

 抽象的ではあるが、やはり経験が為せる業か、説得力を感じさせる。と、同時に実にエモーショナル。曲のテーマがこういう形で見つかることになろうとは... 本人もビックリである。スクリーン末尾には「・不法投棄も存在する → 防ぎ方はいろいろある → 現場力や地域力、それらを育む思い・考え・行動...」と表示される。


 「隅田さん、皆さん、どうもありがとうございました。もう一度、拍手を」

 余韻とゆとりを残しつつ、閉会予定時刻が近づく。締めは、清と緑。司会者は両作家先生に講評を求めるも、

 「いやいや、そういうのはまた新著で、な。とにかくこういう人達がいる限りは安泰さ」

 「そんな、初心者に訊いてどうすんのよ。こっちが教えを請わなきゃ。オホホ」

 てな具合。櫻は渋い表情を浮かべつつも、司会としてのまとめに入る。

 「長丁場になりましたが、いかがだったでしょう? とにかく今回の協議内容については、しっかり次につなげていきたいと思います。要望は再度整理して意見交換の場に、ホームページなどでも紹介したいですね。で、現場ということでは、来月二月三日。耐寒クリーンアップを予定しております。センターの講座としては、定例ですと二月九日になりますね」

 部会の設定が模索中なので、それと連動する講座の内容も未決定。ただ、こうした客がいる今を逃す手はない。部会よりも実際のニーズありき。ご希望に沿ったプログラムを決めるには正に好機なのである。

 「で、次回なんですが、春のクリーンアップの企画検討を兼ねた実践講座なんてのはどうかな、と。チームの皆さんのご都合にもよりますが」

 春のクリーンアップ、つまり四月の回をオープンイベントにするかどうかは合意がとれていた訳ではなかったが、話が出ていないこともなかった。

 「いいんじゃないスか。自分は出ますよ。で、春のってのは、やっぱ四月の第一日曜スよね。ちゃんと予定入れときます」

 「宝木さん、ありがとう。エドさんチームはどうですか?」

 「えぇ、その四月についてはちょっとしたイベントも併せて、って考えてますから。今日の話で言えば、地域力アップと発生予防にちなんだもの、ですかね。ステージとかも設置して。いけね。ま、詳しいことはまた追い追い」

 他のメンバーも前向き、会場の感触も概ね良好なので、二月の予定はひとまず決定。

 「二月三日は、講座の前座みたいになりますが、あえて、ぶっつけ本番スタイルにしようと思います。持ち物や注意点などは改めてお知らせします。で、いいですよね、隅田さん?」

 「はいはい。ただ、耐寒もありますが...」

 プロジェクタはまだOFFにしていなかった。スクリーンには「体感クリーンアップ」との題字が打ち出される。「ぜひ体張って実感していただければ、と。そんな心積もりでお越しください。チーム一同、お待ち申し上げております」

 「ハハ(やられたぁ)、そういうことで、よろしくお願いします。で、最後に事務局長、ってまたいなくなっちゃったんで、ここは一つ、石島課長、一言よろしいでしょうか?」

 「あ、いや、皆さんどうぞお手柔らかに。何かございましたら、また。いや、今日この場でも構いません。次女もついてますんで」

 「エヘヘ」

 親子で頭を下げている。こんな閉会の挨拶があってもいい。満場の拍手で以って、ゴミ減らし協議、終了。次はお待ちかねの新年会である。


ジレンマとその先(後編)

55. ジレンマとその先(後編)


 挨拶し損なった文花が晴れ晴れと登場。ここからは事務局長が進行役となる。

 「では、新年会 兼 鏡開きは十七時より始めたいと思います。その間、桑川さん開発のデータ入力システム『DUO』PC版のデモなどでお楽しみください。あと、掃部センセが余興をご用意くださっているとのことなので、そちらもお楽しみに。会はカンパ式です。アルコール飲まれる方は、最低千円、お願いできれば。えっと、干潟の拾い物で恐縮なんですが、この発泡スチロール箱の方にお願いしますね。収益が出たら、クリーンアップ基金に回します」

 基金の話は、明らかに思いつきなのだが、冬木から申し出があった協賛金の口座も設けたところなので、一本化は可能。ツッコミを入れてもよかったのだが、櫻はとりあえず黙っていた。「ここからは文花さんタイムってことで。おとなしくしてよっと」 ところが、

 「ハイ、櫻さん。集金係、頼みます」

 「って、勝手に決めちゃうしぃ」

 「白物、お好きでしょ」

 やはりしっかり物申さないといけないようである。

 ちなみにこの白物、晩夏の夜に千歳が持って来たシロモノである。これぞリユースの好例(?)。


 天気が怪しいこともあり、本日の参加者の何人かは退出。代わりに集金係、いや融資係の女性がやって来た。

 「あ、ルフロンさん!」

 蒼葉と南実は彼女を同時に呼ぶ。

 「へへ、お待たせ。案の定、小雨模様になっちゃった。ゴメンネ」

 「いいのいいの、乾燥してたから。それにしても、今日はまた程よいウエーブ感だことで」

 「弥生ちゃんにまたボサボサとか云われたくないからさ」

 「ボサボサ、好きだけど」

 「八クンたらぁ」


 元祖ツッコミ担当の弥生嬢は、円卓にてDUOのデモ中である。千歳はPC版の係員として着席して操作しているが、傍から見事に突っ込まれている。

 「だから、千さん、テンプレートの切替はプルダウン▼でって言ったじゃん」

 「だって、新しいのがいろいろ出てくるから間に合わなくて」

 「ヤレヤレ。この際まとめて面倒見るか」

 「毎度、スミマ千、でございます(トホホ)」

 冬木とその関係者らを含め十人程が囲む中、面目まる潰れの千さんであった。情報誌に掲載される前だったら、面白おかしく書かれてしまうところである。ヤレヤレ。


 八広は集計表を見せながら、舞恵とあれこれやっている。女性三人は何となく話を聞いていたが、一人が首を突っ込む。

 「それにしてもクリスマスに二人して神戸の海辺とはねぇ。須磨だっけ? どうしてまた」

 「櫻姉ならわかるっしょ? 何てったって、くりすます、ですから」

 「ハハハ、体感クリーンアップといい、クリ須磨スといい、私の出る幕ないわね」

 蒼葉も南実も目をクリクリさせながら、失笑モード。ルフロンはすまし顔で、

 「ワイナリーでこれ買ってきたの。須磨はその帰りに寄っただけ。シャレのためにわざわざ行きませんことよ。オホホ」

 「ルフロンて何気(なにげ)にセレブチックねぇ」

 「悪酔いしなきゃね」

 「八クン、何か言った?」

 ボトルで叩かれたら、それこそシャレにならない。


 ひととおりの仕度も整ったところで、石島家は三人が揃い、物申すネタを受け付けながらも談笑中。時間前だが、いつ始めてもOK。だが、進行役が固まっていては始めようがない。

 センターの入口にはクーラーボックスが放置してある。持って来た時から置いてあったので、少しは元の姿に戻っているだろうと思ってたら、外の寒気に応じて冷気が保たれていたらしく、

 「あちゃー、まだカチコチだったわ」

 そう、おふみさんへのビックリネタ、急速冷凍したとやらの雑魚の詰め合わせである。

 「ま、これなら平気だろ?」

 「う...」

 図らずも冷凍状態になってしまった文花である。

 「て、センセ、もしかしてこれをいただこうって?」

 「自然解凍したら、さっと捌いて素揚げにするさ。あとで調理台、借りるよ」

 「で、その油は?」

 「あぁ、自家製さ」

 「プラスチックを油化? な訳ないか」

 「ハハ、流域で採った菜の花が原料。菜種油よ」

 「ウチの菜の花でもできますか?」

 解凍が進むのに合わせ、文花もほぐれてきた。目に浮かぶは、春の色。油の話で花が咲く。


 センターの開館時間は十八時までだが、今日は特別。表向きは繰り上げ閉館ということにしてある。それでも十七時から来館者があったら、拒むには及ばない。通常通り利用してもらうもよし、新年会に参加してもらうもよし、である。

 「皆さんおそろいでしょうかね。では乾杯に先だって、鏡開きと参りましょう。元来、包丁は入れず、割るものなんだそうですが、どなたかやってみたい方...」

 南実と目が合ったが、まんまと逃げられてしまった。男性諸氏も腰が引けている。と、再び名乗り出るは弥生のお嬢さんである。

 「え? 大丈夫?」

 「行きますよ。ハッ!」

 さすがはベース弾き。腕っ節は強かった。一番下の大きい円盤餅を難なく真っ二つに割ると、「お粗末様でした」。今日は何かと喝采を浴びる弥生。その脇ではすっかり恐れをなしている女性が佇む。

 「この娘(こ)を敵に回すと怖いことになりそう... でも、負けないワ」

 雑魚は解けた。文花はその逆。今はいい意味で硬直している。

 会議スペースの長机を並べ直して、中央にカセットコンロを設置。窓を開けたら、いざ点火。大鍋には、調合済みの冬野菜汁。そこに割って切った餅が入る。グツグツやっている横で事務局長によるご発声がかかる。

 「挨拶はヌキ。とりあえず乾杯!」

 文花を除くhigata@の面々は、神戸のワインで盛り上がる。下戸の南実も一口二口なら大丈夫そうだ。だが、すでに頬が赤い。千歳はふとサルビアの紅を思い出し、紅潮する。

 二人はやはり似ている、ということか。


 さて、ついさっきまでゴミ見本の品定め(ネタ集め?)なんかを黙々とやっていたおば様だが、ここからは喧々(けんけん)と仕切り役に就く。

 「はいはい、緑色関係は任せて頂戴。カモンさん、魚と一緒に入ってたヤツ持ってらっしゃいよ」

 「さすがは緑さんだぁな。あいよ」

 「ナズナ、ハハコグサ、ハコベかぁ。そうそう、おふみさん、ダイコンの葉っぱは?」

 「洗い場にあります」

 「じゃ、スズシロはOKね。ま、あとはこのヨモギで代用すれば、五草」

 七草粥に非ず、五草雑煮が振る舞われることになる。

 「これからはお奉行様と呼んで進ぜよう。シシ」

 「結構よ。でも掃部(カモン)の守(かみ)にお仕えするつもりはございませんから」

 「ま、確かに流浪の作家さんにお仕えはムリだわな」

 「ハ、似たり寄ったりでしょが」

 雑煮奉行様の手は止まったまま。これじゃ煮沸してしまう。文花は気が気でない。

 「あぁ、おば様」

 「あら、おたまは?」

 「そりゃ、アンタのことだろ?」

 「たく口が減らないんだから。いいから、その箸貸して」

 掃部守は、菜箸のような不思議な一膳を手にしていた。それなりに使い込んでいる。つまりマイ箸。そんなマイ箸持参者はあいにく少数だが、文花が気を利かせて多めに塗り箸を持って来ていたので事なきを得た。器やグラスはセンターの常備品で間に合う。飲料はビンが中心。ケータリングのピザが玉に瑕(キズ)といったところ。

 「この箱が一方通行なのよねぇ。引き取りに来るとなると、コストかかっちゃうから、仕方ないけど」

 「水溶性にする訳にもいかないし。ある程度キレイにして古紙回収に出すのがベターですかね?」

 美味しそうに頬張っている文花と櫻だが、話題はこの通り、協議の続きのようになっている。

 「ま、そういう話もいいけど、淑女(レディ)はやっぱ美の追求じゃございませんこと? 文花さんも姉さんもお口の周り...」

 すかさずルフロンが大鏡を開く。これもある意味鏡開き。

 「まぁ、これじゃ看板娘の名が泣くワ」

 「は? 娘? あぁハコ入りでしたっけね。あ、そうそうハコと言えば。集まりましたよ。ハイ!」

 お互い顔を見合わせながら、大笑い。笑う門にはカンパ来る、ということのようだ。


 歓談続く折だが、余興の頃合いとなった。センセによる魚調理の始まり始まり。

 「こいつはさすがに換気扇のあるとこじゃねぇとな。ま、狭いけど、見学歓迎。荒川の恵みご堪能あれ、ってな」

 主にボラとスズキ。小さい部類なので、捌きにくいところだが、実に手際がいい。あっさり下ろすと、油にジャー。

 「いけね、おたまさんにとられちまったんだ」

 「あ、取ってきまーす」

 文花が箸を取りに行っている間、石島母子はじめ、見学者一同は揚がる様子を眺めていたが、南実だけは俎(まないた)の上をジロジロ。

 「ねぇ、先生。この内臓にプラスチック粒とかって...」

 「さぁな、解剖してみねぇことには」

 「どうしよっかな」

 この日、研究員はしっかりジッパー袋を持って来ていた。予防に向けた研究を進めるにしろ、まだまだ現象面も押さえていたいと思う。臓物の運命、推して知る可(べ)し、である。


 雑煮も素揚げも大皿料理も好評裡に片付き始めていた。帰る客もチラホラと出てくる。十八時を過ぎた頃には、石島家の人々も帰途に。今残っているのは、プチ理事会に出る面々とhigata@メンバー。乾杯の時の半分程の人数になっている。

 幾分閑散となった会場を見ながら、櫻は久々に憂い顔を見せる。それはちょっとした寂しさを感じてのこと。

 「なんか、千歳さんが真面目にやると、その分、私との時間とかって減っちゃうのかなぁ... ジレンマだ」

 かねがね櫻を慕っていた弥生は、そんな憂いに反応したようで、また違うジレンマ話をし出す。

 「ディスカッションしてて思ったんですけど、ゴミが減ると、クリーンアップする回数も減るってことですよね。これは本来望ましいことなんでしょうけど、つまりその、皆さんと顔を合わせる機会も減っちゃう、ってことになりませんか? ねぇ、櫻さん」

 「そ、そうかも知れないけど...」

 雑談の一環ではあるが、哀愁が色濃くなってくる。それでも櫻は気を取り直し、

 「ホラ、下流側にプチ干潟があるじゃない。いつものとこが目処立ったら、今度はそっちを」

 すると、冬木が申し訳なさそうに白状する。

 「実は隔月で、あそこのクリーンアップ始めてまして。先月も学生連中なんかと一緒に」

 十月の取り組みがしっかり継承されていることがわかり、本来なら大いに結構なお話なのだが、どうもそうならないところが、曲者ゆえの悲哀だろうか。否、それだけジレンマの度が大きい、ということなのである。

 「余計なことを、って言っちゃいけないわね」 文花も憂いを込めてポツリ。

 「ゴミを減らしつつも、クリーンアップの場は維持する、って、矛盾スねぇ」 八広もお手上げの弁。

 「顔を合わせるって以上に、拾って調べて、があるから、かぁ...」 蒼葉は的確な寸評を挟む。南実は黙して語らず、である。

 だが、この女性は違った。協議の場にいなかったせいもあるだろう。舞恵は極めて楽観的。

 「だったら別にゴミ減らさなくても... 何てね。ま、ただ集まるだけじゃ物足りないってんなら、クリーンアップ以外の共同作業を始めればいいんよ。やっぱバンドでしょ」

 「でも、それはおまけみたいなものだった訳で...」 櫻は少々懐疑的だが、

 「いや、メッセージソングとかご当地ソングとか、それで予防につながるなら」 千歳は前向きに応じる。

 「そうそう、そんないきなり漂着ゼロにもならないだろうから、バンド活動とクリーンアップを交互にやってみるとか。センターとしても応援しますわよ」 文花はお気楽なことをのたまう。担当楽器があれば、そうも言ってられないと思うが。

 「となると、益々Goさんに頑張ってもらわないと♪」 言いだしっぺの弥生がすっかり晴れ晴れとなったので、この話はここまで、と相成った。


 プチ理事会と称するのは憚られるが、アルコールが入った状態での議事というのは頼りないもの。正規扱いしないとなれば、こう呼ぶしかあるまい。開始は一応、十八時半から。まだ多少の時間がある。

 「おふみさん、そういやアルコールって口にされてないような」

 「今日はクルマだから呑めないんだワ。ま、私、お酒入ると大変になっちゃうみたいだから。イブの時も... あ、ハハハ、これから議事もありますし、ネ」

 クルマというのを聞き付けて、同乗希望者が現われる。

 「ま、下流方向の方々はお送りします。奥宮、宝木、小松の各氏でいいかしら? 待たせちゃうけど、その間、カレンダーとか手帳とか、よければ選んでて」

 文花の気の利き様はこれにとどまらない。

 「そうそう、おすみさん。今日の分、謝金をお出ししないとね」

 「いえいえ、出勤日ですから」

 「だって、あの資料、櫻さんのこと放っぽらかして作ってたんでしょ? 埋め合わせしなきゃ。ねぇ?」

 櫻は返す言葉がなかった。「嬉しいけど、埋め合わせで済まされるのも何だなぁ...」 またしても心境の整理が必要になってくる。と、ここで南実がようやく千歳をつかまえると、

 「フローチャートのデータ、ください!」 いつもの直球でズバッ。

 「USBメモリとか持ってます?」

 「じゃ、これに」

 「へ? それって、ケータイストラップじゃ?」

 「丈夫なんですよ。しかも防水」

 櫻は居ても立ってもいられない。「私との恋愛プロセスよりもそっち優先? もうっ!」  何に妬いてるのかがすっかりわからなくなっている。南実に対してでないことは確かなのだが...


 すでに定刻を過ぎているのだが、この二人が揃わないことには始まらない。

 「て、千歳さん、自分のプロセスで先に進んでっちゃう感じ。少しは相方と相談してほしいな」

 「それって、今日の話?」

 「もあるけど、そのぉ...」

 「だよね。サプライズは程々にって?」

 千歳はちゃんとわかっている。サプライズネタを忍ばせながらも、原則手堅く進めようとする余り、彼女のもどかしさを招いてしまっているだけなのである。だが、弥生と違って、櫻はピピと来る。

 「そっか、ゆっくり見せかけといて実は、ってこと? それともただのトリック?」

 ヤキモキもプロセスのうちと考えればこそ。櫻なりにステディ感を楽しんでいるようである。


 後片付けを手伝っていた弥生と冬木だったが、程なく退出した。蒼葉、舞恵、南実は飲料を空けながらよもやま話。

 「蒼葉嬢はA。こまっつぁんは、MinamiだからM。舞恵もMだけど...」

 「それ、何の話?」 前出のMさんが聞く。

 「バンドやるんだったら、名前付けなきゃって思ってさ。で、皆のイニシャルくっつけると何か単語になるんじゃあないかと」

 Aさんは一人「姉さんはS、千兄さんもS? じゃないや、C? いや隅田だから...」 CとSで悩んでいる。(企業の社会的某ではない。念のため。)


 会議スペースではやっとこさ、理事会が始まる。といっても、運営委員も交えてなので意見交換会といったところか。新理事・新運営委員数名に、清、緑、千歳、櫻、八広、そして議長の文花がテーブルに着く。議題は二つ。ホワイトボードを持ち出すまでもないようだ。

 「おかげ様で、環境情報サイトはKanNaですっかり定着。協賛金ベースでめでたく運用が始まった例のデータ入力システムはDUOに決まりました。ネーミングがまだだったのは当法人の名称だった訳ですが...」

 こっちでも名前の議論になっている。このNPO法人何々の件は、新年会でも話題になり、何となく同意もとれていたのだが、書いてみないことには実感が沸かない。文花は意識的に丸文字調で裏紙にしたためてみる。

 「で、こうなります。『いきいき環境計画』!」

 「ほぉ、カタカナじゃなかったか。ま、イケイケと間違われないようにするには、その方がいいか」

 清はどことなく自重気味にコメントすると、イケイケ批評家の八広氏がその心を説明する。

 「生き生き、がお題目ですが、『いき』にはまず地域の域、そして心意気の意気、粋だねぇの粋なんかが込められると思います。あと、息づく、もスね」

 さすが、コピーライティングのセンスが活きている。横文字を避けたのは略称を考慮してのこと。してその略称とは?

 「いいカンケイ、ってことになりますかね」

 ここは櫻のひと声で即決。キャッチフレーズもすんなり行きそうである。

 次の議題は、部会と講座。二月についてはクリーンアップ講座で行くとしても、さて三月は?

 「今日の話で思ったんだけど、クリーンアップを仮に『現場部会』の一環にすると、櫻さんのやりたかったことの部会行事って別にできるかな、って」

 「もしかして探訪、のことですか?」

 「そうそう、今日だっていいこと言ってたじゃない。ねぇ、皆さん?」

 かくして、マップづくり教室をやってみてはどうか、という方向で一致する。継続的に取り組めそうならそのまま部会化。何色のマップができるかは、当日のお楽しみ、となる。

 「探訪ってことなら、探偵さんにも出てもらわねぇとな」

 「ホホ、虫眼鏡だって双眼鏡だって、よりどりみどりさんよ」

 「おば様と一緒なら、やっぱりグリーンマップでしょうね」

 とまぁ、終始和やかな感じで議事の方もお開きとなった。だが、櫻の議事は終わらない。

 「現状を伝えるためのAs-Isマップ。こうしたいっていうモデルを描くTo-Beマップ。その二本立てで地域再発見!なんていいかも。フフ」

 それはそれで結構な企画なのだが、皆が気になるのはCさんとSさんのTo-Beの方?かも知れない。

 

【参考情報】 正統派鏡開き



読者登録

冨田行一さんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について