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そして父になる

2013年9月24日鑑賞
より善く生きようとする家族のために


カンヌ映画祭で絶賛された本作。先行上映会で鑑賞した。映画の作り方、やっぱり是枝監督うまいなぁ、というのが率直な感想。
たとえば、これってちょっと思わせぶりなカットじゃないの、と思うシーンがいくつかあった。ぼくは、そういう、映画作家の作為が露骨に表に現れた作品は大嫌いだ。
だけど本作は「これはちょっと……」と思った正にその瞬間、次のシーンに移っている。まるで、観客である僕の心を読まれているかのようだった。それはもう、絶妙のタイミングであり、お見事な編集としか言い様がない。

 


なお、映画作家としての主張ある絵作りと、映画作品の完成度は決して比例しない。どんな芸術作品でもそうである様に、熱っぽく伝えようとすればするほど、その監督の意思表示は、観客を置き去りにした、ただの独りよがりとなる。
この作品では、それが全く破綻しない形で、監督の意思表示がなされているのだ。
物語は子供を病院で取り違えられた、ふた家族の話である。
片方の父親(福山雅治)はエリートサラリーマンだ。6歳になる一人息子と奥さん(尾野真千子)の三人家族。都心の一等地の高級マンション住まい。情操教育のためだろう、子供をピアノ教室にも通わせている。だが、我が子はあんまりピアノが上手くない。
父親は仕事が生きがいだ。息子と一緒に風呂に入ることもない。
「自分の事は自分で出来る子供に育てる」が父親のモットーだ。しかし、実のところは、家庭よりも、仕事にウエイトを置いた生き方をしていたい、という本音もチラリと見えるのだ。
もうひとつの家族は対象的に、庶民的な田舎の電気屋である。子供は三人いる。家計は苦しいようだ。奥さん(真木よう子)は弁当屋のパートの仕事をしている。父親(リリー・フランキー)は子煩悩で、子供と一緒に風呂に入るのが楽しそうだ。手先が器用なのだろう。子供が壊れたおもちゃを持って来ても、嫌な顔もせず、自分も楽しそうに直してみせる。
このふた家族に病院から知らせが入る。
「六年前、お子様を取り違えていました」と。
いまさら……なんで……
いまどき、そんな初歩的なミスが起きるなんてと、彼らは耳を疑う。
家族はDNA鑑定を受けた。
発達した最先端科学は冷酷な現実を突きつける。
「生物学的に、あなたのご子息ではありません」
やがて、ふた家族は弁護士を立て、病院と裁判沙汰になる。その間にも、ふた家族の交流がギクシャクしながら続けられてゆく。
厳しい現実を前に、ふた家族は一歩前へ踏み出そうとする。
お互いの子供を週一回交換して、将来のため、新しい生活に慣れさせようというのである。


この作品で最も印象的なのは、子供達の実に自然な姿である。
是枝監督こだわりの演出術なのだろう。
子供達はとても演技しているとは思えない。自然な表情がスクリーンに映える。
無邪気に遊んでいる子供達。この子達にはなんの罪も無いのだ。
この子達のために何ができるのだろう。
この子 達に向かって、厳しい現実を、一体、どう伝えたらいいのだろう?
 自分だったらどうするのだろう? と、いつの間にか、つい自分に降り掛かって来た災難の様に感じてしまう。
しかし、これは紛れもなく映画である。映画とは嘘っぱちの作り物なのだ。
しかし、観客である僕達は、この嘘っぱちの世界に見事に引きずりこまれる。
是枝監督の演出は、一見、何も作り込んでいないように見える。しかし、出来上がった作品は、こんなにも観客の心を捉えてしまう。
これぞ「是枝マジック」と言っていいと思う。
当初は対立していた両家族。ダンナ達はそれぞれ、仕事や、ステータスや、示談金にこだわったりする。
それに比べ、お互いの奥さんは、やがて、心を通わせてゆく。
自分がお腹を痛めて産んだ、紛れもない我が子を、六年間育ててくれた人。
それはお互い、今、目の前にいるこの女性(ひと)なのだ。
この辺りの、父親、母親の皮膚感覚の違い、温度差。子を産んだ女と、その夫と呼ばれる男の間にある、深くて暗い溝を是枝監督はさりげなく描いてみせる。
「家族」というのは一見、大人たちによって作られている様に見える。
だが、実は家族は、子供の成長と共に「家族という共同体」そのものが成長してゆくのだ、と改めて感じさせられる。
是枝監督は、その家族の成長をじっと見つめている。そこに感じるのは、人間の悪意を見つめるのではなく、善性を見つめる姿勢である。
この作品が、見終わったあと、なにかスッキリとした心地よい余韻が残るのはそのためだ。


この作品を一言で語るなら
「より善い家族になろうとする人々」
のお話なのだ、と僕は思う。
アニメ界の巨匠、宮崎駿監督は言う。
「子供達に、この世界は生きるに値するんだ、と伝えたい」
本作の是枝監督は、宮崎駿監督と同じような、強い覚悟を持って、人間の善性を圧倒的に肯定している。
人間の悪意を描く作品は多くある。しかし、人間の善性を固く信じて作り上げた映画は、今やそれだけで貴重な作品なのだ、と僕は固く信じたい。

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天見谷行人の独断と偏見による評価(各項目☆5点満点です)
物語 ☆☆☆☆
配役 ☆☆☆☆
演出 ☆☆☆☆☆
美術 ☆☆☆
音楽 ☆☆☆☆

総合評価 ☆☆☆☆
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作品データ

監督   是枝裕和
主演   福山雅治、尾野真千子、
     真木よう子、リリー・フランキー
製作   2013年
上映時間 120分

予告編映像はこちらのアドレスをコピーしてお使い下さい。


http://www.youtube.com/watch?v=sRGhEzALb4w


劇場版タイムスクープハンター 安土城 最後の1日

2013年9月27日鑑賞
歴史を生き抜いた、名も無き人びと


いわゆる企画ものなんですね、この映画。こう言う類いの映画は、普通僕は敬遠します。だけど、テレビシリーズの「タイムスクープハンター」は毎回楽しみに見てました。それが映画になる。これは劇場で見る価値あり、と思いました。
「タイムスクープハンター」を初めてテレビで見た時
「んんっ!!」と目が釘付けになりました。
「おおっ、このチョンマゲは?!」
今までの時代劇の時代考証と明らかに違う。これはリアルだ、と感激しました。あの黒澤明監督は「七人の侍」を撮るときに、戦国時代にふさわしい特注のカツラをわざわざ作らせるほど、時代考証を大切にしていた監督さんでした。そのこだわりが平成のテレビの世界で受け継がれている。これはなんとも嬉しかった。と同時に、映画界は何をやってるんだ! と思った次第です。
さて本作は、様々な時空にワープして取材し、時代の真実の姿をスクープする「時空ジャーナリスト」沢嶋(要潤)の目線で描かれるお話です。

 


なによりうれしいのは、この主人公が取材対象とするのは、歴史に埋れてしまいがちな、庶民たちの姿である事です。
僕は興味があって平安時代のことを調べています。源氏物語や、貴族の資料、文献はそれこそ、掃いて捨てるぐらいある。ところが、平安期の庶民の記録は皆無に近いのです。
なんでだろう? いろんな文献を当たり、絵巻を見たりしました。無い頭を絞って、う~んと唸って考えていると、ふと気がつきました。
「文字」です。
「庶民は、読み書きができなかった」
実にアホみたいに、簡単な事でした。
だから記録が残っていないのです。
おそらく庶民たちが読み書きを習える様になったのは、江戸時代頃からなのでしょう。
本作は安土城最後の一日に迫ります。なぜ安土城は燃えてしまったのか?
織田信長が本能寺の変で、歴史の舞台から姿を消した直後の京の街。
そこは無法地帯になっていました。
本能寺の変の前日、信長は茶会を催していました。そこに招待されていた博多の豪商(上島竜平) 彼は本能寺の変のまさに真っ只中にいた、歴史の生き証人でした。彼の懐には、戦火をくぐり抜けた大事なお宝がありました。それは信長が愛した茶壺です。
「これひとつで国が一つ買える」とまで言われた名品です。
タイムスクープハンターは彼に密着取材を試みます。旧織田家側の武士(時任三郎)と合流した彼らは、武士の警護のもと、博多の豪商と「一国が買える茶壺」を明智軍や、野武士、盗人がいたるところ出没する中、敵中突破を図ります。彼らは豪商を無事、博多まで送り届けられるのでしょうか? そして、安土城焼失の謎は?

 


時代考証というのは、本当に重箱の隅を顕微鏡で探る様な作業です。しかも、重箱の隅の砂粒一つの位置が違えば、周りから文句を言われる、そんな分野です。
ただ、時代考証の面白さは、やはり、「その時代、人はどう生き抜いたのか?」という人間への興味なのです。それは人間そのものを見つめる作業なのです。いわば人間という「本丸」へ迫る為に、「時代考証」という「外堀」をコツコツ手作業で埋めてゆく作業なのだと思うのです。
「タイムスクープハンター」テレビシリーズの面白さの秘密は、正にその時代に生きた、名も無き人々の息づかい、ため息までも、資料の行間から読み解こうとする姿勢にあるのです。
彼らはどんな服をきて、何を食べ、どんなところに住んでいたのでしょう?
そして、彼らは何を祈ったのでしょう? 心の拠り所はなんであったのでしょう?
どんな時代にも言えることだと思いますが、人の生き方に、正解はないのだろうと思います。
人間は多面体です。ある光線を当てれば善人に見え、その影の部分では悪人でもあります。
古えの人の生き方を、謙虚に見つめ、学び、より善い生き方を学びたいものです。それが歴史を学ぶ大きな醍醐味だと思います。
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天見谷行人の独断と偏見による評価(各項目☆5点満点です)
物語 ☆☆☆
配役 ☆☆☆
演出 ☆☆☆
美術 ☆☆☆☆
音楽 ☆☆☆

総合評価 ☆☆☆
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作品データ

監督   中尾浩之
主演   要潤、時任三郎、上島竜兵、杏、夏帆
製作   2013年
上映時間 102分

予告編映像はこちらのアドレスをコピーしてお使い下さい。


http://www.youtube.com/watch?v=YveUHqxYUZs


奥付



映画に宛てたラブレター2013•10月号


http://p.booklog.jp/book/76588


著者 : 天見谷行人
著者プロフィール:http://p.booklog.jp/users/mussesow/profile


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