時の部屋
ただいまと部屋の奥に呼びかけるが誰もいない。時計の音だけが響くシンプルな部屋。猫でも飼っているのかと尋ねてみてもいいえと。猫ではなく時と暮らしております。#twnovel 彼女が指した棚の中には沢山の時計。それら全ての時間と暮らす彼女に寄り添うように、別の時間軸の彼女たちが笑う。
病名:仕事中毒
点滴をあわせると「伝染したようね」と患者様。606号室には元師長がいて新人は必ずこの方を受け持つ。「伝染なのでしょうか」「そういうことにしておい て」片目を瞑る彼女。病であればここにいられる。新人がやってくる。自らの知識を伝染させる病を抱え、だからこそ生きていける。#twnovel
ぴょん
うさぎの形に林檎をむくとぴょんと跳ねた。「ご命令を」と頭を垂れるうさぎにワケも解らず「彼の病気をやっつけて」と命じる。「主命とあらば」と畏まり彼 の口へと飛び込んだうさぎ。けれどその後の音沙汰はなく彼の病気も治らない。きっとうさぎじゃ弱すぎた。私は林檎で虎を目指す。#twnovel
百鬼
鬼も化け物も信じていない。だからこそ戸惑う。こちらへ向かうあの行列はまるでそう百鬼夜行。疑心暗鬼で見やればすいっと胸の辺りから鬼が飛び出し、列の 中へと踊り入る。すれ違う鬼たちはみな知った顔をしていた。私のような。やがて行列は闇へと消える。胸のつかえを引き連れて。#twnovel
すきまようかい
すきま妖怪の子供は本棚の隙間にいた。隠れてはいるがたまに人の手に取られ、そのたび本のフリをする。辿々しく辻褄の合わない幼い文章。すぐにすきま妖怪だと見抜けるが、人々は気づかぬふりをした。こうして育ったすきま妖怪がいつか、心の隙間を埋めに来てくれると知っているから。#twnovel