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はじめに

このお話は、山形県の南に位置する高畠という町で活躍する

いまいち萌えない町非公認の美少女戦士のお話です。

 

まほろば天女ラクシュミー 1~8話総集編

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まほろば天女ラクシュミー 9話

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もあわせてご覧ください。


まほろば天女ラクシュミー 10話 最後の戦い

10話 最後の戦い

 

               1

 

「さぁ、いよいよ最終決戦だよ!」

キンと寒さが身に染みる大晦日の夜十一時。亀岡文殊に向かう途中、その寒さを少しでも和らげようと缶コーヒーを買うために立ち寄った泉岡にあるコンビニで、千代ちんが差し出したのは、いくらこの後にお年玉が控えているからといっても買うのをためらうような高額の栄養ドリンクだった。

「ちょ、こんな高いのもらえないよ」

「いーのいーの、ガツンといっとかないと! 今日は長丁場よぉ、気合入れていかないと」

 そういうと千代ちんはドリンク剤のキャップをねじ開け、無理矢理わたしの手に握らせる。

「輝かしい未来と勝利を祈願して、かんぱ~い!」

「…か、乾杯……」

 いつにもましてハイテンションの千代ちんにつられてわたしもドリンクをあおる。シロップの甘さに包まれた辛味と薬くささが口の中に広がる。

「か~っ、よ~し、充電完了!」

 オヤジくさいセリフを発しながら千代ちんはガコンとビンをゴミ箱に放り込み、ぐるぐると肩を回しながら、

「最終決戦、最終決戦……」

と、つぶやいていた。

「ちょっと今日の千代ちんなんだか怖いよ。それに最終決戦だなんて、まだ相手の出方もわからないのに……」

「なぁに言ってんのよ、この手の日朝系の美少女戦士モノはね、一月に入ったらシリーズのまとめに入って二月には新番組に変わるって相場が決まってるのよ」

「そんなアニメと現実ごっちゃにして……」

「とはいえあっちにしても佳境でしょ、手持ちの文珠は少ないのにラクシュ・赤木連合軍が結成されて、でも今晩はシンハが受験生相手にしなきゃいけないから事を起こすとしたら今日ってか明日しかないわけじゃない」

「確かにそういうふうに分析はしたけど……」

「なぁに、いまさら怖気づいたって言うの?」

「そんなわけじゃ」

「そうよ、愛しい赤木君との幸せは戦って勝ち取るしかないのよ」

「ちょ、そんな、そんなんじゃないってば、彼は大事なお友達だって……」

「あ、あたし男と女の友情って信じてないから」

「ちょ、千代ちーん」

「あはは、信号変わったよ、さぁいざ行かん決戦の地へ!」

 

                   2

 

 文化祭のあと、二日間の臨時休校を経たあとの全校集会に参加した生徒は全体の半数にも満たなかった。休んだ生徒の半数は怪我で、もう半分はPTSDとのことだった。

そんな中登校してきた赤木君、そして彼に親しげに声をかけるわたしたちに、ほかのみんなは奇異な視線を向けた。

 休んだのは生徒ばかりではなかった。先生も、特に若い女の先生には刺激の強い一日だったようだ。

また、父兄へのお披露目もかねて開催された文化祭であったので影響は町中に及んだ。登下校は親による送迎や、集団登下校が推奨され部活動などはもってのほかとなった。

なるべく移動の際の危険を回避するため、破壊された校舎の修繕の間、旧学区割りごとバラけて古い校舎で授業を行うようにと決まったのはその週の末。

事実上の統合中学校の崩壊であった。

そんなこともあって、

 

「サヤちゃんも米沢のおじさんトコに引っ越すんだってさ、アキちゃんは赤湯にアパート借りてお母さんと住むって言ってたし」

「へぇ……そう、なんだ……」

 亀岡文殊へと上る参道を歩きながら千代ちんに友達の引越しのことを話しだしたとたん、あんなに高かったテンションがトーンダウンしたように感じた。

「サヤちゃんトコはお母さんが勉強熱心じゃない、だから勉強が遅れないようにって。アキちゃんは部活一生懸命でしょ、バレー小学校のころから大好きだったから続けたいんだって」

「…………」

 ついに千代ちんがおし黙ってしまった。

「どしたの? なれない雪道、張り切りすぎて疲れちゃった?」

「ううん、そんなんじゃ……それよりもさ、今日この戦いにけりをつけたらさ、みんな引っ越さなくてもよくなるじゃん。ね、引っ越さなくてよくなればさ、またみんなで一緒に遊べるんだからさ、だから……だから絶対、絶対勝とうねぼたんちゃん」

「う、うん……」

 まるで眠いのを無理に振り払う時の様に急にテンションを上げて答える千代ちんにわたしは少しびっくりした。

 と、その時携帯メールの着信音がなった。開いてみると案の定、

「あけおめメールだ」

「あ、日付変わってたんだ」

「じゃ、改めましてあけましておめでとうございます」

「あけましておめでとう、今年もよろしく」

 立ち止まってお辞儀をする。立ち止まりついでに、

「ちょっと待ってね、あけおめだけ返しちゃうから」

 と、メールを返信する。返信し終えて気がついた。

「あれ、千代ちんはメールとかは?」

「あ、あたし、ケータイ家に忘れてきちゃったみたい……」

「へぇ、珍しいね……」

 何かって言うと携帯のカメラで何でも取りまくってる千代ちんが今日に限って。

「それより携帯電源切っといたら? 寒いと電池の減り早いじゃん、いざってとき使えなくなるよ」

 そういえばそうか、今日は長くなりそうだし。わたしは言われるままに携帯の電源を落とした。

 山門をくぐり、護摩壇を過ぎると石段に差し掛かる。

微妙な傾斜がついた石畳は薄く積もった雪が踏み固められツルツル、いやトゥルトゥルだ。

途中、手水舎でお清めをし、備え付けられた手すりを頼りにゆっくりと石段を上る。

境内に上がると参拝者の中、頭一つ半大きい赤木君はすぐに見つかった。

「あけましておめでとう」

「おめでとうっ!」

「あ、お、おめでとう」

 赤木君も千代ちんのテンションにおされ気味のようだ。

「どう、様子は?」

「特に、無しだ」

「そう……」

 かがり火に照らされた彫の深い赤木君の顔がいつもより引き締まって見える。

「なぁに見とれちゃってるのよ」

「や、そんなことないわよ」

「あらそうかしら、それより……」

「なぁに?」

「文殊様の初詣ってこんなもんだっけ?」

 そういわれて改めて辺りを見回すと、確かに心なしか例年より人が少ないような気もする。

「やっぱり少子化ってやつかしらねぇ」

「や、いくらなんでもさすがに今年に限ってはそうじゃないでしょ」

 千代ちんが手の甲でつっこむ。

「ダデーナーのせい、か……」

 赤木君の言葉に間抜けな答えをした自分が恥ずかしくなる。

「にしても少子化が気になるなんて……どうよ、都会に出るとかじゃなくてここで少子化対策とか?」

「な!」

 千代ちんのオヤジ発言に思わず赤木君の顔を見てしまう。

「ほう、そこで見つめちゃう」

「ばっ、なにいってんのよ! ちょっと違うのよ赤木君、千代ちん今日変なのよ」

赤木君は意味がわかっていないのか、きょとんとした顔でわたしたちのやり取りを眺めていた。

千代ちんは心底おかしそうにケタケタと笑っていたが、

「ねぇ、さすがに外はきつくなってきたから暖かいトコ行かない?」

 と、社務所のほうを指差した。

 

                   3

 

「直江兼継と前田慶次が歌会で読んだ歌ねぇ……」

 社務所横に設けられた寒さよけの待合室で石油ストーブに手をかざしながら、古い大河ドラマのポスターとパネル展示を眺めるのもこれでもう何度目だろう。

外が薄ぼんやりと明るくなってきた。人気はほとんどない。

深夜のご祈祷は二時で終わり。午前のご祈祷の始まる九時まではこんなものなのだろうか。

千代ちんは三時ごろまであのテンションで高畠へと移り住んでからのことを延々と話していたが、さすがにしゃべりつかれて今は赤木君の肩に頭を預けて寝息を立てている。

赤木君がなんだか恥ずかしそうに困ったように無駄に背筋を伸ばして天井を見ている。

「なんだかおなかすかない? わたし、ちょっと下の売店行ってくるね」

 そういってカラカラと引き戸を開けると、

「あぁひょっと待って、あらひも行くから……」

 と、千代ちんが目を覚ました。

 結局三人で下の売店へと降りていき、知恵の焼きだんごと甘酒で朝食の代わりとした。

 再び境内へと上がると社務所の前にシンハがいた。

 シンハはわたしたちを見つけるとこっちへ来いというしぐさをして文殊堂の裏手へと歩いていった。

「あらためて、あけましておめでとうだッハ」

 人気のない文殊堂の裏手でわたしたちは新年の挨拶を交わす。

「で、どうなの今年は?」

「人出はぼちぼちだッハね、とはいえ誰かさんのおかげでいつもと違って文珠が足りない分、例年よりも疲れるッハ」

 シンハは嫌味ったらしく恨めしそうに赤木君を見ながら言った。

「そもそも智慧の文殊の智慧は学問の知識のことじゃないッハ。真理を見つめ、理解し、悟りを開くために必要とされる気高い心の働きのことだッハ」

 どうやらお疲れでご機嫌斜めのようだ。そんなときは、

「ハイこれ、お年玉」

 と、ピーコートのポケットからソーセージを取り出した。ところが、

「あぁ、見たくなかったッハ」

 と、シンハは顔を背けてしまう。

「どうしたのよ、好きでしょ?ソーセージ」

「しばらくなまぐさモノは食べれないッハ。まったく、肉食獣に肉食うなってのもどうかしてるッハ。曹洞宗がうらやましいッハ」

 うぅん、この業界もいろいろと大変なんだなぁ。と、もだえるシンハを見ながら思った。

「とにかく、しばらく忙しくなるッハ。こないだも言ったけど、今わたしてあるチンターマニで変身したら、しばらく次の変身のためのチンターマニを預けに行くことはできないと思ってくれッハ」

「大丈夫よ、今日で岩井戸もおしまいよ。最終決戦に勝つのはあたしたちなんだから!」

 千代ちんがシンハに向かって薄い胸を張った。

「その件なんだけど今回はそんなに心配ないような気がするんだッハ」

 その千代ちんの気を折るようにシンハが緊張感なく言った。

「どうしてよ」

 と問う千代ちんに、

「岩井戸は僕がこの松の内に消耗することは知ってるッハ。僕が岩井戸の立場だったら去年みたいに疲れきったところを叩くと思うッハ。それと、もし岩井戸が現れたとしても、無理せずになるべく僕の回復を待って欲しいッハ」

「そんな」

 腑に落ちないのか千代ちんがシンハの前にしゃがみこむ。

「何でよ、そんなにあたしたちが信じられないの!」

「そういうわけじゃないッハ、ただこの間も言ったけど岩井戸は並大抵の相手ではないッハ。千代やぼたんが少しでも無事に戦えるよう、僕はそばで手伝いたいんだッハ」

 そう返された千代ちんは言葉を詰まらせた。

「君とぼたんは僕が巻き込んでしまった普通の女の子だッハ。だからもしものときは……赤木は自分の立場はわかっているッハね……」

「ちょっとシンハ!」

 いかにも犠牲になれといわんばかりのその言葉にシンハに詰め寄ろうとしたが、赤木君の手がそれを制した。

「赤木君……」

 赤木君は黙ってうなづいた。

「とにかく今日はめでたいお正月だッハ。冥土の旅の一里塚なんて皮肉った歌もあるけど、何かあっても作戦は「ガンガンいこうぜ」じゃなくて「いのちをだいじに」でいくッハよ」

 そういうとシンハはお堂の中へと消えていった。

 わたしたちは顔を見合わせる。赤木君はなにやら決意に満ちたような表情だが、千代ちんは何か釈然としないようなものを胸に抱いているようだ。

 ともあれ再び境内へと向かう渡り廊下をくぐると突然

「ぼたん!」

 と怒鳴り声が聞こえてきた。驚いて声のしたほうを見るとお父さんが真っ赤な顔をして怒っていた。

「何べん電話しても出やがんね! ん、なんだその男は!」

 そういって詰め寄るとお父さんは赤木君をにらみつける。

「あ、彼は関係ないんです。同級生なんですけど今お参りに来たばっかりで……」

 千代ちんが間に入ってごまかす。

「千代ちゃんもわがんねず。父ちゃんもかなり心配しったっけぞ。ちゃんと連絡されるようにしとがねど。今なじょな時だがわがんべ! どれ、送ってっから行ぐぞ!」

 そういってお父さんはわたしの腕をつかんだ。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ……わたしたち、まだ……」

「あ? 受験生でもないのに、一晩こさ居だら後たくさんだ。風邪ひいだって大変だし、それにまだあの化け物でできたらなじょすんなだ?」

「でも……」

 千代ちんが食い下がろうとするがお父さんは聞く耳を持たず、ずんずんと歩いていく。

しかし千代ちんは動こうとはしなかった。

お父さんはわたしの腕をつかんでいる手とは反対の手で携帯を取り出しどこかへと電話をかける。

「あ、冬咲です……えぇ、うちのバカと一緒でした。本当にスミマセン。……いえ、後は私乗せてきますんで……じゃ、うちのほうで待ってていただいて、ハイ、じゃ後ほど……」

 電話の内容からすると千代ちんのお父さんへだろう。

「ほら千代ちゃん、意地張ってねであいべ。何ぼ引っ越すなやんだたって、こだなどさ居だってなんもなんね」

「引っ越す?」

 その言葉を言ったとたん、千代ちんは地面にうずくまって泣き出した。

 

                   4

 

「いやいやこのたびはうちのバカがご心配おかけしまして……」

「とんでもない、うちの千代こそ……それより二人とも何もなくて、まずまず……」

「あ、いや、こりゃどうも」

 鯉の煮物や数の子豆、棒だら煮が並ぶ床の間の座卓でお父さんたちがビールを注ぎあっている。

 千代ちんはダウンジャケットも脱がずに部屋の隅でうずくまっている。いろいろ聞きたいこともあるし何度もこちらに誘おうとするのだが激しくかぶりを振って自分の中に閉じこもってしまっているようだった。

「あの……引越しって、どういうことですか……」

 ビールの缶を千代ちんのお父さんの方に向け疑問に思っていたことをたずねた。

「あれ、千代から聞いてなかったかい? 今手がけてる仕事が思いのほか早く片付いてね、新学期から京都のほうへ行くことになったんだよ」

「新学期って!」

 あんまりにも急だ。

「もううちも大方荷造りを終えていてね、お正月休み明けには残念ながらこの町を離れてしまうんだ」

「そんな……」

「おっとっとっと」

「あっ、スミマセン」

ビールの缶を押し上げられる感触でわれに帰る。

「あぁもうボケっとして、おい母さん、台拭き台拭き!」

 あわただしいお父さんをよそに、わたしの驚いた顔を見た千代ちんのお父さんは

「おかしいな、このことはもう二週間も前に千代に言ってあるはずなんだが……」

 といった。

「でもいいですねぇ、腕二本で食ってけるって人は。うちみたいに畑に縛られてたら……こうも騒ぎが多いんじゃこの町ももうおしまいだしな」

 台拭きでこぼれたビールを拭きながらお父さんが縁起でもないようなことを言う。

「ちょっとそんな!」

「あの化け物どもが暴れるようになって最悪だでら。街は水浸しになる、中学校はぶっ壊されっちまう。商店街なんてクラシックカーの損害いくら出したと思ってんだ。町報見たか町報?補正補正で大赤字、今年の道路の除雪なんかあてになんねぇぞ、ほら絞ってこい」

そういってお父さんは台拭きをわたしへと押し付ける。

台所へ行くとお母さんがおモチに納豆を絡めていた。型どおりのお小言を受け流していると、ぴしゃんと言う盛大にふすまが開けられる音とどかどかと乱暴に廊下を歩く音、そして玄関から誰かが飛び出していくような音がした。

あわてて廊下へと出てみると、玄関で千代ちんのお父さんが一生懸命靴をはこうとしているものの、編み上げ靴のために悪戦苦闘しているところが見えた。

「あ、ぼたんちゃん、千代が! 千代が!」

「千代ちんがどうかしたんですか?」

「あ、あの派手なカッコの女の子の話をしたら急に立ち上がって、飛び出し、おーいぼたんちゃん? ぼたんちゃん!」

 あの流れからするとうちのお父さんがラクシュミーのことをなにか悪く言ったに違いない。面倒なスノートレーではなくお母さんの長靴に足をつっこむと千代ちんの後を追って外に出た。

 と、何かが飛んでいくような、あれは、ミレニィだ!

 シンハから固く止められはしたがミレニィのことは放っておけない。

 家族からは見えないよう車の陰へと隠れると。ラクシュミーへと変身してミレニィを追うために空へと舞い上がった。

 

                   5

 

 千代ちんの軌道を見ると、どうやら文殊様のほうへと向かって飛んでいるようだ。

 わたしも何とか追いつこうと全力で飛ぶ。

 感情に任せて飛んでいるのだろうか、ミレニィの軌道は激しくぶれている。そのため徐々にではあるが彼女との差は縮まってきているようだ。

後50メートルほどで追いつくというところで急に彼女が空中でブレーキをかける。

わたしもあわててブレーキをかける。

ここは、やはり文殊様の上空だ。

「うあぁああぁぁぁあぁぁっ! 岩井戸おぉおおぉおおぉぉぉっ! 出て来おぉぉおいっ!  あたしはここだぁあぁぁぁああっ!」

 ミレニィが絶叫を上げてどこにいるとも知れない岩井戸を呼びつける。

「ちょっと落ち着いてよミレニィ! ねぇ!」

 わたしはそばによって声をかけるが届いていないようだった。

 真っ赤に泣き腫らした目で眼下に広がる杉木立を見回している。

「いつまで隠れてるのよ! いいわ、それならあぶりだしてあげる!」

 物騒なことを言ったかと思うとミレニィの背後にいくつもの小さな火球が生まれた。

「やばいっ」

 と思ったわたしはとっさにパリッチャを大きめに広げ下へと飛んだ。と、同時にミレニィはその火球の群れを杉木立めがけて撃ち放った。

 十数個の火球は白煙をひきながら森へと迫る。

軌道を合わせて……こんな感じか!

弧を描いて飛びながら、数十の火球をすべてパリッチャで受け止める!

火球がパリッチャにあたるたびに爆発が起こり、腕にびりびりと衝撃が走る。

「邪魔しないでっ!」

 ミレニイが腕を振るう。

火球が走る!

あのライン!

「があぁあぁああぁああぁっ!」

 何とか回り込み火球を受けきる。まるで火球の千本ノックだ。

「どうして邪魔するのっ! 岩井戸たおさないといけないのにっ!」

「いないじゃん! 岩井戸っ! いもしないのたおせるわけないじゃないっ!」

「だからあぶりださないとっ! あたしにはもう時間がないんだからっ!」

「だからってっ! これじゃ町が壊れっちゃうよっ!」

「だっ……そっ……あっ……あ、うわぁあぁぁあぁああぁぁぁああぁぁっ!」

 言葉に詰まったミレニィがわたしへと突っ込んでくる。その腕に炎をまとって。

 左上から降ってくるような右フックをパリッチャで受けると、対角線である左足で胴を狙ってくる。右のひじで受けたのもつかの間、渾身の力を込めた組んだこぶしが振ってくる。パリッチャで受け止めはしたものの、その威力で地面すれすれまで叩き落される。

ミレニィはわたしを追って地面へと降りると息をもつかせぬ連撃を打ち込んできた。その攻撃はいずれも炎を身にまとって、激しい。だがいずれも、いつどこに打ち込んで来るか想像しやすいテレフォンパンチでパリッチャでさえ受ければ何とか受け止められる攻撃だ。

涙を流し、瞳を固く閉じ、がむしゃらにこぶしを打ちつけてくるその姿はまるで子供がかんしゃくを起こしたそのものだった。

親の引越し。ままならぬ理由でこの地を離れてしまわねばならない悔しさを発散するには彼女の力はあまりにも大きい。その痛みを、悲しみを、悔しさを受け止めることができるのは、わたしのほかには誰も居ないんだ。

不意にミレニィがバックステップで間合いを取った。仁王立ちになり、こぶしを固め数多のバトル漫画の主人公が気合を高めるようなポーズを取る。事実、

「はああぁぁああぁぁぁあああぁぁぁぁああああぁあぁああぁ……」

 と、息を吐き出すたびにミレニィの背後に赤いオーラのようなものが現れ、それが握られたこぶしへと集まっていくような気がする。

 パリッチャで受け止めきれるか?

わたしが無事でも周りへの被害は?

何とかミレニィの力を打ち消さないとまずい?

文珠も如意宝珠も力の源が一緒だとしたら?

こうなったら一か八か、わたしもトゥインクルロッドを出して身構える。

わたしとミレニィの気力が充実したのは同時だった。

「ラクシュミー・トゥインクル・ファウンテンッ!」

「はああぁぁああぁぁぁああっ!」

 ミレニィの手のひらから放たれた赤いエネルギー波とファウンテンがバチバチと火花を散らしながら空中で交錯する。

 重く、重く、重く、重い。

 片手で持っていたロッドを両手で握りなおしさらに気合をこめる。

ファウンテンを押し返そうとするエネルギー波のうねりから、ミレニィの心の叫びが伝わってくるような気がした。

が、その重さも不意に緩み、

「きゃあぁぁあぁぁぁぁあああぁぁぁぁっ……」

 という悲鳴とともに消えた。

 目をやると千代ちんがあお向けに倒れている。

「千代ちん! 千代ちん! だいじょうぶっ! 千代ちんっ!」

 わたしも変身をといて急いで駆けつける。

「……っく、ひっく……」

 千代ちんは泣いていた。

「千代ちん!だいじょうぶ? どこか痛くしたの?」

「ちが……ぼたちゃ、ごめ……ぼたんちゃん……あぁぁあぁぁぁぁあああぁぁぁぁ……」

 あわてて抱き起こすと千代ちんはわたしに抱きつき堰を切ったように泣き出した。

 

 いとう売店にある座敷で千代ちんは泣きながら話した。

 お父さんの仕事の話は建て前で、本当はダデーナー騒ぎから逃げ出すための引越しだということ。

 わたしを助けるためにラクシュミーになったのに、またひとりにするのは申し訳ないということ。

 登校拒否になりかけた自分を変えてくれた元彼と、引き離された去年の引越しもすごく嫌だったこと。

 あのハイテンションな千代ちんは不安とつらさの裏返しだったんだな……

 泣き疲れて眠ってしまった千代ちんを見ながら胸が締め付けられるような気持ちになった。

 迎えの車を呼ぼうと電話をかけると、座敷の入り口が開き赤木君が手招きをした。

「どうかしたの?」

 と近寄ると、

「シンハが……呼んで来いって……」

 と、縁起物の屋台の脇を指差した。

 見ると目にクマをこさえたシンハが不機嫌そうにこっちを見ていた。

 赤木君に千代ちんのことを頼むとシンハと一緒に話を聞かれないようなところへと移動した。

「いったいなんの騒ぎだったッハ!」

 と怒っていたシンハも、事情を説明するとがっかりしたような顔を見せた。

「さっきも言ったけど僕はしばらく動けないッハ。餞別にこのお守りをわたして欲しいッハ」

 そう言ってどこからかお守り袋を出してわたしへと渡した。

「京都で何か困ったことがあったら、これをもって切戸の文殊へ行けって伝えて欲しいッハ。それとこれは如意宝珠、よく考えて大事に使うッハよ。もうひとつ千代の分は遊ぶことになるけど、まずはこのご祈祷を乗り切ってからだッハね」

 そういうとシンハは千代ちんの分の如意宝珠をどこかへとしまいこんだ。

「それじゃ千代にはくれぐれもよろしく伝えてくれッハ。またこっち来たら顔出して欲しいって」

 そういうとシンハはふらふらと文殊堂のほうへと消えていった。

 

「そっかー、ちゃんとお別れしたかったなー」

 高畠を去る日、高畠駅太陽館の待合室でシンハからのお守りを受け取りながら千代ちんはそうつぶやいた。

「何かあったら切戸の文殊を頼れだってさ」

「何かって、ここより刺激的な何かなんてないでしょうけどね」

 そういって駅社内をぐるりと見渡す千代ちん。

『間も無く一番線に上り列車、つばさ東京行きが参ります……』

「千代、行くよ」

 千代ちんのお母さんが声をかける。

 千代ちんは髪を止めていたボンボンをはずしてひとつわたしに握らせた。

「趣味合わないかもしれないけどさ、つけてくんないかな? 一緒に戦ってるって気持ちにさせて欲しいんだ……」

 わたしはすぐにそのゴムを使って後ろ髪を束ねた。

 それを見て千代ちんがニッと笑う。と、今度は少しはなれたところへ居る赤木君の下へと駆け寄り、ゴムを手渡すと一言二言交わして胸をドッと小突いた。

「千代―!」

 千代ちんのお母さんが声を上げる。千代ちんはおどけながら改札をくぐると振り向いて、

「がんばってねー!」

 と叫んで新幹線へと乗り込んだ。

 つばさのドアが閉まりゆっくりと動き出し行ってしまう。

 上り列車なので降りる客は無く、改札の自動ドアは閉まったままだ。

 千代ちんが居ない。

 いまさらながらその事実が現実感を帯びてのしかかってきた。

 本当に……だいじょうぶなんだろうか……

 胸がぎゅうっと締め付けられるような……

おなかがきゅうっと押さえつけられるような……

 そんな時

「なぁ……」

 と、赤木君がおずおずと不安そうに声をかけてきた。

「これ」

 と開いた手には千代ちんのヘアゴム。

「友情の証だって渡されたんだけど、自分は別として男女の友情は無いと思ってるって言ってったんだが……どういう意味なんだ?」

「え?」

「本当はやっぱりオレなんかのこと……」

「いやいやいや千代ちんが言いたかったのはそういうことじゃなくて!」

「じゃ、どういう?」

「えーとそれは……」

 千代ちんめ、最後にとんでもない置き土産を残していくなんて!

第十話 了


奥付


まほろば天女ラクシュミー 10話 最後の戦い


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著者 : チョコボール加藤
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