おどるくるり
おどる、くるり。お城の舞踏会では踊るたびに相手と魂が入れ替わる。私は王子様に、隣国の姫に、麗しの騎士に。誰が誰だかもう解らない。あと一曲できっと 最後。まわる、くるり。誰かの体で知らない家に帰るのが怖くて、最後はいつも私の体に戻ってしまう。私と私がおどる、くるり。#twnovel
人魚水槽
月に一度、街一番のお屋敷の奥様が水族館へやってくる。夜に。みながすっかり寝静まってから。足の不自由な奥様を支え大水槽の淵へ導くと、ぱしゃん。水槽の中を泳ぐ、泳ぐ、美しい人魚。内緒で泳げる海はここくらいしかもうないのと申し訳なさそうな奥様の、揺れる尾びれに心揺れる。#twnovel
水泡に帰す
魔女は思う。足を与えたところで姫は泡となる定め。彼女のために禁を犯そう。童話の理を抜け出すべく人魚のままの姫に王子が恋するよう仕向けた。二人の姿 に胸が痛むが全ては幸福な結末のため。やがて時が経ち王子は死んだ。長命種である姫は泣き崩れあとを追う。全ては水泡に帰す。#twnovel
琥珀
琥珀を探している。僕には見つけなければならない琥珀があり、それが何かは解らないが探している。先生置いておきますね。採掘された琥珀を磨く。これも違 う。これもこっちもだ。磨く。そうして理解する。そうか君か。琥珀の中には小さな虫。一億年ぶりに出会う、かつての恋人と僕。#twnovel
防音幕
空き地を見つけるたび報告する。するとすぐさま工事が始まり防音幕で覆われた中身はもはや見えない。というより中にはまだ何もないのだが。最近ビルが生え てくるようになったことを知る者は少ない。植物の進化がついにそこまできたことを隠すための工事の素振り。ほら、ビルが芽吹く。#twnovel