閉じる


 

男の一人旅で京都大原の三千院に行った。

三千院のバス停に着くと次第に雲行きが怪しくなってきた。

とりあえず近くで昼食を済ませる事にする。

 

バス停から三千院へ歩くとすぐに食堂があった。

古い大きな引き戸を引くと、一人旅の女性が窓際に座って

退屈そうに雑誌をパラパラめくっている。

客は彼女ひとりだった。

 

食事を済ませ支払いをする時、

店のおばあさんに「空が大分曇って来ましたね」と言ったが、

「はい、今日はお客が少なくてね」と質問と違う答が返ってきた。

耳が聞こえにくいのかもしれないと思い、

再度同じ事を言ったが、同じ答えが返ってくる。

 

私は会話を諦め、おばあさんから一人旅の女性に視線を移した。

窓際に座っているその女性は私達の会話を聞いていたのか

口元に笑みが漏れている。

 お互いの視線が合うと、女性は罰が悪かったのか視線をおもむろに窓の外、

遠くの黒雲へと流した。

 

黒雲の流れは速くなり増えていくようだ。

私には傘がないので雨が降らないうちに三千院に着きたかったので早々店を出た。


 

三千院参道の青もみじが逆光で真っ青に透け,フレッシュな飲み物をかざしているようだ。

身体に溜まった疲れも炭酸の泡のようにシューワと溶かしていく。

電子機器で酷使し輝きを失った瞳にも緑の薬効が効いている。

薬効は少しめまいを伴いながら目から心、脳の深淵へと浸透し意識もそれに導かれて行く。

 

ファインダー内で展開する木々の緑のグラデーションの美しさを写真に撮った後、

背後に人の気配がする。

2人の若い女性が邪魔しないように写真の終わるのを待っていてくれた。

「ありがとう」と笑顔で会釈をする。

 

頭上で大きく雷光と雷鳴がした。

雷が激怒して、束の間の出会いを引き裂いた。

彼女たちも会釈をし、駆け出したが雷は鳴りやまないでいる。

鬼が地響きを鳴らしながら彼女たちを追っかけて行くようだ。

 

私は雨が降る前に三千院にたどり着いたが、あのやさしい女性たちは

バス停までたどり着いたのだろうか心配になった。

頭上では鬼が先程以上に我が儘放題に暴れている。

しばらくすると空が暗くなり雨が降り出した。



読者登録

みのすけさんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について