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プロローグ

ステージの方から大歓声とMIHIROコールが響き渡る。
ここは札幌ドームで行われているアイドル歌手MIHIROのコンサート会場、そして、俺、内藤大地は、夏休みのバイトで札幌ドームに来ている。
何故こんな事に成ったかというと、話せば長い経緯がある。
「MIHIROちゃんのスタンバイ完了」
そう声がかかる。
「カウントダウン開始!」
あちらこちらで、走り回るコンサートスタッフの邪魔に成らないよう、端の方でその動きを眺めている。
「内藤君、始まるわよ、シャキッとしなさい!」
「は、はい、あさみさん」
彼女は、日吉あさみ年齢は非公開、アイドル歌手MIHIROをスカウトして、トップアイドルに育てた敏腕マネージャだが、今は、松葉杖を着くその姿にその片鱗も感じない。
「ミュージックスタート!」
舞台監督の合図で音楽が鳴り始めると、ドーム内にスモークが立ち込め、レーザー光線が飛びかう。
そして、舞台下からMIHIROが昇降機でせり上がってくると、MIIHIROコールは更に大きくなり、そして音楽と共に彼女が歌いだす。
その姿を舞台袖から、あさみさんと二人眺めていた。
一曲目が終わると、彼女は観客に手を振りながら話し始めた。
「最前列が騒がしいわね」
日吉さんの視線を追うと、観客が警備員ともめている。
MIHIROのファンは比較的マナーが良く、この手のトラブルは滅多にないのだが、今回はその滅多に当たったようだ。
警備員二人が興奮した観客の両腕を抱え、警備員室へ連れて行こうとする姿が見えた。
それを見てやれやれとMIHIROに視線を移した瞬間、横であさみさんが「あ!」と声を上げ、それに釣られ視線を戻すと先程の観客が警備を振り切ってステージに上っていた。
それを追いかける様に、警備員も舞台に上がろうとするが間に合わない。
「内藤君!」と声をかけられるより早く俺はステージに飛び出した。
自慢じゃないが、運動神経は消して良くないが、それでもステージ上った暴漢に向かっ一気に走り寄り体当たりをした。
そのまま勢い余って暴漢と共に、ステージからステージ下に転げ落ちる。そこで俺の意識は無くなった。
遠くの方で俺を呼ぶ声が聞こえた。


雨の日の彼女

教室の窓から雨が降る外を眺めていた。
「大地!」
突然の呼びかけに呼ばれた方を見ると、友人の本多が立っていた。
「どうした、そんな大声で?」
「大声って、ぼけっとして何度読んでも返事しないからだろ」
どうやら外を眺める内にHRは終わって、それにも気づかづぼけっとしていて気が付かなかったようだ。
「HR終わったぞ、野球部も中止だから、偶には一緒に帰ろうぜ」
それに返事をすると、鞄を持って二人で廊下へ出た。
廊下で中学からの付き合いの純と軽く挨拶してすれ違った。
「なあ大地、最近、純が美人になったと思わないか?」
「そうか、あんまり感じないけどな」
俺の無い気のない返事に、更に続ける。
「そっか、大人っぽくなったと言うか、こう胸が大きなって、雰囲気もって、おい!」
そんな本多の主張を適当にあしらいながら校門を出た。20分も歩くと本多と別れ、一人家に向かって歩き始めた。
しばらく歩くと目の前の道端に赤い傘が蹲っていた。
気に成りながら少しずつ近づいて行くと、傘がその場に置かれ一人の少女が鞄で頭を庇いながら走り出した。それは、同じクラスの窪だった。
俺が声をかける間もなく走り去る彼女、その彼女が置いて行った赤い傘の所まで来ると傘の下には、段ボールに入れられた子犬が捨てられていた。
その子犬たちが雨に濡れないように、赤い傘がかぶせてあったのだ。
俺は鞄の中に残っていた、お菓子を出すと子犬に与えた。
最初は警戒していたが、しばらくすると子犬はお菓子を食べ始めた。
その頭を軽く撫でると子犬を抱き上げた。
「よし、家へ来るか!」
俺は制服の内側に入れると、赤い傘をたたみ家に向かって歩き出した。
家に帰るとお袋に散々文句を言われたが、去年長く可愛がっていた愛犬が亡くなってから寂しかったらしく、結果的には俺以上に喜んでいた。
仕事から帰った親父も、お袋の説得で首を縦に振るしかなかった。

翌日は雨も上がり、普段通り登校した。
「おはよう」
後から聞きなれた声が聞こえた。
「おはよう、純」
中学からの付き合いだが、あまり異性として意識をした事は無かったのだが・・・
「本多め、余計な事を」
適当にあしらってはいたが、昨日の本多の発言でいつも以上に意識してしまった。
「どうかした?」
俺の独り言に反応した純に、「なんでもねーよ」と答えながら教室に向かう。
席に着くと、鞄の中の赤い折り畳み傘を確認して、持ち主が登校してくるのを待った。
やがて教室に入ってきた窪さんに「おはよう」と声をかける。
普段あまり話さない俺の行動に、一瞬戸惑ったような表情を見せたが、「おはよう」と返事が返ってくる。
窪さんは席に着くと、鞄から教科書を引き出しに移し始めるが、その横に立ったままの俺に気が付いた。
「どうかした?」
更に怪訝そうな顔を見せた。
「あの、」
鞄から傘を取り出そうとした時、別の方向から声を掛けられた。
「おっす、大地!」
部活の朝練を終えて教室に入ってきた本多だった。
「大地、昨日のM10見たか?、MIHIROちゃんの新曲最高だぜ!」
こちらの都合などお構いなしに話しかける。
「おはよう窪さん、健一もおはよう」
更にそこへ純まで混ざって来たので、結局、傘を返すタイミングを逃してしまった。

それ以来、傘を返すタイミングを逃してしまい悶々としたままの日々を過ごしていた。
三日目の放課後、また雨が降っている。自分の傘を持って、学校を出ようとすると昇降口で窪さんを見つけ声をかけた。
「どうしたの?」と俺は何気なく声をかけてみた。
「あ、内藤君、実は傘を忘れちゃって」
それを聞いて慌てて、鞄の中から返しそびれていた傘を渡す。
「これ、私の・・・」
「実は・・・」
帰り道を二人並んで歩きながら事の経緯を説明して、返し忘れていた事を謝罪した。
「そっか、あの犬内藤君が飼ってるのか」
窪さんは怒っておらず、嬉しそうに答えた。
「うん、ひかりって名前を付けたよ」
「家がマンションじゃなければ、私も飼いたかったんだけどね」
そんな話をしながら通学路を家に向かって歩いていた。
その時、バシャ!と言う音と共に車道を走るトラックが跳ね上げた水しぶきを俺は全身で被ってしまった。
窪さんが「あっ」と声を上げる。
「大丈夫、内藤君?」
「だ、大丈夫」と言ってる傍から大きなクシャミをしてしまった。
「私のマンションすぐそこだから、服乾かして行って」
窪さんの申し出に、断る事を考えたが、二回目のクシャミでお言葉に甘える事にした。
「お邪魔します」
窪さんの家は、道から少し入ったかなり良さげなマンションだった。
「今、タオル持って来るから、玄関で待ってて」
そう言うと、窪さんは奥からタオルを数枚持って現れた。
「まずこれで簡単に拭いて、そしたら入って右がお風呂場だからシャワー浴びて、服は洗濯機の横にある乾燥機に入れといて」
「え、いいよ、これだけで」
俺の辞退の言葉に「風邪ひいたら困るでしょ」と駄目だしされた。
その勢いに負けてシャワーを浴びていると、扉の外から声が聞こえた。
「ここに着替えおいとくから、服が乾くまでこれを着てて」
「ありがとう」
風呂を出て用意された着替えは明らかに女物だが、まあ、辛うじて許容できる範囲の物だった。
着替え終えると、廊下を進み部屋に入った。そこには、普段着に着替えた窪さんの姿が有った。
「あの、シャワーありがとう」
「どういたしまして、紅茶で良いかな?」
「はい」そう答えると、俺は奨められるままソファーに腰を下ろす。
ソファーに腰を下ろすとすぐに良い香りのする紅茶が出される。
「ありがとう」
窪さんも斜め前のソファーに腰を下ろすと、紅茶を口に運んだ。
「濡れた服、今乾燥機にかけてるからちょっとだけ待ってね」
窪さんの入れる紅茶とお菓子を口に運びながら、学校の事、拾った犬の話など色々話していた。
気が付けば、窪さんと知り合ってから一番話しているかもしれない。
ふと気が付いたが、既に家に上がってから30分以上経つが家の人を誰も見ていない。
「そういえば、さっきから家の人見ないけど?」
「仕事に行ってるよ」
そう答えると風呂場の方から、乾燥終了のお知らせが聞こえた。
「終わったみたいに、見て来るから待ってて」
そう言うと、窪さんが風呂場の方へ歩き出す。
残された俺は、家に二人だけと言う状況だった事に急に落ち着かなくなった。
「あっ!」そんな邪な考えより重要な事を思い出した。
窪さんが取りに行ったは、俺の服であり制服も下着も一緒だった事を思い出す。
「窪さん、待って俺の着替えだけど」
慌てて風呂場の方へ、窪さんを追いかける俺が廊下に出ると、そこには知らない女性が立っていた。
「えっと、あの?」
そこへ風呂場から俺の服を持った窪さんが顔を出した。
「どうしたの内藤君?」
しかし、廊下で固まる俺を見つけると、その視線と辿り、自ら背後に立っている人物を見た。
「あさみさん!」
そこには、立っている20代半ばの女性の名前を呼んだ。
あさみさんと呼ばれた女性は、俺と窪さんを交互に見比べると、何か納得したようにうなずいた。
「弘美、まさかあんたが私の留守中に、部屋に男を連れ込むとはねぇ」
いやらしい笑みを受けべる。
「違います!」
俺と窪さんは、ほぼ同時にそう反論していた。

それから制服に着替えた俺と窪さんが、あさみさんは紅茶を飲みながら事の経緯を説明していた。
「なんだ、つまらないの」
いやいや、つまらないって、妹が男連れ込んでる方が良かったのかと内心呆れていた。
「まあ、じゃ改めて、私は日吉あさみ、弘美のマネ・・」
「従妹なんです!」
あさみさんの自己紹介に慌てて、窪さんが声を上げる。すると、あさみさんは窪さんとヒソヒソ話をしている。
話はすぐにまとまったようで、ソファーに戻ると改めて自己紹介された。
あさみさんは、窪さんの従妹で、窪さんの両親が海外赴任中で、東京の高校に通う為、保護者代わりとして同居していると言う話だった。
先程のヒソヒソ話が何だったのか気にはなるが、他人の家の都合に口を挟むのは失礼と思いそれ以上は追究しない事にした。
「あ、いっけない、弘美そろそろ出ないと間に合わないよ!」
「いっけない!」
そう言うと、窪さんは慌てて奥の部屋に入って行った。
「内藤君、悪いけど私達これから出かけなきゃいけないんだ、家まで送って行くよ」
あさみさんにそう促されると、俺も荷物をまとめて変える準備を始めた。
マンションを出ると、あさみさん運転のワゴン車で家まで送ってもらった。
「ありがとうございました」
俺が、運転席のあさみさんに礼を言うと、後部座席から窪さんが顔を出した。
「それじゃ、内藤君、また明日学校でね」
「うんそれじゃ」
そう言うと玄関から犬が飛び出してきた。
「あ、この犬」
「うん、こないだの捨て犬だよ」
俺が抱きかかえて窓越しに頭をなでると、「良かったね、拾ってくれる人が居て」と犬に話しかけた。
「弘美、時間!」あさみさんが声をかけて来た。
「あ、それじゃ、また今度犬見せてね」
そう言うと、窓を閉めて手を振っていた。
それじゃ「これからも弘美仲良くしてね」とあさみさんにウィンクされた。

走り出した二人を乗せた車を、その姿が見えなくなるまで見送っていた。

つづく


眼鏡の下に

先日の一件以来、窪さんとよく話をする様になった。
内容は、犬のひかりの事が中心だったが、少し仲良くなれた事に喜びを感じていた。
昼休み、屋上で健一と飯を食っていた、話題は健一が話すMIHIROの話ばかりだった。
「聞いてるか?」
「聞いてない」冷たく突き放すが、それでめげる様な奴なら幼馴染はやってない。
「そういえば大地、最近、窪さんとよく話してるよな」
「そうか~?」
パンを口に入れながら、ここ数日を思い出していた。
「付き合ってるの?」
思わずパンを飲み込んでしまった。慌てて珈琲牛乳でパンを流し込む。
「そんな訳無いだろ」俺は思わず声を荒げて否定してしまった。
まったく的外れでもないからだ、少し前まで全く気にもしていなかったクラスメイト、あの雨の日からその認識が変わっている自覚はある。
「そんなんじゃないよ、偶々共通の話題が有ったからだよ」
「何だ、共通の話題って」
食い下がる健一に俺は事の掻い摘んで経緯を話した。
話を聞き終えると、二、三度頷いた。
「つまり、窪さんが好きだから、その犬を拾えば共通の話題が持てると!」
「違がうっ」
否定する俺の目線の先に、窪さんが立っていた。
「窪さん・・・・・・」
今の健一の話を聞かれたのは間違いない、それが証拠に窪さんは屋上への階段を戻って行ってしまった。
俺は慌てて窪さんを追いかけた。
屋上からの校内に入る階段を駆け下り、窪さんの腕をつかんだ。
「待って、違うんだ窪さん!」
振り向きざまに、窪さんの右手が飛んできた。
「パシン!」乾いた音が階段に響き渡り、左頬に痛みを感じた。
「犬を大事にしてくれると思ったのに、最低!」
そう言うと、窪さんは階段を教室に向かって駆け下りて行ってしまった。
大きなため息をついて、その場に崩れ落ちてしまった。
追っかけて来た健一に謝られたが、正直あまり覚えていなかった。

その日から窪さんに避けられる様になってしまった。
翌週の月曜日、下駄箱で上履きに履き替えると、職員室前で担任に呼び止められた。
「悪いけど、教室に荷物を運んで欲しいんだ」
嫌々ながらも職員室に入ると、そこには窪さんが立っていた。
「じゃ、悪いけど、二人でこれ運んでくれ」
窪さんは、返事をすると荷物を持って職員室を出て行こうとする。
俺も慌てて荷物を持って、その後を追う。
「窪さん」
呼びかけるが返事をしてくれない。
「聞いてくれよ」
廊下を歩きながら、前を歩く窪さんに話しかけるが完全に無視される。
このままだと何も変わらない。
意を決して、階段を上がる窪さんの背中に話しかけた。
「窪さん、俺は窪さんの事が好きだ!」
窪さんの動きが止まる。
やっと届いた言葉に、返事はないが聞いて居る事は解ったのでそのまま続ける。
「犬を拾ったのが話をするきっかけに成ればと言う気持ちが無かったとは言わない」
そこで俺は一度言葉を区切る。
「けど、それはそれ、これはこれ、実は家で飼っていた愛犬が去年病気で死んだ、ひかりはその犬にそっくりだったんだよ、だから、生まれ変わりの様な気がして拾ったんだ。」俺は、そこで少し言葉を緩めた。
「その時、自分が雨に濡れる事も構わず、傘を渡してしまう、そんな優しい窪さんを見かけて、それから気に成ったんだ。
雨の日の事を思い出していた。
「正直自分の気持ちに気づいたのはここ数日だったよ。屋上での一件で、別にただのクラスメイトに戻るだけじゃないかって思った。そう言い聞かせたんだけど、言い聞かせれば言い聞かせるほど、自分の胸の奥でモヤモヤした気持ちが消えないんだ。」
そこまで言い切ると、階段上の窪さんは振り返っていた。
「それで、自分の気持ちに気が付いたんだ、俺は窪さんが好きです」
言い切った。言い切って気が付いた。周りに他の生徒が居る事に、そしてその視線が俺たちに集中して居る事に気が付いて顔から火を噴くかと思う程赤面していた。
「内藤君、私・・・」
窪さんはそれ以上言葉が出なかった。
その次の言葉を口に出そうとした瞬間に、どこからかバレーボールが飛んできた。
直接当たりこそしなかったが、それに驚いた窪さんが階段を踏み外した。
「危ない!」俺は慌てて窪さんを受け止めようとするが、両手には荷物を持っている。
受け止める事が出来ずにバランスを崩して、二人とも階段の踊り場まで転げ落ちて持っていた資料をその場にぶちまけてしまった。
「窪さん怪我無い?」
幸い自分が下に入った事で、上に倒れている窪さんは大きな怪我はないようだった。
さっきまで二人のやり取りを見ていた周囲の生徒も慌てて資料を拾い集め二人の様子を伺う。
「大丈夫みたい」
そう言って上体を起こした窪さんが自分の顔を手で覆った。
「眼鏡が!」
慌てて付近を見渡して、傍らに落ちていた眼鏡を窪さんに差しだす。
「ありがとう」
窪さんは顔を見せない様に、眼鏡をかける。
「私の素顔見た?」
「えっと、見たけど何か?」
「それだけ?」
俺の顔を覗き込むように問い詰める。
「うーん、可愛かった」
俺の答えに、窪さんはそれ以上追求せずに集めてもらった資料を受け取ると教室へ向かって行ってしまった。
残された俺は、女生徒に遠巻きにヒソヒソ話をされたり、見知らぬ男子生徒に肩を叩かれたり完全な晒し者だった。
勢いで告白してしまった事を思い起こし、拾い集められた資料を持つとそのまま教室へ向かった。
教室に戻ると窪さんは自分の席に座っていて、こちらを見ようとはしなかった。
送れて教室に入ってきた健一からさっきの一件に対する追及が有った。
「聞いたぞ大地、窪さんに告ったんだって!」
案の定、健一からその話題を振られると純も近づいてきた。
「なになに、本当なの?」
「いや、だから、、、、、」
今更否定しても、証人が一杯居すぎる為、否定するのは無理と諦めた。
「・・・・事実です」
「で、返事は?」
「えっと、その好きって言っただけで、それ以上何も言えてない。」
純と大地が「そっか」と声をそろえて答えると、肩をポンポンと叩かれた。
結局その日もそれっきり窪さんと話す機会は訪れなかった。

翌日、大地が失恋の癒しにとアイドルMIHIROの写真集を持ってきた。
最初は興味なかったが、適当に2、3ページ捲って違和感を感じてた、更に何ページか捲って行くと、思わず写真集を持ったまま立ち上がっていた。
そこに載っている、MIHIROの顔を最近見たのだ、普段アイドルに興味が無く、芸能ニュースなど見る事も少ない為、気が付かなかったが写真集を見て驚いた。

その時、教室に入ってきた窪さんと目が合った。
目を逸らそうとする窪さんの目線が俺の手元にある写真集で止まった。
そして、その表情が明らかに狼狽していた。


秘密の約束

俺は屋上に呼び出されていた。目の前には、窪さんが立っている。
もうすぐ授業が始まるはずだが、目の前の窪さんは何も話さない。
「えーっと・・・・」
沈黙に耐え切れず、俺は窪さんに話しかけた。
「気が付いたんでしょ?」
俺の次の言葉を待たずに窪さんが問いかけて来た。
「あ、うん、窪さんがMIHIROそっくりだって」
大きな溜息が聞こえる。
「そっくりじゃなくて、私がMIHIROなのよ」
「だって、髪の色が」
窪さんは自分の頭に手を掛けると、そのまま髪の毛を引っ張る。黒髪のかつらが外されその下から、栗色に染まった髪の毛が現れた、そして眼鏡を外すと手早く栗色の髪を手でまとめてポニーテールに様にしてみせた。
「これでどう?」
「でも、スタイルだって」
俺は、MIHIROの写真集の水着写真を思い出していた。
「それは、パットと修正よ!」
拳が飛んでくるが、それは一歩下がって簡単に避ける。
「ほんとにMIHIROなんだ・・・・」
そう呟くと俺はその場に腰を下ろした。と言うより腰が抜けたに近い。
国民的アイドル歌手がクラスメイトで、目の前に居て、しかもその相手に告白してしまった事を思い出した。
俺の沈黙の間に、窪さんは髪を束ねるとかつらを被り、眼鏡をかけた。
「どうする、皆に言う?」
「・・・・どうして、正体を隠してたの」
俺の口から出たのは正体うんぬんよりも、隠していた理由を追及する言葉だった。
「もし、アイドルのMIHIROが学校内にいるってなったらどうなる?」
少し考えて当たり前の答えをした。
「そりゃまあ、皆が見に来るだろうな」
黙って頷くと更に質問を続けた。
「そんな状況で、普通の高校生活が送れると思う?」
「無理だろうな」
「そう言う事よ」
つまり、アイドルだけど、普通の高校生活が送りたいから、正体を隠して学園生活を送っていたと言う事らしい。
「まあ、それ以外にも理由はあるけど、私、欲張りなのよ」
俺は何も考えられなかった。ただ事実を飲み込むのに時間が掛っていた。
「今日の放課後、予定ある?」
特にないと伝えると、何処かに電話を掛けた。
「話は着いたは、放課後、ちょっと付き合って」
「それから、それまでは私の正体をばらさないでね」
授業開始のチャイムが鳴り、窪に即されて渋々ながら教室へ向かった。
教室に戻った二人を、クラス中が興味津々に見ている。当然先日の公開告白の件は学校中の噂に成っていたので知らない奴はいない。
それでも、誰もその件については聞いてこないし、それが逆に気を使われている様で不満だった。ネタにされるのも面白くないが、変な気を使われる方が余計に傷つく・・・
唯一、健一はその件について追及してきたが、窪さんの正体を話す訳さないと約束した以上、話せない。結局その日の授業は殆ど記憶に残っていない。

放課後、俺は呼び出されるまま、窪さんと学校近くのコンビニの駐車場で待っていた。
そこへ見覚えのある車が一台入ってきた。
「やあ、内藤君」
「日吉さん!」
先日、日吉さんの家であった、日吉さんだった。
「さあ、時間が無いので乗って乗って」
日吉さんは俺を助手席に乗せると、窪さんは後部座席に回った。
すぐにカーテンで後部座席を覆ってしまい、そこから首を出す。
「着替えるから覗かないでね!」
そう言うと、首を引っ込めて後部座席でドタバタし始める。
「改めて、MIHIROのマネージャ兼保護者をしている日吉あさみよ」
片手で名刺を差し出された。
「従妹では無いんですね」

名刺を受け取って見つめる。
「あの時は、弘美に併せたのよ」
そう言うと、車のギアを入れ発進させた。
車はすぐにインターから高速に乗り、都心に向かって走り出した。
「正直、事務所はMIHIROに芸能活動に軸足を置いて欲しいと思っているんだけど」
そう言うと、後部座席から「私は嫌よ」と声が聞こえた。
日吉さんはやれやれと首をすくめるポーズをとる。
「まあ、正直私も事務所の意見には反対、彼女のプライベートも大事にしたいのよ」
俺は黙って聞いていた。
「恋愛経験も無いアイドルの恋愛ソングなんて、薄っぺらな作り物じゃない」
「そんな物すぐに飽きられてしまう、と言うのが私の持論よ」
料金所を超えると、首都高速に入った。
渋滞に入ると、運転席の日吉さんが俺の顔を見ながらニヤニヤとしている。
「だから、私は弘美に恋愛禁止なんて言わないわよ」
日吉さんが言い終わる前に、後部座席のカーテンが開いた。
「あさみさん!」
そこには、健一に見せられた写真集やテレビで何度か見たMIHIROの姿があった。
「余計な事は言わないで」
やれやれと肩をすくめるポーズをするがどうやら日吉さんの癖のようだった。
「はい、これ」
窪さんがジャケットを手渡してきた。
「制服でスタジオ入る訳にはいかないでしょ、マネージャ見習いの内藤君」
「はい?」と俺は理解できない表情を浮かべていた。

車は日の出テレビの地下駐車場に入った。
俺は日吉さんと窪さんの後ろに着いて入口をくぐる。
「ちょっと君!」
俺だけ入り口で警備員に止められてしまった。
「あ、ごめんなさい、この子マネージャ見習いなんです」
日吉さんが警備員に説明をして臨時入館証をもらって何とか中へ入る。
エレベーターに乗って、上層階でエレベータを降りると、何処かのドラマで見た事ある顔があった。
「内藤君、行くわよ!」
唖然とする俺を日吉さんが呼ぶ。
「まずは司会者の森さんにあいさつに行くわよ」
そう言って、いくつかの部屋に挨拶に行く、どの部屋もテレビで見た事がある人ばかりだった、最後にMIHIRO様と書かれた部屋に入る。
「ここが私の控室よ」
畳四畳半程度の小さな個室だった。
「狭いな」
「これでも良い方よ、待機するだけの部屋だし、新人や無名に成ると相部屋だからね」
俺は全く縁のない芸能界の事に完全で戸惑っていた。
「今日は、歌番組一本だけだし、3時間も有れば終わるは」
時計を見ると今が5時だから、8時には終わる計算かとぼんやり考えていると、扉の外から声がかかった。
「MIHIROちゃん良いかな?」
「はーい」
返事を聞くと扉から入ってきたの、俺でも知ってる人気アイドルユニットEWだった。
「やあ、MIHIROちゃん、今日も可愛いね」
「ありがとうございます。東山さんも西谷さんも今日もバッチリ決まってますね」
東山と呼ばれた男と目が合った。
「MIHIROちゃん、彼は?」
窪さんはこちらをチラッと見る。
「彼は、事務所のマネージャ見習いです、今日は研修で私の付き人をしてます」
東山は、俺を値踏みするように眺めると、興味を無くしたようにすぐに窪さんとの会話
に戻って行った。
その頃、西谷は日吉さんと何事か話しているが、日吉さんの顔は笑って居なかった。
しばらくすると、マネージャらしき男性が呼びに来て二人は部屋を出て行った。
「あ~、もう!、私、あの女たらし嫌い!」
どうやら、今回が初めてじゃないらしい。
握られていた手をタオルで一生懸命拭いている。
「ほんとね、ちょっと顔が良いからって、誰でも靡くと思ったら大間違いよ」
「えっと・・・」
二人の愚痴を聞きながら、またまた、芸能界の裏側を見た気分だった。
すると扉の外から、MIHIROが呼ばれた。
「MIHIROさん、そろそろスタジオへお願いします」
「は~い」とMIHIROが返事をすると、俺は窪さんに部屋を出る様に即された。
理由が解らずボケッとしている。
「これから衣装に着替えるのよ、それとも内藤君はMIHIROの着替えを見たいのかしら?」日吉さんにそう冷やかされると慌てて部屋の外へ出た。
10分もすると、また部屋に招き入れられた。
俺は思わず「凄い」と呟いていた。バッチリ衣装とメイクに包んだアイドルMIHIROがそこに居たのだ。
「さあ、スタジオへ行くわよ」
スタジオに入ると、さっき見たEWがちょうど歌っていたが、正直下手だなぁと思った。
俺の不思議そうな顔に、日吉さんが「歌は後で編集するのよ」と耳打ちした。
どうやら下手過ぎてそのまま放送できないので、放送時には歌を編集して流すそうだ。
コンサートの口パクと同じ要領と理解した。
窪さんはEWの撮影が終わる迄スタッフと打合せをする。やがてEWの出番が終わると歌撮りに入った。
「今日は生放送じゃないから、歌とトークを別撮りするのよ」
またまた日吉さんの解説が入る。スタジオの設備を一通り説明してくれる。
やがて、聞き覚えのあるメロディが聞こえてきた。こないだ健一が着メロにしていたMIHIROの新曲だった。
「どう、MIHIROの生歌は」
黙って聞いている俺に、隣の日吉さんが小声で話しかけてきた。
「さっきのEW見た影響もあると思いますが、正直、カラオケの延長位にしか思ってませんでしたが・・・・、凄いですね」
「でしょ、公園で一人歌ってるのを見つけて私がスカウトしたのよ」
歌撮りは一発OKだったようで、その後一度控室に戻って待機した後トーク撮りだった。
司会の森さんと窪さんの掛け合いは絶妙だった。

そんなこんなで、20時には全ての収録が終わった。
さっきのEWが夕飯の誘いに来たが、日吉さんが次の仕事があると断って家路についた。
帰りの高速で行きとは逆に、後部座席でMIHIROが窪さんに戻っていた。
「内藤君、お腹減ったでしょ」
「え、まあ」
緊張からの解放か俺のお腹が盛大に空腹を知らせてくれた。
「もんじゃ焼きが良い!」
後部座席から窪さんの声が聞こえた。
家の近所の坂下にあるもんじゃ焼き屋の駐車場に車を止め、三人で店に入った。
『もじゃ蔵』近所にあるのは知っていたが、一度も入った事が無かい店だった。
日吉さんは、店員に人数を伝えるとすぐに席に案内された。
近所の大学生が多い感じで賑やだったが、気にするそぶりも無く、日吉さんが慣れた手つきでお好み焼きともんじゃ焼きを作り3人でそれを突いていた。
今日の仕事の反省やEWの今後の対応、次回以降の仕事スケジュールの話をしているのをぼーっと聞いていた。
やがて窪さんが席を立つと、日吉さんが話題を振ってきた。
「内藤君、弘美に告ったんだって」
俺は、盛大に水を吹き出してしまった。
否定してもしょうがないので、素直「はい」と答えた。
「で、弘美の正体を知って、気持ちは変わった?」
俺は少し考え込んだ。
「正直解りません。俺はクラスメイトの窪さんに告白したんで、その気持ちに代わりはありません」
そこで一度言葉を区切る。
「変わりありませんが、正直持て余してます」
ウソ偽りなかった、告白したクラスメイトの正体が人気アイドルだったなんて、正直ピンとこないし、事実と解っても俺には処理しきれていない。
「弘美もね、正体を隠してる後ろ暗さもあったみたいね。ずっと悩んでたのよ」
「で、まあ、今回、正体がばれた事で、色々吹っ切れたみたいよ」
そこへ窪さんが戻ってきた。
俺と日吉さんは、戻ってきた窪さんの顔をそれぞれの表情で見つめる。
状況が解らない窪さんは「何?」と言う表情を見せるが、日吉さんが勘定頼んだ。
店を出ると家の前まで車で送ってもらった。
「内藤君、こないだは叩いてごめんなさい」
窪さんが頭を下げた。
すっかり忘れていたが、そんな事も有ったなと思いだしていた。
「告白の件なんだけど」
「うん」と返事をしながら、思わずつばを飲み込む。
「私自身内藤君の事をあまり詳しく知らないし、私の正体の事もあるし」
そこでいったん言葉が止まった。ほんの数秒が永遠と感じるほど長く感じた。
「少し整理する時間をもらえないかな?」
つまり、答えはYesでもNoでも無く、保留させて欲しいと言う事なのだろう。
観念したように「解った」と頷いた。窪さんは「ありがとう」と答えながら、もう一度頭を下げた。
若干上目使いに俺の表情を伺いながら言葉を続ける。。
「それと、私の正体の件だけど・・・・」
「正体?、何の事?、窪さんは窪さんでしょ、それ以上もそれ以外も無いよ」
横を向いて、頭を掻きながらそう答える。
「・・・・・ありがとう」
そう言うと、窪さんはポケットから小さなメモを俺に渡した。
「私の携帯アドレスと電話番号、これからよろしくね」
そう言うと、窪さんは車に乗り込んだ。
「また明日学校でね!」
二人の車が見えなくなるまで、手を振りながら見送った。
車が見えなくなると、俺は手渡されたメモを見た。
「保留ではなく、検討中って事か・・・・」
俺は、小さくガッツポーズをしてしまった。

翌日の朝、普通にあいさつを交わす、俺と窪さんにクラス中の空気がどよめいた。
しかし、それ以上は誰も追及してこない。唯一、健一を覗いては・・・・
昼飯の時、健一には窪さんの秘密は隠したままアドレスをもらった事を伝えた。
「それと、フォローありがとな」
俺の不意の言葉に、健一は「何の事?」とすっ呆けた。
本人がそう言うならそれ以上は追及しないが、あの屋上での一件後、健一が窪さんに謝りに行って俺のフォローをしてくれていた事を、窪さんから聞かされた。

俺の公開告白の件は大きな話題に成ったが、夏休み前には誰も噂する奴も居なくなっていた。


ドームツアー

福岡ドームでMIHIROのコンサートが行われている。
今日が最終日で明日には東京に帰る。
東京で一休みすると、大阪、札幌、東京とドームツアー後半が控えている。
そんな事を考え舞台袖で溜息をつく。
「マネージャ見習い!、そんな所で溜息をつかない!」
後から掛けられた声に、思わず背筋を伸ばし振り返ると、そこには松葉杖姿の日吉さんの姿があった。

遡る事2週間前、期末テストも終わり成績表返され各自成績表に悲喜こもごものクラスメイトの姿をぼけっと眺めていると本多が話しかけてきた。
「よう、その後窪さんとはどうなのよ?」
成績表を返された健一が目の前に立っていた。
「別に何もないよ」
俺は、窪さんの方を一瞥して答えた。
「あれだけ、学校中の話題をさらった公開告白だったのにか!」
「まあな」
あの告白の一件以降、目の前のこいつの性で一時的に険悪になったが、今はちょっとだけ仲良くなった。

教室で話す機会は確実に増えたし、アドレスも交換した。
しかし、高校生とアイドルという二重生活をしている窪さんとの距離が、簡単に縮まる訳も無く、何も始まる前から遠距離恋愛の自然消滅間際みたいな感じに成っていた。
アイドルとメールしてるってだけでも、ファンから見れば殺意を覚えるレベルなんだろうなぁ~と考えているが、事実を知った今でも未だ窪さんとMIHIROの姿が一致しない。
「そっか、残念だったな」
返す言葉も無い。
「そう言えば、成績はどうだった?」
健一が話題を変えて来たので、俺は成績表を差し出した。
「か~、相変わらず、トップ10キープか」
「まあなぁ~」
そんな話をしながらも、窪さんと純が話してるのを目で追っていた。
「そうだ、聞いてくれ!」
「MIHIROちゃんの東京ドームコンサートのチケットが取れたんだ!」
そう言って健一が、チケットを見せてきた。
「へぇ~」
窪さんの正体を知ってから、MIHIROの動向も無意識に追うように成り、ドームコンサート自体は知っていたが、行く気は無かったのであまり深くは考えてなかった。
これで「コンサート頑張って」なんてメールしたら、結局秘密を利用してる事に成るじゃないかと考えると迂闊なメールも出来ない。
「考え過ぎかな・・・・」
結局、そのまま夏休みに突入するはずだった。終業式の夜までは・・・・・

夕食の後、風呂上りに部屋へ戻ると携帯の着信通知が光っていた。
着信を見ると窪さんだった、それも5分おきに画面一杯の着信だった。
アドレスも番号も交換したが、教室で話すし仕事の事は話せないしで、結局最初の2、3回メールをやり取りした位だった。
それが、突然この着信だ、ただ事ではないそう思って折返し電話をしようと思った所、またも窪さんからの着信だった。
「もしもし」電話に出た俺の声は、緊張で裏返ってしまった。
電話から聞こえる窪さんの第一声は「助けて!」だった。
意味が解らなかった、第一声が「助けて」って何がどうなってるんだ。
「とりあえず落ち着いて」
俺は、混乱している窪さんをどうにか落ち着かせると、事情を聞き出した。

翌日、俺は病院に居た。
「失礼します」
教えられた病室に入ると、そこにはベットに横たわる日吉さんと、その横に腰を下ろす窪さんの姿があった。
「やあ、いらっしゃい!」
日吉さんが元気にあいさつする。
奥の椅子から腰を上げて、窪さんが近寄ってくる。
窪さんにお見舞いの花を渡すと、受け取った花と花瓶を持って洗面所で手早く花瓶に移す。
「どうしたんすか?」
俺は奨められた椅子に座ると日吉さんの様子を見ながら改めて聞いた。
「実は、MIHIROのファンを制止しようとして、突き飛ばされちゃってね」
「その時に捻ったと思ったんだけど、病院で検査したらこの有様よ」
そう言って、足のギブスを突き出してきた。
「はぁ、で、電話で窪さんが言ってた件、本気なんですか?」
「本気と言うか、他に選択肢が無いのよ」
枕元に花瓶を置いた窪さんが日吉さんを挟んだ反対側に座る。
窪さんが詳しい事情を説明する。
「実は、私の正体は事務所にも秘密に成っていて、正体を知っているのは、マネージャのあさみさんと内藤君だけなの」
「事務所にも?」
「そりゃあね、人の口に戸は立てられない、真実を知る者は少ない方が良い」
日吉さんが窪さんの説明にフォローを入れた。
そんな秘密を俺は共有したのかと改めて事の重大さを思い知った。
「俺が断ったら?」
「断るのかい?」
日吉さんの質問は、俺が断る事など微塵も考えていないようだった。
「まあ、君が断ったら、コンサートツアーは中」
と言いかけた所で、窪さんが日吉さんを制止した。
「それじゃ、脅迫じゃないですか」
窪さんが、俺の方を見る。
「内藤君、予定があるなら無理強いはしない、無茶を言っているのは判っているし、こちらで何とかするから」
そこまで言うと、俯きながら言葉を続ける。
「ただ、手伝ってくれると、私は・・・・助かるかな」
病室は沈黙する。どう見ても俺のターンだ。
まあ、惚れた男の弱みですかね。確かに俺に断るとい思考は無かった。
「まあ、交渉や調整は、私が松葉杖で着いて行くから大丈夫、内藤君はMIHIROの周辺フォローをお願い、ちゃんとバイト代も出すから」
豪快に笑う日吉さんに不安を感じはしたが承知した。

そして、福岡ドームのコンサート舞台袖にいる。
「ほら、MIHIROが戻ってくるわよ」
「は、はい」
日吉さんに堰かされると、アンコールを終えて舞台袖に戻ってくるMIHIROにドリンクとタオルを差し出した。
「ありがとう」と答えながらそれを受け取り、汗を拭きながらドリンクを飲むMIHIROの横顔は、窪さんの時とはまた違った可愛さがある。
「さあ、ホテルに帰るわよ。」
いつものワゴン車に乗り込むと、いつも通りMIHIROは後部座席で窪さんに戻る。
この変身があるので、この車は名古屋にも九州にも持ってきた。
後半の大阪、札幌にも持っていく事になっている。

福岡ドームから東京に戻って2日休暇と成った。
3日後には大阪へ向かって出発する予定がったが、東京へ戻った翌日、俺は健一に呼び出されていた。
「おっす、大地!」
「おう」と若干不機嫌に応じた。
例のバイト後半戦に備えて、ゆっくり休む予定だったのだが・・・・
昨日の夜、健一から電話で、水着を持って駅集合を伝えられた。
「何が悲しくて、野郎と二人でプールなんぞ行くんだ」
俺の愚痴に、健一はニヤニヤしているだけだった。
「大地、健一、おはよう」
そんな俺の背後から、聞き覚えのある声が聞こえた。
純も一緒かと振り返った俺は、純の陰に隠れたもう一人に気が付いた。
「おはよう、本多君、内藤君」
純の背後には、昨日の夕方まで一緒だった窪さんの姿が有った。
「どう?どう?、俺気が利いてるでしょ?」
健一が鬼の首を取ったようになっている。
「さあ、メンツが揃った所で行ってみようか!」
そう言うと、電車で3駅先にある公園に向かった。
大きな公園で、園内にはサイクリングロードやボート池と広場と並んで、大きなプールが有った。

健一がそこの招待券をもらったのでと言う事だった。



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