閉じる


猫の物語 第1話 (全3話+α)

        ふぅ~、もーお腹いっぱい。
        お魚は新鮮な捕れたてが一番、今日は大漁、2匹も平らげてしまった。
        今日は風が強いのか、岩に打ち寄せる心地よい波の音が微かに聞こえていた。
        もっとも猫の僕がお魚など捕れる訳もない、人間様が釣った魚の分け前を頂いてるって事。
        頂くと言っても、ただボケ~と人間様を眺めてればお魚を貰えるほど甘くは無く、それなり
        の苦労があるんだ。お魚をゲットするために使う猫の武器は猫の十八番、香箱座り。
        一般的な猫の餌の貰い方は人間様を物欲しげに見上げ同情をかうパターン、だけど僕らはそ
        んなやり方はしない。ではどうするかというと、
        人間様の通る道で邪魔にならない場所、かつ猫の存在に必ず気づいてくれる場所で待機。
        一言で言ってしまえば道の端っこて事。
        そして釣りを終え今日の収穫を持ち帰ってくる人間様を遠目から観察、ターゲットとなりそ
        うな人間様が表れた所で向きを変え、あえて人間様にお尻を向ける恰好でとりあえず香箱座
        りをし、尻尾をフリフリして機嫌よさげオーラを発しておく。僕らの狙いは人間様の方が
        猫に興味を持って近づいてきたこの流れを取らせる事が重要。世の中の全ての人間様が猫
        に興味がある訳も無く、僕らはここで人間様の振り分けをしてるんだ。
        そして僕らはお尻を向けながらも人間様の近づく足音に耳を傾ける、
        猫に興味が無く通り過ぎる足音と、猫に興味を持ち近づきつつある足音を聞き分け、僕らに
        近づいて来たと感じた時に、おや?何かが近づいてきたぞ、そんな素振りで顔だけ振り返っ
        てみる、ここで人間様と目が合うか合わないかが重要、目が合った時に始めて、ゆっくりと
        した動作で人間様の方へ向き直り、香箱座りをして人間様を受け入れる体勢をとる。
        するとどうだ、人間様の方からそそくさと近づいて定番の行為、頭なでなで、喉すりすりの
        行動を取り始める、ここで僕らは人間様の期待しているであろう最高のリアクション、目を
        閉じて幸せそうな表情で猫はとても気持ちいいよ~の一芝居を打つ。人間様は猫に癒し
        を求めてる、猫はどう行動すれば人間様が癒されるか百も承知なんだ。
        そして十分人間様が癒された頃合いを見計い、今度は猫が立ち上がり、魚が入っているであ
        ろう箱に近づいてクンクン匂いを嗅ぐ仕草をする。
        すると人間様は箱からお魚を取り出して・・・。
        とまぁこんな感じ。
        ちなみに手ぶらの人間様が表れた時は相手をするまでも無い、茂みの中にとっとと隠れやり
        過ごすんだ。見返りが見込めればこその猫の愛嬌。猫と人間様の間にもギブアンドテイクの
        関係が成り立っているって事だ。
        
        今日の収穫はお魚3匹。3匹ゲットできる日なんて滅多になかった。
        分け前は僕が2匹で妹が1匹。
        そうそう、僕には妹がいて仲間もいる、先ほどから僕らと言っていたのはその為。




        とは言っても仲間と共同で魚をゲットすることは無かった。
        今僕のそばに居るのは妹、控えめな妹はいつも僕の1歩下がった場所が指定席、今もそう。
        後ろを振り返るとまだ魚を頬張っている、相変わらずのマイペース。
        しかし妹は猫の僕から見ても仕草が愛くるしく可愛かった、同業者の猫の僕が可愛いと思う
        位だから、人間様から見たら妹は天使の猫に見えるかもしれないな、と僕は勝手に思ってい
        た。妹は人間様に慣れてない事もあり、お魚をゲットするのはもっぱら僕の役目だった。
        この場で生きていくためには人間様に慣れる事と多少の要領が必要。
        僕は妹の将来を少し心配していた。
        改めて言うまでもないけど僕らは野良猫だ。
        
        ところで、この場所こと僕らの住みかは3方を海に囲まれた半島の様な広大な公園。
        大きさは人間様がのんびり散歩して2時間くらいで1周出来てしまう位の大きさ。
        この公園内の施設(エリア)は3つ、釣りエリア、キャンプ場エリア、ゴルフ場エリアがあ
        り、位置関係はおおまかに、釣りエリアが北西、キャンプ場エリアが南西、ゴルフ場エリア
        が東に位置し、東西南が海に面している。それぞれのエリアは人間様の通る道で大まかに
        仕切られていて、その道はこの半島をクルリと1周する形でも敷かれていた。そしてこの
        公園を住処にする猫グループも施設と同じ3グループ(釣りグループ、キャンプ場グループ
        ゴルフグループ)存在していた。
        要するに食料が調達できるエリアごとに猫グループも存在していると言う事。
        僕の所属しているグループは釣りグループ。
        他グループの猫達とは交流が無く、僕は他のエリアに入った事も無かった。
        野良猫同士仲良くすればいいのにと思っていたけれど、そうもいかない事情があるらしい。
        昔は争い事もあったなんて、風のうわさで聞いたこともあった。
        
        グループ毎にそれぞれリーダーがいて各グループをまとめていた。僕らのグループは現在8
        匹、僕らのグループは独自にメンバー間でニックネームを付け互いを呼び合っていた。
        僕のニックネームはタートル、妹はリスニックネームは動物の名前を基本として、
        そのニックネームから猫のキャラ、性別が推測できるような便利な仕組みにしていた。
        最初僕はみんなからと付けられたんだけど、流石に「かっこ悪いから何とかしてくれ
        よ」とみんなに抗議、じゃあ横文字にしてタートルで、と言う事で落ち着いた次第なんだ。
        タートル、同じ意味だけど、横文字のが響きがいいなと自分に言い聞かせ
        タートルを受け入れることにしたんだ。
        なぜ僕がタートルと呼ばれているかって? おいおいそれは分るだろう。
        妹がリスと呼ばれてるのは勿論仕草が愛くるしいから。
        残りのメンバーは、おいおい登場してくるだろう。
        
        後ろを振り返ると妹のリスがお魚を食べ終え、いつもの様に頭と尻尾を食べ残していた。


        丁度タイミングよく、僕らのリーダーがこちらに近づいてきた。
        リーダーは僕らより一回り体が大きく気は優しくて力持ちを地で行くタイプ、僕らが付
        けたリーダーのニックネームはライオン。だけど僕らはいつからかリーダーライオンの
        事をボスと呼ぶようになっていた。まぁボスの方が呼びやすい事と、グループの
        まとめ役のイメージから言えばボスのがふさわしかった。
        本来のニックネームはライオン、サブネームがボスって所だろうか。
        僕はボスに会釈する。妹のリスも後ろで会釈をしているはずだ。
        ボスはコクリとうなずき僕たち二人の顔色を伺う。
        ボスとは一日一回、必ず顔を合わせていた、それはボスが釣りエリア内を巡回している事を
        意味していた。僕らが悪さをしていないか見まわりしている、では無くて、僕らの様子を気
        に留めてくれているって事。
        野良猫の僕ら、色々な人間様の目に触れながら生活している。魚を分け与えてくれる親切な
        人間様もいれば、ごく稀にだけど僕らに危害を加えようとする人間様もいるんだ。そんな
        危害を加えようとする人間様から僕らを守ってくれるのがボスだった。
        いかに力持ちのボスといえども人間様の力に叶うはずもない、それでもボスは僕らの全面に
        立ちはだかり、威嚇のにゃあ~を叫び、大きな背中を僕らに見せ、全力で僕らを守って
        くれる。僕はボスの体の傷痕を見るたびに、ボスの為ならたとえ火の中水の中僕は何処
        にでも飛び込んでいけるかもしれない、そう思うようになっていた。
        ボスが拳を振り上げるのは僕らを守ってくれる時と決まっていた、僕らに対して拳を振り上
        げたことは一度も無かった。みんながボスを尊敬していたし、みんなボスについていけば
        間違いないと思っていた。
        
        ここで、グループ内の年齢構成などについて話しておこう。
        妹のリスが一番若く、僕とまだ登場していない他のメンバーはボスも含めてほぼ同年代。
        人間様に例えれば大学を卒業した社会人1年生位だろうか。
        兄弟は僕らだけ、あとはみんな一人っ子、両親はみんな居なかった。
        居ないと言うのは独り立ちしているからでは無く、僕を含め皆の両親は高くて遠い青い空に
        昇って行ってしまった、と言う事。
        僕の両親も高くて遠い青い空の中、僕の記憶があるのは母さんの記憶だけ、父さんは僕が
        物心がつく前に青い空の中に昇って行ってしまったらしい。
        
        僕は小さな頃、母さんに父さんの事を聞いた事があるんだ・・・

        それは、ある晴れた雲一つない透き通るような青い空が広がっていたある日。
僕   「ねぇ、母さん、僕には父さんは居ないの?」
母さん 「いるわよ、父さんがいたからお前や妹がこうして居るのよ」
僕   「じゃあ父さんは、何処に居るの?」


        母さんは青い空を見上げた。
母さん 「青い空を見て」
僕   「父さんはお空にいるの?」
母さん 「そう、ほら、あそこに居るじゃない」
僕   「何処?」
母さん 「うふ、父さんったら笑ってる」
僕   「僕には青い空しか見えないよ」
母さん 「息子たちは元気に育ってるわよ」
僕   「母さん、誰に話をしてるの?」
母さん 「父さんに決まってるじゃない」
僕   「だから僕には青い空しか見えないよ」
母さん 「青い空の中だから、父さんが見えるのよ」
僕   「何言ってるんだよ母さん、せめて雲が出てれば雲の後ろに隠れてるの?って思えるのに、
         青い空しか見えない中じゃあ探しようも無いよ」
母さん 「ほら、お前の見上げてる先にも居るでしょ?」
僕   「居ないよ、だいたい僕と母さんは見ている先が違うじゃないか」
母さん 「母さんの見ている先にも、お前の見ている先にも父さんは居るの」
僕   「僕の父さんは二人居るの?」
母さん 「一人よ」
僕   「もう、さっきから母さんの言ってる事が分らないよ」
母さん 「お前が大人になったら分るわ」
僕   「空にいるんだったら降りて来てくれればいいのに、僕は父さんと一緒に遊びたいよ、
         ねえ母さん、父さんを呼んできて」
母さん 「それは出来ないのよ」
僕   「何で?」
母さん 「遠いお空に昇ってしまったら、降りてくることは出来ないの」
僕   「もういいよ」
        僕はふてくされた。
母さん 「お前が大人になったら分るわ」
僕   「さっきから母さんは、そればっかり」
        青い空を見上げていた母さんは妄想を楽しんでいるような表情をしていた。
        僕は今でも母さんの言っていた意味が分らなかった。
        僕はまだ雲一つない透き通るような青い空の中に、父さんと母さんを見る事は出来なかった。
        そして僕は、今でも母さんとの最後の日の事を覚えている。
        その日、僕は朝早くから母さんに起こされたんだ。
        母さんが僕の耳元でささやく。
母さん 「起きなさい、朝だよ」


僕   「エッ?! 母さん、まだお日様は昇ってないよ」
母さん 「もうすぐ昇るのよ、母さんは出かけなきゃならないの」
僕   「うん、行ってらっしゃい、もう少し寝かせてくれよ」
母さん 「ほら、母さんにしっかり顔を見せて」
僕   「いつも見てるだろ」
母さん 「母さんは遠くに出かけるかもしれないの」
僕   「お日様が沈む頃には帰ってくるんだろ」
母さん 「分からないわ・・・」
        母さんは僕の匂いを確認するかのようにさらに顔を近づけてささやいた。
母さん 「お前はお兄さんなんだから妹の面倒をしっかり見るのよ」
僕   「いつも可愛がってるよ」
        この時僕はいつもと違う母さんの様子に嫌な胸騒ぎを覚えたんだ。
        そして最後に母さんが僕に残してくれた言葉を今でもはっきり覚えている。
母さん 「しっかりと前を見て進むのよ」
        と言った後、母さんは妹の方に歩み寄り、すやすやと眠っていた妹の匂いを確認し、
        そっと出かけて行った。
        それが母さんとの別れの日だった。

        僕の胸騒ぎは現実となった。
        僕がもう母さんに会えないことを知ったのはその日のお昼頃だった。
        母さんと一緒に出掛けて行ったと思われる大人の猫達が帰ってきて僕の所に立ち寄ってくれ
        た。そしてその中の先頭の猫が口に咥えていた大きな魚を僕の前に落としてこう言ったんだ。
大人の猫「この魚はお前の母さんが仕留めた魚だ、俺たちは海に魚を捕りに行っていた。
      お前の母さんは、この魚を仕留めた後、息子たちにもっと大きい魚を食べさせて上げたい
      のと言って、再び海に潜って行ってそのまま帰ってこなかった。俺達が付いていながら
      済まなかった」
      と僕に頭を下げた。
        その時、先頭に立って謝ってくれたのが、今の僕らのボスの父親の猫だった。
        僕はその時、ボスの父親に聞いてみた。
僕   「僕の母さんは、遠いお空に昇ってしまったの?」
        父親の猫はコクリと頷いた。
僕   「一度お空に昇ったら降りてこれないの?」
        父親の猫は再びコクリと頷くだけだった。
僕   「僕の母さんだけが、遠いお空に昇ってしまったの?」
        どうやら僕の母さん以外にも帰ってこなかった猫がいたようだった。
        この時僕はふと疑問に感じた事があった。
        そもそも僕の母さんは人間様からお魚を貰っていたというのに、どうして海の中に潜って



読者登録

ミラクルブルーさんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について