カテゴリー | 小説・ノンフィクション ( 文芸 , ヒューマンドラマ ) | 作者 | 白水銀雪 | ||||
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価格 |
54円(税込)
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タグ |
泉鏡花いずみきょうか瓜の涙うりのなみだ現代語訳翻訳 |
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状態 | 完成 | ページ数 | 9ページ (Web閲覧) 19ページ (PDF) |
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評判 |
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【あらすじ】
東京のある工業学校で学んでいた松野謹三は、不幸な出来事が重なり学費の工面ができなくなったため、休学して故郷へ帰ったまま、貧乏寺で墓の影法師のように日を暮らしていた。
やりきれない気持ちから、神仏を信仰しはじめた彼は、貧しい場末の町外れから、山裾の浅い谷に入り込み、うねうねと曲がりくねった小さな流れに沿って続く寺社の神仏を、日課のように巡礼した。
ある日、昼でも梟の鳴き交わす、山深い寺の墓地へ入り込んだ彼の目に、ふと、生け垣から、明るい綺麗な色がちらりと見えた。
まるで蝶に憑かれたような気持ちになって、垣根の破れ目をするりと抜けると、ちょうど紅玉を鏤た陽炎の箔を置いたように、真紅に、静かに、一株の桃が咲いていた。
翌日も、そのまた翌日もそこへ行って、その三度目の時、彼は桃の枝を黒髪に翳し、花菜に着物の裾を囲まれて立っている、世にも美しい娘を見たのである。
後日、金策に金石の港へ向かう途中、「義経の人待石」と呼ばれる大岩で憩いながら、謹三が前に見た桃、さらには娘の面影を想っていると、年増をまじえて、あくどく化粧した若い女の一行が、汗まみれになって並木道を近づいてきた―
東京のある工業学校で学んでいた松野謹三は、不幸な出来事が重なり学費の工面ができなくなったため、休学して故郷へ帰ったまま、貧乏寺で墓の影法師のように日を暮らしていた。
やりきれない気持ちから、神仏を信仰しはじめた彼は、貧しい場末の町外れから、山裾の浅い谷に入り込み、うねうねと曲がりくねった小さな流れに沿って続く寺社の神仏を、日課のように巡礼した。
ある日、昼でも梟の鳴き交わす、山深い寺の墓地へ入り込んだ彼の目に、ふと、生け垣から、明るい綺麗な色がちらりと見えた。
まるで蝶に憑かれたような気持ちになって、垣根の破れ目をするりと抜けると、ちょうど紅玉を鏤た陽炎の箔を置いたように、真紅に、静かに、一株の桃が咲いていた。
翌日も、そのまた翌日もそこへ行って、その三度目の時、彼は桃の枝を黒髪に翳し、花菜に着物の裾を囲まれて立っている、世にも美しい娘を見たのである。
後日、金策に金石の港へ向かう途中、「義経の人待石」と呼ばれる大岩で憩いながら、謹三が前に見た桃、さらには娘の面影を想っていると、年増をまじえて、あくどく化粧した若い女の一行が、汗まみれになって並木道を近づいてきた―