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線維筋痛症の診断基準の不備と誤った解釈

 

抄録

 線維筋痛症には1990年基準、2010年の予備的診断基準(2010年基準)、2010年基準の改訂版(2011年基準)の三つの診断基準があるが、診断基準そのものの不備に加えて誤った解釈により混乱が生じている。それらを解説する。

  

戸田克広

福山リハビリテーション病院リハビリテーション科

 

はじめに

 線維筋痛症(FM)には1990年基準(表1、図1)[1]、2010年の予備的診断基準(2010年基準)(表2)[2]、2010年基準の改訂版(2011年基準)(表3)[3]の三つの診断基準があるが、診断基準そのものの不備に加えて誤った解釈により混乱が生じている。いかなる診断基準を用いてもその基準を満たさない不全型FMが存在し、FMより不全型FMの方が患者数が遥かに多い。世界では、通常は不全型FMに対してはFMと同じ治療が行われている[4]。不全型FMに対してFMと同じ治療を行えば同等あるいはそれ以上の治療成績を得ることができる[5-7]。FMの診断基準には臨床的な意義はなく、論文作成や学会発表の際に均一の状態の患者を集める意義があるのみである[8]。


1990年基準

表1アメリカリウマチ学会の1990年の線維筋痛症の分類基準

 

1.広範な痛みの既往

定義:以下のすべての部位に存在する場合に痛みが広範であると見なされる。左半身の痛み・右半身の痛み・腰より上の痛み・腰より下の痛みに加えて体幹部の痛み(頸椎・前胸部・胸椎・または腰部)がなければならない。この定義では肩と臀部の痛みは各々各部の痛みと見なされる。腰痛は腰より下の痛みと考える。

2.指による触診で18か所の圧痛点のうち11か所に痛みがある。

定義:指による触診で以下に述べる18か所の圧痛点のうち少なくとも11か所に痛みがある

後頭部:両側、後頭下筋群の付着部

下頸部:両側、C5−C7における椎間孔の前部

僧帽筋:両側、上縁の中間点

棘上筋:両側、内側縁近傍の肩甲棘の上の起始部

第二肋骨:両側、第二肋骨軟骨移行部、移行部上面のすぐ外側

外側上顆:両側、外側上顆から2cm末梢

臀部:両側、片側臀部を四分割した上外側

大転子:両側、大転子の後部

膝:両側、関節線中枢の内側脂肪体

 

触診は約4kgで行われるべきである。

For a tender point to be considered “positive” the subject must state that the palpation was painful.  “Tender” is not to be considered “painful.”(医師が何も尋ねないにもかかわらず触診により患者が痛いと述べた場合を圧痛とみなし、医師が痛いですかと尋ねて初めて痛いと述べた場合は圧痛とみなさない。)

 

 

分類目的では両方の基準を満たした場合には線維筋痛症と見なされる。広範な痛みは少なくとも3か月存在していなければならない。別疾患の存在は線維筋痛症の診断を除外することにはならない。

 

 顔面や頭部は上半身、左右の半身には含まれないが、頸部は上半身、左右の半身に含まれる。著者の以下の論文に著者の疑問に対するWolfe医師の回答をWolfe医師の許可を得てその由を記載している。それはこの分類基準の施行細則に該当する。

Toda K: The prevalence of fibromyalgia in Japanese workers. Scand J Rheumatol. 36: 140-144, 2007.


2010年基準

表2 線維筋痛症の予備的診断基準(2010年)

 

患者は以下の3つの条件を満たす必要がある。

  1) Widespread pain index (WPI)が7以上でsymptom severity(SS)点数

    が5以上、又はWPIが3-6でSS点数が9以上。

  2) 症状が少なくとも3か月同程度である。

  3) 痛みを説明するに足る他の疾患が存在しない。

確認

1) WPI:患者が過去1週間以上疼痛を感じた部位の数。点数は1と19

 の間である

左肩甲帯、右肩甲帯、左上腕、右上腕、左前腕、右前腕、左股(臀部、大転子)、右股(臀部、大転子)、左大腿、右大腿、左下腿、右下腿、左顎、右顎、胸部、腹部、上背部、腰部、頚部

2) SS点数

疲労、覚醒時にすっきりしない、認知症状

各症状が過去1週間どの程度であったかを以下の指標で示す。

  0=問題なし。

  1=わずか又は軽度の問題がある、通常は軽度か間欠的。

  2=中等度、かなり問題がある、しばしば存在するか中等度のレベル。

  3=重度、蔓延する、持続的、生活を脅かす問題

患者が身体症状をいくつ持っているか。

  0=症状がない。

  1=ほとんど症状がない。

  2=中等度の数の症状。

  3=かなりの数の症状

SS点数は三つの症状(疲労、覚醒時にすっきりしない、認知症状)と身体症状の程度の合計である。最終的な点数は0と12の間である。

 

身体症状:筋肉痛、過敏性腸症候群、疲労、思考の問題や記憶の問題、筋力低下、頭痛、腹痛や腹部の痙れん、しびれやヒリヒリ感、めまい、不眠症、抑うつ、便秘、上腹部痛、吐き気、緊張感、胸部痛、かすみ目、発熱、下痢、口の渇き、痒み、喘鳴、レイノー現象、蕁麻疹やみみず腫れ、耳鳴り、嘔吐、胸焼け、口腔潰瘍、味覚の消失や変化、けいれん発作、ドライアイ、息切れ、食欲不振、皮疹、日光過敏症、難聴、あざができやすい、脱毛、頻尿、排尿痛、膀胱の痙縮


2011年基準

表3 線維筋痛症の予備的診断基準の改訂(2011年)

 

以下の3つの条件を満たすと、患者はアメリカリウマチ学会の2010年の線維筋痛症の診断基準の改訂版を満たす。1) Widespread pain index (WPI)が7以上でsymptom severity(SS)点数が5以上、又はWPIが3-6でSS点数が9以上。2) 症状が少なくとも3か月同程度である。3) 痛みを説明するに足る他の疾患が存在しない。

確認

1) WPI:患者が過去1週間以上疼痛を感じた部位の数。点数は1と19

 の間である

左肩甲帯、右肩甲帯、左上腕、右上腕、左前腕、右前腕、左股(臀部、大転子)、右股(臀部、大転子)、左大腿、右大腿、左下腿、右下腿、左顎、右顎、胸部、腹部、上背部、腰部、頚部

2) SS点数:疲労、覚醒時にすっきりしない、認知症状

各症状が過去1週間どの程度であったかを以下の指標で示す。:0=問題なし。1=わずか又は軽度の問題がある、通常は軽度か間欠的。2=中等度、かなり問題がある、しばしば存在するか中等度のレベル。3=重度、蔓延する、持続的、生活を脅かす問題

 

SS点数は三つの症状(疲労、覚醒時にすっきりしない、認知症状)と過去6か月の間に以下の症状が生じた数の合計である:頭痛、下腹部の痛み又はけいれん、抑うつ(0-3)。最終的な点数は0と12の間である。

 


本文2

1990年基準

 新基準が発表されても1990年基準は廃止ではなく現時点でも有効である[2]。実際に圧迫する部位が一定かという問題を含め、圧痛点の手技が一定ではない欠点がある。しかし、アメリカのNational Fibromyalgia Associationが診断基準の細則とでも言うべき手技を報告しており[9]、それを遵守すればかなり均一の手技になる。痛みと圧痛以外の症状が含まれていないという批判があるが、診断基準には臨床的意義がないため、その批判は重要とは言えない。2010年基準と比べると診断にかかる時間が短いことは長所である。FMはFMの不完全型であるchronic widespread pain(慢性広範痛症:CWP)に含まれ、chronic regional pain(慢性局所痛症:CRP)はCWPの不完全型である。CWPやCRPの有病率は多数報告されているがFMとの比較が容易である。1990年基準の最大の特徴は、その基準を満たせば他の疾患の有無にかかわらず自動的にFMと診断可能な点である[1]。これには批判はあるが、FMの診断が容易である。身体5か所の中の体幹部と腰部の範囲が不明瞭な点は不備であるが国際疼痛学会の書籍[10]の記載がそれを補っている。頸部は上半身や左右半身に含まれるが顔面や頭部は上半身や左右半身には含まれない点は診断基準に記載されておらず不備であるが、演者の質問に対するWolfe医師の返事を演者の論文[11]に記載しており、その不備を補っている。診断基準そのものに大きな不備がない点は長所である。圧痛を調べないと診断不能な点は有病率を調べる疫学調査では欠点になる。最大の欠点は患者に痛みを引き起こす点である。

 

2010年基準と2011年基準に共通の問題

 2010年基準と2011年基準には基準そのものに不備があり、その不備を補う目的で演者は4つのletter to the editor[8, 12-14]を出したが、回答が不十分であったり無視されたため不備が残ってしまった。さらに言えば、二つの新基準には演者のletter to the editorでは修正不能の本質的な不備がある。また、新基準を用いると従来のFMと不全型FM(CWPとCRP)の関連が崩れてしまう。新基準を用いるのであれば新たな定義のCWPや CRPを決める必要がある。

 「症状が少なくとも3か月同程度である」と記載されているがその症状とは何かと質問すると、「痛み、疲労、起床時の不快感、認知症状。」という趣旨の返事であった[14]。痛み以外の症状の持続が3か月未満の場合の取り扱いは不明である。また痛みを含む4つの症状のうち一つでも変動していればFMとは診断できない。さらに言えば、過去3か月で痛みの程度や範囲が変化した場合の取り扱いは不明である。痛み以外の三つの症状は少なくとも3か月同程度である前提にもかかわらず過去1週間の程度を記載する点に矛盾を感じる。痛みは3か月持続する必要があるが、WPIは過去1週間以上感じた痛みの部位の数である点に矛盾を感じる。WPIの各部位を図に示すように要請したが拒否された[14]。これでは医師によりWPIが同一にはならない。

 

2010年基準

日本のガイドラインにおける2010年基準の人体の図[15]は世界標準かどうかは疑問である。身体症状の0、1、2、3の具体的な症状の数を明示するように要請したが拒否された[12]。「痛みを説明するに足る他の疾患が存在しない」を削除して1990年基準のようにその基準を満たせば自動的にFMと診断できるように変更するように要請したが拒否された[12]。これでは医師の臨床経験や考え方によって診断が異なるという事態がおこりやすい。他の疾患の患者が2010年基準を満たした場合に、少なくとも演者は他の疾患が痛みを説明するのか否かは全くわからない。2010年基準では痛みの範囲も多彩な臨床症状も全て医師がインタビューする必要がある[3]。これでは診断に時間がかかりすぎる。痛みの範囲や臨床症状をアンケート形式で患者に記載させる場合があるが、それは2010年基準ではない。痛みの範囲、疲労、起床時の不快感、認知症状の程度や身体症状の数の決定の際2010年基準では医師の主観の差が大きい。2010年基準の本質的な不備は医師の主観で補わざるを得ない。それらの差は1990年基準の圧痛点の差よりも大きいと感じている。正しく使用した場合には時間がかかりすぎること、従来のFMと不全型FMの関連が崩れること、過去のデータの使用が困難になること、診断基準に不備がありすぎる点から演者は現時点では2010年基準を使用していない。

 

2011年基準

 アメリカリウマチ学会はこの基準を承認していない。患者自身が痛みの範囲や症状に関するアンケートに答えるため、医師不在で診断可能である、これは疫学調査の際には長所である。WPIの範囲が不明瞭な点や、症状は3か月、WPIは1週間、SS点数は1週間と6か月と複雑である点は2010年基準と同様である。医師の診察、血液検査、画像検査なしで2011年基準ではどうやって「痛みを説明するに足る他の疾患が存在しない」ことを証明するのであろうか。その証明は不可能であると演者は考えている。つまり、「痛みを説明するに足る他の疾患が存在しない」という基準は存在しても、実際には2011年基準を満たせば全員をFMと診断せざるを得ない。これは診断基準としては致命的な不備である。2011年基準は個人の診断に用いてはならない[3] [13]。医師がインタビューする必要がなく、たとえ医師がインタビューしても2010年基準ほどは時間かからないため、臨床基準として用いられることがある。これも間違いと言わざるを得ない。少なくとも2011年基準を臨床診断用に用いた場合には、2011年基準が掲載された論文を引用すべきではない。演者は「臨床の場で2011年基準によりFMと診断してその患者を横断研究や後ろ向き研究に利用することは可能か。」と質問したが、返事はないままである[8]。2011年基準には2010年基準と同様の不備があり、除外基準に関する致命的な不備もあるが、疫学調査の場合には有用と考えている。

 

FM symptom score (scale)13以上

 2010年基準が発表されてから2011年基準が発表されるまでの間に2010年のアメリカリウマチ学会第74回学術集会で2010年基準においてWPIとSS点数の合計であるFM symptom score (scale)13以上をFMと診断するという抄録が発表された[16]。2011年基準を記載した論文においてそれが診断基準と誤解されるような記載がなされている[3]。筆者がそれを確認すると、Wolfe医師はFM symptom score (scale)13以上は診断基準ではない由を明言している[14]。では、FM symptom score (scale)の意義は何であるのかと質問したが、回答は得られなかった[8]。

 2010年基準や2011年基準においてFM symptom score (scale)13以上をFMの診断基準としている研究がある。日本のガイドラインでは2011年基準における診断基準を誤ってFM symptom score (scale)13以上としている[15]。2011年基準における診断基準はFM symptom score (scale)13以上ではない。百歩譲ってFM symptom score (scale)13以上を診断基準とするのであれば、それを2011年基準としてはならない。

 

国別の診断基準

 イランからの論文ではWPI ≥6 およびSS scale score ≥4を診断基準として推奨しているが[17]、それは望ましくないと考えている。複合性局所疼痛症候群でも同様のことが起こっているが、国ごとに微妙に異なる診断基準を用いると混乱を引き起こすと危惧している。国ごとに異なる診断基準は、人種や民族の差が原因ではなく、患者の重症度の差や対照群の差が原因なのかもしれない。前述のようにFMの診断基準には臨床的な意義はないため、同一の診断基準を世界中で用いた方が混乱が起こりにくいと考えている。

 

引用文献

1) Wolfe F, Smythe HA, Yunus MB, Bennett RM, Bombardier C, Goldenberg DL, Tugwell P, Campbell SM, Abeles M, Clark P, Fam AG, Farber SJ, Fiechtner JJ, Franklin CR, Gatter RA, Hamaty D, Lessard J, Lichtbroun AS, Masi AT, McCain GA, Reynolds WJ, Romano TJ, Russell IJ, Sheon RP: The American College of Rheumatology 1990 Criteria for the Classification of Fibromyalgia. Report of the Multicenter Criteria Committee. Arthritis Rheum. 33: 160-172, 1990.

2) Wolfe F, Clauw DJ, Fitzcharles MA, Goldenberg DL, Katz RS, Mease P, Russell AS, Russell IJ, Winfield JB, Yunus MB: The American College of Rheumatology preliminary diagnostic criteria for fibromyalgia and measurement of symptom severity. Arthritis Care Res (Hoboken). 62: 600-610, 2010.

3) Wolfe F, Clauw DJ, Fitzcharles MA, Goldenberg DL, Hauser W, Katz RS, Mease P, Russell AS, Russell IJ, Winfield JB: Fibromyalgia Criteria and Severity Scales for Clinical and Epidemiological Studies: A Modification of the ACR Preliminary Diagnostic Criteria for Fibromyalgia. J Rheumatol. 38: 1113-1122, 2011.

4) Toda K: Treatment of chronic widespread pain is similar to treatment of fibromyalgia throughout the world. J Musculoskelet Pain. 18: 317-318, 2010.

5) 戸田克広: 線維筋痛症とchronic widespread pain(CWP)・不全型CWPの治療成績の比較. 臨整外. 44: 1203-1207, 2009.

6) 戸田克広: 2011年9月29日から2013年6月までの線維筋痛症およびその不完全型(慢性広範痛症/慢性局所痛症)の治療成績の比較. ブクログ, 2013, http://p.booklog.jp/book/75705

7) 戸田克広: 2007年4月から2013年6月までの線維筋痛症およびその不完全型(慢性広範痛症/慢性局所痛症)の治療成績の比較. ブクログ, 2013, http://p.booklog.jp/book/75704

8) Toda K: Purpose and significance of the 2010 criteria and modification of the 2010 criteria for fibromyalgia. J Rheumatol. 39: 1294, 2012.

9) National Fibromyalgia Association: The Manual Tender Point Survey.. http://fmaware.org/doctor/tenderpt.htm,

10) Macfarlane GJ: Fibromyalgia and chronic widespread pain. Crombie I. K., Croft P. R., Linton S. J., LeResche L., Von Korff M. ed. Epidemiology of pain. IASP Press, Seattle, pp. 113-123, 1999.

11) Toda K: The prevalence of fibromyalgia in Japanese workers. Scand J Rheumatol. 36: 140-144, 2007.

12) Toda K: Preliminary diagnostic criteria for fibromyalgia should be partially revised: comment on the article by Wolfe et al. Arthritis Care Res (Hoboken). 63: 308-309; author reply 309-310, 2011.

13) Toda K: What is the purpose of the 2011 criteria for fibromyalgia? Ann Med. 43: 660; author reply 661, 2011.

14) Toda K: The modification of the american college of rheumatology preliminary diagnostic criteria for fibromyalgia should be supplemented and revised. J Rheumatol. 38: 2075; author reply 2076, 2011.

15) 日本線維筋痛症学会: 線維筋痛症診療ガイドライン2013. 日本医事新報社, 東京, 2013.

16) Wolfe F, Clauw DJ, Fitzcharles MA, Goldenberg DL, Hauser W, Katz RS, Mease P, Russell AS, Russell IJ, Winfield JB: Fibromyalgia criteria and severity scales for clinical and epidemiological studies: a modification of the ACR preliminary diagnostic criteria for fibromyalgia. Arthritis and Rheumatism. 62 Suppl 10: S41, 2010.

17) Bidari A, Hassanzadeh M, Ghavidel Parsa B, Kianmehr N, Kabir A, Pirhadi S, Sayfi M, Toutounchi M, Fattahi F, Zandi Karimi F: Validation of the 2010 American College of Rheumatology preliminary diagnostic criteria for fibromyalgia in an Iranian population. Rheumatol Int. 2013 Epub ahead of print.

 



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